グリーンアイズ戦3
黄昏時、私は彼を見つけた。
今日伝えよう。そう思っていたから、嬉しい。
彼に会えるなら、いつだって嬉しいけれど、今日は格別嬉しい。
ねえ、ねえ!伝えたいことがあるの!
ねえ、ねえ!言いたいことがあるの!
ねえ、ねえってば!
君にだけ、知ってもらいたいことがあるんだよ!!
夜が耽る、闇夜が来る。完全な闇が来る。
なのに、ああ、
どうして、黄昏時に、見つけてしまったの?
「…九尾、大丈夫かな」
森の中を当てもなく歩きながら私は呟いた。ガルムを全員出したのはいいけれど、上手くやれるのだろうか?まあ、個々が自由にやっても強いのは強いのだけれど、不安になってきた。
あの子は私よりも強い、といって過言ではないけれど、絶対的になりて無いものがある。
それが、魔力及びその知識だ。
彼女は様々な分野に詳しい。博学だと言えるだろう。それは、長い年月様々なところを転々としていたからかもしれないが、とにかく、彼女の知識量はこの世界に限って言えば神よりも多いだろう。しかし、魔法についての知識は少なかった。彼女は、この世界でなら間違いなく多い部類に入る魔力量を持っている上に、主力武器として自身の体を選んでいるから魔力が減るという感覚を学ぶ必要がなかったのだと思う。けれど、それは魔法を扱うものとしては非常に危うい。
彼女は生命維持のために魔力が必要だと言うことすらも、もしかしたら知らないかもしれない。
魔力がなくなってきたら体に異常をきたすから知っていたら途中で気づいて対処するのだろうが、今の状況じゃ、それも満足に出来ないだろうし。
知らずに戦闘中に異常をきたしたらどうしようかと、嫌な汗が流れるが、ガルムたちが助けてくれるだろうと自分を納得させた。
しかし、時間があまりないのも事実だ。早く見つけなくては。
「…うーん、トリガー、ねぇ。思い当たることがなくもないから、やってみるかな」
そうして私は魔力を身体に流し、もうすっかり使い慣れたオリジナルを無数個生み出す。手慣れたものだ。
鼻歌交じりに作戦を実行していると、背後でチャリ、という鎖の音が聞こえた。
「…ビンゴッ!」
小さくガッツポーズを決めてから、振り向き…
「ーーへ?」
…ソレと相対することになった。
ふふふ、ふふふふふ。
真っ黒な少女はただ不気味に笑っていた。
私の目の前には今、全身真っ黒な女の子がいる。その子は素肌に直接鎖をぐるぐると巻かれ、手も足も動かせない状態で固定されていた。しかし、どういう魔法なのかその身体は地面から30センチほど浮き、鎖をチャラチャラと引きずりやがらでの移動を可能としていた。そして、その顔は。
「…なるほど、だからグリーンアイズを呪ったんだね?」
目玉が綺麗に抜き取られていた。
まるで、最初からそこには何もなかったかのように。
真っ黒な少女はやはり真っ黒な唇を歪に歪める。
「ふふふ…あなた、綺麗な顔してたわね…私がそのお顔…ツブシテアゲル」
もしも私が見た目通りの普通の女の子なら、この場で泡を吹いて気絶していてもおかしくなかったであろうその微笑みにしかし私は恐ることもなく鼻で笑い返していた。
「間に合ってるわ。私の顔なんて、私の友人たちに比べれば対したことないもの」
間違いなく本心を言ってやる。事実、少し悔しい気もするけれど私の周りの女の子はみんな可愛い。ほんと、もう、どうにかなりそうなくらい可愛い。
「…ああ、あの女?あれは確かに綺麗だったから、グリーンアイズに潰させるよ。……こほんこほん、ふふふ、あなたのその綺麗な顔、ツブシテーー」
「あ、二回言わなくていいのよ。聞こえてるわ」
そう言うとどことなく切なそうな雰囲気を出す少女。うん、おそらく、彼女がそうで間違いないだろう。
「ごめんね、討伐させてもらうわ、鎖姫」
「ふふふ、ワタシノ名前、広まったノネ。ふふふフフ、嬉しいワ」
そうして、私たちの戦闘は始まった。
黄昏時、それは、逢魔が時。
魔物や呪いが、活発化する時間。
そして、人が足を踏み外す時間。
ああ、まさか会いたかった君を見つけたのに、
会えないなんて…
くそぅ。
アクアは舌打ちしそうな衝動を何とか堪える。別に、ムカつくわけじゃない、この感情をアクアは初めて知ったのだ。
悔しい。
近接戦闘ならば何度も負けたことがある。しかし、魔法を使っての勝負でここまでバカにされたことはない。
「あっれー?あなた、魔法にジシンがあったんじゃナイノー?」
「…うるさいわ。…来なさい四属統合の槍!」
アクアは持てる魔力の全てを神器、海蛇の憂に込め、四属統合の槍としていた。本当は五属とするフレイアの唯一の近接戦闘魔術なのだが、そこは槍術の腕で補うこととした。
それでも、十分に強いはずだったのだ。
今のアクアはそれなりの数の陣保存も完了させていて、その無尽蔵とも言える魔力量も合間って神々でも容易には勝てない相手となっていた…いや、主要神相手でも、イズンやバルドルなどが相手なら勝手しまうだろうほどに。
それなのに、アクアはこの鎖姫にいいようにやられている。その原因は先ほどから目に見えて艶を失って行く髪や輝きの落ちた瞳をみれば明らかすぎるほどに明白だった。
魔力切れ。
先ほど、九尾に対してしていた心配が自分に返って来た形になった。
しかし、それなりに魔力の心配をしていたからか九尾のように視力を失ったりはしなかった。魔力保存のための槍なのだ。これならば、消費しすぎることはない。
…けど、チートだよね、この空間内では勝てないよ
アクアに対して、少女はその魔力を切らす気配がなかった。それは、この空間がそのまま、少女の夢の中だからだ。
呪いとは、悪夢のようなものだ。もう何百年と呪いと付き合い続けていたからか、少女は思いのままに夢を使うことができる。一種の空間魔法として。
そこに、自身とアクアを閉じ込めたのだ。その世界の理は少女の思いのままだし、少女の魔力はその空間の維持以外には使われない。内部でどれだけ魔法を使おうが、関係ないのである。
対して、アクアの消費魔力を2倍、3倍にしてやることも可能なのだ。
そのせいで、アクアは予定よりもずっと早い段階で魔力切れを起こしていた。
それは、偶然にも九尾の状況と酷似していた。彼女は、普段は使わない支援魔法を行っていたから予定よりも数段早い段階で魔力を失った。彼女が基本なんでもできる人物であったことが原因だろう。いい方が、悪い方かはわからないが。
…けど、本当、ズルイよ……あ、いいこと考えた
「********」
「………え、詠唱?」
この戦闘では今まで、アクアは魔法陣でしか戦わなかったからか詠唱をし始めたことに少女が戸惑いを表す。もちろん、そんなことは気にしないでアクアは詠唱を進めた。
「********……少しだけ、お話なんていかが?鎖姫様」
「……?」
アクアは魔法名を告げなかったが、魔法はきっちり発動し始めた。この世界に干渉できないのなら、外部から。アクアはここでは魔法で勝つことはできないが、言葉でなら負けるつもりはない。
要するに、口喧嘩をふっかけているのである。
そして、それをするに当たって時間がかかると判断したアクアは時間遅延の魔法を外部側にかけた。これで、多少長話になっても大丈夫だろう。
「…お話?」
「そう、お話。ダメかな?」
ダメではないだろう。そういう確信があってアクアは問うた。それは、長い間孤独でいたはずだという予想の上に成り立っていたのだが、果たして。
「………えっと」
少女はしばらく困った顔をしてからアクアが勝手に話す分には構わないということで了承した。聞き役にはなるつもりらしい。
アクアの作戦は至極簡単なものだった。
この世界内部に干渉できないのなら、外部に干渉すれば良い。
少女に外側から攻撃できないのなら、内側からすればいい。
そのために、アクアは少女をよくよく見て、当たりだと思うトリガーを引く。
「私は、アクア。アクア・フローランス・ルーンブックスって言うの。あなた、本当の名前は?」
「……な、名前…」
もう何百年呼ばれていない名など、忘れたという少女に、アクアは微笑みながら問いかけた。
「そっか。まあ、そこは鎖姫でも構わないわ。お話、してくれるね?」
そうして、仁義なき口での戦いが始まった。
もうすっかり、空は暗い。
なのに、ここだけ、黄昏が残ったように赤かった。
私が、わたしが、ワタシガ…
あの時、君を見つけていなければ…?
なんか、手抜きみたいでごめんなさい!
明日はちゃんと、お話を進めます!
あと二回くらいかな?グリーンアイズ戦は!




