とある日のクエスト
ごめんなさい、どうしても書けなくて番外編に逃げました…
あれ?時系列が…あれ?
ってなる方も居られるかと思いますが、許してやってください。
フレイアが謹慎を受ける少し前、ルビリアルフラワーと戦う前にパーティーでの戦闘のフォーメーションを作ろうという話になり、世界樹は簡単な討伐クエストを受けていた。
サキュバス討伐
妖艶の森にて色香女王発生が確認された。
妻帯者若しくは女性のみのパーティーの協力を望む。
ただし、色香女王のレベルは79。それなりの実力を求む。
「……簡単なクエストを取ってこいと言ったはずだが?フレイア」
ジトっとした目でルイードはクエストを取ってきた無垢な笑顔で首を傾げる幼女を見た。ベッドが狭く寝る場所がないなどの理由から昨夜から5歳児の姿を取っているのだ。
そんな彼女は何を言っているのかわからないと言った顔で首を傾げるのみ。
「簡単だよ?サキュバスは魅了系魔法で洗脳するか幻惑魔法で惑わせるしか能がないんだよ?」
ほぉら、ぜぇんぜん怖くないよ?と言った笑顔を浮かべて言い切る。ルイードは嘆息した。こと戦闘において、フレイアに世間一般的な考え方を持たせるのは無理であると、このときよく理解したのだ。そして誓う。今度からも突っ込みこそすれ、常識を押し付けたり反対したりはしまいと。まあ、フレイアの中ではギルドで学んだそれなりの知識と自分にできることとの兼ね合いで、可不可の区別はつけているんだろう。なら、問題ない、とも思うのだった。
「けど、そんな非戦闘的なモンスター討伐クエだったら、フォーメーションとか考えれなくないか?」
「だったら、また別のをすればいいじゃない?最悪、ぶっつけ本番でも私たちならなんとかなるよ?」
実際、なんとかなりはしたのだが、フレイアの高すぎる攻撃力により、謹慎処分を受けることになるなど、このときのフレイアは微塵も考えていない。
「なら、これを受ける意味なくないか?」
もちろん、ルイードもそんなことは考えず、今はこのクエスト受注の目的に気が言っているようだ。それもそのはず、サキュバスは特にいいものを落とすわけではないのだ。もちろん、フレイアが求める他属性の宝石など、落とすはずもない。
しかし、ルイード以外にはフレイアの思惑はバレバレであったらしい。前々から予定していたルビリアルフラワー討伐を先送りにしてこれをすると言い出したときからだ。
「100%、ルイードさんが他の女に目移りしないかの確認ですよね?」
「まあ、図らずもってところだとは思いますが。主上はそう言うことに疎い方ですので」
「深層心理では確実にそれ狙いだよね」
まだ何かを言い合っているフレイアとルイードを尻目に残りのパーティーメンバーたる麗麟、白愛、リコは平和にそんな会話をするのであった。
フレイアとルイードは暫しの問答の末にようやく、精神防御の強化と、フレイアが精神魔法を使うためにそれを理解するためと言う理由を作れたらしい。その中でフレイアが頑張って捏ねた理由と理由をあげると矛盾したりもするのだが、何かを成し遂げたという達成感に浸る2人が気づくはずもない。
「それにしても、変じゃない?妖艶の森っていうくせに、洞窟みたいになっているのね?」
ギルドからもらった地図と説明文を読みながらフレイアは首を傾げた。それはルビリアルフラワーが発生しているところの近くの茂みにあるようだ。同じようなモンスターが出る、気味の悪い、フレイアの教育上よろしくない場所だと麗麟と白愛は思った。そこのモンスターの生態についてはあまりフレイアに学んで欲しくない。何かを知られる前に、全力で殲滅する所存である。
「まあ、なあ。サキュバスは高レベルモンスターだけど、他のモンスターと上手く共存できるわけじゃねえし……自分たちの巣を作るのに、開けている場所は都合が悪かったんじゃないのか?」
そんな2人のした決意と僅かに出た殺気など微塵も感じず、ルイードとフレイアの会話は続く。
「みんな美人なんですよね。時々、ルビリアルフラワーに襲われると聞いたことがあります。そして、ルビリアルフラワーのような攻撃をするモンスターは多種多様にいます。だからではないでしょうか?」
ルイードはこっそり「今さら美人とか言われても、何の魅力も感じれねえよなぁ」と言って溜息をついた。今自分を囲んでいるメンバーよりも美しく可愛い可能性はかなり低いからだ。
麗麟と白愛は怒りの表情を表した。ルイードの発言は聞いていなかったので、リコの発言に対してだ。その理由は、
「ルビリアルフラワーのようなモンスター?人を食べるっていう意味?」
このように、フレイアが疑問を感じてその豊富な好奇心から知ろうとするからだ。その問いの対象がリコであることがさらに悪い。
「違いますよ?美人をーー」
「リコさん?黙って頂けるとありがたいです」
「黙りなさい?まだ頭、持ってたいでしょ?」
2人が恐れたとおり、リコは説明を試みた。すぐに2人に台詞を遮られ、殺気を当てられてリコはバツが悪そうに黙り込む。
「? リコ?どうしたの?」
急に説明をやめたリコに不思議そうな顔を向けるがリコは何も言わず一歩下がった位置へ行く。
「歩いてんのに器用な真似すんな…」
何やってんだこいつら、とルイードは呆れたような目を向けていた。
「うわぁあああああーーー!!!」
暗い暗い洞窟の奥深くで少年の声がこだまする。
「*******、星球円舞曲!!」
その少年を庇うように立った少女の魔法が美しき七色の光を放ち、辺りを踊るように回って当たるたびに爆破を繰り返していく。しかし、遅い来るモンスターの群れは止まらない。
「…や……やぁあああああ!」
なぜなら、対象は少年、ルイードだけではないからだ。美しき18歳ほどの少女となったフレイアもサキュバスたちの対象となり得るのである。
何体にも抱きつかれ、隙間なく触れられて、身体中の生命力を奪われて行く。フレイアは本能的恐怖を感じ、セーブしようと思っていた力の発動に乗り出すことにした。
「麗麟!白愛!どこぉ!!?」
とっくに解放していた海蛇の憂でサキュバスを切り刻み、無理矢理に開いた視界の中で頼れる2人の友の姿を探す。2人もよくモテているらしく、どこにも見当たらなかったが、異常に盛り上がっているところが二箇所あった……。
フレイアはいろいろと突っ込みたいのを堪えて槍を振りながら返答を待つ。
「はい!ここに、ここにいますぅ〜〜!ってやぁあああああーー!」
「うざいのぉ!散れ!散れーーー!」
暫くして返答があった。麗麟は返事とともに悲鳴をあげていたが、白愛は蹴り飛ばして側までやってきた。どうやら、この中で最もモテているのは麗麟のようだ。
「白愛、絶対に私の側を離れちゃダメよ!麗麟!壁張れる?!」
フレイアの支持に2人から肯定の返事。麗麟は悲鳴混じりであったが。
「リコ!ルイードを守ってて!」
「え?あ、はい」
のんびりと船を漕ぎ出していたリコを叩き起こしてルイードの元へと向かわせる。それを見届けてから、背後で絶賛戦闘中の白愛に呼びかける。
「白愛!私の詠唱の間、守ってくれる!?」
「もちろんです!!」
おりゃあ!と言う子供っぽい、可愛い声とともにフレイアに抱きつこうとして来たサキュバスたちを十数名、蹴り飛した。
それを見届けてから、フレイアは詠唱を開始した。安全を信じて疑っていない。白愛がこんな低レベルなモンスターに負け、自分の詠唱の邪魔をするなど考えられないのだ。無論、世間一般的には強敵なわけだが、そんなことは関係ない。
「**************」
複雑。最近知ったばかりのようで、ずっと前から知っていたような呪文を唱えて行く。同時に足元に描かれて行く魔法陣はどんどんと大きくなって行き、この洞窟のドーム状の空間を全て覆って行く。
「リコに俺を守らせるほどって…どんな魔法を使うつもりなんだ、あいつ」
リコと会う前、この世界のことも知らなかった幼い女の子だった頃から無詠唱であの威力の魔法を扱っていたのだ。あんな長く複雑な詠唱をする魔法など、どれほどの威力なのか検討もつかない。そう思うと安心できると同時に、呆れた。あんなデタラメなやつ、そうそういるものじゃないと。
その間にもどんどんフレイアの魔法は完成に近づく。そして、いざ発動と言う前に、ちらりと見ると麗麟もリコも防御壁を張り終えた後だった。あとは、未だに暴れている可愛い可愛い虎を自分の側に来させることである。
「……」
とはいえ、喋れない。魔法は詠唱終了後、それ以外の言葉を不用心に話したりすれば破棄されてしまうからだ。もちろん、集中力の全てをそれに捧げた状態でなら、条件反射くらいには答えられるのだが。
仕方が無い、と少しだけ足を動かし、近くにあった小石を蹴り飛ばす。見事白愛に命中し、こちらを向かせることに成功した。その機会を逃さず、フレイアは白愛にウインクをして、背後に視線を送る。後ろに来いという意味だったが、抱きつかれてしまった。サキュバスとやっていることは同んなじだった。
「*******、形成逆転」
白愛が近づいてきたのを確認するとフレイアはすぐに発動させる。これはどのような力が発動されるかわからない魔法だ。もちろん、危険なものもあるが、例えば死亡者の数が生存者よりも少ない時、その形成を逆転しようと死者が生き返り、生存者が死んだりするのだ。
そして、今回の能力は?
……ポポポンッ
何か被ったようなその声にあたりを見るとどうやらサキュバスを含めたこの部屋の中にいる(正確には陣の中にいる)者たちの男女比を形成逆転させたらしかった。
キラーン、と男になったサキュバスたちの目が光った気がするのは気のせいだろうか?
…いや、気のせいではない。
「…主上、一つ言わせていただきたいことがあるのです」
「奇遇ね、麗麟。私もよ」
「主上、私からもございます」
「ええ、そう、白愛まで……なら、みんなで言いましょうか」
その言葉に、皆は息を吸い込んで、
「より悪くなってるじゃないか!」
と叫んでいた。もちろん、全力で逃亡を図り、逃げ切ったのである。
色香女王を討伐できなかったが、それは今後の課題であった。
そして、フレイアはこの後恒例となる、ルイードの説教を頂くのだ。




