大精霊
短いので二話連続投稿します。
二話目は本日中に投稿します。
やはり、徒歩ではとても着きそうにないので白愛と麗麟にお願いすることにした。私が申し訳なく思いながら提案すると白愛は嬉々とした表情で「では、今回は私が主上を乗せたいです!」と言ってきた。それに麗麟が反論する。うん、愛してくれて嬉しいよ、2人とも。
華奢な身体つきの麗麟であっても聖獣に違いはなく、その身体はこの世界で買えるどんな騎獣よりも強い。ルイードとリコの2人を乗せることくらい、大したことではないようだ。白愛は麗麟と違い毛足が長いのでふわふわで気持ちいい。私は今日も快適な移動をした。
「うん、麗麟でも酔うのね。じゃあ、予定よりも早かったから、休憩してて」
もうすっかり日も沈み、辺りが闇に包まれた頃、私たちはウンディーネの湖が見える場所に着いた。今のところウンディーネに動きはない。一応、麗麟に結界を張ってもらって、魔力の流れがあったら私に伝わるようにしておく。
「「…はーい」」
おとなしく返事をするルイードとリコ、結界の関係で目をつむり、座り込んで動けない麗麟をおいて私は白愛と共に近くのダンジョンへと向かった。
「先にダークハンドでよろしいのですか?」
白愛が問うてくる。今日も真っ赤なチャイナドレスに白い、裾の方が膨らんだズボンを着ている。彼女の戦闘服だ。ちなみに麗麟はシスターのような真っ白な服で全身をすっぽりと覆っている。治療魔力を強化する効果のある服で、やはり、彼女の戦闘服だ。どちらもとても可愛い。
「うん。酔いが覚めるのをただ待つのもつまらないしね。どうせ、すぐ済むんだし」
言ってウインクをすると白愛はそれで大体の事情を察してくれたようだ。驚いたような顔をした後、にやりと笑う。
「そうですね、楽しみにしておきます」
私は水属性魔力を身体に循環させながら歩いた。髪が、目がそこだけまだ日中の空ような蒼に染まり、私の周りの温度が下がる。
準備完了。
「ただいま〜」
私は直径5センチほどの宝石片手に戻ってきた。ルイードとリコの顔色は幾分かよくはなっているがまだ完全に体調が戻ってはいないらしい。
「…それって、ダークハンドの宝石か?じゃあ…けど、ここを離れてからまだ二十分しか…」
ルイードが戸惑った声を上げる。私は居心地悪く微笑んだ。
「あー、うん。移動に往復で二十分くらいかかっちゃって…」
実際の戦闘時間は一二分だろうか。意外にかからなかった。魔法詠唱一回分の時間である。
「はぅ…主上、かっこよかったです……」
ただ、戦闘時間の短さの原因にもなった“試し撃ち”のおかげで先ほどから白愛が離れてくれない。確かに、予想以上の威力だった。私も驚いたほどだ。あれは、半分寝かけで作ったお遊び魔法陣だったのに。
「麗麟、もういいわ。どうもありがとう」
私はまだ目を閉じている麗麟の頭を撫でて結界を切らせた。結界はその能力、精度に応じて集中力を消費する。今、麗麟がしていたものはかなり集中していないと発動していられないから、これだけで切れる。
「……はぁ…はぁ……主上…?おかえりなさいませ」
集中力が切れた途端に息を切らし始める麗麟。息をほとんど止めるほどに集中していたのだろうか。辛い仕事をさせたかと少し後悔し、自己嫌悪する。
「ただいま。ウンディーネもまだ出て来ないし、ここで休憩してていいわよ。私は少しだけ、彼女と話をしてくるわ」
私に抱きついて来る麗麟を微笑みながら抱き返し、そう言った。抱きついてくる手の力も息もいつもよりも弱々しい。
白愛に麗麟を任せ、湖に近づく。
「…水の大精霊、ウンディーネ。いるかしら?」
私の呼び声に反応して、湖の中央に魔法陣が浮かび上がる。
「……なんだ。低レベルな冒険者風情が。殺されたいのか?」
予想よりも機嫌が悪いらしい。
あと、やっぱり低レベルな冒険者となるのか。
「私と契約しなさい。見てわかるでしょ?水属性の使い手よ」
私は髪も目も蒼いままにしてある。
自由に操作できて助かる。
「…何の冗談だ?そんなレベルで大精霊と契約できるとでも?」
「できるわよ。私はあなたよりも強い」
「……」
ウンディーネは黙り込んだ。その顔は頭のおかしなやつを見るようだった。
「証明してみろ」
やがて、嫌味な笑みで勝ち誇ったように言う。
「ええ、いいわよ」
私も顔がにやけるのを止められない。
「その代わり、」
だって、こいつは私に勝てると思っているのだから。
「後悔しないでね?」
ちらりとルイードの方を見る。彼は確かに頷き、剣を高く振りかぶった。
私は空を指差して、たった一言を呟く。
「雷鳴」
「雷剣」
後ろからルイードの声。しかし、今回の彼の動作魔法の目的は範囲攻撃ではない。同時に発動する、防御魔法だ。
そして、天から雷が降り注ぐ。
これが私の完全オリジナル。水属性と光属性の混合範囲魔法、雷鳴。
ダークハンドを殺ったのとはまた別の魔法だが、起源は同じ。
そして、水属性に雷は超有効で、ウンディーネは苦しげに悶えていた。
「契約、しましょ?」
まだ迷いを感じる。私は駄目押しでこう言った。
「失恋、辛かった?話なら聞いてあげるわ」
情報収集の信憑性わからないがウンディーネにはそんな話をする知人はいないはず。誰かに話したくなる時もあるだろう。
「……」
ウンディーネは無言で魔法陣を描く。攻撃ではなく契約の魔法陣。
割と簡単なクエストだった。




