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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
女神の野望 準備編
125/157

聞きたくなかった話

俺の目の前に差し出された、とても絵とは思えないほどにリアルな風景画。その真ん中には大きな目玉に手足が生えたような、気味の悪いモンスターがこれまたリアルに描かれている。こいつだけはこんなにリアルにやらなくていいんじゃないかと思った。

「で?これがなんだよ?」

目の前で優雅に食事をしている少女に問うと、幼さの残る顔に似合わない含み笑いを返される。

「私、それ倒しに行かないといけないの。その場所がどこだか、知らない?」

「は?この…周りの木よりもデカイモンスターを倒しに行くの?お前が?」

「?九尾も行くけど?」

そういう問題じゃねー!

と、突っ込みかけてやめる。こいつはこんななりしてる癖にオリジナルを持ってるような一流の魔道士なんだった。

「主さんが食事してるのを初めて見たのう。綺麗な食べ方じゃな」

「そう?王宮仕込みだからかな?メイドさんたちがうるさくて。まあ、初めて見るのも当然…かな?大体一ヶ月ぶりの食事だからね」

俺の困惑などどこ吹く風で長閑に会話をする2人。その細い身体のどこに入るんだと思う位の量を食っていた。

「…って、お前、今なんてった?」

「は?何が?」

「あ、王宮のことかの?それとも、一ヶ月ぶりの食事のことかの?」

女の言葉に一ヶ月ぶりの方だ、と答えると少女も理解してくれたらしい。まあ、王宮の方もかなり気になるが。納得行った顔で説明をしてくれる…?

「うん、一ヶ月食事とってないんだよ。何かおかしい?」

「………」

「ん?」

「……なんでもないでーす」

説明はないらしい。変わった子だと納得しよう。一ヶ月ぶりも、王宮も。

「で、その風景画なんだけど、その場所、何処か知ってる?」

もう一度言われ、俺も風景画を見返す。

どこ、と言われても描かれているのは森だ。どこかの、鬱蒼とした森。怖すぎるモンスターの後ろには…泉、だろうか?小さいが確かに開けたスペースと水辺が見える。小さな滝があるのか水飛沫が飛んでいるようにも見える…って、本当にリアルだな、おい。

「何か、気づいたことでもいいんだけれど」

「んー……俺、インドア派なんだよな…ん?」

よくよく見ればこの森の木々、ちょっと変な形じゃないか?うねり過ぎと言うか、ふにゃふにゃそうというか、表面は魚の鱗のようにも見えるし……

「っあ。これ、この国の風景じゃねーな」

「え。国が違うの?」

「ああ、ガセ情報で動いておったようじゃな、主さんよ」

むー、と不満そうな顔を見せたのも一瞬で、すぐに明るい表情になって女に笑いかける。

「けど、そのおかげでいい出会いがあったしね?」

「…そう面と向かって言われると…」

どうやら、この国に来てからの仲らしい。女が真っ赤な顔で俯いた。まあ、少女が前向きな思考の持ち主でよかったと思って流しておこう。

少女は今度は俺に少し笑いかける。

「どこの国か、わかるの?」

「あ、ああ。これは隣の国の人形国(セイレーン)だな。そこにしか生えない木だから、間違いねーよ」

ここ、工業(ブリキ)国の隣には半ば海に沈む街、人魚国(セイレーン)がある。そこは観光だけで持っている国だが、なぜか軍隊は強く、この国ほどじゃないが法も厳しい。そして、人魚しか住めない。人魚以外が一週間以上滞在することを禁じていたはずだ。なんでも、そんなことをすれば国が完全に海の底になるそうで…

また、あそこは天国だという輩もいる。人魚しか住んでいないから、必然的に女しかいなくて、その上美人じゃないと短命なんだそうだ。いや、殺されるとかでは断じてないが。

そんな理由から、街ですれ違う大人は全て美女という、なんとも夢のある国だったりする。だから、観光客は男が多い。

と、こんなことを少女に教えてやるつもりはない。大人の話だ。しかし、絶対に伝えなくてはならない情報があった。

「明るくなって、あんたらの顔見てから思ってたが、かなり綺麗だな?」

「それは、どーも」

「うむ。よく言われるの」

返しにちょっとイラッてしたことは秘密である。

「でだ。その国はな…とにかく可愛い女の子が好きなんだ。国民全員が、だ」

「…?それで?」

だからなんなのか、と問いたげな顔に俺は真顔で至極真面目な声で、とても大切な忠告をした。

「あそこは、女の楽園。国民たちの恋愛対象は…女だ」

「「……えっと…」」

流石にわかってきたのか頬が引きつる2人に、最後の言葉。決定的な、それこそ、死刑宣告とも呼べる言葉を放つ。


「お前らは、間違いなく、恋愛対象(おそわれる)だ」


「「……………………………………………」」

しばしの静寂ののち、少女が急に席を立った。そして、片方だけにつけていた綺麗なピアスに触れ、震えた声を上げる。


「おおおおおおお母さんっ!!!出て!お願いだから出てーー!!」


パニクってるパニクってる。目の焦点があってない。ぐるぐる回ってる。うん、中々衝撃的な言葉だよな。

男の観光客が主?そりゃそうだ。自分の顔に多少の自信がある女なら…いや、女ならほとんどがそんな危険な国に行きたがるはずがないのだから。おかげで、観光客が襲われた被害は少ない。事実を知らずに入ったものの中からお眼鏡にかなったものしか襲われないのだから。ちなみに、彼女たちはかなりの面食いだ。だから、相当の美しさが要求される。

そして、お眼鏡にかなったら最後、諦めるしかない。あの国の国民は皆、軍に所属しているからだ。要するに、めっちゃ強い。

ま、この2人ならまず間違いなく襲われるだろう。それくらい綺麗だからな。

うん、ドンマイっ!


「おおおおおおお母さんっ?!ああ、よ、よかった!!!あのさ!グリーンアイズのことなんだけどー!!」


どうやら、相手は通信に出てくれたらしい。通信できる魔法道具持ってるなんて、お前、羽振りいいんだな。王宮ってたからな、王族か?羨ましいよ、はっはっはー。

…襲われてしまえ。

しかし、もう一人の方は諦めたらしい。


「うむ、儂の貞操もこれまでか…」


切なそうに呟いていた。

うん、人間、諦めって大事だよなっ!目がもう死んでいるが、俺にはかける言葉も見つからねーよ。

一方で、未だに騒ぐ少女。ええい、諦めの悪いっ!


「お母さんっ!!実は、人魚国に行ったらしくてー!!…え?追え?いやいやいやっ!むり、ムリだよーっ!!!」


しばらく口論した末、フレイお兄ちゃんとやらが派遣されてくるらしい。…ので、もう一つ忠告を。2人は女だったから必要なかった忠告だが、男が来るなら話は別だ。


「おい、少女。そのフレイお兄ちゃんとやらは男だな?どんな顔だ?」

「は?え、ええっと…私の顔とほぼ同じだけど?」


いや、なんでだよ。突っ込もうと思ったが、もうこいつに突っ込むのは諦めたのを思い出して寸前でやめる。


「いいか?お前、魔道士なら種族魔法って知ってるだろう?」

「え、も、もちろん。知ってるよ?」

人魚(マーメイド)の種族魔法は…性転換と洗脳だ」

「……………お母さん、お兄ちゃんいらない」


きちんと頭の使える子でよかった!

顔の筋肉を石化してしまったようだったが、かなり棒読みだったが、そのフレイお兄ちゃんというイケメン君は救われたらしいっ!

いやー!俺いい人!!けど、イケメン滅べっ!


「……本気か、御前様よ。いや、寧ろ正気か、主さんよ。応援なしに人魚国に入るというのか?」

「だって、お兄ちゃんが女になっちゃうととうとう3人、区別がつかなくなるんだよ?」


3人っ?!

今、さらっと真っ青な顔の女に、さらっと3人の区別がつかなくなるって言ったのかっ!?

いや、真っ青な顔してるけれども!俺がしたいわっ!

何??!お前の顔3人いんの??!無性生殖でもしてんの!?

喉元までそんな悲鳴混じりの叫びがでかかったが、今ここで俺まで取り乱せばとうとうこの場を締める者がいなくなる。それはさけねばならない自体だった。

だから、我慢した俺。誰か褒めてくれてもいいんじゃないかね?


「ああ、お前様の母御も同じ顔だと言っておったの。そのフレイお兄ちゃんとやらは母御の双子の兄だったかの?確かに、ここへ呼ぶ訳にもいかんか…」

「うぇー…なんでこんな自体に…」

「諦めて行くしかねーって!ファイトッ!!」

「「…っち」」

「なぜ舌打ちしたーーー?!」


他人事だと思いやがってっ!みたいなことを2人から言われ責められたが八つ当たりだとわかっているので受け入れてやる俺。

まあ、本当に気の毒だとは思ってるよ。そのモンスターごっさ怖いから俺は近づきたくないし。


「あ、そう言えば、もう討伐されてるかもしんねーぞ?さっきもあったが、あそこの軍は強いから災害指定級でも討伐しちまうぞ?」


行っても無駄足の場合があるからわざわざ声をかけてやったのだが、その点は心配ないという。なぜかと問い直すと、


「だってそいつ、レベル90越え、もしかしたらカンストしてるかもしれないもの」

「………」


そんなん2人で討伐できる実力があるなら人魚もある程度は余裕だろうよっ!!

そんな、俺の心の叫びは、やはり俺の心の中だけに留めておいたのだった。

聞いててよかった話ww

これ、聞かずに行ってたら終わってましたよねww

あまり描写してませんが、九尾はかなりの美人さんです

別に、そう化けてるわけじゃなくて、素で人間に化けたときの状態がそれなんです

さらにちなみにですが、ノアとルシウスもやっている六カ国同盟のうちの一国がこの人魚国ですw

恋愛対象は女だけど、美しかったらなんでもオッケーな国ww

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