出陣!!
早朝。まだ日も昇りきらないうちから多くのものたちが城の中庭に集合していた。
皆が皆、それぞれの集まり思い思いの話をする。これから大戦が始まろうというのに、気負っている者は一人としていなかった。
「はーい、みんな集まったか?出席取るぞー?」
「「「なんで教師的になってんの?」」」
1部の男性陣から疑問の声が上がったがフレイは特に気にせず名前を呼び始めた。神、聖獣わけることなく、全ての名を呼ぶつもりのようだ。
「フレイア、アクア!いるかー?」
「はーい」
「…はい」
アクアはまだ眠いのか変幻させた九尾のふかふかの尾に包まりながら手を上げた。それも可愛いからよし!とフレイは続きを呼び始める。
「九尾、藍雪!」
「はい」
「はーい!」
九尾はアクアを起こさないように小声で答えていた。
「オーディン!スレイプニル!」
「ぬ、悪い。スレイプニルは帰した。俺の代わりが必要だからな」
「すみません、フレイさん。僕が提案しました」
「いや、構わねーよ。うちの富白と反りが合わなかったしな、あいつ」
相変わらずよく見ていることだ、と感心しながらフレイはバルドルの欄に出席をオーディンの欄に欠席を書いた。
「ちょっと待て!俺はいるぞ!?」
「おーい、みんなー!足が一つ減ったぞー」
「フレイ!?まさかとは思うが、足が減ったから俺を削ったのか!?おい、置いて行くのか!?」
喚くオーディンをフリッグに任せて出席の続きを取る。
「フリッグ、莉八ー!」
「あ、はい!二人ともいます!…御主人様、そのくらいでおやめください!」
「うっさいのよオーディン!あなたのせいでアクアちゃんが起きちゃったらどうするつもりなの!?」
「くそう!なんか朝から理不尽ことしか聞いてない!」
「はい次ー。えっと…トール、聖獣は?」
「ん?俺は羊が足だからな。聖獣は無しだ」
「いやいや、これから大戦行くから。羊は殺されちゃうからなしな。神たるもの、無駄な殺生はいけない」
「む、そうか?じゃあ、誰が俺を乗せてくれる?」
「………………」
フレイはトールの隆々とした逞しく大きい身体を見た。自身もかなり鍛えているつもりだが、如何せんフレイアと同じ線の細さがある。どうしてもここまでのガタイにはならないのだ。
連れて行けば即戦力。しかし、ここまで大きいと連れて行くのにも骨が折れる。まるで大砲のようなやつだった。
「主人、俺乗せてもいーぜ」
「お、そうか?悪いな」
富白がけろっと声をかけてくれる。他の聖獣たちに目を向けるとさっと逸らされる中、自分から言ってくるとは、自分の聖獣ながらいいやつだとフレイは鼻が高かった。
「じゃあ次ー。イズン!偉澤、ユニズー!いるかー?」
「はーい!います、います!」
「はい、三人とも揃っております(クソガキは爆睡だかな。あそこのアクアさんとは違い、中庭のベンチで、アクアさんとは比べるのも失礼な寝顔を晒しながら)」
「はい、説明ありがとな、偉澤。けど、さっき写真撮ってたの暴露てるぞー」
真っ赤な顔になって焦る偉澤を放置し、あとはーと名簿をめくる。ここまで大所帯になると大変だ。
「ヘイムダルと愉快な仲間達!いるか!?」
「わしはいるな。しかし、わしが持つ聖獣百ーー」
「愉快な仲間達がそれなりの数いて、お前がいんならそれでいいよ、説明すんな、めんどくさい。お前が把握してんならいいじゃねーか」
てか、そいつらもお前を運ぶ分、要は一人だけで十分だぞ。残りは死んじゃうからと伝えてフレイはヘイムダルと愉快な仲間達の前から立ち去った。このあと、誰がヘイムダルについて行くのかで大揉めになったという。
しかし、神々だって自分のところの聖獣を守るので手一杯になるだろうことは想像が着いていた。そして、過去に手合わせをしたことがあるフレイが最もよく理解しているのも当然のこと。ただでさえ多いのだから戦力にならない分は出来るだけ削った方がいいに決まっている。
「じゃあ、こんだけか?次は誰がどこにーー」
「フレイさん!私も行きたいにゃ!」
そこへノアがやって来た。後ろには赤い目をしたアイルの姿も見える。昨夜、着いて行くことを話して泣かれたのだろう。それでも付いてくると決めたノアにアクアは心から感謝して…また眠った。
「危険だが、国はいいのか?」
「王の印はアイルに預けたにゃ。もし私が帰って子にゃかったら、この子が次王を選んでくれる…何も、思い残すことにゃんてにゃいにゃ!」
「…わかった。けど、俺らにだって余裕があるわけじゃない。乗せてやれないが、ちゃんと足はあるのか?」
「ノトが行けるって言ってるにゃ。大丈夫、迷惑はかけにゃい」
「………そうか。よろしく頼んだぞ、猫姫」
ここですんなり同行を許されるのさえ、1人の獣人としてはかなりすごいことなのだ。まだ幼かったノアと1度やり合っただけで、フレイは今のノアが十分に戦力に値すると読んでいた。バカっぽい発言の多い神だが、腐っても武神なのだった。
「…私も行く」
「…大精霊か」
今度こそ出席確認を終えようとしたとき、またしても飛び入り参加の声が入ってきた。全体的に透明感のある綺麗な女性、大精霊のウンディーネだ。
「確か、アクアが契約者だったな?」
「ああ、そうだ。私は…白愛と麗麟との約束を破らない」
「…………トール!ちょっと来てくれ!」
真剣で真っ直ぐな目を見てフレイはトールを呼びつけた。トールはオーディンを慰めてやっている最中だったようだ。
「フレイ!俺からトールすらも取るのか!」
「うっさい!小動物じゃあるまいし、寂しさとかで死ぬんじゃねーぞ!」
「心労で死にそうだわ!」
そんな下らない掛け合いをしている間にトールがフレイの元にやってくる。
「なんだ?」
「実は、この大精霊が着いてきたいと言っている。お前、確かその一柱をやってたよな?」
「ああ、趣味でな」
「…お、おう。なんでそんなおテカる感覚で精霊の真似事をしたのかは知らねぇが…とにかく、この精霊が着いてきても問題ないか、判断してくれ」
「む。…ウンディーネか…サラマンダーなら、迷うことなしだったんだがな」
「あいつ、今どこにいるんだろうな」
なんだかんだで精霊と交流があるフレイ。ウンディーネとはないが、ノームとサラマンダーとなら、手合わせをしたことがあるのだ。
この男の友好関係はみんな、剣によって作られているのである。
「まあ、契約者はアクアだろう?なら、守ってやれるんじゃないのか?問題ないだろう」
「戦力になれねーなら、その時点で問題大有りだ」
本当にわかってねーやつ、と呆れてフレイはガリガリと頭を掻いた。ロキの軍勢はそれ程までに甘くないのだ。
「戦力にはなるだろう。こいつがいるだけで水属性魔法の威力は上がるだろうし、何より、どこでも使えるようになる、例え乾燥し切った場所でもな」
水属性魔法は周りの水蒸気を使う。故に、この世界に稀にある水、水蒸気の類がまったく無い地帯では使えないのだ。それを可能にするのが、ウンディーネの役目でもある。
「ふぅん…じゃあ、アクアが許可したらいいぜ。けど、1度魔法石に入るとかしてくれよ。乗せる足はない」
「ああ、恩に着る」
「構わねーよ。頑張ってくれ」
そうして、ようやく点呼を終えたフレイは神々と聖獣たちを自身の周りに集めて、ぐるりと見渡した。
「むー。乗らないといけないのが、12、乗せれるのが、7か。九尾さんはどんくらい乗せれんの?」
ノアのノトやフリッグの莉八など自身の主しか乗せられないものもいるが、富白や麗麒のように小柄な者なら数人乗せられそうな者もいた。もっとも、富白はトールを乗せるから定員オーバーなのだが。
「アクアは誰に乗せてもらうんだ?」
「私は藍雪と一緒に九尾に乗るよ。ウンディーネは契約があるから無理に乗らなくていいしね。けど、お母さんは…」
「ああ、フレイアは俺と一緒に麗麒に乗ろう。それでいいな?」
「ええ、いいわ。お兄ちゃん」
自分の大事な妹たちの移動手段が決まったところで、フレイは今フリーの聖獣と移動手段がないものを脳内でリストアップした。
問題ないものたち
ヘイムダル→愉快な仲間たち
ノア→ノト
フリッグ→莉八
アクア、藍雪→九尾
フレイア、俺→麗麒
トール→富白
イズン→ユニズ
ダメなものたち
オーディン
バルドル
偉澤
フリーの聖獣
なし
「…あれ?もしかして、三人いけない?」
考えているうちに誰かを抜いていたのかもしれない、一人一人数えて…12人。聖獣の数、7…足がない者たちが判明した瞬間だった。
「バルドルとオーディンと偉澤の足がねーよ!」
「偉澤はいらないんじゃないの?どうせいろいろ知ってる以外利用法はないんだし」
「イズンさま、そのお言葉は流石に心が痛みます(てめぇの魔法も特に利用法はねぇだろうが)」
「どうしてだろう!?最近妙にイライラするわ!!」
「更年期ですかね?」
「そこは隠しなさいよ!」
「だー!喧嘩すんなよ、今考えを纏めてるんだから!!」
うー、と唸った兄を見兼ねてフレイアとアクアは意見を口にした。
「お兄ちゃん、バルドルと偉澤くんは2人で一人分くらいで行けるんじゃないの?」
「ヘイムダルさんは一緒に戦うの?運命の神様って昨日説明があったけれど、そんなに積極的に関わってもいいんですか?」
アクアの言葉の後半はヘイムダルに向けられたものだ。ヘイムダルはおもむろに頷き、ノアの元へ行く。
「わしの予定は運命通りに進んでいるかの確認と白愛、富白たちに会いに来ただけだったんだ。なんだか大戦に連れて行かれそうな雰囲気で言い出しにくかったのだがな。まあ、行くなら行くで戦うが。しかし、いい収穫があった」
ヘイムダルはノアの頭に手を置く。ノアは大きな耳をピコピコさせながら不思議そうにヘイムダルを見上げた。
「お前が神子だな。同じく運命を司るものとして、仲良くしようぞ」
「? はい、そうですね?…あ、もしかして、予知夢のことですか?」
目上の者とあってノアも言葉遣いに気を使う。それでも微妙に危うい箇所がいつくかあるが。
「そうだ。わしも、運命を知るのは大体夢だ。運命とは、神でも変えてはならない事なんだよ」
「??? じゃあ、何をする神様にゃ…なんですか?」
「ははは。普段通り話し方でいいぞ。お前は猫人なのだから。わしの仕事は変わらぬ運命を最低限の被害で進めるよう、調節することだ」
「…んー、にゃるほど?つまり、運命は被害が出る前提にゃわけですにゃ?」
「そうだ。そして、わしはこれより先の運命を授かっていない。だから、わしは大戦について行って戦っても構わんのだ」
「これより先の運命?…あ、私、もらってるにゃ。多分」
「そうなのか?」
「一月ほど前に貰った夢でまだ達成できていにゃいものがあるにゃ。その時…周りにいるのが、たくさんの獣と人にゃ」
「うむ…それは、今回ことかもな。がんばって行け。わしは参加をやめよう」
何かポンポンと話が進んでしまっているが、なんか上手くまとめてくれそうだからよし!とフレイが思っている傍らでこの会話の流れを大体読んでいた親子は思った。
ーー…ノア、動じないなー
二人とも意思伝達魔法の応用で相手の性格はかなり正確に理解している。その上演算能力にも優れているので大体3人までの会話なら読めるのだ。その方法で出したアクアとフレイアの、ヘイムダルとノアの会話予想はもっとノアがうろたえたものだった。こんなに落ち着いて話しているパターンは一つもない。
斬新な子だなぁ、と達観した思いの二人なのだった。
結局、ヘイムダルはノアに運命の神の加護を授けただけで来ることを取りやめた。そうすることでヘイムダルが乗る予定だった、まあ、生き残りはできるだろう程度の強さを兼ね備えた聖獣が余ったので、
「お母さんは小さくなってノトに乗せてもらって、麗麒にフレイとバルドルが乗ればいいじゃない。偉澤とオーディンくらい、その聖獣なら乗せられるよ」
というアクアのセリフの通りに動くことにしたのだ。
こうして、神々は人間界を出発したのだった。




