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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
神器を持つ者
20/157

再会

今回から内容を長くすることにしました。

毎日更新を目指しているので毎日この長さとは行かないと思いますが…

言ったそばから申し訳ないのですが今週の更新はリアルの都合で金曜日までお休みします。


夜も深くなり、暗闇が辺りを包む時間帯。光山と呼ばれる高難易度ダンジョンから、街へと向かう2人の人影があった。

2人はその身長にこそ差があるものの、よく似ている。金髪碧眼に男女問わず魅了する顔立ち。そして背の低い方は女性の美を体現したかのような肉付きをし、背の高い方は男らしい逞しい筋肉を持ちつつも、決して暑苦しくない体格をしている。先に述べた通り、2人は街へ向かっているのだが、歩いているのは男だけ。2人は同じ歳に見えるが、男はまるで幼子にするようにその少女を片腕に抱いて下山しているのだ。そして、その少女の目は閉じられている。つまり、睡眠中。下山中に少女が眠いと呟いたことからこの状況が出来上がったのだ。眠気の原因は魔力の使い過ぎーーなどでは決してなく、純粋に下山疲れただけだ。それでも彼女は眠たいとぐずったわけではない。彼女の眠いという一言を聞き、少年がそうするように言ったのだ。曰く、睡眠不足は肌に悪いとか。彼女ははじめは断ったが、最後には苦笑しつつ、彼に抱かれ眠ることとなった。

しかし、少女は気づかなかったわけではない。猪を呼べば抱っこの必要はないということに。それでも指摘しなかったのは、少年の彼女への過保護を彼女自身が理解しているがゆえである。そして、それは彼女が彼へ多大な信頼と好意を持っているということでもあった。

「……んん…お兄ちゃん……バカじゃないの…もう……」

不意にそんな寝言を漏らす。少年は苦笑しつつそれを聞いた。昔よく、旧友のフリッグと共に言ってきたことを思い出す。果たして、今少女が見ている夢で自分は何をして怒られているのだろうか。心当たりがあり過ぎてわからない。いくら夢とは言え、今までに少年が怒られてきた内容と別のことで怒られているということはないだろう。少年にはその自信がある。なぜなら、少年はありとあらゆる理由で少女とフリッグからお小言を頂いてきているからだ。少年がやっていないことを探す方が難しい。

「記憶の戻りは上々かな…早く、思い出して欲しいよ、フレイア……」

自分の肩に頭を預けている少女の髪を撫でた。艶やかな金髪はスルスルと流れるように手を滑る。ずっと撫でていたい撫で心地。少女が眠ればもちろん、歌うような響きを持つ美しい声はさっきのような寝言でもない限り聞けない。しかし、あどけなさの残る美しい寝顔は見ることが出来るので、少年はこの時間が好きだった。だが、しかし。

「…ちっ!無粋なやつらだ……」

先ほどまでの幸せに満ちたような少年の顔は苛立ちを隠そうともしない怒り顔へと変わり、決して揺らして起こしてしまわないようにと彼女の身体に添えていた右腕に鞘に入ったままの剣を握る。少年にとって左腕に少女を抱いたままの戦闘など、平常時よりも少し動きにくいくらいの差しかないのだ。

そう、戦闘。

今この場には少年と少女を取り囲むようにして人間が身を隠しているのだ。少年はもちろん、囲まれるずっと前から気づいていたが、気にするほどのことでもなかったので無視していた。だが、幸せな気分のときにちらりと殺気を感じさせられることに腹が立ってしまったようだ。この時点でこの人間たちの天命は尽きたと言っていいだろう。

「もう気づいてんだ。出て来いよ」

自ら動くのは面倒くさい。どうせ、目を瞑って片足立ちで素手でいても勝てるような連中だ。もっと言うなら逆立ちの状態でも勝てる自信がある。もちろん、少女を抱いているのでしないが。そんなやつらに自ら向かう価値はない。少年はそう考えて歩みを緩めない。

暫しの間をおいて茂みから50人ほどの男たちが現れた。格好からして冒険者だろう。完全装備して、それぞれの武器を抜き放つ。もちろん、鞘から抜いている。少年のように鞘に入ったままということはない。

そして、冒険者たちが一歩を踏み出さんとした、その時だった。

「光玉」

ポポポンッと音を立てて光の玉が2人の周囲にいくつも生み出させる。それらは真っ直ぐに冒険者たちの元へと向かい、

ボゴゥ!!

と燃え盛った。それでまず半数が死ぬ。

「うわぁ!槍を盗むようなやつは化け物だったんだ!」

生き残った冒険者の1人がそう叫ぶ。どうやらこの冒険者たちはあの街の冒険者で、槍を盗んだ少女たちを追ってきていたようだ。もちろん、少女と少年にとってはそんな情報は道の上にある小石以上に価値がないのだが。

「ん、フレイお兄ちゃん。半分こ」

その証拠に、経った今攻撃魔法を繰り出した少女はすでに意識の半分以上を夢の世界へと旅立たせている。その情報を聞いたかどうかさえ、定かではない。さらに、一度も瞼を上げていないのに、正確に敵を半分だけ殺したのだ。寝ぼけていてもなお、しっかりした子である。そして、なぜ半分かと言うとーー

「ありがとう、フレイア。流石、俺の分までは取らないよな」

少女、フレイアが少年、フレイの戦闘好きをよくよくわかっているからだ。どんな雑魚敵でも、殺りたがる。だから、実践練習を求めるフレイアと獲物を半分こという形に落ち着くのだ。それは、この2人がお互いをよく知って、理解しようとして来たからこそできていることだった。

そして、フレイと冒険者たちとの戦闘は一分保たずに終結する。後半、中々来てくれない相手に業を煮やしてフレイ自ら動いたのだ。もちろん、眠るフレイアを抱いて、だ。

そして、一滴の返り血すら浴びずに勝利した2人は何も無かったかのように再び歩を進める。

「…ん。フレイ、降ろして」

また暫く歩いた道端で、フレイアが不意に言った。しかしフレイは特に驚いた様子もなくフレイアをそっと地面に降ろす。

「起こしちゃったか?ごめんな?」

フレイアの顔の高さに自身の顔の高さを合わせて目を見て話す。フレイアは目をこしこしとしてから。大きな碧の目を開いた。まだ眠気があるのか、その瞼は重そうだ。

「そんなことはないよ。フレイお兄ちゃんの腕の中はほとんど揺れなくて、寝心地がいいわ。ありがとう、お兄ちゃん」

と言ってすぐ目の前にあるフレイの頬へキスをする。どうやら夢の世界に正気を忘れて来たようだ。早急に取りに戻る必要がある。

シスコンなフレイの理性が持っている間に、一刻も早く。

「ふ、フレイア…」

「んん?なぁに?お兄ちゃん」

にこにこと微笑むフレイア。どうやら寝起きはハイテンションの時があるらしい。

「…本当、可愛いな」

そんな純真無垢な笑顔を見せられたフレイはよしよしと頭を撫でるだけで満足し、再び歩を進める。

頭の中で旧友の槍使い兼魔導師が喚き出しそうだったのも我慢した理由の一つであった。




フレイとの帰り道、一度あの街の冒険者たちとエンカウントしてしまったらしいがよく覚えていない。昨夜はずっとフレイに抱っこしてもらっていただけなので、フレイが対応してくれたんだろうが、対した問題ではなかったそうだ。まあ、私たちに問題を起こさせる者も、珍しくと思うが。そうして、私たちは普通は三日かかる道のりを一日で踏破した。それも当たり前と言える。この道のりに時間がかかるのはここのモンスターのレベルが30オーバーだからだ。エンカウントするたびに立ち止まり、戦闘をしなければいけない。その戦闘時間が長いのだ。しかし、私たちはいちいち足を止めない。近くに現れたらフレイが一太刀、遠くなら魔法で溺死か爆死か感電死で冥界へ強制送還。簡単だ。

「それにしても、この当たりのモンスター、本当弱いな。ホーリードラゴンだけか、マシだったのは」

「そうね、残りは目を瞑ってても殺せるね。まあ、試し打ちはよくできたよ」

フレイの眠たそうな声に答える。昨日眠ったのは私だけなのでやはり眠たいらしい。罪悪感が湧いて来た。今日は宿でお休みの日にひようかな。

などと考えている間にすでに街に入っているが、人とすれ違わない。広場の当たりが騒がしいから、そこに集まっているのだろう。興味はないが、宿は広場に面した通りに固まっているの広場へ向かう。

「……ん?」

不意に、フレイが怪訝な顔をした。

「? どうしたの?」

私よりも五感が鋭いフレイは周囲の変化に敏感に気づく。街に人がいないこと以外のなんらかの変化に気づいたのかもしれない。

「…血の臭いがする……人の血だ…」

人の血とモンスターの血で嗅ぎ分けられるなんてもはや鼻が効くなんてレベルじゃない気もするが、フレイの鼻を疑う気なんて一切ない。フレイはその性格上、嘘をつけないしね。だから、それを信じた上で、考えると不意に一つの言葉に思い至った。

処刑。

エレンが最後に叫んでいたことだ。私たちは絶対に処刑されない自信があるけれど、処刑対象者は私たちだけではなかったのかもしれない。エレンが管理していたのだから、少なくともエレンは対象者だろう。

…すでに殺されたの?

正直、エレンはどうでもいい。問題は、私を連れている姿を度々見られていたーーいや、ギルドで騒動を起こしたんだ、この街の人ほぼ全ての人が知っているだろう、私との関係があるルイードだ。まさか、処刑対象者になっていたりは、しないだろうか?

「…見にいくか………一応、人間への干渉許可もとっておくか」

フレイが独り言を言う。珍しい。それだけ、この血の臭いが気に食わなかったらしい。その私にそっくりな顔を不快そうに歪ませていた。私は、どのような顔をしているだろう。

「…一応、姿を戻そうか?」

今の私は18歳くらいの金髪碧眼。前にここに現れたときは確か、12歳くらいの蒼い髪と碧眼だった。たったの三日でこの変化は、誰も私だと気づけないだろう。今の姿でフレイと共に現れたら、髪の長さと服装以外で私とフレイを見分けることは困難に違いない。まあ、スタイルは違うんだけれど。

「いや、そのままでもいいだろう。多分。そっちの方が、魔法の行使も槍術もしやすいだろ?」

どうやらフレイは殺る気満々のようだ。思えば、フレイは昔からそうだった……って、私とフレイが知り合ったのは最近だ。何を考えているんだろう。

とにかく、フレイがその気なら止めはしない。あれから何度かモンスターで槍術の練習もしているし、普通に王を暗殺するくらいなら今の私でもできるだろう。この長い槍兼杖を使いこなせる、18歳の身体の私なら。

なぜか、私は18歳の方が魔法が使いやすい。槍術が簡単になるのは、身長が伸びるのだから当然と言えるが、魔法については不明だ。ただ、やり慣れているといった感じがする。長い間、この身体で魔法を使っていたような、そんな感じ。

「そうだね。そうしよっか。王はどっちが殺る?殺りたい?」

「譲ってくれるのか?ありがとう。じゃあ、側近は2:3でどうだ?」

「いいよ。じゃあ、私が部隊長もらうね」

「えー…部隊長は早い者勝ちだろうよ…」

そんな会話をしながら広場へ駆けて行く。最近はフレイとは獲物の取り合いだ。実力が似通って来たから。基本は半分こだけど。もちろん、まだまだ勝てる気はしないが。

広場に着くとそこには予想違わず人々が広場の中心を囲むように立っていて、私でもわかるくらい濃密な血の臭いがした。

「じゃあ、お互いきっちり仕留めましょ」

「ああ。もしもフレイアが逃しても俺が殺ってやるけどな」

舐めないでよ、と言って私たちは一緒に人混みに割って入った。その先で、ちょうど剣を振りかぶった男の姿が見える。赤い髪と赤い目を持つ、そこそこの顔を狂喜に歪ませて斬らんとするのはーー

「っ⁉ ルイード⁈ごめん、お兄ちゃん!あいつ、私が殺る!!」

「フレイア、いいけどーー」

間に合うのか、と言った感じのことをフレイは言ったのかもしれない。しかし、私にはそんなことに気を回す余裕はなかった。だって、ルイードの首が、今まさにはねられようとしているのだ。そんな余裕が持てるわけがない。

「物質操作!動け、鎖!」

私は未だ10mほど離れた位置にいるルイードの足元に散らばる鎖へ光属性魔力を投げつける。確か、他の魔導師がモノを触らずに操っていたのを見たことがある。ボルーに教えてもらったことによると、魔力を流されたモノはその魔力の持ち主の思い通りに動くらしい。なら、私にもできるはず。あの鎖を自在に動かす!動け!!

無事に魔力が流れた鎖はルイードを斬らんとする剣に巻きつき、その殺傷能力を減らす。そして、思いっきり上へと引っ張り、その勢いをも減らしにかかった。

ガシャン!

と音を立て、鎖が剣を止めた。焦っていて魔力量を調節しなかったから莫大な量が流れてしまったようだ。かなりの力を有していたらしい。しかも、光属性魔力。この一連の動きをする速さが半端じゃなかった。

剣はルイードに当たる一センチ前でその動きを完全に止めている。

あの剣の斬れ味はかなりのものだろうが、魔力を流すとその量に応じて強化が施されるとも聞いた。あの鎖は今、かなりの強度を持っているのではないだろうか。

「フレイアって魔力を投げたり出来たっけ?」

隣にいるフレイがいつもと変わらぬ様子で問う。彼にとってはこの状況よりも私の魔法の確認の方が先らしい。オマケに、おそらくあの男が王だから興味も失ったようだ。弱そうだもんね。

私は鎖に流し過ぎた魔力を回収しつつ、質問に答える。実は、私も取り敢えずルイードを助ければこの状況に興味はない。理由はフレイと大体一緒。王が弱かったから、戦う気はない。どうせ、一発なので。

「ううん。使えなかったと思う。咄嗟ってすごいね」

感覚的に魔力を身体から離すことが出来た。けれど、私はその方法を知っていたわけではない。先ほどの行動でで考えてしたことといえば、金属だから光属性魔力を流そうかなってくらいである。なんだか、流れやすそうじゃないですか。金属に光って。

「ふぅん。まあ、良かったな。成長じゃないか」

「うん。そうだね。これでまた敵が減ったようにも思うけど」

まあ、私はフレイみたいに戦闘好きじゃないから常に強いやつと殺りたいってわけじゃないけれど、やっぱり弱いやつはつまらない。

「お前か!俺の剣を止めたのは!!おい、あいつを捕らえろ!傷はつけるなよ!」

王が私を指差して側近に命令する。その顔にゾッとした。恐怖に似ているが、何だろう。あんな弱そうなやつにゾッとするなんて。

王の命を受けて緑の髪の女の子を取り押さえている者以外の側近たちが動く。その数、20ほど。そこそこ多い。やはり、弱いからだろうか。私はフレイにどのくらい殺りたいか問おうと思ったのだが、やめておいた。全部任せよう。なぜならーー

「おい、お前。誰に指差してんだよ。しかも、なんだ、その顔は」

ーーフレイはかなりお怒りのようだから。

私の側まで来たやつだけ相手をしよう。多分、1人も来ないだろうけど。フレイは私がわからなかったあの顔の裏にある気持ちに気がついているようだ。それがさらに怒りを呼んでいるらしい。果たして王は何を思ったのか。私に知る術はないし、知る必要もないだろう。

フレイは剣帯から剣を鞘ごと取り、構える。その黄金色に輝く剣の刀身を私はまだ一度も見ていない。鞘でもフレイなら十分過ぎるくらい戦えるからだ。今回の場合はかなり怒っているものの、返り血を浴びたくない様子。フレイは私が返り血を浴びるのを極度に嫌うが、自身が浴びるのも嫌うのだ。もちろん、私も嫌だけどね。しかし、斬られるのなら一瞬なのに、鞘でシバかれるなら何撃かは受けるだろうなぁ。頭を狙ってくれたら一発だろうけど。ただ、フレイは平常時は戦闘時間を短くすることにこだわるが、怒っているときはより苦しめて殺すことにこだわる節がある。前に槍術の訓練中、私にかすり傷を負わせたオーガが腹部と頭部の原型がなくなるまで生かしたまま斬られていたのを思い出しながら私は呑気にそんなことを思う。きっと、頭が狙われることはないだろう。

「フレイア、お前は引いていろ。絶対に邪魔すんなよ」

「しないよ。フレイお兄ちゃん、人間はモンスターよりもずっとヤワだから、“ミス”して殺しちゃわないようにね?」

そう声をかけると苦笑して、私の前に立つ。

では私は、無双なフレイの観戦をしましょうか。

一応訓練されているのか、側近達は隊列を組んでやってきた…って、あ、そうか!20人も多いなと思ったら、10人の戦士クラスと火、水、風、光、闇属性の魔導師が1人ずつ、そして治癒魔導師(サポーター)役が五人という構成になっているんだ。既に治癒魔導師達の強化(エンハンス)魔法の詠唱が始まっている。バラバラな属性魔導師達は協力して一つの魔法を作るようだ。これが合成魔法か。ただ、問題は10人の戦士クラスたち。彼らは直接フレイと切り結ぶことになるだろうけど、治癒魔導師たちがいるから随時、回復(ヒール

)があるだろう。死ぬに死ねない。まさに地獄だ。

フレイは楔形陣形を組んでやってきた戦士クラスの男の顔面に回し蹴りをくれてやり、その後ろの2人の腹に水平斬りを喰らわせる。しかし、鞘だから死ねない。お気の毒。ちなみに1人目は頭部が既にない。フレイの革のブーツには血がついているだろう。足が当たった途端、普通に粉砕していたもん。イメージとしては、ザクロを思いっきり地面に叩きつけた時みたい。大体そんな状態が出来上がります。ザクロの実がこの戦士の血と脳髄ね。

「邪魔。どけよ」

そのとき、フレイが腹を抑えて疼くまっている2人をまとめて蹴散らしていた。右足で右の者を左に思いっきり蹴り、左の者を巻き込ませてぶっ飛ばす。2人は人垣に突っ込んで行った。左側の者はまだ五体満足だろうが、右側の者は腹部で身体が上と下に分かれてしまったに違いない。不運にもフレイの動線で悶えていた2人が悪いから、同情なんてしないけれど。しかし、まだフレイの怒りは収まっていないはずなのに、既に残りの七人は震え上がって陣形を崩し、突撃をやめている。どうしたものか。やはり、追撃かなぁ。と考えていると、不意に弱々しい叫び声。

「こ、こいつがどうなってもいいのかぁ!?」

様子を見ていて怖くなったのだろう、王が側近の剣を奪い(王の剣は未だ鎖に巻きつかれているので)、ルイードの喉元に突きつけていた。ルイード、早く逃げてて欲しかったかも…って無理か。周りには人がたくさんいるものね。フレイくらいの跳躍力があれば別だけれど。

しかし、こんなことを考えていられたのはここまでだった。なぜなら、ルイードの首から一筋の血が流れるのを見てしまったから。そして、ルイードの中性的な顔は驚愕と恐怖、そして純粋な痛みによって歪められていた。

「…何、傷つけてるのよ」

グルグルとした感覚が私を襲う。今まで感じたことのないレベルの怒り。そして、頭の中に流れる謎の言葉たち。私は無意識のうちにそれをなぞるように唱えていた。

「**********ーー」

知らない言葉、知らない旋律。私はただ、それを奏でる。そして、最後の仕上げ。この時に気づいた。これは魔法の詠唱だ。そして私は、この魔法の恐ろしい効果もよく知っている。しかし、何の躊躇いもなく、愚かしい王を杖で指しながら詠唱の最後、魔法名を唱える。

「ーー操り人形(マリオネット)

杖が光り、先端に魔力が集まって、発動ーー

光障壁(ルクスウォール)!」

ーーする直前に私の前に防御魔法が開かれた。低級の防御魔法だが、強力ながら所詮は精神攻撃の私の魔法は打ち消される。

私の魔法を止めたのは、一頭の美しい生き物、馬と鹿の間のような姿の真っ白な獣だった。

『それ』はゆっくりと空から降りてくる。そして、私の目の前に来て、私と全く同じ碧の瞳で私を見つめる。

私は、さっきの詠唱のように自然にこのモノを知っているようだ。ため息を一つ吐いて、腕を組みながら努めて偉そうに言う。

「邪魔しないでくれるかしらーー麗麟」

その、私の大切な親友に向かって。

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