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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
神器を持つ者
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ホーリードラゴン討伐

予想違わずフレイは白虎と麒麟以外にも神獣と呼ばれる獣を持っていた。

「師々、本当に走るの速かったね。まさか、一晩で着くなんて思わなかったわ」

金色の美しい鬣を持った猪の頭を撫で撫でしながら言う。今、フレイは私の隣で幼い寝顔で熟睡中である。昨夜は私を寝かせてくれて、一人で光山へ向かっていてくれたから。もちろん、騎乗していたけれど。

師々とはこの子の名前だ。イノシシだから師々。そのままだ。

「ホーリードラゴンはもう近いかなぁ。サクッと見つけてサクッと殺して帰りたいなぁ。もう既に殺されてるとかは、やめて欲しいよね〜」

モフモフと猪の鬣を撫でながら独り言を言う。驚くような撫でごこちだ。昨日はこの毛の上で眠ったのだ。とても寝心地が良かった。

それからもモフモフと撫で続ける。師々は麒麟とは違って喋らないらしい。

そして、太陽が真上に昇り、ポカポカと暖かい光が私を包む。退屈だったのが私の眠気に拍車をかけて、私は舟を漕ぎ出していた。そんなとき、高く澄んだ美しくも殺気に満ちた咆哮が轟いた。

「⁈……何?…ホーリードラゴン?」

「ああ、そうみたいだな。冒険者が喧嘩を売ったんだろう。負けてくれるまで待つか…様子だけ見に行くか?」

咆哮で起きたらしくフレイが私の独り言に返事をする。私はすぐさま頷いて師々に騎乗した。

さて、今更だが、ホーリードラゴンとはレベル68指定の高レベルモンスターだ。その大きさはもちろん他のドラゴンたちと同じく人間の二、三倍ほどある。属性は光、雷。真っ白な身体と長い首を持つ、ホワイトタイガーとキリンの間のようなモンスターらしい。このくらいがギルドから得られた情報だ。

そんなホーリードラゴンがいたのはすぐ近くの開けた場所だった。森なのに背の低い草しか生えていない。それが半径30mほどの円状に続いている。その真ん中に真っ白なドラゴンがいた。情報通りのその姿、その胸に埋まっているのが目当ての宝石か。拳大ほどの大きさ。美しい黄色の光が妖しく光る。その姿は見る者に恐ろしさよりも先に美しさを感じさせる。

勇敢にも喧嘩を売った冒険者を見て私は来て良かったと思った。

その冒険者たちは明らかに苦しんでいる。パーティーとして連携は辛うじて取れているが一人一人が全然冷静になれていない。あの様子だと思いがけず遭遇したか、あるいは、

「MPKか。ホーリードラゴンを使うとは本気の殺意だな」

フレイがボソリと呟く。その台詞とは裏腹に微塵も心配している様子はない。私だって、この冒険者が見も知らぬ人たちだったらそうだろうから責められないが。

「ボルー、恨み買ってそうだものね」

その苦しんでいるパーティーとはボルー率いる巨人パーティーだ。全員気のいい巨人たちで私も仲良くしてもらっていた。彼らが死んでしまう前に来れて嬉しいが、しかし。

「知り合いなのか?けど、助けに入るわけにも行かないだろう。冒険者のルールだからな」

そう、私たちみたいな何にも縛られない冒険者にもルールはある。それは他者の戦闘中には手を出さないというものだ。

例えば、目の前に今にも死にそうなモンスターとそこまで持っていったと思われる冒険者がいたとする。モンスターから得られる素材は基本的にとどめを刺した人物のものとなるので、モンスターをどんな形であれ仕留めれば自分のものに出来る。ここで、そこまで持って行っていた冒険者が出てくる。

安全なパターンで言えば既に殺されていてその人が死んでいた場合。そのときは一切の面倒事は発生しない。また、その人物の装備品も手に入る。

もう一つ安全なパターンは助けを求めて来たとき、もしくはその余裕もないほどやばいとき。その場で発生したクエスト扱いとなるので報酬ももらえるしモンスターの素材も自分のものとなる。

ここからが問題となるパターンだ。

その冒険者たちは今にもモンスターを倒しそうで誰の助けも必要としていないとき。

このときにモンスターの横取りをすれば当然その素材のことでもめることとなる。場合によっては殺し合いに発展しかねない。さらに合同パーティーでも素材の持ち逃げなどが起きる可能性がある。

それらの理由から戦闘中への干渉はタブーなのだ。

「だけど、ボルーたち、死にそうだよ…話、つけてくる」

私は今は前線から離れ、指揮と治療を行っているボルーに近づいて行った。ボルーとはこの身体で会うのは始めてだと思うが私だと気づいたらしい。今は驚きの声をあげないで厳しい顔で注意を叫ぶ。

「アクアちゃん、お前帰れ‼いくら強い言うてもこれはあかん!ワシらが食い止めてる間に、早よう‼」

「お断りするわ、ボルーさん。それよりも、あなたたちが引いてくれる?私たちにホーリードラゴンを譲って欲しい」

ボルーは目を見開いて私を見る。私は多分、いつもの無表情でそれを見返す。気持ちはわかる。私とホーリードラゴンとのレベル差は61。本来なら挑戦しようとさえ思わないだろう。しかし、フレイもいるし、私だけでも負ける気はない。そんな自信に気づいたのかボルーは一度頷くと早口で言った。

「ワシらが全員治療が完了するまでの三分間、お願いするわ」

「三分間…了解」

それを聞くなりボルーは仲間にそれを伝え、撤退のタイミングを図る。私はフレイに説明をして、ボルーに合図を送った。

「三分間か、そんなにかかるかな?」

「一分で終わるだろ。俺が前衛、フレイアは後衛だ」

「…槍もやってみる、時間があれば」

言って、フレイ苦笑を交わす。そのとき、

「お前ら引け!頼んだで、アクアちゃん‼」

そんな声が聞こえて、ホーリードラゴンの前に誰もいなくなる。フレイはまだ走り出さない。私の魔法を邪魔しないようにだ。

「さて、と。泡玉合成火玉(スチームボール)、特大版‼」

フリッグに貰った杖に魔力を流す。杖の魔法陣によって強化された魔力で泡玉合成火玉(スチームボール)を作った。自分で作るよりも数段大きなものが出来た。その大きさ、半径5mくらいの球。

これだけあったら、その長い首すべてを蒸すことが出来るだろう。

「発射!」

打つと同時に着くイメージがある。そのくらい、私とホーリードラゴンは近いし、泡玉は飛ぶのが速い。フレイは発射の声と同時に駆け出して泡玉よりも早く着いているが。

フレイは鞘から剣を抜かない。抜いたら一瞬で殺してしまうから。ルビリアルフラワーは私にやらせてくれない代わりにこれは私の担当なのだ。もちろん、私だってホーリードラゴンが泡玉合成火玉で死ぬとは思っていない。目的は時間稼ぎだ。

私はボルーのときに使った魔法で思い通りに動いてくれる、完全に魔力だけで作った槍を二本用意した。

「大丈夫、使える、使えるよね…」

さっきは杖として使ったこれ、だけど、今回は槍として使う。魔力を流し、切れ味をよくして。

残り時間は、あと二分か。

急ぐことはない。フレイがあしらってくれているから、近づいても大丈夫だ。

そう言い聞かせて、走り出した。

丁度、泡玉合成火玉の効果が切れ、蒸されて防御力の多少落ちたその頭部、額へ二本の槍を向わせる。それぞれ一度の斬撃だけをやらせて、水に戻す。

そしてその水でフレイのすぐ後ろにトランポリンのような水の塊を作って、飛び乗り、跳ぶ。

私にはフレイのような運動神経はないのでこうして魔法を使わないとホーリードラゴンの頭部の上に回り込めない。

そして、先程つけた切り傷、十字形に交差するその傷の真ん中に魔力を流した槍を突き刺した。私はそのまま頭部に着地する。

ズドンッ!

杖か槍か判断に迷う私の神器の半分くらいが突き刺さったことで、無事にホーリードラゴンの息の根を止められたようだ。その美しい巨体がゆっくりとその場に倒れこむ。柄を持っていたので振り落とされずに済んだが、着地にはフレイに受け止めて貰った。

「おしまい、かな?」

ホーリードラゴンの死体を確認する限り、目立った傷は額だけ。フレイは傷一つ付けずにあしらっていたらしい。今回はフレイがいなかったら厳しかったな。無事に一分で終えたけど。

「お疲れ、槍の使い方とは言えないが、中々よかったぞ」

フレイに頭を撫でて貰う。せっかく頑張ったのでしばらく褒めていて貰った。

「あ、アクアちゃんならもしかしたらと思ったが…まさかホンマに仕留めるなんてなぁ」

しかも、ちょっと見ん間にえらいおっきなってるし、とボルーは苦笑する。どうも、私の成長をまともに驚くのはルイードだけのようだ。

「ボルーさん。もうみんなの治療は終わったんですか?」

見れば大体は終わっている。まぁ、全員ベテランだから手慣れているんだろう。

「みんなが無事で、本当によかったわ…」

ふとそう呟くとフレイを含めた全員がぽかんとした顔をした。失礼な、私は人のことなんて気にしないって言いたいの?しかし、ボルーが言ったのは斜め上の解答だった。

「なんや、アクアちゃん、そんな顔も出来んのかいな。その顔見せたらどんな男でも落とせるで」

とけらけらと言って笑う。そんな顔って、と思ってみると、どうやら私は満面のとついてもいいくらいに笑っていたようだ。

「や、その……べ、べつに、こんな顔だってするわよ、私だって」

「照れ隠ししないで、普通にしてたらどうなんだ、フレイア?」

ポンポンとフレイに頭を叩かれる。続いてボルーやそのパーティーメンバー、フレイが和やかに笑い声をあげる。

「むぅ!そんなんじゃないわ!」

しばらくの間その笑い声が収まることはなかった。

不愉快だけど、みんなが元気な証拠だ。

初めての人助け、成功してよかったと心から安心した。

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