帰宅
世界樹のメンバーは、予定していたクエストを全て終えたので無事にホームである町外れのルイードの家に帰り着いていた。
「ふぅ、疲れたな」
「そうですね、今回はいろいろあったので」
「……むぅ」
「……ぅー」
「…すぅ…すぅ」
「いつ、起きるんだろう?」
「…んー、わかんにゃいにゃ」
帰ってきたコメントを一人一人口にする。
ルイードは本当に疲れたように。
リコはさしてそうでもなさそうに。
そして、白愛と麗麟はウンディーネを羨ましげに睨んでいた。なぜなら、
「ねぇ、どーしてウンディーネが主上を抱っこしてるの?私がしたい、したーい、したいー!!」
「駄々こねないの、白愛。主上が起きてしまいますよ。ウンディーネ、代わりましょう」
「麗麟、やんわりと白愛と同じこと言ってるぞ。はっきりと言わない分、たちが悪いな」
「ウンディーネ、意外に男っぽい話し方にゃね」
「素がこうなんだ。気にしないでくれるか」
「うん、いいと思うにゃ。ルイードくん?より、男前にゃ」
「ノアさん、さりげなく傷ついた俺はどうしたらいいですか?」
「…くぅ……ん、んん」
フレイアがウンディーネの腕の中で唸るとみんなが一斉に口を閉じた。しばらくするとまた規則正しい寝息を立て始める。
「…とりあえず、フレイアをベッドに寝かせて来てくれるか、ウンディーネ。みんなは居間に行こう」
ルイードが小声で指示を出す。未だに玄関先にいたことに、その時になってようやく気がついたようだ。
白愛たちがノアを案内するように先に進み、ルイードも行こうとした時、ウンディーネが呼び止めてきた。
「おい、小僧。お前に言いたいことが二つある」
「……なんだ」
ルイードは何と無く緊張しながら続く言葉を待った。
「まず、私の契約者はこのフレイアであって、お前ではないということだ。いつでもお前の指示通りに動くわけじゃないぞ」
「ああ、わかってる」
そもそも、ルイードの指示に素直に従ってくれるメンバーなんて、世界樹にはいない。
「もう一つは?」
「ああ、こっちの方が重要なんだーー」
ルイードは身を引き締める思いで待つ。それをウンディーネは真剣な眼差しで見据えて、言った。
「ーーベッドの場所を知らないんだが」
「さて、議題はフレイアについてだ」
何と無く、居間で無言になってしまったのでパーティー会議を始めてしまった……って、ん?
「あの、ノアさんはこのパーティーに入るよう言われて来たんですか?」
フレイアと一緒に帰って来た少女だから特に何も気にしていなかったが、あの莉八って子と同じように帰る場所があるのではないのだろうか。それとも、最初からフレイアに勧誘されてやって来た?
「んにゃ?んんっ?気にしにゃくてもいいにゃ。私はフレイアちゃんに興味があるにゃよ。それが済めば、どこにゃと行くにゃん」
あっけらかんと言うので少し何も言い返せなかった。さっぱりし過ぎだろう。
「…そうですか」
まあ、正直なところ、かなりの魔法の腕だからパーティーに入ってくれると助かるのだが。しかし、フレイアがノアさんのことを気に入っているみたいだし、もしここを去って行くって言ったらついて行くって言うんだろう。恐らく、世界樹全員で行くことになる。央都に行くって言い出さなければいいな。
「それで、ウンディーネはここに来て良かったのか?あの湖にいなくてはいけないんじゃないのか?」
精霊は自由に動くが大精霊はその例ではないと聞いたことがある。あそこで世界中の精霊を守るのがメインの務めのはずだ。
しかし、ウンディーネは微かに胸さえはって、自信満々に言い放った。
「なぜ私がそんなことばかりをしなくてはいけない?私の精霊たちは自由にしているんだ。私がして怒られる所以はないな」
「……」
カッケー。
ウンディーネ、マジカッケー!!
思わずそんな感想で頭が埋め尽くされました。
美人のくせしてどんな大精霊だよ。
「よ、よし。じゃあ、話を戻すか。フレイアについてなんだが…あいつ、いつまで眠るんだ?」
実は、この三日間、フレイアは一度も目を覚ましていない。
この三日とは、あの日、動けなくなったフレイアが色々言った、翌朝からの三日だ。
その日から俺たちは家へと向かった。幸いにもフレイアは幼女に戻っていたし、白愛や麗麟が意欲的に抱っこをしたがったので誰が運ぶかでもめたことはーまあ、2人のうちどちらが抱くかでもめることはあったがーなかった。そして、徒歩で三日かけ、ついさっき、日も落ち始めた頃にやっと帰ってきたのだ。麗麟と白愛を転変してもらえばもっと速いのではと言ったのだが、フレイアの許可がないとできないと2人はそれを拒否した。尊敬に値する忠誠心である。道中、それなりの数のモンスターとエンカウントしたものの、ウンディーネとノアさんが次々と撃破してくれたのでさしたる足止めはなかったが、きっちり宿に泊まるようにしていたから余計に時間を食ったのかもしれない。
そんな道中、フレイアは少しも目を開くことはなかった。
モンスターとの戦闘で相手に闇や水への耐性があったために苦戦したときや気づかぬ敵が攻撃を仕掛けて来たときなどは得意魔法の一つである炎光玉を可憐に咲かせていたが、それも意識のある状態で行っていないのだろうと確認しなくてもわかるようなものだった。
なぜなら、魔法制御の上手いフレイアが炎光玉で半径2mのクレーターを作るなんて、意識のある状態ではあり得ないからだ。
しかし、そろそろただ目覚めないだけではいけないだろう。何らかの対策を取る必要がある。本来なら最初からそうするべきだったのだが、フレイアの寝顔はどれだけ見ていても飽きないもので…って、そうでもなく。
「一応、最高精度の探索を行いましたが何の反応も見られませんでしたよ?私は眠り続ける眠り姫な主上も永遠に愛せると誓えますがあなたには無理ですか?」
どこか勝ち誇ったように言われる。どうでもいいが、それってここで誓わなくてはいけないことか?
「そうじゃないが、このままじゃーー」
「うっ!?そうじゃないんですか?」
今度は隣から声があがった。俺はどうすればいいんだよ。
「お前ら、頼むから落ち着いてくれ。いいか?このままじゃ、フレイアは満足に食事も出来ないんだぞ」
まあ、フレイアはもともと野菜や果物しか食べなかったからあんまり変わらない気もしなくもないが。
『あの子は今、体の再生を行っているにゃ。それが済めば起きるにゃよ。にゃあ、ノア』
「うん。私の夢ではある日いきなり目覚めるよ」
黒猫の突然の発言をあっさりとノアさんは認める。そして、麗麟、白愛、ウンディーネはそれで納得していた。
いやいや、どこから突っ込んだらいいのか、わかんねえよ。
「その猫、喋んのか?」
「? うん。喋るにゃよ?」
うん、ここは俺以外は疑問に思っていないようだ。白愛や麗麟も転変してるときは獣の姿で話すのだし、そこまで驚くことでもないのかもしれない。
では、次。
「夢ってなんだ?」
ここはかなり重要なところだ。これには皆、それなりの反応を示してくれている。が、しかし。
「説明が面倒にゃ。魔法の一貫だと思ってくれたらいいにゃ」
さらっと説明放棄される。皆が対応に困っていると
『一言くらい説明しろにゃ。この子は予知夢と占いの天才にゃん』
黒猫がかなり面倒そうに説明してくれた。
………え?予知夢?
予知夢はかつて神の一人が持つ力だったと言われているが、今の世界でそれを持っている者はいなかったはずだ。そのくらい、希少なものだったはず。それを、持っているとさらっと告白されるともう返答のしようがない…
「あ、あなた、フレイとやっちゃったノアちゃん?」
「あー、そう言えばフリッグ様が主上への浮気だってぼやいてましたね」
麗麟と白愛が納得顏でうんうんと頷く。ノアさんは恥ずかしげに微笑んでいた。
「負けたんだけれどね。フレイさんはあいこって言ってくれたんだけどにゃ。ただ、フリッグちゃんとはいいところまで行ったんだけどにゃあ」
「「……」」
遠い記憶を思い出すような顔で言うノアさんに麗麟と白愛は青い顔をした。
フレイ神とあいこに持って行ったのもすごいが、おそらくそのフリッグって人もかなりのものなんだろう。
うん。ノアさんはやはりすごい人みたいだ。
おそらくそんな人が言うのだから大丈夫なのだろう。
俺たちはフレイアが自然に目覚めるのを待つことにした。
その頃、寝室の大きいとは言えないベッドに1人横たわる フレイアは夢を見ていた。
眠りに着いた時からずっと。途切れることなく、同じ夢を見続けている。
「……やだ…」
夢は未だに覚めない。
次回からは白愛と麗麟の仁義なきフレイアをお世話する権利争奪バトル!ww




