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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
神器を持つ者
22/157

神々の決断

二話連続投稿です

突然喚き出した王はフレイアが対応するとして、残りの七人を仕留めようと近づいたーーとここでふと疑問に思う。合成魔法を作っていた魔導師たちはなぜそれを打って来ないんだ。その答えは魔導師たちが立っていた場所にいる真っ白な虎だった。

「富白。随分と早い帰りだったな」

富白はその輝くような白い毛に付いた返り血を身を揺することで飛ばしながら楽しげな声で答える。

「ああ!そうなんだよ!ちゃんと、麗麟と白愛を連れてきたぜ!」

褒めて褒めてと言わんばかりに近づいて来る富白に苦笑しつつも俺はその広い頭を撫でた。もふもふだ。そのままわしゃわしゃと力を込めて撫でてやる。

「痛い、痛いよ、主人!燃える、摩擦で燃えるから!」

「悪い悪い」

困ったような、いや、事実困っているのだろう声を上げた富白の頭から手を退ける。自分の手を見ると黒いグローブが擦り切れていた。結構頑丈に出来ていたはずなのに、やはりフリッグが作ったやつは当てにならないな。宝剣だって何回折れたことか。まあ、魔力流してりゃ元通りに再生するんだから、構いやしないが。

「けど、主人は今回全然殺せてないな〜!」

早くも燃焼を起こしかけていた状態から回復した富白はケラケラと笑いながら言った。全く、主人を敬わないやつだ。麗麒を見習え。

「これから殺るんだよ。こいつらをーー」

富白の台詞に笑いながら今から殺ろうと思っていた戦士たちの方を見るーーそこには首無し死体が積み上がっていた。

「ーーって、おい、人のもんとってんじゃねーよ」

そこには満足気な顔で聖槍(グングニール)レプリカを持つ旧友、オーディンの姿があった。脇には彼の聖獣であるスレイプニルが控えており、その八本足の獣の上で退屈そうにしているフリッグの姿もあった。フリッグも(ワンド)を構えていることから、何人かは彼女の手にかかったのだろう。

「別に誰が殺しても構わんだろう。俺の場合はストレス発散とレプリカの切れ味の確認だ」

「ストレスとか言ってどうせ玉座で俺とフレイアが仲良くするのをイライラしながら見てたとかそんなんだろ?俺だって思いっきり殺りたいんだよ」

図星だったのか特に突っ込みを入れることなくオーディンは俺の後ろを指してにやりと笑う。あ、これは嫌味を言われるぞ。

治療魔術師(ヒーラー)が残ってるぞ」

やはり、それを言うか。

確かに俺の後ろ、富白が殺った五人のさらに後ろには真っ青な顔をして震え上がっている治療魔術師がいた。

「いらねえよ!あんな弱い集団!」

「あれで十分だろう!昨夜はフレイアとキスをしていたじゃないか!ストレスなんて微塵もないだろう!」

「うっさい!!俺だってストレスくらいあるわ!」

というか、なんで知ってんだ!今ここにいるってことは昨夜は玉座にはいなかっただろうが!

「ふん、時間など、俺の前では無いようなものだ」

「何を威張って……あー!お前まさか世界時計(ワールドオクロック)を…!」

ふっ、簡単なことだとか言ってキメ顔をするオーディン。俺はその顔面に力を一割くらいまで手加減(セーブ)した頭突きをかました。

「てめえ、バカじゃねえの?!なんであれに手を出してんだよ!!あれは、前世のフレイアの私物だろうがっ!!」

前世のフレイアは女が死んだときにその魂を自身の元へ迎えていた。それはオーディンが今もやっていることと同じだが、目的が違う。オーディンの場合は軍を作ること。俺たちがこうしている今もなお、ワルハル宮で英雄たちの魂が演習を繰り返している。そして、フレイアの場合は生前の恋話(コイバナ)を聞くことだ。自分は旦那がいるから出来なかったからな。そして、そのときに使用するのが世界時計(ワールドオクロック)だ。アスガルドと(ここ)は遠いから来るのにどれだけ急いでも一日はかかる。その間に魂はヘルヘイムへと言ってしまうのだ。それを防ぐために女性が死ねば時間を弄って迎えに行く。フレイアはそんな遊びが好きだった。もちろん、それ相当の魔力消費が発生する。なのに、このバカはそれをそんなことに使ったのだ。これをバカと言わずしてなんと言おう。

「騒がないでよ、耳が痛いわ、バカ2人!いい加減にしないとここにおいて行くわよ!」

とフリッグに怒鳴られ、取り敢えず黙る俺とオーディン。そしてやっと戻ってきた静寂の中でフリッグはオーディンに頷きかける。そして、オーディンは改まった様子でこう切り出した。

「フレイ、そろそろ戻って来い。二千年前の再来だ」

ため息が漏れた。それだけで意味はわかっているつもりだ。俺はオーディンの顔を真っ直ぐに見て言う。また、反対仲間になってくれることを願って。

「…………また、繰り返すつもりなのか?」

オーディンとフリッグは神妙な顔をして頷いた。三人とも背筋が凍る思いなのは決して足元に氷漬けの死体が転がっているからではないだろう。

「もう、いいじゃないか。せっかく思い出して来てるんだぞ?さっきなんて詠唱をしてた。麗麟と白愛のことだってすぐに思い出すって!それなのに、またフレイアに……」

「世界の危機か、フレイアか。お前はその選択でフレイアを取るのか?」

「…………」

俺は答えることが出来ない。俺にとってフレイアはどんなものよりもずっと大切なもの。寧ろ、それ以外に大事なものなどない。それは世界と引き合いに出されたって変わらないが、神は世界を捨てられない。そう言う生き物なのだ。

「…私も嫌だわ。他の方法があればとは思う。けど、とにかく、時間がないの。時間稼ぎにはフレイの力が必要なのよ」

フリッグが諭すように言う。その言葉通り、その顔は悲しそうだった。

「白愛もいるんだ。ここにおいて行っても問題はないだろう」

白愛とは、今、富白と仲良くじゃれている白虎のことだ。麗麟と同じくフレイアの聖獣で富白の幼馴染兼恋人だ。あの2人は同じ時期に俺とフレイアに拾われ、契約をした。それからはずっと一緒。特別な理由がない限り離したことはない。俺が遠征に行く予定のときはおいて行くか白愛も連れて行き、逆もまたそうだった。それを今、離れろと言えるわけもなく、

「そうだな。じゃあ、富白、お前もここでフレイアの警護をしろ」

そう命令すると富白にしては珍しく困ったような顔をした。いつもなら白愛といられると喜ぶのに。

「主人、俺もそれなりに話は聞いてたよ。時間稼ぎなら行くんだろ?ムスプルヘイムに俺も一緒に行くよ。少なくとも師々よりは戦力になるぜ?」

「そうですよ。今回は重大な事です。そんな気を回して頂かなくても大丈夫ですよ」

富白と白愛がそう言ってくるとは意外だった。いや、白愛はともかく、富白はただムスプルヘイムへ行きたいだけかもしれないけれど。

「そうか。なら、今回は悪いけど富白は俺と一緒に来てもらう。白愛、フレイアの護衛をよろしくな」

「りょーかい!まあ、俺ら聖獣は主人から長く離れただけで体調に変化が出たりするからな。離れたくなかったってのもあるんだよ、主人!」

と、富白は何とも可愛い告白をして、その富白を心配気に見ている白愛も

「主上の御身をお護りするのは当然のことです。ずっと会いたかった人のこと。頼まれるまでもないですよ」

と言う。敬意を払うと言うことには向いていない白虎だが、忠誠心が薄いかと言われればそうではない。忠誠心は他の聖獣と同程度、もしくはそれ以上に持っているのだ。

「なら、白愛ちゃんは転変しておきましょ。…解放」

フリッグが無詠唱で空間魔法を開く。そこに入って転変しろと言うことだろう。白愛もわかっているので黙って入って行くーーっと、

「富白、お前は転変の必要はないだろう。俺を上まで乗せて行かなくては行かないんだから」

「…えー?俺も転変したいー」

「必要ない」

どうせ、転変した白愛といちゃつくだけだろう。全く、主人は我慢していると言うのに。

「じゃあ、適度に説明をしておかないとね。フレイアちゃんを呼びましょ」

フリッグがもうこのメンバーだけでの会話はうんざりといった顔で言い放つ。相変わらずだなぁ。

「あー、うん。だけど、あの男を頼らないか?」

俺がそういうと2人は軽く首を捻り、すぐに理解する。

「バカか?実力差があり過ぎだろう。せめてフレイアと一緒に戦えるやつでないと無理だろう」

「私もオーディンと同じだわ。彼には既に恋人がいるようじゃない。フレイアちゃんだってさっきから話しかけていないし。三人と言うのは微妙なのよ?麗麟ちゃんと白愛ちゃんがいれば立派にパーティーとしてやっていけると思うしーー」

「違う、そうじゃないんだよ」

フリッグの正論を遮って、俺は言う。もしかしたらフレイアが気に入ってしまうかもしれない、いや、既にそうかもしれない男に大事な妹を預けようと主張する。何やってんだろうな。

「あいつは家を持っているし、フレイアもそれなりに恩義を感じてる。この世界でフレイアが頼れるのはあいつだけなんだ。フレイアは自分の力を過信するタイプではないが、無茶はする。それを止めるやつが必要だ。麗麟と白愛はフレイアを溺愛しているからよっぽど非人道的な行いでない限り止めはしないだろう。いざとなれば命がけで護るだろうが、2人のうちどちらかが命を落とせばフレイアの心はぽっくり行くぞ?神にとってそれは死ぬのと同義だ。だから、最後の盾にするためにも、寝泊まりの場所の提供者としても、フレイアを止める役割としても、あの男を使わない手はない」

「「……」」

2人はしばらく考えたあと、一応の納得を示した。

「監視はつけましょうか。私の聖獣、莉八(りや)をおいて行くわ。定期的に報告をさせる」

フリッグの聖獣の莉八とは八房(やつぶさ)の女の子だ。普段はころころと可愛い仔犬の姿をしているが、戦闘時には白虎も角やという能力を発揮する。転変の際には十歳程度の幼女の姿をとる。但し、犬耳は残るが。

莉八は命令は完璧に遂行する。とても有能な子で、アスガルドにも八房は莉八だけだ。

「それなら、了解するしかなさそうだな。まあ、無理をされても困るし、未だルビリアルフラワー討伐もしていないようだしな」

オーディンが軽く睨みつつ行ってくるので思わず苦笑してしまった。

「時間がなかったんだよ。じゃあ、そういうことで、話をするか」

「適度には隠して説明するのよ。というか、基本的には私がするから2人は黙ってて」

「「はーい」」

フリッグが面倒そうに言う。俺とオーディンは素直に従う。こういうのはフリッグが一番上手いのだ。俺はすぐにボロを出すしな。

「じゃあ、おーい!フレイア!ちょっといいか?」

俺は麗麟に抱きつかれているフレイアに呼びかけた。

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