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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
生い立ち
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夢現

「主上…」

心配で、なりません。主上が大好きで、大好きで、今日まで来ました。あなたの声をこんなに長く聞かなかったのは二度目ですね。

あの頃は、長かった。そして、辛かった。

だけど、今回はあなたは生きていて、私の側に、おられる。だから、少し安心できます。

「起きになられる前に、私は成長しておきます。もっと、主上のお力になれるように」

今度こそ、完全に治して差し上げられるように。

私はあなたが生きて行けるのなら、私の寿命など、すべて差し上げても本望なのですよ。

あの日、優しく手を差し伸べてくださった時からずっとあなただけを愛して来ましたから。

新しいオリジナル魔法として、私は戦える力が欲しい。誰かの影に隠れた戦闘は、もうしたくない。

私には解しにくい攻撃魔法。だけど、私には必要な力だ。いつか、主上がお兄様におっしゃっていた。攻撃魔法は相手に干渉する魔法だと。干渉することを強く念じ、願う。そうしたら、願った時の魔力量によっては、オリジナルを得られると。ただ、その力は人による。主上は思うように力を作れるけれど、慣れてない人はその人に会った力になる。

私は慣れていないから、ただ、願うしかない。どうか、私に力を。


暫く願い続けた。叶うかもわからなかったけれど。

真上にあった日が傾き、優しい黄昏になった頃、それが来た。

頭の中に浮かぶ術式、それを使うための媒体は呪文でもなく、陣でもなかった。主上が扱うように、少しの祝詞と魔法名のみ。

「日の黄昏に、神と共に夢を望む。夢か現か、区別を失い、それに酔うーー夢現(むげん)

それによってもたらされた効果は、一瞬の無重力感と、息苦しさと、柔らかな光だった。

「ーーえ?」

驚いて辺りを見渡す。辺りは一面花畑。近くには果樹がたくさんあって、本来は同時期に実るはずのないものたちが当たり前のように一緒に実っていた。空は様々な色が刻々と変わり、混ざり合うようで、とても美しい光景だった。

そして、近くにテーブルが一つあり、ティーポットとカップが2セット用意されている。もちろん、椅子も二つ。普通の椅子と揺り椅子だった。揺り椅子の方にはとても美しい、主上とも張り合えるくらいの美女が優雅に座っていた。主上にはない大人の魅力だ。

「あら?こんにちは」

見た目を裏切らない、美しい声。柔らかな桜色のどこまでも続くような長い髪とそれよりも少しだけ濃い桃色の瞳。健康的な白い肌を持ち、形の整った唇と鼻などのパーツは見事なまでに美しく配置されていた。そしてその細い肢体を包むのは純白の花弁でできたような美しくも儚いドレス。それら全てを含めて、人形のように美しい女性だった。

いや、はっきり言えば生気を感じさせない、不気味な女性だ。

「ふふふ、失礼な人。なら、誤解されないうちに、自己紹介をしないとね?」

言って、やはり作くられたような優雅な動きで立ち上がる。片足を引いて、ドレスの裾を持ち上げ、軽い挨拶。

「私はこの世界の初めからいるものです。そうね…あなたが知る一番長命な……オーディンよりも長生きね」

「? オーディンはこの世界の創造主ですよ?これよりも長生きなものなんていません。初めの生物であるユミルはオーディンが殺しました。2番目の生物であるオーディンの父はユミルに殺されています。あなたがオーディンよりも先など…」

昔学んだ世界の歴史を口に出して確認するように言う。女性はうんうんと頷くだけだ。

「だけど、私よりも長生きな生物はいません。私は、世界が生まれたその時からいたのだから。オーディンの誕生も見てますよ?」

そう言われ、言葉を失って立ち尽くす私に、その女性は、その名を語る。


「私は世界樹(ユグドラシル)。この九世界を支える、偉大なる木なのです」


大きな胸を張って、自慢する子どものように女性は笑った。



世界樹とは、女性が言う通り、九世界全てを持つ、大きな木のことだ。支え、守っている。

九世界の内分けは、

アース神族の(アスガルド)

ヴァナ神族の(ヴァナヘイム)

光妖精の(アルフヘイム)

闇妖精の(アールヴヘイム)

人間界(ミズガルズ)

巨人の(ヨトゥンヘイム)

炎の(ムスプルヘイム)

氷の(ニブルヘイム)

冥界(ヘルヘイム)

となっている。

妖精の国に小人の国が含まれているが、あれも国と認めれば十世界だ。また、炎の国と氷の国の間にはギンヌンガプの穴があり、落ちれば二度と出てくることはできない。

木の上部にあるのがアスガルド、ヴァナヘイム、アルフヘイムで中腹にあるのがミズガルズ、アールヴヘイム、ヨトゥンヘイム。そして最下部がムスプルヘイム、ニブルヘイム、ヘルヘイムだ。これらは木の根や枝に絡み、固定され、今の形となっている。

主上は元はヴァナヘイムの神。つまり、今、アスガルドで主要神となっているフレイ神もフレイア神も、その父親のニヨルドも元はヴァナ神族の者だ。とある日、主上が仕出かした出来事により、主上とオーディンの結婚と三人のアスガルドへの移住が決まったのだ。

まあ、主上はすぐに馴染んだそうですが。

元々、魔法の技術とはヴァナ神族がトップで持っていたものであり、アース神族は戦闘がメインだった。それは、フレイ神にとっては居心地の良い世界だっただろう。主上は魔法を夫であるオーディンに教え、魔法の父と異名を取るまでに育て上げたほどの実力者。そんな2人がアース神族たちに受け入れられないことはなかった。

ニヨルドは来てすぐに巨人の女に絡まれ、再婚をさせられたので滅多に会うことは叶わないが。

そして、主上とフレイ神がヴァナヘイムに帰ることも、叶わないのだ。

2人は悲しそうな顔をしたことはない。それは、きっと紛れもない本心なのだろうと私は思っている。

さて、話がそれたが、そんな世界を支える木、世界樹は確かに偉大。

しかし、それがこんな女性などと…俄かには信じられない。

「えー?信じてくれてもいいじゃない?オリジナルの使用許可、欲しいでしょ?」

悪戯をするような笑顔で自称世界樹は言う。

……心を読まれた?

「そのくらい、できるわよ。さて、あなたの作った夢現?かしら?許可を下ろすかどうか検討するから、説明して下さる?」

また、優雅に着席して紅茶を飲む。私は混乱しながらも必死で頭を回し、説明を考えた。

「えっと…あの……」

そう言えば、私も知らない。どんな効果があるのかなんて。

私は勧められた女性の向かいの席に座りながら必死に考える。祝詞と魔法名でどれだけのことが予想できるのだろう。

とりあえず、質問をして行くことにした。

「あの、使用許可ってなんですか?」

さっきから使用許可を下ろすとか下ろさないとか、そんなことを言っていたが意味がわからない。新しい術式を作ったのならば、それはその人のものだろう。そう言うと女性は楽しげにからからと笑い、説明してくれた。

曰く、彼女は自己防衛のために使用できるオリジナル魔法を選定しているようだ。それは納得できた。主上が打つような広範囲爆発系魔法を自分の身体の上で何発も去れたら、それを阻止したくもなる。

だから、使用許可。もしもダメだと思ったらその術式を破壊してやる徹底ぶりらしい。

もちろん、術式は考えた人のものだ。だから、許可なくても使える。ただし、ここでなら。

ここは世界樹が作った異次元。ここでなら何発、どんな魔法を打っても修復可能だし世界樹を傷つけないなら大丈夫なのだそうだ。

「けど、それならよく主上のデタラメな魔法を認めますね?形勢逆転なんて、ズルすぎると思うんですけど」

主上の使う魔法は危険に過ぎるしとてもズルい。形勢逆転という魔法なんて、先に幸運支配を使っておけば無敵状態なのだ。

生死反転が出た時などはもう……

そんなオリジナルを認めるなんて、この人は何をやっているのだろう?

「主上?」

「フレイア神です」

誰かわからないらしく、少し上へ視線を向けて頤に指を当て、考え始めた。私はすぐに愛する主の名を告げる。

すると、世界樹は嫌そうな顔をして頤にやっていた手を頭に当て、力なく首を振る。

「ああ…彼女ね……彼女のオリジナルを認めたことは、一度としてないですわ」

「え?けど、主上は無数に……」

彼女は苦笑いをしながら主上との経緯を話した。

………

……

何やってるんですか?主上…

ちょっと短かったですね。

明日は世界樹とフレイアの経緯と麗麟のオリジナルの話です。

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