初クエ
投稿遅れました。すみません。
明日も遅れると思います。
お昼までには投稿します。
ルビリアルフラワーの生息地である花畑はルイードの家からはそこそこの距離なので、朝早くから家を出た。いくら戦闘に時間をかけない自信があるとはいえ、暗くなってからの戦闘の可能性は少しでも低くしておいた方がいい。夜目の効くモンスターたちとは違い、私たちは効かないからだ。
「リーダー。陣形はどうするんですか〜?」
リコが目をこしこしとしながらなぜか私に聞いて来る。確かリーダーはルイードではなかっただろうか。今日は朝早くに起きたから眠たい。みんなそうだが、彼女は普段から眠り過ぎの節がある。魔力消費が多くなると魔術師は眠くなるものだが、彼女のそれは常に魔力が一割未満の状態であるのと変わらない。一度麗麟に言って魔力回復魔法をかけてもらおうか…
「陣形なんて決めても守れるのは麗麟とルイードだけだから必要ないわ。一応で決めておくなら、ルイードを麗麟が、守ってくれる?私と白愛は基本ペアで戦いましょう。私たちはお互いに足りないところを補いあえるから」
「はーいっ!…麗麟、わ、た、し、が主上に選ばれちゃってごめんね?」
「了解しました、主上……私に大事な人を預けてしまったからです。あなたは余ったからですよ?」
麗麟と白愛はボソボソと口論をはじめた。気にしないことにする。
「なんか、俺を中心に考えられてるな…足手まといなら、俺は抜けようか?」
ルイードは申しわけなさそうにする。慌てて首を振った。
「そんなことないわ。大丈夫だよ?」
無理矢理高難易度のクエストに挑ませているのは私だし、ルイードだって弱いわけじゃない。たぶん、今回の出番はないけれど。
「はいはーい、リーダー。私はどうしたらいいんですか〜?」
「あなたは自分の身を守ってて。あとは、指示したときに支援魔法を使ってくれたらいいから。もちろん、独断で使ってくれてもいいけれど」
言いながら思った。ダメだ、指示しないとこの人はわからない。
「はーい」
首を傾げながら肯定するという器用なことをやったリコは一応は納得したのか。また眠たそうな顔で最後尾を歩きだした。多少不安は残るが、ここで追求しても無駄だろう。
「麗麟。防御魔法も使えるわね?」
「もちろんです。あれも治療魔術の範囲内ですから」
治療魔力は光属性魔力の一部なので、麗麟は光属性魔法なら多少は使える。初めての会ったときも光障壁を使っていたように、攻撃以外の光魔法は一通り出来るのだろう。
「主上、実は、相談があるんだよね。戦闘時の戦い方について」
麗麟と仲良く話していると白愛が私の右腕に絡んできた。珍しく真面目そうな顔をしている。どうせ道中は暇だし、戦い方についてなら聞かなくてはいけないので私は快諾した。
花畑はその名の通り、色とりどりの花が咲き乱れていた。その光景はとても美しく、探せば妖精の一人や二人、見つけられそうなほどだった。
「うわぁ、すごいですねっ!」
ここに来て1番はしゃいだのはリコだった。花畑にダイブするような勢いで走って行き、花を摘み始める。花冠でも作るつもりかもしれない。
「確かに、すごい光景だな。花粉症じゃなくても鼻がムズムズするくらい」
「確かにそうね」
ルイードの発言に私も苦笑しながら同意する。ここは花粉が待っていて、いい香りと共に鼻に入ってくる。そう長居したい場所ではない。リコは知らないが。
「っ!主上っ!」
「****光障壁っ!」
「****風障壁」
少し気の抜けた話をしていたとき、白愛にいきなり抱えられた。同時に二つの詠唱が聞こえる。
間を置かず、ドカッと言う、何かがぶつかった音が二つと、ザザザッと言う砂の上を滑る音がする。
「…お怪我ないですか?主上」
「ええ、ありがとう、白愛」
前者は麗麟とリコが出した防御魔法にモンスターの蔦が当たった音。麗麟はきちんとルイードも防御魔法の範囲内にいれてくれていた。そして後者は白愛が後ろに大きく飛んだ衝撃を緩和するために滑った音だ。
白愛は右腕腕で私を抱きつつ、両足を広げ、左腕を地面につけて私への衝撃を緩和していた。
「いえ。こちらこそ、ありがとうございます。あのままじゃ、身長同じくらいだからちょっとしんどかったんです」
「いえいえ。これくらいはね」
自分のためでもあるし、と私は付け足す。
私は白愛が私を持ち上げた瞬間に大体は察して身体の大きさを変えていた。具体的には18歳くらいから4、5歳くらいまで。おかげで白愛は片手を離すことが出来たというわけだ。
「…囲まれたわね」
改めて、攻撃を仕掛けて来たモンスターの姿を探す。するとすぐに見つかった。森の中からワラワラと十数体が私たちを囲むようにして出てくる。その正体は、二メートルほどの大きな花だった。花と言っても、気持ち悪い、見ていると気分が悪くなるような姿をしている。食虫植物なのか、花弁の真ん中の空洞から絶え間無く粘液が溢れ出していた。先ほどの攻撃は長い蔦によるものだったらしい。
このモンスターこそ、今日の目的、ルビリアルフラワーだ。
「主上、このままの体制での戦闘許可を」
白愛が嬉しそうに言う。このままの体制とは私を抱っこしたままと言う意味か。このパーティーの火力が一緒に行動すると言うのはどうかと思わなくもないが、麗麟とリコがいれば倒せなくても攻撃を受けることはないだろう。
「いいわ、許可する」
それを聞いた途端、白愛は動き出した。
私を横抱き、つまりお姫様抱っこに抱き変えて1番近いルビリアルフラワーに突撃する。両腕が塞がっているが、その程度では白愛の戦闘力を落とすことはできない。彼女の最大の武器は足なのだから。
白愛は走った勢いを利用して大きく跳躍、飛び蹴りをかました。
メキョッと音を立てて白愛の足がルビリアルフラワーの胴体に突き刺さる。それだけで絶命したようだ。
白愛は倒したモンスターには目もくれず、すぐに次のモンスターへと向かう。今回はすぐ近くだったので助走距離がなかったからだろう。飛び蹴りはせず、ルビリアルフラワーの前で立ち止まり、身体を捻じった。引いた右足をルビリアルフラワーへ叩きつける。しなやかなその足はまるで鞭のようで、事実、ルビリアルフラワーは鞭で打たれたようになっていた。やはり、これでも一撃で絶命させる。
ここにきてようやく私の魔法が完了した。実は抱っこされつつきちんと魔法を作っていたのだ。
「火玉、付着、光属性」
初めて使う術式だったから組み上げに今までかかったが、代わりに威力は倍以上のはず…多分。火属性は主に熱による攻撃だし、光属性も熱による攻撃を含む。相性はそこそこのはずだ。合成と違って、混ざり合わせないから両者の別利点も消えないし、何より最大の利点が、他者の指揮下に変更出来ること。その条件は相手が光属性を扱えるかどうか。
私は数十個作り出したそれの半数を麗麟の指揮下においた。
「麗麟、最悪それで交戦して!」
「了解しました!」
私の指示に従い、麗麟は光、火玉を手元へ引き寄せる。これであそこが責められたときも大丈夫だろう。あれ一つで一匹は殺せるはず。本当は、麗麟に攻撃魔法はさせたくなかったのだけれど、仕方が無い。なぜなら、
「しっかし、やばいね、主上」
白愛がまた回し蹴りながら少し焦ったような声を出す。私も頬に嫌な汗が流れた。
ルビリアルフラワーの数はどんどん増えているからだ。私も白愛もそれぞれ一撃で殺し続けているのにその数は減るどころか増える一方。いつの間にこんなに増えたのだろうか。まあ、宝石を持っている確率は他の宝石を持っているモンスターたちと違って100%ではないので、助かると言えば助かるのだが。
これだけを殺そうと思えば私も白愛も流石に気が滅入る。最後のあたりには疲労が溜まり、一撃とはいかなくなるだろう。それならば、仕方が無い。
「ルイード、お願いがある!殺したルビリアルフラワーの宝石を取って!」
ルイードは何を言っているのかと言った顔をしたあとすぐに納得のいった顔になった。頷いて手近な死体から解体し始める。どこにあるのかはギルドで確認済みだ。花弁の真ん中、大きな口の中にある。あるやつならば、だが。
私がこんなことを言い出したのは至極簡単な理由からだ。私の今の火属性魔力では扱えない、弱いなら、強くすればいい。もともとここへはそれが目的で来たのだから。
しばらくして私の火玉が玉切れになりそうになったとき、ルイードの声が聞こえた。
「あった!フレイア!」
私は白愛に降ろしてもらい、ルイードが投げた宝石を受け取る。
「ありがと!…うわぁ…ヌルヌルじゃない」
迫って来ていたルビリアルフラワーに一発お見舞いしながら私は水玉で宝石を洗った。口の中にあるだけあって、粘液がよくついていた。気持ち悪い。
「じゃあ、頂きますか」
ホーリードラゴンのそれよりも小さいその赤い宝石は頑張れば飲み込めそうな大きさだった。大粒の飴くらい。ちょっと喉を通るとき苦しいかなくらいだ。
口に入れて、ごくん、と飲み込む。未だ残っていた粘液のおかげで滑りが良く、然程苦しくはなかった。この、以前に飲んだ薬と同じ作用がある粘液の影響は、あとで麗麟に治してもらうとして。今は応急処置の意味と魔法の威力の意味も兼ねて身体を18歳に戻しておこう。
「神器解放」
同時に首に吊るしている杖兼槍に手をかける。今は封印と言う形で小さくしているのだ。チェーンが砕け、神器が元の大きさに戻る。
「あなたにも銘が必要だね」
不意にそんな感想が漏れた。何と無く、この神器が不満気な気がしたのだ。あとでフリッグに聞いておこう。
「******火焔巨人の車!」
思いつく、今使える限りで最も強い火属性魔法を行使する。何も指示しなくても、詠唱中は白愛が守ってくれていた。
そうして、私を中心に巻き起こる炎。ムスプルヘイムの業火には遠く及ばないが、そこの将軍の乗る車さながらの炎があたり一面を走る。
術者である私でも熱さでどうにかなりそうな熱量だ。
一瞬で広がった炎は十秒ほどその熱量を保ち、徐々に四散して行った。
「………あ、やっちゃった」
あたり一面に広がっていた幻想的な花畑の風景はどこへやら、今は灰だけが高く積み上がる焦土が広がっていた。
あんなにいたルビリアルフラワーたちももう跡形もない。
もういないことがはっきりとわかるのは、近くの森もすべて焼き払ったからだ。
まあ、きっちり詠唱もして、神器で強化したし、この結果は当然と言えば当然か。
私から半径五キロ以内で原型を留めているのは私と、光、風属性の最大防御魔法を自分たちを包むようにして張っているルイード、麗麟、リコだけだった。
風は炎に有効だし、光は炎に耐性がある。なかなかいい組み合わせの合成魔法だ。
「主上、ここ一体にいた人、モンスター関係なく焼き払ってますよ?」
私の隣に降りて来たのは転変し虎の姿となった白愛だ。咄嗟に空へ逃げたらしい。
「これは…怒られるね……」
ギルドとか、ルイードとかに。そう言いかけた時だった。
「フレイアっ!」
「はいっ!」
案の定、ルイードが怒っていた。
「やり過ぎだ!もしもこの森に冒険者以外が来ていたらどうするんだよ!」
冒険者は常に死と隣り合わせなので、こうした他の冒険者の魔法に巻き込まれて死ぬのもいた仕方なしとされるのだが、他の人、花畑に遊びに来た子供とか、仕入れに来た花屋とかがいれば、それは割と問題になる。場合によっては慰謝料を払わなくてはならないーーが、
「だけど、いたかどうかもわからないし、遺体もないし…謝罪のしようもないじゃない?」
「それでも、これはやり過ぎだろう?確かに、今回は無理だ。だからーー」
「「逃げよう!」」
最後の意見だけは一緒だったらしく、仲良くハモりながら私たちは走ってギルドへと戻った。
「以後気をつけます」
途中、白愛を転変させたり、神器を封印し直したり、麗麟に治療してもらったりしてから、日が沈む頃に花畑近くのギルドへと帰ってきた。花畑を焦土にしたことを叱られ、反省しながらギルドを出る。幸いなことに、ルビリアルフラワーが大量発生していたおかげであの周囲には人がいなかったそうだ。ついでに、多量のモンスターの殺害件数を稼ぐことができた。報酬もそれなりだ。
「宝石は一個しか手に入らなかったけどね…」
死骸も全部残らなかったため、宝石はあの一個しかない。それでも、ルイードにはあれで十分だろうと言われたのだけれど。
未だ使えない呪文、術式が多くある。まだまだ魔力が足りないらしい。もっと強力な宝石が必要だ。
いろいろあったが、次のクエの話などやることはいろいろある。とりあえず、宿でもとってから夕食でも食べに行こうと思った時、女性の悲鳴が街に響いた。
…うう、嫌な予感しかしない……。




