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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
女神の野望 準備編
129/157

グリーンアイズ戦1

「*******」

短い詠唱のあと、アクアの手から現れる火球は普通の火属性初級魔法のファイアボールではもちろんなく、追尾魔法および遠隔操作系魔法を付加させている、高難易度魔法だ。珍しく、既製魔法(ステレオタイプ)である。

その球は前方にてグリーンアイズの大きな目の中心に回し蹴りを食らわせていた九尾を上手くすり抜け、グリーンアイズの身体へとぶつかり爆発する。

さすがの威力。しかし、なぜオリジナル以外を、と九尾が思った次の瞬間にはその理由に気づかされることになった。思わず呆れたような呟きが漏れる。


「相変わらず、化け物のような魔力量じゃな…それなのに、節約方法まで覚えおったのか」


既製魔法は基本的にオリジナルよりも消費魔力量が少ない。アクアのオリジナルは普通のそれよりもずっと少ない消費量だが、やはり既製魔法のそれの方が少ない。威力は落ちるが、その分くらい、今のアクアなら容易にカバーできるのだから、問題がなかった。

さっと両手を前に突き出すとスグに光出す指先。そして、そこを中心に自動的に描かれる魔法陣。その光景はとても美しく、残忍なものだった。なぜなら、その10個の複雑化した魔法は一つ一つが脅威の力を持っているのだから。


放たれる火球10個は一つも九尾にかすることなく、弱点だと思われるグリーンアイズの大きな目の中心、虹彩が開いているところへとぶち当たり爆発する。


「あれ?九尾、暇なのー?」


戦闘時はそれなりにテンションの高い自らの主の言葉に九尾は苦笑と否定の言葉を返す。


「かかっ!まさか。少し呆れておっただけじゃ」


言うが早いか地面を強く蹴り、グリーンアイズの頭部が見える高さまで跳ぶ。そして、踵落としを食らわせ、その頭部に着地した。


「脳みそから痛めつけてやろうかの。かかっ!お前に脳みそがあるかのう?」


そうして乱れ打ちのようなパンチを凄まじい速度と回数その頭部に叩き込んで行く。

アクアは速すぎて風の切るどころじゃない音が聞こえてきた気がしたがスルーしたのであった。お互いにお互いの変わった部分をスルーし合えるのは、やはり気があっている証拠なのかもしれない。単純に2人が異常な考え方を持っているのかもしれないが。

パンチを叩き込まれた頭部は見る見るその形を歪に変えていて、先ほどから、オギャァァァ!!と言う痛そうな悲鳴が口のないはずのグリーンアイズのどこかからずっと発せられていた。


「あら、九尾が真面目に戦ってる…大変だ、急がないと私の仕事がなくなっちゃう」


そうして、少し懐かしい魔法の詠唱を始めた。こんな風に周りに人がいない状況じゃないと、使っちゃダメだと数ヶ月前に怒られた、あの魔法を。

せっかくの綺麗な森だけれど、グリーンアイズの側、つまり中心部に行くほど黒く淀んでいたから問題はないだろうとちらりとそんなことを考えながら、アクアは詠唱を普通では考えられない速さと滑らかさで進めていく。この戦いでは基本的に詠唱魔法を使うことになっているのだ。もちろん、陣を保存するためである。フレイアからの指示だった。

…黒く淀んでいたことを、もう少し気にするべきであったと後に後悔するとも知らずにアクアは魔法準備を進める。


「*******、火焔巨人の車」

「グガァーーー!」

「っ!?」


アクアを中心に半径5キロほどが灼熱の炎に包まれる。それはもちろん、アクアから20mほどしか離れていないグリーンアイズも燃やしていた。免れぬ熱にグリーンアイズは黒かった目を真っ赤に染め、暴走を始める。

両腕を振り、種族魔法なのか謎の異臭を放つ液体を目から無茶苦茶に飛ばし始めた。しかし、その液体はアクアや九尾に届く前に炎に触れて蒸発してしまう。そして、その5キロという広範囲のせいで、暴走し、無茶苦茶に走り回るグリーンアイズを常に炙り続けることができていた。

不意にアクアは隣からトンっと何かが落ちてきた軽い音を聞く。そちらを見ると九尾が少し不満げな顔をで立っていた。


「おいおい、主さんよ。儂まで巻き込むことはなかろう?」

「あなたなら大丈夫だと思って。ほら、事実、逃げてきてるじゃない?」


アクアの言い分を聞き、本当に自分は無事に逃げてきているのだからなんとも言えない気分になって九尾はため息をついた。アクアはしっかりしているが、生来の性格なのかマイペースが過ぎるときがある。そして、それは注意程度で治るものではない。


「ところで…どう?強力化の原因の糸口は見つかったかしら?」


急に声のトーンを真面目なものに移したアクアの、普段よりもずっと進行そうな表情を見て、九尾も同様の声と表情で返事をする。


「いや……物理攻撃は普通に効くだけで、特に不審なところはなかったの。それに、主さんの魔法を受けても、やはりおかしなところはなかった。しかし…」


と、そこで暴走を続けるグリーンアイズに目を向ける。アレには2人の姿がバッチリ見えているはずなのに、こちらに来ることなく、何かを探すように燃えて行く森を掻き分けていた。それでもまだ、範囲外には出ていない。その真っ赤な目がどんどんと赤く染まっていくように2人には見えた。


「炎じゃから赤に染まっておるのならば…アレは魔力を食っておることになる。ならば、強力化の原因は高位魔法に使用される高純度の魔力じゃ」


高位魔法を使う時はより多くの魔力を消費するが、それだけでなく、低位魔法を使う時よりも質の良い魔力を使わなくてはならないときがある。もちろん、全てではないが、そうしないと解呪文(ディスペル)の原因になったり、威力が半減したりするのだ。

九尾の意見を聞いたアクアは一つ頷き、そうかも知らない、と返事をした。が、もちろん、他の要因にも思い当たることがあった。


「赤くなっているのは偶然かもしれない。私が水属性魔法を使っていても、赤だったのかもしれないよ。なんらかのトリガーを引いてしまったのか、あいつは強力化モードに入ったのかもしれない。そのトリガーが何なのかは…わからないけれど」


あの探す様子から、アクアは外的要因もあり得ると考えていた。フレイアたちがグリーンアイズを見に来てからアクアたちがたどり着くまでの間に何かがここに住み着いたのだとしたら、話はわかる気がしたのだ。

どちらの説もそれなりに話が通っていて、納得はできる。が、どちらが正解かはわからなかった。


「外的要因ならば、そちらはこの魔法でも燃やせるかの」

「無理だね。だって、グリーンアイズも燃えてない。この魔法はそれなりに高位だけれど、高レベルモンスターを倒せるほどの威力はない」


アクアの説明にじゃろうな、と九尾は返した。彼女も、これに巻き込まれても熱くて痛い程度で死ぬことはないだろうと感じてしたからだ。

そして、今だにこちらに向かってこないグリーンアイズに目を向けた。と、同時に辺りの炎がまるでケーキの蝋燭のようにふっと消える。どうやら、術効果時間が終わったらしい。


「さて、どうなってるかな?」

「うむ。儂はまた上に行く。主さんは魔法の準備をしていてくれ」


そう会話をして九尾が飛び出そうとした時だった。


「…ケタ…ケタケタケタケタケタケタケタケタ…ケタケタ…」


「「?」」


グリーンアイズの様子が今までから一変し、緑色だった体を赤黒く染め、大きな目は蛍光色な目に痛い赤。そして、真っ黒なコウモリのような羽根が生えていた。

壊れたように笑う、もはや違うものとなったモンスターを前に2人は引きつった笑みを浮かべた。


「九尾、アレに触るのはやめておきなさい。あなたも魔法に徹するの」

「もちろんじゃ、主さん…アレに捕まりたくはない」


2人はグリーンアイズの姿を一目見ただけでそれの身に何が起きたのかを理解した。そして、それを自分にも引き起こさないように触れるのを辞めるという判断を下す。アレは触ることによって感染して行く類のもので、感染したら最後、自我を失う。その代わりに全てのストッパーが外れるからか感染前に比べて格段に強力化されることになる。やはり、強力化の原因はアクアが言った外的要因だったのだ。


「けど、さっきも思ったけど、今判明してもね…」

「しかし、儂等も取り込まれてしまってからでは遅かった。知っておれば対処もできるというものじゃ」

「…そうね、絶対に感染しないでよ?あなたとやるなんて真っ平御免蒙るわ」

「その言葉、そのまま返そうぞ」


互いに信頼しあい、好みあっているからやりあいたくないというのももちろんあるが、それぞれがそれぞれの実力をよく知っているが故の台詞だった。今の状態で本気でやり合うのさえ真剣に嫌なのに、相手がリミットを外してかかってくるなど、悪い冗談でも嫌だ。


「あれは何をやっても倒せないね。外的要因を探し出さなくちゃいけない」


グリーンアイズは今、アレをそうしたものによって支援を受けて戦っている状態となっている。手足を切り落として目玉だけにしてやってもいいが、すぐにまた生えてくると判断した。ああなったモンスターの倒し方は、外的要因の駆除だけである。


「しかし…辺りにそのような気配はないぞ。どうするのじゃ?」


気配察知に長けている九尾の台詞に、アクアは見つけられないのは自分だけではなかったかと頭を抱えたくなる。そんなことをしている余裕はないのだが。

なぜなら、こんな会話を繰り広げている今もなお、グリーンアイズはこちらへ滅茶苦茶に腕を振り下ろしてきているのだから。先ほどから2人はそれを軽い身のこなしで避け続けている。もしも触れたらその時点でアウト、という胸の冷えることを考えながら。


「せめて…それの特徴だけでもわかったらなぁ」

「無理じゃろ。こんな呪いを伝えてくる媒体は様々なモンスターじゃ。こやつに伝えたものが何かなど、わかるはずもない」

「…他からの何番目の感染かもわからないものがこんなに強くなるのかな?もともと高レベルモンスターではあったけれど、カンストするほどなのだから…」


アクアはなんとなく九尾の発言が引っかかる。もちろん、間違ったことは言っていないのだが、何か違うと自身の頭が伝えてくるのだ。


「ケタ…ケケケ…モウ、シンジャエバ…ケタケタ……イインジャナイ…ケタケタケタケタ…ケタケタ」


モンスターがおかしな高い声で言ったものが、意味のある言葉だと気づくのに一瞬の時間がかかった。そして、それに気づいた2人はとうとう顔を青くする。


「こいつに呪いを掛けたやつって、かなりやばいんじゃないの!?ルーンを解してるわよ!?」

「どんな高レベルモンスターでもルーンは解しておるはずがない!ならば、こいつにそれをやったのは…!!」


急にゆるりと動きを止めたモンスターから必死に距離を取りながら2人は自らが、そして相手が出した答えに戦慄した。まさか、まさか、そんなはずはないと思いたい。

呪われたものが死ぬと一先ずヘルヘイムヘ送られる。しかし、呪われたものはそこの女王ヘラに受け入れられず、彼女の持つ種族魔法、世界消滅にてこの世界から綺麗に消滅させられる。しかし、そこから逃れたものが過去に一人いたと、アクアも九尾も何処かで聞いたことがあった。しかし、そんなものは御伽噺程度のことだったはずなのだ。


「ケタケタ…サミシクナイ…ヨ?ケタ…ケタケタケタケタケタ…スグニ、コノセカイゴト…ソッチニオクッテアゲルカラッ!!ケタケタ…ワタシヲ…ケタケタ…ウケイレナイ…セカイガアルカラ…イケナインダッ!!!」


台詞とともに異常なほどの素早い動きを見せ始めたグリーンアイズに2人は距離をとっていてよかったと心の底から思った。九尾は真剣に避けることに徹し始め、アクアは白愛の援助だけじゃ対処しきれなくなって飛翔の魔法と加速の魔法を使い始める。


「…お母さんのバカッ!何をどうやればいいのよ…!」


とにかく逃げながら彼女を探さなくてはならない。ここに来る途中に聞いた鎖の音はやはり聞き間違いではなかったのだから。今度こそ、その音源を辿らなくてはならない。


「九尾っ!こいつはもういいわ!鎖姫(チェーンカース)を探すことに集中しましょう!」

「…クッ。やはり、主さんも彼女だと思うか」

「当然!私は、鎖の音をこの森で聞いているのよ!」


そうして、激しさを増すグリーンアイズの攻撃を否しながらの作戦会議は終幕を迎えたのだ。

ごめんなさい、戦闘シーンは苦手で…

多分、これから更新が乱れることが増えるかと思いますが、お付き合い願えれば幸いです。

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