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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
神器を持つ者
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光属性

俺は無事に助けられた巨人たちと和やかに話す妹を懐かしむように見ていた。

妹は昔、アスガルドに住んでいた頃からどんな者にも平等だった。聖獣にも、神獣にも、普通の動物にもだ。ただ、神が巨人と親しくするのはあまり褒められたことではない。あの頃のフレイアとて、巨人とは距離をおいていたはずだ。しかし、今のフレイアにそれを言うわけにもいかないだろう。彼女には、神としての自覚も、記憶もないのだから。

どうやら光属性を得るのは明日になりそうだ。フレイアは今、巨人たちと今日このあとの話をしている。今日はここでモンスター狩りをしよう、とかの話であるが、俺からしたら返り血などが気になるので夜間の活動は控えて欲しいところだ。もちろん、楽しそうにモンスター狩りの予定を話している妹にやめろとは言えないのだが。

そんなことを考えつつも俺の腕は動く。やっているのはホーリードラゴンの解体だ。素材別にして空間魔法へ入れる。ドラゴンの素材を手土産にしたならばフリッグも聖獣のことをバラしてしまった失態を許してくれるかもしれない。

もちろん、宝石はフレイアが食べるためのものだ。

「…ヤスリで削って粉にするか、分解魔法をかけるか…」

拳大の大きさの宝石は強力な光属性を持つが飲み込み辛い。もちろん、そのためのものではないので文句は言えないが。

しばらくして全てを解体し終わった俺は巨人たちのパーティーに混ざり狩に行くフレイアに付き合った。と言っても、ドラゴンのときとは違い、モンスターは全てフレイアの魔法で一撃で倒れる。俺にも巨人にも出番などあろうはずもない。

どこか楽しげに見えるフレイアだが、その顔は無表情。感情が出にくいのだろうが、前世はこうじゃなかった。よく笑い、泣く子だった。やはり、こちらでの生い立ちが悪かったのか。

不意に、俺は昔のことを思い出した。

にこにこといつも笑っていて、笑ってないときを探す方が難しかった妹のこと。


「ーーお兄ちゃん、どこ行くの?」

今の彼女よりも六歳ほど成長した妹の姿が脳裏に浮かぶ。彼女はいつも、どこへでも俺にくっついて来ていた。美しい金の髪の輝きを惜しげも無く振りまいて、真っ青な瞳をキラキラと輝かせて、楽しそうについて来ていたのだ。

「ちょっと(ゲート)の外でモンスター狩り。お前は来なくていいよ」

適当にあしらう俺。アスガルドでも有名な仲良し兄妹だと冷やかされるのが少し嫌だった頃の話だ。

「嘘、ついてるでしょ?」

フレイアはにやりと微笑む。オーディンと同じくらいに魔法の才に恵まれた妹は、テレパシー能力さえ持っている。妖精たちのように常時発動型ではないが、使おうと思えば使えるのだ。

そうとわかっておきながら、ささやかな抵抗。

「ついてねえよ。とにかく、行きたきゃお前はお前の友達と行けばいいだろ。何だって妹とーー」

「お兄ちゃん、無断での外出は禁止。さらに人間への過剰な干渉も禁止だよ?」

そういって、今度はにこりと女神の微笑み。

「一緒に行きたいな、人間界」

こうして俺はいつも、妹を連れてまわることになる。他の神から何度シスコンと言われたかわからない。この頃から俺はかなり妹にうんざりとしていたと思う。

それでも、大切な妹だったのだ。オーディンとの結婚が強制的に決まっていたとは言え、いつまででもパーティーメンバーとして一緒にいれると、そう思っていた。

あの日までは。


「たった一柱の女神の命で救えるなら、安いものでしょう?」


俺が最後に聞いた妹の言葉は震えてて、無理矢理に明るくしているとばればれな、寂しく、悲しい、決意の声で紡がれた。

俺が最後に見た妹の顔は初めて見る、無理をした笑顔だった。


「ーーフレイお兄ちゃん?」

不意に腕を握られ、ビクンと反応してしまう。慌てて取り繕った。

「何だ?フレイア。疲れたのか?怪我したのか?返り血を浴びたのか?」

俺の続けざまの質問に困ったような苦笑をその綺麗な顔に僅かに滲ませ、フレイアは首を振る。

「フレイがぼおっとしてたから。疲れちゃった?ずっと頼りきりだったもんね、私。ごめんね?」

俺の顔を覗き込むように首を傾げる。仄かに口角をあげていて、幼き日の妹にそっくりだった。事実、この子は俺の妹なのだが、そう思ってしまうのは長い間離れていたからかこの子に記憶がないからか。

俺はフレイアに笑いかけてくしゃくしゃと柔らかな髪をかき混ぜた。

「疲れてなんかないよ。もっと頼って欲しいくらいだ」

言って抱き上げるとフレイアが少し抗議の声をあげた。しかし、無視して俺はフレイアをぎゅっと抱きしめる。

もう一人の俺の妹、今は亡き、昔のこの子。彼女との思い出で切なく思っていた気持ちを紛らわすようにこの小さな身体を抱きしめる。

この温かな身体は、未だ生きているのだ。その事実に必死に縋った。


夜通し行われたモンスター狩りも夜明けと共に終え、近くの村の小さな宿に泊まることにした。巨人たちがホーリードラゴンと戦っていたのはやはりMPKだったらしく、まだクエストの途中なのだとか。「ホンマに助かったわ、アクアちゃんにイケメンなお兄ちゃん!」と言ってガハガハと笑いながら去って行った。

「…ん……んん〜……」

「眠いなら早く着替えて寝ような。返り血をつけたままベッドに入らないんだぞ」

フレイアは目をこしこしとしながら無事に俺が空間魔法から出した着替えをきる。そうとうに眠そうだ。そこはまだ子どもと言うことか。

一緒にベッドに入って眠りにつく。フレイアは人の体温を感じるのが好きらしく、離れて眠っていても朝起きたときにはいつもぴったりとくっついて眠っている。可愛いからもちろん構わないが、他の誰かにーー特に、ルイードとか言う貧弱男にーーこんなことをして欲しくない。きちんと注意すべきだろうか…。

そして朝、とうとう光属性を得るときが来た。

「……大きいね…」

俺が取り出した宝石を見てフレイアが困ったような顔をする。もちろん、無表情だけれど。

「分解魔法を使えばいいよ。出来るか?」

否定の仕草。

「なら、俺がやるよ。……ちょっと、離れて防御結界貼っててくれないか?」

「防御結界?いいけれど……」

フレイアは小首を傾げつつも部屋の隅へ移動して水属性の結界を貼った。もしかして、表面が凍ってるのか?フレイアはいつの間にか氷属性への追加取得に成功していたようだ。

「*****物体、分化」

サクッと詠唱して宝石を幾つかの小さなものに分化させる。しかし、俺の魔法は制御が効かない。ゆえに、こんな魔法でも暴走させられる。

要は、分化させた宝石が飛び散る。

「っ!痛ってぇ!」

一個は俺の顔面へ向けて飛んで来た。もちろん、手で掴んだから顔には当たっていないのだが、掴んだ手のひらから煙が立った。我ながら、どんな勢いだったんだよ。

「……フレイお兄ちゃん、魔力操作が適当何だよ?最後の最後でこんなもんだろうってやってない?」

「…………」

なぜだかフレイアには俺の魔力の流れが把握出来ているらしい。なぜだろう。前世のフレイアでもそれを習得するのにはかなりの時間がかかったのに。

「とにかく、散らばった宝石を集めないと」

それからは地味な作業が続く。

フレイアは直径一センチくらいになったそれらを次々に飲み込んでいた。それでもやはり大きいのか、最後には少し涙目だったが。

「無事に、光属性を得たみたいだな」

毛先から徐々に金色になってきて、最後の一個を飲み込んだときには完璧な金髪になっていた。

水属性よりも光属性の方が強かったから髪は光属性になったのだが、水属性も弱いわけではないので目にその色を残している。

金髪碧眼、これで前世のフレイアと同じだ。

そして、年齢も、同じにする。18歳頃の身体に成長して行く。

「…ん、出来たかな」

昨日着せていたダボダボのTシャツがぴったりサイズになっている。顔立ちも大人っぽくなり、声も幼さがなくなった。

…もうこれは、完璧に前世と同じフレイアだ。まるで、死んだ妹が帰ってきたようだな。

一ミリの誤差もなく、記憶にある通りの愛する妹の姿。俺とオーディンはずっとこの少女を求めて世界中を探していたのだ。正しく、女神の生まれ変わりとなった少女を。

「……変、かな?……黙って見つめられると恥ずかしいんだけど」

フレイアは少しだけ頬を朱に染め、苦笑した。出会った頃よりも表情が豊かになっていると思う。やはり、あの環境が悪かったか。

「変じゃない。すごく可愛いぞ、フレイア」

よしよしと頭を撫でる。目を細めて撫でられているフレイアはやはりかなり可愛いが、この状態のこの子を褒めちぎったら顔や髪色が全く同じな自分を褒めていることになりそうでちょっと躊躇われる。双子とはややこしいものだ。

空間魔法から服を取り出した。真っ白なブラウスと黒のプリーツスカートだ。前世のフレイアが人間界へ降りるときに好んで来ていた服で、あの頃から身体の成長加減を調節出来ていたフレイアが自分で魔方陣を仕込んだ魔法の服。着用者に合わせて服のサイズが変わるのだ。

「へぇ、陣を書くことで服に能力付与が出来るのね」

フレイアは感心したように何度も頷いてから着替えた。今は18歳の身体に合わせられる。しかし、平均よりも少し小さいフレイアの身長は152センチだ。178ある俺からすれば、かなり小さい。俺も、剣士の中では体格に恵まれなかった部類だが。

「今日は適当にこの村で過ごして明日の朝から街へ帰るか?」

オーバーニーソックスを履いていたフレイアに声をかける。忘れてた、フレイアはいつも黒いりぼんもつけていたな。

「うーん…それだと師々をつかうんだよね?それなら、時間はあるんだし、今からモンスター狩りをしながら歩いて戻ろう。街には明日の朝には帰れるでしょ。……髪色と年齢、このままでいっか。勝手に変わってたんだけれど」

「ああ、是非、このままで行こう」

俺たちはのんびりと街へ向かって歩き出した。

フレイアの話がわかり辛いかと思います。

次の話でより詳しく書こうと思っていますが、どこがどうわかり辛かったのか、どこまではわかるのかなど、よろしければ感想でお教え頂ければと思います。

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