一撃必殺、猫パンチ!
すみません、リアルの都合で投稿が遅れました。
「闇玉」
「水玉」
フレイアと少女は並んで同じ系統の魔法を放つ。どちらも本人にとっては最弱の攻撃だ。どうやら二人ともそれでどの程度ダメージが通るか確認しようと思ったらしい。
結果はかすり傷程度のようだ。二人は特に落胆した様子もなくフレイアが右、少女が左へ大きく跳ぶ。シャーベルトが突進してきたからだ。シャーベルトの大きさは大体マグロかサメくらい。突進の勢いはイノシシくらいだろうか。あの紫色の鋭い牙で噛みつかれると毒を受けてしまうし、もともとの突進の威力もあって、か弱い身体である少女2人には受けるには少々厳しいものがあった。ゆえの回避。ちょうど鏡で写したような、息のあった動作だった。
シャーベルトを横側から挟む形になった2人は今度は魔力で武器を型取っていく。フレイアは槍を、少女はフォークを。
「………えっ?!なんでフォークなの??!」
「にゃんで?当たったら痛いにゃ?」
フレイアの突っ込みに不思議そうにそう返す少女。フレイアはまた変なのに会ったと愚痴を零した。
しかし、フレイアとてそんなに気にしていたことではない。魔力はそれだけでかなりの攻撃力を持つ物なのだから、槍の形にしようがフォークの形にしようがそこまで大きな差は出ないのである。問題はどれだけ早く作れるか、そしてそれを上手く扱えるかだ。具現化魔法はどれだけ細かく鮮明にイメージ出来たかで威力が変わる。つまり、強く作れたものはそれだけ本物に近いということだ。フレイアは初めてした具現化魔法が槍だったので作り慣れているし、槍の扱いも心得ている。ゆえに槍を作るのだ。そして少女は、主力武器の日傘でも良いのだが、普段から食事の際に使うフォークの方が鮮明にイメージ出来るし扱い慣れていると思っている。そして、まだ若いのにも関わらずそれなりに場数を踏んでいるから作るのも早い。ゆえのフォークである。それも、自分の身長ほども大きな。本当に扱い慣れてるのかとフレイアが疑問に思うのも無理はないことだった。
とにかく、少女2人には挟まれ、2人からは同じ量のダメージを受けていたため、どちらを目標にすればいいかわからずに逡巡しているシャーベルトに2人はまたも同じように同じタイミングでそれぞれの具現化魔法を投擲する。
「にゃ!?」
「固っ!?」
そして、シャーベルトの肌に当たり、突き刺さるどころか傷一つ付けられず双方の魔力の塊は虚しく水の中に沈む。
「前の方が弱いにゃ?!」
「横っ腹が固い!さっき、傷がついたのはどこの部分?!」
「額にゃ!額の角!!そこが弱点にゃ!」
2人はシャーベルトの水属性範囲魔法をフレイアはお馴染みの津波のような範囲魔法で少女は闇属性の防御壁で防ぎながらそう結論づける。
「殺傷能力はどっちが高い?!」
適当な攻撃魔法を2人は全く同じダメージで与えながら時間を稼ぐ。
「属性的には…私かにゃ!?にゃら、私が前へ行くにゃ!」
「了解、じゃあ、タゲ取って!」
タゲとはターゲットのことで取られるとモンスターに狙われるようになる。しかし、前を攻撃したいのならその方が好都合だろう。
「確実に行きたいにゃ!詠唱がしたい!」
しかし、魔導師には詠唱時間というものがある。そこの時間は考えなければならない。
「わかった!じゃあ、私はヘイトを稼ぐ!…呪鎖、苛立ちの極み!」
フレイアはつい昨日手に入れた闇属性の初級呪魔法を行使してターゲットを取る。ヘイトとは憎みのことでこれが高い方がターゲットに取られやすいのだ。この方法をしておけば少女の詠唱が済んだ時少女が少し攻撃しただけでターゲットを変えることができる。そのために、フレイアは攻撃をできないが。
「*******ーー」
少女の詠唱が始まった。何と無く、少女と自分は同じな気がするフレイアはシャーベルトの攻撃をさらりさらりと躱しながら少女から距離を取って行く。あの少女なら遠距離から攻撃し、ターゲットを取ることも可能だろうし、何より、防御魔法は得意ではない。自分の身体能力を信じて逃げ続けるしかないのなら、なるべく離れておいて損はない。
「*******ーー」
「全く、いつまで詠唱しているの?どんな魔法を…?!」
ちらりと少女に目を向けるフレイア。そしてそのあまりの光景に目を見開いた。
少女の右腕が闇に包まれていた。その上、どれほど魔力をつけているというのか、大きさが何倍にもなっている。
身体能力向上の魔法ならそう珍しいことではない。しかし、闇属性で行う魔法をフレイアは知らなかった。かなりの興味をそそられる。知りたい、どのような魔法なのだろうか。そんなことを考えていたせいだろう、フレイアは不意に左腕に鈍い痛みを感じた。
「っう!!」
急に身体が動かなくなり、倒れこんでしまう。当然水の中だ。呼吸もできない。しかし、溺れようにもその力すら入らなかった。
身体中が熱い。痛い。激痛だ。この症状を私はしっかりと調べて来ていて知っていた。
(シャーベルトの毒!牙でも刺されたか)
目を開けることもままならないのでフレイアにはわからないがその左腕には深く抉るように鋭い牙がささっていた。その牙は川の水にもさらされてもなお紫の毒を纏わり付かせている。シャーベルトの毒は即効性はなく、じわじわと激痛を与えながら死に至らしめるというものだ。タチが悪い、絶対にその毒だけは嫌だ。しかし、即効性がないことはかなりの救いだった。
息は水属性への適応が高いフレイアにとってさしたる問題はない。もちろん、そこまでの長時間は不可能だ。良くて十分というところである。溺れることもできず、慌てて水を飲んでしまったということがなくてよかったと心底思う。
(けど、即効性のないシャーベルトの毒で死亡するまでの時間もそのくらい…どちらに転んでも死…どうすれば…?)
今ほど麗麟がいないことが悔やまれることもないと思いつつ、フレイアは意識を徐々に失い始める。そこをなんとか気合いで繋ぐ。意識を完全に失えば水属性への適応性の高さの恩恵が下がる。そうなれば毒死を待たずして溺死だ。
「闇玉!ーー喰らえ!猫パンチ!」
フレイアは遠のく意識の中で水ごしに、そんな声を聞いた。
自身の腕の5倍ほども太くなった腕を見て満足気に鼻を鳴らしたノアは強いと見込んでいた女の子がいないことに驚いた。しかし、理由はすぐにわかった。シャーベルトが何かに噛み付いているからだ。
そう、倒れたフレイアは感覚も鈍っているためか気づかなかったが、一度ならず何度も噛みつかれていたのだ。そのため、何度も毒が上書き、上乗せされていた。
そして、ノアはすぐに事態のすべてに気づく。
「まずは殺さないと、あの子がやばい?!ーー闇玉!喰らえ!猫パンチ!」
ノアは闇玉でターゲットを取り、振り返ったシャーベルトの額の角を殴り壊した。
そのまま力なく倒れたシャーベルトを蹴り飛ばして水の中に倒れるフレイアを抱き起こした。水の浅いところまで必死の様子で運んで行く。
「ノト、解毒薬持ってる?!」
頭上の黒猫に声をかける。ノアとノトは同じ空間魔法を使用しているからだ。しかし、返答は否定。
『闇耐性の強い私らには毒は効かにゃい。そう言っておいてきたにゃ』
そう言われ、ノアは歯噛みする。自分に必要のないものでも持っておけばよかった。ずっとソロでやってきたツケがこんな形で帰ってくるとは。
「…なら、私が毒をもらえば…」
フレイアの毒を全て自分がもらえばいい。自分は毒は効かないのだから何の問題もないはず。そう思い、実行しようとしたとき、不意に声がした。
「獣人の血は感染するでしょ?猫人にされるのはちょっと困る」
「?!」
ノアは目を見開き目の前で倒れたままのフレイアを見る。未だに苦しげな表情で気を失ったままだ。その目も口も硬く閉じられている。しかし、今の声は確かにフレイアのもの。戦闘中に会話をしているのだから聞き間違いのはずがない。しかし、あの余裕のある声は?
「*******ー浄化の光」
「っ!!」
不意に流れた詠唱慌てて闇の防御壁を張るがすぐに崩れてしまった。なくなってしまった代わりにノアの身にはその光は届かなかったが、それでもすごい威力であることが窺い知れる。
「ああ、闇属性の子だったんだね。ごめんごめん。これは光の攻撃魔法に分類されるから、当たっていたら死んでたかもね」
私が書き換えて威力上がっているし、と微笑みさえ浮かべて語る。その人物は自分とそう変わらない歳の少女だ。美しい金色の髪と真っ青な目が特徴的な。顔立ちは、フレイアと全く同じだった。
そして、その少女は慈しむように倒れ伏すフレイアの頭を撫でる。フレイアの表情は安らかな寝顔に変化していた。
「解毒薬はね、この魔法でもできるんだよ。もともとは攻撃魔法じゃないし。でも、私が唯一、支援や回復としても使える魔法でもあるね」
しばらく撫でたあと、満足したのかその少女は川辺にある森の中へと足を向ける。しかし、不意に振り返って呆然と見るノアの頭を指差した。
「今のは全部忘れておいてね?」
その一言を聞いたのを最後にノアはフレイアの隣に崩れ落ち、意識を失った。
『ノアに何をしたにゃ?』
「……」
後に残ったのはノアを守るように前に座る黒猫と金髪碧眼の少女だけだった。
「久しぶりね?バステト」
「…あんたと会った記憶はにゃい」
そう、と言ってふらりと振り返り少女は去って行った。猫の記憶まで消すつもりはないらしい。もしくは、話さないと見ているのだろう。
「……」
猫は黙って去りゆく少女を見ていた。
ノアとノトは如何でしょうか?
作者的にはお気に入りなのですがww




