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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
女神の野望 準備編
130/157

グリーンアイズ戦2

「************」

「よっと」

「*******氷獄」

「主さん!次!何を?!」

「次は光!」


アクアと九尾はお互いに使う属性が相殺されないように属性を確認しつつ戦闘していた。毎度詠唱しなくてはならないアクアとは違い、九尾は何故か変な掛け声と手を振るだけでアクアと同等の魔法を使う。その目と同じ属性魔法しか使えないものの光と闇の二属性使いだ。使える魔法は少ないがどれもが強力で、アクアはちょっと不公平だと思っている。

今もなお、アクアの作った氷獄、氷の牢獄に閉じ込められたグリーンアイズに向かってアクアと一緒に魔法を放っている。


「ケタケタ…ケタ……ケタケタケタ」


「あー、やだやだ。こいつ、全然効かないんだもん」


余裕そうに笑うグリーンアイズを見て、本当に疲れたように嫌そうに言うアクア。この戦闘が始まってもう何時間が経っただろうか?もうスッカリ空も赤く染まり、闇が訪れようとしていた。しかし、未だに鎖姫(チェーンカース)は見つからないどころか手がかりすら見つかっていない。この2人でなければもう既に体力がなくなっていたことだろう。この2人なら眠る必要も食事の必要も然程ないので夜通し続けることができる。もちろん、したいわけではないが。


「かかっ!愚痴っておっても変わらんわ。…早く…見つけなくてはの」

「そうだね、夜が来る」


2人は夜が来ても、目が効く。それは生物ではないからなのかはわからないが、猫人であるノアと同等には効くのだ。だから、闇夜を怖がることは本来はない。だが、今だけは恐れていた。闇が来るのを。


「九尾、なんとか一人でできる?」

「……?」


牢獄を割り、細くて長めの手足を槍で否しながら叫ばれた内容に九尾は一瞬首を傾げた。しかし、次の瞬間にはそれを理解して首を横に振る。


「援護が欲しいのう」

「…オッケ。来なさい、ワンころ」


アクアの言葉と同時に辺りに数千の魔法陣が展開される。それを見た九尾は苦笑いをした。


「…数体でもよかったのじゃぞ?総出か?」

「ふふ、戦闘不能にできるなら、やりなさい。大丈夫。この子達はもう長期間私の指揮下にいる。例え呪いで自我を失っても指揮権限は失えないよ」

「かかっ!そうか、それは安心じゃの」


なんだかんだで余裕な2人なのであった。

そして、アクアはガルム全ての頭を撫でてやりながら場を離れる。

九尾もガルムも何も反応を示さず、まるで逃げるようなアクアの背を見送った。

その目にあるのは絶対の信頼。アクアが自分たちを見捨てて逃亡を選ぶような人物ではないと言う確信だ。また、そう思われていることをよくよく理解しいるアクアもありがたいことだと苦笑いを浮かべていた。


ーー私は彼女たちの意志に答えれるように、いい主にならなくちゃね


そんな思いを持って、アクアはスッカリ焼け野原となった場から離れ、深い森へと消えていった。







主さんが行った。

しかし、心配することはない。寧ろ喜ぶべき事態だ。これでやっと、この長い戦いに終止符を打てる。正直、主さんとは違い、儂は食事の必要が少なからずある。それに、あんな無尽蔵な魔力は持ち合わせていないのだ。これでも種族最大の量を持ち合わせていると自負しているのだが、正直、主さんの半分を超えるか越えないかくらいだと思う。

そんなわけで、体力も魔力も主さんよりも先に尽きるであろう自分にとって、この状況はあまり思わしくはなかった。それなのに、主さんはただ退屈そうにしているだけで特別何か困っている様子はなかったものだから、どうしようかと頭を悩ませていたところだったのだ。

おそらく、主さんは鎖姫を探しに行ったのだろう。

そう簡単に見つかる相手ではないと思うが、主さんに不可能はないと常々思っているので不安は微塵もない。問題は、見つかって、どうするか、だ。

もし、取り込まれたら、グリーンアイズ、鎖姫に加え主さん暴走モードよりもずっとたちの悪い状態と殺り合わなくてはならなくなる。それは流石に十分も持たないウチに敗北するだろうし、そもそも、儂に主さんを殺せる気が微塵もしない。

うむ、取り込まれたら諦めよう。共に果てようではないか、主さん。

その場合でも、一行に構わない。主さんに仕えるんじゃなかったなんて思えるはずがないのだ。今まで生きてきた長い人生と、主さんと過ごした短い生活を比べても、儂には主さんたちとの思い出の方がずっと大事なのだ。

「さて、犬共よ。言いつけ通り、さっさとこやつを戦闘不能にしようとするかの」

「ガルゥッ!」


…どうやらルーンを解しているらしかった。





このグリーンアイズというモンスターの厄介なところは種族魔法の粘液だ。目の粘液をおもいっきり飛ばしてくるのである。その粘液はヌルヌルしているだけでなく、鳥もちのように触れたものから離れない性質がある。さらに、それらから放たれる悪臭は毒を含み、長時間触れ続けるとタンパク質が分解されてしまう、という何とも面倒臭いものなのだ。

ガルムや九尾は上手く避けているように見える。しかし、九尾はともかくガルムは数が多く、全員が無事とはいかなかった。


「よいしょっ!犬!もうちょっと気を配れんのか!?」

「ガ…ガルゥ…(お、恩にきります)」


九尾は逃げつつ、目についた捕まっているものを魔法で救出していた。もともと高レベルモンスターであるガルムはそうそう死んでしまうことはないのが幸いしたらしい。それでも全てを救えているとはとても思えないが。

なぜかガルムの言っていることがわかることに九尾は首を傾げながら戦闘を続けた。

自身の今すべきこと。それは、この、主であるアクアが作り出した焼け野原からグリーンアイズを出さないことだ。アクアが鎖姫捜索に全力を尽くせるようにしてあげることだ。だから、九尾は無理な攻撃はせず、ガルムたちを指揮しながらグリーンアイズと時間稼ぎを行っていた。もちろん、戦闘不能に持込たらそれに越したことはないのだが、そんなことは無理だとはなからあきらめている。アクアだって真剣に言ったわけで無いのだし。


やがて、天が黒くべた塗りされたようになるとグリーンアイズの攻撃パターンに変化が訪れた。と、言うよりも、純粋にその威力と速度が上がったと言えるだろう。アクアと九尾が共に恐れていた闇夜が来たのである。


「…これで月や星でも出ていてくれたらまだなんとかなったものを……今日に限って、曇天か」


思わずそんなボヤキが漏れた。空をスッポリと蓋するように覆う厚い雲が恨めしい。もしかしたら、この雲のせいで命を落とすかもしれない。

主のことを信頼しているとはいえ、やはりこれだけ遅いと心配になった。もしかしたら、まだ見つかっていないのかもしれない。けれど、もしかしたら、見つかったけれど…

そう考えた途端、グッと篭ってしまった力をゆっくりと抜く。アクアの元へ、大急ぎで向かいたい。しかし、今それをすれば全てが台無しになるのだと流石によく理解していた。


「グルゥ…ガウッ!(きっともう少しですよ…頑張りましょう!)」

「…ああ、そうじゃのう。もうちょっとのはずじゃ」


近くにいたガルムたちとそんな会話をして、また先頭に集中する。今は数千のガルムたちがしていてくれた、休憩中だった。先ほどから統治が取れ始め、ガルムを3:1に分けてのローテーションを組んで交互に休憩しているのだ。ちなみに、1の方が今休んでいた方で、九尾が入っている方である。3の方が戦っている時でも粘液にやられたものがいれば救助に向かっているので、九尾が休めているかは甚だ疑問だが。

しかし、こんなことをするのにもわけがある。グリーンアイズの更なる強力化以降はさしもの九尾でも集中しなければ援護と戦闘を同時にこなせなくなってきていたのだ。さらに悪いことに、強力化は未だに止まっていない。九尾の頬を嫌な汗が伝っていた。


…ボチボチ、やばいぞ、主さんよ。本当にもう少しなら急いでくれ!


心の中で叫ぶが、あの心を読める主に伝わったかどうかはわからなかった。



散る、散る、気が散る。

次の攻撃は、右薙ぎか、左か、それとも、振り下ろしか。

判断がつかなくて行動が一瞬遅れた。


「ガルゥッ!(九尾さん!)」

「っ!!」


ガルムに腹を噛まれてその場から離される。力加減をミスしたのか腹には牙が食い込み、血がとめどなく流れて、焼け付くような、神経を焦がすような痛みが走ったが、もはやそれすらもどうでも良くなってしまっていた。


ドゴンッ!!!!


そんな、重過ぎる音と共に無数の岩と呼んでおかしくないサイズの地面が飛んでくる。ここでは、ガルムが数体、儂を庇うようにして丸まって助けてくれたようだ。しかし、代わりに上から生温かいものが降ってくる。ドロリとしたそれが、ガルムの血だと気づくのに一瞬かかった。


「ガルゥ!ガウガウ!!(大丈夫ですか!?しばらく休んでいてください!少しの間だけなら、我々だけでも!)」

「……いや…お前たちが死んだら…」


脳裏に蘇る、多過ぎるのに一体も逃すことなく頭を撫でて行く、アクアの優しい表情。

あの様子ならきっと、この中の一頭でも死ねばすぐに気づくのだろう。もしかしたら、どの子が死んでしまったのかにさえ、気づくかもしれない。

主の悲しい顔を見たくはなかった。その一心で起き上がろうとして、気づく。


目が見えない。


儂の主力武器は身体。物理的攻撃をメインで扱っていた。これなら、誰にも負ける気はしなかった。今回の戦闘ではずっと魔法での援護をしつつ、触れないように避けることだけに専念していたが、それでも、主力武器は身体なのだ。

それが、視力がないとどうなるか。

戦うことはもちろん、援護をしてやることもできない。どこで危険に陥っているかわからないからだ。

しかし、なぜ急に視力が…

そんな、押し寄せてくる悲しみを抑えて、声を押し出す。


「すまんな、頼む」

「ガルゥッ!(お任せください!)」

「ガルゥッ!ガルゥ!(お前らは九尾様についていろ!こっちはこっちで回す!」

「ガルゥ!(了解!)」


そんな、とても元モンスターとは思えない会話を聞きながら涙をこらえる。また腹部に痛みが走ったが、それによる涙ではない。


「ガルゥッ!!!(ここにいてください!)」


どうやら運んでくれていたからまた痛みが走ったようだったが、それすらもう、どうでもよい。


…ああ、主さん


もはや感覚も無くなってきていて、涙を堪えていられているかはわからない。


…儂は、お前様の相棒になるには…


ーー力不足だったようじゃーー


本当に、すまんな



薄れ行く意識の中で、薄くなった感覚が伝えてくる、微かな鎖の音と、腕に冷たいものが絡む感触。

それを感じながら、特に思考するでもなく、儂は意識を手放した。

ごめんなさい、最近リアルがバタバタしてて…まだもうしばらく定時更新はできないと思います

ただ、毎日更新は頑張って行きますので、どうかご了承ください

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