平和な日々
「おう、アクアちゃんやないか。元気しとったか」
「あら、ボルーさんじゃない。あなたの方こそ、もう両腕はいいの?」
「はっはっは‼アクアちゃんにやられた腕は使いもんにならんかったからな!新しく作ったねや!どや?かっこよーなったやろ?」
「色合いが違うのね…あら、金属?腕の長さは落ちたけれど、硬さは上がったのね。いいと思うわ」
ギルドの休憩所でマリに絡まれているルイードを待っているとボルーが現れた。
あとで聞いた話だが、ボルーは名の知れた高レベル冒険者なのだそうだ。先日聞いた彼のレベルは57。今にして思えば勝てたのは奇跡に近い。いや、実は彼は殺す気なんてなかったそうだから、手加減をしてくれていたおかげか。もちろん、彼自身、負けるとは思っていなかったそうだが。
最近は両腕が無かったためにクエストは当然のように出来ず、ギルドにも来ていなかったボルーだが、腕が治って再びクエストへ出て来たようだ。
「はっはっは!アクアちゃんに褒められると嬉しいなぁ‼割と高かったんやけどな、これやったらアクアちゃんの槍とて貫けんやろ」
「うふふ、それはどうかしらね」
私はギルドに来ていない間にも時々ボルーに会っていた。ボルーはこの街のことやモンスターのこと、冒険者のことをいろいろ知っていて、教えてくれていたのだ。彼のパーティーメンバーも大柄な人ーーと言うか巨人ばかりだが、仲良くなれた。今では巨人への差別的感情も薄くなって来ている。
「それにしてもなぁ。アクアちゃん、レベル上がらんのか?そのレベルは詐欺やのう」
「この間測ったときは、7だったわ。少しは上がったわね」
7も十分に詐欺や、とボルーは苦笑いして答えた。
ルイードのレベル確認は先日行ったのだが、結果を教えてもらっていない。ただ、かなり上がってたそうだ。どうして教えてくれないのか、少し不満だけれど気にしないことにする。
「ルイちゃんは上がったんやろ?せやったら何でちょっと落ち込んどんねん。アクアちゃん何かなぜか上がらんのにのう」
「そうなのよね…ああして落ち込まれていると、何レベルになったのか、聞き出し辛いわ。私のレベルなんて、どうでもいいのだけれどね」
「いや、ミスって喧嘩売ってまうやつが可哀想や。その実力に見合ったレベルになったげてくれや」
「そう言われてもね。何を基準に測っているんだか。知識が入るだけでもレベルは上がるそうね?私のレベルが2上がったのは、ボルーさんが色々と教えてくれたからかもしれないわ」
実はレベルとはパーティーでクエストをクリアするだけでも上がって行く。それは戦闘の知識が入るからだと言われているけれど、その方法でのレベリングは冒険者の恥だと言われてバカにされるのだ。実力のない、木偶の坊だと言って。
「せやなぁ…アクアちゃんのオリジナルは強力やけど、やってることは簡単な物質化やからな。レベルも上がらんのかもなぁ」
「んー…最近は色々と改良もしてるんだけれどね。……そうだ。魔導師って、本当に一つの属性しか使えないものなの?」
そう問うとボルーは大きなため息をついて、諭すように言った。
「まだ諦めてへんかったんか?普通はそうなんや。アクアちゃんは確かに、すごい才能やで?けど、無理なんちゃうかな」
「……そう」
その後もボルーとはくだらない話をして時間を潰していた。気づけばルイードを囲む女の人数が増えている。
今日のクエストはあの女たちを蹴散らすことからだ。
「……なぁ、なんでそんなに不機嫌なんだよ」
「不機嫌じゃないわ」
「それ、他のやつと話すときの話し方じゃないか」
「……そんなこと………ない…わ…じゃなくて…えっと、よ?」
「台詞で迷うな」
むぅ、と膨れてみる。最近の私はルイードの前ではそれなりに表情を変えていると思う。もちろん、ボルーの前でもしているつもりではあるのだ。ただ、実際には常に無表情らしいけれど。
「もう正午だもん。クエストなんて間に合わないよ」
「いっつも一瞬で終わらせてるじゃないか…」
「え?なぁに?」
「なんでもないよ」
ルイードが何を言ったのかは聞こえなかったけれど、とにかく、なぜか私は機嫌が悪い。今日受けた討伐クエのモンスターには苦しんで頂こう。
「なぁ、アクア」
「んん?なぁに?」
私は問う。こうして2人で歩くのは好き。ルイードを独占しているようで、嬉しい。我ながら、子供だと思うけれど。
ルイードはしばらく口をパクパクさせて、諦めたように口を閉じた。
「やっぱり、何でもないよ」
「…?そう?」
このとき、私はもう少し気にするべきだったのかもしれない。
「それ」が起こるのはもう少し経ってからだった。