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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
生い立ち
51/157

あの日

昨日に引き続き、グロい描写が続きます。

後半からはないですね。今回は前半だけとなっています。

明日からはもとに戻るので、どうかご了承願います。

ある日、その計画が本当に実行された。

私が覚えているのは噴き出す鮮やかな血の色と叫び苦しむほどの痛み。私が叫ぶ様を口を三日月型にして喜び眺める村人たち。苦しげな顔で目を背ける隆太だけだった。

気づけば、身体は六つに分けられ、泉に投げ捨てられていた。

泉はかなりの透明度でどこに私の身体があるのかがよくわかる。切断ではなく捥がれたので断面が汚い。美しい水は私の血で汚れに汚れていた。

代わりに、私を癒す力は増していた。

長い、長い時間をかけて、私の身体はゆっくりと再生して行く。

ちょうど一年が経った頃、私の身体は傷一つない綺麗なものになった。だが、私は泉から出なかった。私の血で透明度が落ちたのか、私の身体が復活したことに気づいたものはいなそうだし、死んだと思っていてくれるのなら、その方が何かと都合がよかった。


そして、運命の日がやって来た。

その日は、なんだか朝から騒がしくて。泉を何人もが覗き込んでいた。口々にどこへ行ったとか、探せとか、そんなことを言っている。やがて、泉の中に網が投げ込まれ、抵抗虚しく私はそれに捕まった。

網に捕らえられた私はいつか来た集会場に縄でぐるぐるに縛られて立っていた。

衣服は殺された時のままなのだが、ほとんどが破れて服としての機能を成していない。

早い話が、裸だった。

「やはり生きていたか」

「……」

どうでもいいので私はぽけっとそう言う村長を見つめる。

「これなら、問題ないだろう。なんたって、今の領主様はロリコンだからな」

「まあ、この美しさなら、ロリコンでなくても欲しがるだろ」

「それもそうだな」

そこに集まった男たちは皆、私を見てにやにやとしている。気分が悪かった。

「おい、領主様のところへ連れて行くぞ」

村長の言葉に、にやにやしている男たちは私の縄を持って、無理矢理に私をどこかへと連れて行った。


着いた場所は村長の家。その、応接間。縄を解かれ、髪を乾かされて、薄い布を被せられて部屋に入れられる。

そこには村長と隆太、それに端正な顔立ちの男の人がいた。

その人は目を丸くして、薄い布にくるまれる私を上から下まで見る。

「こんな子、この村にいたか?」

険しい顔で村長を睨み出した。なぜか怒っているらしい。

「お気に召しませんでしょうか?」

村長は震える声でそう問うた。男はまたギロリと睨んだあと、私に優しい目を向けた。

「こっちへおいで?」

「……」

拒否する理由もないので男に近づく。男は軽々と5歳になった私を抱き上げ、膝の上に乗せると、何の迷いもなく布を取った。

「……」

「……」

暫く無言で私の身体を見る男を、私も無言で見つめた。その目つきは、真剣そのものだった。

やがて、ふっ、と笑うとまた私を布でくるみ、頭を撫でた。

「怪我はないみたいだね。よかったよかった」

「……」

怪我がないどころか、私は四肢を捥がれた。しかし、確かに私の身体には傷一つ見当たらないだろう。特に訂正する必要もなかったので私は黙っていた。

「村長。俺はここに何度も足を運んだ。そして、その時にはいつも村人全員と会っていたはずだ。その中に、この子はいなかったはずだが?」

「…それは…そのぅ…」

村長、タジタジ。隆太はどこか嬉しそうに見えた。

「君は、今日までどこにいた?」

優しく微笑みながら訪ねてくる。私は答えようとして、面倒になり首を傾げた。

「…覚えていないのか?」

「…」

「言葉を話せない?」

「…」

「……村長。どう言う育て方をすれば感情もなく言葉も話せない子ができるんだ!説明してみろ!」

男は怒り心頭といった具合で村長を怒鳴りつける。村長は申し訳ありませんとかと平伏して叫んでいた。

「……この子はもらって帰る。俺がきちんと育てる。だが、両親とはきちんと別れを告げた方がいいだろう。今日一日、両親に甘えておいで」

「……」

ダメだ。こいつばかだ。

私の中で男の価値が決した瞬間だった。


両親の家に帰された私は久々に両親に会っていた。

「本当に死なないのね」

「本当にな」

両親はうっとおしげに私を眺めて言う。

「実験、しましょうよ」

母親が獰猛な笑みを見せ、包丁を取り出した。

「やめておけ。怪我をさせたらあの領主がうるさいぞ」

「大丈夫でしょ。この子、何しても治るんだし」

それ以上は止める気がないのか父親は何も言わない。母親が徐々に近づいてくる。何とも感じていない顔だ。気持ち悪い。

そのとき、心の中で声がした。

ーーこの2人を殺すなら、今しかない

私の声じゃない。だけど、その声は私の頭に響く。男の人の声だった。

ーーその2人はお前に酷いことをたくさんしたじゃないか!許すのか!

今度はまた別の男の声。しかし、私はそこを気にせずその声に行動で答えた。

母親が振り下ろした包丁を奪い、めちゃくちゃに振る。慌てて振り返った母親のアキレス腱に当たり、ブチリという音を聞いた。そのまま、倒れた母親の喉元を包丁で掻き切る。

呆然と突っ立ったままの父親には散々殴られた恨みがあるので足から腹全てを複数回刺し、膝を着いたところで喉元を包丁で掻き切った。

2人を殺した私は血濡れたまま、外に出る。

この村の男たちを殺そうと思ってだ。

しかし。

外は既に地獄絵図と化していた。2人の男が剣と槍を振り回し、次々と殺している。私はあの男と隆太を森へと逃がし、それ以降はただ、その虐殺シーンを眺めていた。


その時、私は思った。

助かった、と。

この光景をどこか心地よく見ている自分に気が着いて、生き返ったときには一度も思ったことのないことを思った。

ああ、私は異常だったのか、と。

化け物である、とは思ったことがある。けれど、私の中で化け物は珍しいけれど異常ではなかった。

しかし、私は異常らしい。

精神が、随分前に逝ってしまったらしいのだ。

その時の私は、それさえも心地よかった。

私は普通の生活をくれると言う男、宗太郎を放って村人を虐殺したおじさんについて行くことにした。

その決断を悔いたことは未だに一度もない。



「…その男について行って欲しかったわ、(フレイア)

そうすれば、私が欲して止まなかった普通の生活が手に入ったのに。

先刻、シャーベルトの毒に犯された彼女を助け、予定通り結果を全て見終えた私は彼女を眠りに着かせた。そして、その記憶を弄り、大まかにしか知らなかった事実を全て確認したのである。

そして、今、私は村の泉にいる。

「ここにちゃんと来たのは初めてだなぁ。いいところだと、思ったんだけれど、失敗だったね」

言いながら泉の中に入って行く。

「面倒ごとはごめんなの。だから、証拠隠滅〜ってね」

さらさらと陣を描き、発動させる。すると、かつてこの地に描かれていた陣が消えた。あとには普通の水の塊となった泉が残る。もう、何度も私を救った水はどこにもない。

「これで、今回の仕事は終わり。そろそろ起きてもいーよ、私」

それだけ言うと私はまた旅に出た。

私のすべきことをするための旅に。



「……ぅん…?」

目を開ける。けど、視界は歪んできらきらと光り、何も見通せなかった。ポロポロと頬を何か温かいものが流れる。それが涙だと気づくのに随分かかった。

悲しい…?

いや、違う。悲しくなんてない。

悔しい…?

いや、それも違う。最後には、私は勝ったじゃない。

じゃあ、

何?

「ーー主上!」

両肩にかかる、重み。頬を撫でられ、目を擦られて、ようやくはっきりした視界に心配の中に安堵を入れた麗麟の可愛い顔が映った。

「よかった…あれから、5日も眠り続けていたんですよ?!」

「……ぁ…」

夢の中では決して出なかった声が、出る。

「主上!?起きた?起きたの!?起きたんですか??!!」

起きたの三段活用?をして白愛が視界に入ってくる。麗麟を押しとばす勢いだ。

「よかった!よかった!やったぁ!主上の寝顔はどれだけ見てても飽きませんけど、やっぱり可愛らしい声も聞きたいですし、微笑んで欲しいですし、頭撫でて欲しいですし、一緒にお風呂入りたいですしー!」

徐々に願望が大きくなる白愛について行けず困っているとまた別の声が聞こえてきた。

「にゃ?おお、起きたのにゃ!?んー、やっぱり夢の通りにゃー」

『バッチリ今日に目覚めたにゃあ。相変わらず正確なことでよかったにゃ』

猫猫コンビのようだ。やはり、安心したような顔をしている。夢…恐らく、予知夢能力のことだろう。

「大丈夫なのか?一応、水でも飲むか?」

不意に頭上からの声。視線を向けるとウンディーネがベッドの枕元に腰掛けていた。その顔は、心配気だ。

「フレイア?起きたのか。なら、飯食うか?…って、お前ら、病み上がりのやつにそんなに絡んでんじゃねえよ。おい、白愛、麗麟!そんな身体揺すんな!」

最後にルイードがやって来て、私に抱きついて取り合いをしていた白愛と麗麟を追い払い、猫猫コンビと共に居間へと追いやった。それから私の額を触り、首を傾げる。

「熱はねえな。今朝まではかなりあったんだぞ?身体、どっこも悪くないなら何か食え。何なら食べられる?」

「私の水を料理に使わせるよ。ミネラル満点だからな」

「…えっと、何か、冷たい…ものがいい」

徐々に寒くなってきた季節だけれど、ルイードが言うように熱があったのだろう、身体が火照っていた。

ルイードとウンディーネはにっこりと微笑み頷くとキッチンへ向かった。一人になったベッドの上で、私は涙を流した理由に気づく。

「ああ、私は今、」


とても、とても、幸せなんだと。

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