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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
神器を持つ者
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再会2

数日間しなかったのと短いのとで、今日は二話連続更新です

突然現れた麗麟の所為で魔法は防がれてしまった。しかし、ルイードの危機が去ったわけでもなければ首の怪我が治ったわけでもないので、取り敢えず王の動きを止めることにした。さっき使った鎖がまだ操作状態にあるはずだから、あれで首を締めておこう。

私は既にコツを掴んだ物質操作魔法を行使しながら麗麟の方を向く。

…名を呼んでみたものの、どういう関係性かわかんないな……かなり親しい、親友だと言うことは名と共に思い出してはいるのだけれど。

「主上」

「…ん、何?」

そんなことを考えていたからか反応が遅れてしまった。しかし、主上?私の方が身分は上なの?

「操り人形(マリオット)はあまりに残酷ではありませんか?そんな非人道的な行いはお止め下さい」

麗麟はきっぱりと言う。少し怒っているようにも見えるけれど、あれは勝手に頭に思い浮かんだ呪文だし、効果だって……知らないとは、言えないなぁ。少なくとも、詠唱中は知らなかった。けれど、今は怒涛の勢いで様々な呪文、術式、陣が頭に入って来ていて、その全てを魔力さえ戻れば私は使えるということも把握している。これで知らないとは口が裂けても言えないだろう。だが、しかし。

「どうして?非人道的な行いを先にしたのはその男じゃない。私が与えようとした罰は、そのことを差し引いてもなお重いと言うの?」

麗麟はしばし黙り込んだ。私は今、とても酷な質問をしている。彼女はおそらく麒麟。ならば、人の罪とそれに対する罰の重さを比べろと言われても答えを出すことはできないだろう。その情の深さ故に。さっき止めたのはきっと、今目の前にいる者を助けなければと考えたからに違いない。しかし、こうしてその者の行いを考えさせると助けるべきか否かの判断をつけられなくなる。不便な生き物だ。

「それでも、」

麗麟は未だ悩む素振りを見せつつも、言葉を紡ぐ。

「主上には……大好きな主上には、そんなことをして欲しくないです」

「……」

絶句、とはこのことだ。

まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかった。

麗麟は、鹿と馬の間のような、美しい獣の姿をとっているにも関わらず一目みて悲しんでいるとわかる顔をした。

胸が痛む。私はなぜこんな顔をさせているのだろう。

「確かに、その者の罪は重いです。ただ死んで終わりではあまりに罰が軽過ぎます。だけど、罰を与えるのが主上でなくてはならない、と言うことはないのではないですか?私は、お止めしたいと思ったからしたまでです。お叱りを受けるようなことではないと思っております」

綺麗なソプラノの声は震えている。もちろん、私のお叱りをとやらを恐れているのではないだろう。私がしようとしたことを嘆いているのだ。

「そう……わかったわ」

自分の気持ちとは裏腹に平坦に響く私の声。きっと表情も変化なく、無表情に違いない。自分で自分に腹が立つ瞬間だ。

結果として、麗麟は未だに不安気な様子。無力な自分を嘆く前に、最低限の努力が必要か。

「それもそうだわ。これはここの人たちの問題。なら、私が裁くべきではないわね。ありがとう、麗麟。あなたのお蔭で私は過ちを侵さずに済んだわ」

努めて優しい声を出す。顔を微笑ませる。上手くできているだろうか?自信はない。だけど、想いはきちんと伝わったようだ。なぜなら、

「ありがとうございます、主上」

そう言った麗麟も微笑んだように見えるのだから。


さて、遅まきながら今この状態をきちんと把握しようと思う。

取り敢えず、辺りに出来ていた人垣は先ほどのフレイの戦闘により、綺麗になくなっていた。断っておくが、決してフレイが殺しちゃったとかではなく、あの戦いぶりに恐れをなして逃げたのだ。

ついでに、この辺りに満ちていた濃い血の臭いで麗麟の体調が崩れては大変と私は光属性魔法、浄化の光を行使した。お蔭でこの辺りの空気は澄み切っている。また、血の臭いの元である死体たちはいつの間にか使えるようになっていた氷魔法で氷漬けにしておいた。

次に、先ほど締めておいた王は絶賛気絶中のようなので、そのまま鎖で拘束。

結果的にはルイードの対応を後回しにしてしまった。喉の怪我はまだ治していないし、ずっと気にはしていたのだが、見知らぬ少女がルイードの側にいる所為で声をかける勇気が持てなかった。いくら術式を知っていると言っても、私には治療魔術を行使するための魔力がないから何と言って話しかければいいわからない。その少女だって、緑の髪に緑の目なのだから風属性の魔力持ちだろうし、普通、一人に一属性だから治療魔術は使えないはずだ。いや、私みたいに例外なのかもしれないけれど。それでも、すごく親しげで、私が入る隙なんて、少しもないようで、私はルイードから目を逸らすことしか出来なかった。

「…ぅう……」

「…?どうしましたか?主上?」

耳元のすぐ近くから麗麟の声がする。

先ほど、転変した麗麟は今はそれはそれは美しい少女の姿をとっていて、後ろから私に抱きついているのだ。ちなみに、獣から人への転変後は基本的に裸なので、屋外ですることは滅多にない。逆なら脱げた服は自動的に自身の空間魔法へ入れられるから間々あるが。だからわざわざ大きな布を空間魔法から取り出してきて、私が頭から被せてやり、その中で転変させた。今は白のブラウスに黒のプリーツスカート、黒のハイソックス、と私と同じような格好をしている。なぜわざわざ転変したのか。その理由は今のように私にぴったりと抱きつくためだ。転変後、一度も少しも離れていない。身長的にもちょうど抱きやすいような高さである。麗麟の方がちょっとだけ高い。彼女は丁寧な口調と恭しい態度からは想像もできないような甘えたのようだ。

しかし、可愛いから許す。だって、くりくりとした青い目と軽く癖のあるふわふわの真っ白な髪の女の子だよ?スタイルももちろん完璧だし、これを無下に出来る人間なんて、いや、生物なんてこの世にはいないよ。

そして、もちろん、私もその一人だ。

「ねぇ、麗麟。あなた、治療魔術は使えるかしら?」

ぎゅーっと抱きつく麗麟は私が話しかけたからか身体の位置を変えて、私の前、頭が少ししたになる位置で抱きつき直した。なぜ常に抱きついていなくてはならないのかさっぱりわからないが、私は今は少し低い位置にある頭を撫でながら問う。フレイがいつも私の頭を撫でている気持ちがわかった瞬間だ。

「はい!寧ろ、私にはそれしか出来ません。私が主上から頂いた魔力はそれですので」

麗麟はきらきらと輝くような笑顔でそう答える。何だ、何が彼女をそこまで喜ばせたのだ。

「そっか〜。麗麟は治療魔術が得意なのか〜」

はい!とまたしても嬉しそうに答える麗麟。やばい、超癒される。もはやふわっふわの髪を撫でる手を止められる気がしない。

というか、ん?頂いた?

「あ、主上は記憶を失われていましたね。では、軽く麒麟のご説明を」

と言って麗麟が説明をしてくれたところによると麒麟はもともとは何の力もないらしい。しかし、主となる神が自身の力の一部を分け与えることで契約した麒麟は、完璧に神の力を使いこなすことが出来るという。そもそも、力をもらう代わりの主従契約だ。与えないと言う選択肢は鼻からない。

そして、私が昔に麗麟に与えた力が私の持つ治療魔術の魔力全て。普通は半分与えただけで与え過ぎだと言われるのに私の場合は全て、である。まあ、理由としては当時全ての属性の魔力を持っていた私は攻撃専門の火、水、風、光、闇、また、それに準ずるものを好んでいて、治療魔術のオリジナルを作る暇がなかったのだ。それなら、誰かにこの膨大な治療魔術の力をあげればいいやと言うものだ。あと、多分、こちらがメインだったと思うのだが、麗麟を激しく気に入っていたそうな。つまり、激甘だったということですね。

ところで、私はそんなことをした覚えはないのだが、それを行ったのは紛れもなく私だそうだ。つまり、私には私の知らない私がいるようで、考えるのも面倒なのでもう一人の私がいるということで考えるのをやめた。記憶がどうのとオーディンをはじめ皆言うのでそのうちにきちんと理解出来るのではないだろうか。

「つまり、私にはどう頑張っても治療魔術は使えないと言うことね」

「はい。だけど、だからこそ、私たち聖獣は誓うのです。御身を離れずと。頂いた力を未来永劫主上のために使えるように」

ちなみに、麒麟は魔力を与えられるが他の聖獣は別のものを欲することもあるらしい。白虎などは身体能力だとか。フレイはきちんと富白に与えたのか?与えた上であの身体能力?

「だから、絶対に、もう二度と、離れません!主上!」

ぎゅーっと抱きつく力が強くなった。さっきまでは後ろからだったが、今回は正面からなので抱き返してあげる。本当、可愛いなぁ。自分の頭の横に来た真っ白な髪を撫でつつ、視線を動かした。ルイードを麗麟に治してもらおうと思ったのだが、いつの間にかポーションで回復していたようだ。

今からでも話しかけたい、が、ルイードは少女と楽し気に話していて話しかけ辛い。それに、ルイードは今の私を自身がアクアと名付けた少女だと気づくだろうか?あれから13歳も成長しました。別行動をしてからは二週間経ってないと思うけどね。

そこからさらに視線を動かすとオーディンとフレイがもめていた。何をやっているんだか。フリッグが相変わらずの毒舌で定期的にツッコミを入れているようで「バカじゃないの?もう二人ともここへおいて行くわよ?」と言う幼くも美しい声が聞こえる。あの2人をセットでおいて行かれても困る。どちらかはお持ち帰りでお願いします。

ところで、フリッグは八本足の馬の上に横座りしている。あれは何だろう。動物だという以外が謎の生き物だ。そして、その後ろでは二頭の真っ白な虎がじゃれあっていた。仲良さげ。あの虎は白虎だろう。じゃれ合う二頭の片方から富白の声が聞こえる。

さて、観察終了。どうしよう。ルイードに話しかけるかどうかと言う堂々巡りの思考へ帰って来ちゃった。

けど、悩んでいる意味がそろそろわからない。いいや、話しかけよう。

「ルイーー」

「フレイア!ちょっといいか?」

タイミングよくフレイから声がかかった。

「あ、うん」

私は振り返る。自然、ルイードに背を向ける形になった。何だか、このままルイードと会話出来ない気がする。本当にこれで、いいのだろうか?

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