緊急クエスト
更新遅れてしまいました。
すみません。
クエストの内容の娘を息子に変更しました。
無事にフレイアも意識を取り戻し、麗麟も新しいオリジナルを得たらしい。猫猫コンビと白愛が異常に仲良くなっているのは少し気になるところだが、まあ、今は問題ないだろう。悪ノリをし易そうなメンバーなので注意は必要だが。
リコも王とは話がついたらしく、一度フレイアが眠っている間に見舞いと行って連れてきただけだった。そのときに、フレイアが目覚め次第連絡が欲しいと言われていたのだが、それをフレイアに話すと「別に、しなくてもいいんじゃないかな?」と可愛く小首を傾げながら言われたので連絡をやめた。まあ、大事な話があるのなら、その内また来るだろう。
そうして、フレイアが目覚めてからの日々を適当にクエストをしながら平和に過ごしていたある日、ギルドのクエストボードにて、それを発見した。
緊急クエスト!
息子が自殺しようとしています!
場所は試練の塔の最上階。そこから飛び降りるつもりのようです!
どうか、話をして来てください!
※なお、間に合わなかった場合もキャンセル料は必要ありません。
「「……緊急過ぎない!?」」
クエストを探しに来ていた俺とフレイアは同時に叫んだのだった。
「取り敢えず、受注したけれど…試練の塔って、何階まであるんだったかな?」
困ったようにフレイアが首を傾げる。俺は少ない記憶をたどってどうにか試練の塔の場所と構造を思い出した。
「確か、五十階くらいだろ?最上階か…もう、そこにいるのなら間に合わないかもな」
というか、ギルドに依頼を出す暇があったのなら是非、自分たちで行ってきて欲しかった。あそこのモンスターはその名の通り、試練のためのものでしかないので弱いのだ。
試練の塔とは、ギルド職員採用試験のために作られた塔で、最近では普通の冒険者の初心者たちに冒険者としてのイロハを教えるものとしても使われ始めた塔だ。
まあ、今隣を歩く少女は冒険者としてのイロハなど全然知らない時から高難易度クエストをガンガンクリアしているのだが、こんな子は珍しいのである。
「うーん、なるべく急ぎで行っても厳しいかな…取り敢えず、麗麟たちを呼びに行って、みんなで行こうか」
「えっと…そんな時間あるか?」
唯でさえ、時間はあまりないのに。家で待ってるメンバーを呼んで来る時間などあるだろうか?
「急がば回れでしょ?2人よりもフルメンバーの方が早いと思うよ、たぶん」
そう言ってにっこりと微笑んだ。それを見て思う。
ああ、最悪、間に合わなくても良いと思ってるな、と。
「主上、それは急がないといけないじゃないですか!どうして意思伝達魔法で現地集合にしなかったんですか!?」
「ああ!その手があったわね!見落としていたわ!」
現地へ転変した白愛、麗麟、ノトに乗りながら向かってる最中、麗麟が主であるフレイアを叱っていた。おそらく、麒麟の本能的に人死にを許せないのだろう。しかし、フレイアはけろっとした顔で返答する。それを聞いてパーティーメンバーは全員わかっただろう。フレイアがその方法を分かってて取らなかったことを。一体何がしたいんだか。
因みに、ノトに乗っているのはノアさんだけだ。白愛の上が俺とリコ、麗麟の上がフレイアである。ウンディーネはもともと物質的な要素が少ないらしく、優雅に横を飛んでいた。珍しく、今回は誰がどこに乗るかで揉めなかった。まあ、麗麟がフレイアにお怒りだったのが理由なのだが、白愛も俺とリコに少しは馴染んでくれたからだと思いたい。
そう、そうだ。だから、この異常なほどの揺れは地面が悪いからに違いない。白愛は揺らさないように心がけてくれているはずだ。
「ところで、どうやって助けるつもりだ?フレイア?」
いや、まあ、あんまり助ける気がないのはわかっているんだけどな。あの依頼書は特にこれと言った報酬もなかったから別に引き受けたのにもさしたる理由はないんだろうし。
気まぐれか?
「んー、試練の塔で自殺するって言い出したのは今日のことみたいじゃない?なら、まだ最上階に着いてないんじゃないかな?それなら、私たちなら追いつけるよね?」
「そうか?クエストがギルドに出てる時点でそれなりの時間が経ってるだろうし、どんな低レベルな冒険者でもあの塔から5時間かからないぞ?」
「んー、5時間もあれば大丈夫だよ。きっと。私たちなら五分かからないと思うもん」
いやいや、どんな自信だよ。流石に五十階を五分は無理だろう。まあ、階段じゃなくて各層を繋ぐのは転移魔法陣だし、他のダンジョンのように罠や擬態があるわけじゃないからそんな時間がかかるダンジョンではないのは確かだが。それでも、広大なフロアから階段を探す必要はあるし、探している間に五分はかかる。移動は白愛や麗麟がいるから問題ないんだろうけど。
そうこうしているうちに無事、試練の塔にたどり着いた。そもそも、俺の家からそう遠くもないのだ。いや、ギルドからだとすごく近いんだが。
「行くよ」
実質、パーティーリーダーのフレイアが全員の顔を見渡してから言う。いくら低レベルダンジョンとはいえ、勢いでそのまま突っ込むわけにも行かないのだ。一応、装備は整えておかないといけないし、今回は白愛、麗麟、ノトの調子を確かめる必要があった。
「それで?どうやって行くんだ?」
入ると暗い。当然だ。こう言うダンジョン内部は灯りを持ってくること前提なのだから。
しかし、俺たちは持ってきていない。ノアさんは夜目があるんだっけ。
フレイアはこの暗さも含めて何らかの考えがあるんだろうか。
俺の問いに答えず、ノアさんの方を向いていう。
「ノアさん、お願いするわ」
「はぁい!まっかせて〜」
そんな短い会話で何の意思疎通が出来たのか、二人は同時に詠唱を始めた。そして、同時にそれを終える。
できたのは不可思議なものだった。
フレイアの作った無色透明な光をノアさんの作った闇の霧が包み込む。それは、満月にかかる雲に似ていた。とても幻想的な光景なのだが…
「ノト…さんは大丈夫なのか?」
黒猫ノトは呼び捨てにすると少しムッとした顔をする。猫猫コンビは気分屋なのだ。
『にゃめんにゃ、人間。にせぇもにょは捕まされにゃいにゃん』
言って、ふいっと顔を背ける。なるほど、ただ似ているだけのモノには反応しないのか。先日、満月の夜に巨大化し、フレイア、ノアさん、白愛の3人がかりで止めたときように暴走するのかと思い、心配してしまった。
「それで、それは一体何なんだ?」
そう問うとフレイアとノアさんは同じようににやりと笑う。
「これは合同魔法。私とノアさんの共同開発なんだよ」
「私の探索魔法とフレイアちゃんの光属性魔法を使っているにゃ」
「ノアさんの探索魔法が暗い場所では見えにくいことを克服し、持続型にするように改良したものなんだよ〜!」
なるほど、つまりこれで魔法陣を探すということか。それなら、そう時間は食わないかもしれない。ただ、もう既にこのダンジョンに入って五分経ってしまっているのが切ないが。
「便利な魔法を開発したな」
「けど、新にゃ問題点もあるにゃん」
褒めてやるとすぐに二人は項垂れた。ノアさんに至っては耳と尻尾も力なく垂れている。
この天才二人が作ったものの問題点ってなんだろう?
「フレイアちゃんが攻撃魔法しか使えにゃいことにゃ」
「? それのどこが問題なんだ?それはノアさんの魔法の影響…で…」
言いながら理解してしまったそれの問題点。それは、
「これ、爆破魔法にゃよね…」
その光る玉が少しの刺激で大爆発を起こすことだった。
ドゴォンーー!!
暗いジメジメしたダンジョン内部に眩いばかりの閃光、爆風、そして、爆音が駆け抜ける。
もちろん、皆さんご存知、光玉の爆発である。
「全く…何発目だよ?」
現在、俺たちは23階層にいる。ここまで来るのに十分かかっていた。はじめ、入ったところでお喋りにより消費した時間を含めて、だ。俺たちは聖獣たちからは降りて自らの足で歩いているためわからないが、もしかしたらフレイアが言っていた通り、五分も可能だったのかもしれなかった。
「合計で61発でしょうか?と言うか、もはや主上は自分の前方を防ぐ壁を爆破する目的で使っていますよね。これはもう、ただの塔です」
隣に立つ麗麟が説明してくれる。
その通り、フレイアは先ほどから探索魔法によってわかる陣の場所までの最短距離を移動していた。
かなり無理矢理。
「白愛!蹴って!」
「やーあ!」
ドガッ!…ガラガラ……
フレイアの支持に忠実な、いや、生来そんな行動を好むのだろう。白愛も実に楽しそうだった。そんな白愛がフレイアがダメージを与えていた壁に回し蹴りで止めを刺す。
いつも思うが、本当に綺麗なフォームで回し蹴りをするよな。
そして、その破壊力は下手な魔法よりも高いよな…
流石、狂戦士。
「ルイードさん?あっちで少しお話しようか」
そう思った瞬間、ピクンと肩を動かし、俺に対しては滅多に見せない満面の笑みを向けてそう言ってきた。
「えっ!?し、しないけど?なんで?」
俺は挙動不審になりながら、ついつい視線を逸らしてしまいながら返事をする。
そう、後察しの通り、白愛が俺に満面の笑みを見せる、その滅多なことが起こるのはいつも、白愛が俺に対して怒っている時だ。
「今、失礼なことを考えたね?」
にっこり笑顔で何時ものように冴え渡る勘を発揮してくれる。
ガチで怖い。
見た目はチャイナドレスとズボンを履いた、やんちゃな雰囲気の美少女なのに。
その笑顔、本当に可愛いのに、目が全然笑っていない……
「…ふん。次、狂戦士なんて思ったら、私の新しい足技の実験台にしてやるんだから」
言って、ふいっと顔を背けてフレイアの方へ行ってしまった。
フレイアはこっちを不思議そうな顔で見ていたが、戻ってきた白愛に破壊活動の続行を言われ、また始めたようだ。
まあ、楽しそうで良かった良かっーー
「ーーここ、所有者はギルドじゃなかったか、ルイード?」
不意に耳元に近寄ってきていたウンディーネがぽそっとそう言ってきた。
……あー、やばいかも。




