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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
女神の野望 準備編
123/157

迷惑の塊

パチンッ!

朝焼け前の静かな部屋に小さな乾いた音が響く。

最近、昇る時間が遅くなってきている空は黒一辺倒で、現在時間をわからなくしていた。

「……やっと起きたようじゃの、主さん」

そのアクアが指を鳴らした音で九尾は目を覚ました。

「ん。あなたも最後には眠っていたじゃない?」

けど、寒さは凌げたよ?ありがとう、と着物を構成しながら微笑むその姿はとても現実感がないほどに神々しく、見る者に感嘆の思いと同時に恐怖を否応なく与える。

「…?九尾?」

アクアが首をかしげる。着物は構成が終了したらしく、もう光を発していなかった。この状態まで落ち着けば、敏感なものでない限り普通の美少女にしか見えないだろう。最近は少量の魔力を解放するなどして生気がないことを誤魔化す術を覚えてきているのだし。ただ、これは魔力操作に長けたアクアだからできるのであって、少しでも出す魔力の量が多いとやはり恐怖を与える存在として見られることになる。

「…なんでもない。お前様は暑さ寒さを感じんだろうなんて思っておらん……さて、その場所を探しに行く方法じゃが、思いついたかの?」

前半の言葉に不機嫌なオーラを感じた九尾が慌てて問えばアクアは待ってましたとばかりにドヤ顔を浮かべて親指を立て、九尾に向ける。

「人に聞く!!」

「……」

九尾は頭を抱え、ため息を噛み殺しながら、神に祈った。

ーーこの子に学習能力を与えてやってください!!

このとき、九尾には余裕で想像できた展開が現実のものとなるのだが、当然のようにアクアには想像できていないのだった。



俺の朝は早い。

朝、この季節だとまだ日も昇っていないような時間帯から火を灯し、働きださなくてはいけないのだ。

しかし、不満はない。それがベーカリーマズヤの主人である俺の宿命、俺がこの町の朝食を守っているのだから、当然の義務なのだ!!※この人はモブです

火を厨房の油皿すべてに灯し終えた俺はその未だに火を持つ木の棒を窯に投げ入れた。たちまち火が他の薪にも燃え移る。俺の一族は魔法使いがいないので、高い魔道具で灯した火は貴重だ。さらに言えば、蝋燭もそんなに数がないから油を使う。要するに貧b…いや、そんなことはない!この店は大人気店なのだ!!


カランカラン…


その時ちょうど店のドアが開く音がした。よしよし、今日もうちは繁盛し…て?

俺は厨房の窓から外を見る。まだまだ暗く、とても人が活動する時間じゃない。当然だがうちはこんな時間から開店などしていない。

誰だ?コソ泥か??

フッ!このマズヤ様の店に盗みに入ったのが運の尽きよ!返り討ちにしてやる!

俺は胸のうちだけでそう叫び、近くに置いていた鉄パイプを掴んだ…って、え?なんでうちの厨房に鉄パイプなんておいてんの?!

…まあ、その疑問は後で解消だ!俺は覚悟を決めてヘッピリごs…もとい、力強い足取りで店のほうへつながるドアを開けた。


「うーん?ここもまだ開いてなかった?」

「む?ドアは開いておったがの?」

「九尾が触れた途端、鍵掛かってても解錠されるじゃない」

「かかっ!そうじゃったかの?」

「そうよ、鍵知ってたことに驚きだよ」


暗い店内にいたのは妙齢の女とその女の胸くらいの身長しかない少女の二人だけだった。この場合、女が高いのか少女が小さいのか。女はおそらく俺よりも高いから女が高いのか?話し方から予想される年齢よりも少女は小さいかもしれないが…

俺がのんきに思考できていたのはここまでだった。俺の気配に気づいたらしい二人が振りむくまでの、刹那ともいえるごく短い時間。


「それはちょっと失礼じゃの……あ」

「ん?…ああ」


先に振り向いた女の眼は、黒と金に、

少し遅れて振り向いた少女の眼は蒼く、光っていた。


ガラン…


どこか遠くで鉄パイプが地面に落ちる音がした。そして、情けないことに膝が笑ってやがる。


「人、いたんですね。ちょうど良かったです」

「主さん、この男バカっぽくないかの?いいのか、この男で」


何か言っているけど知ったことじゃない。それどころじゃない。目が光ってる、半端じゃない魔力を魔道士でもない俺でも痛いほどに感じてる。

はは、化け物に、会っちまったよ…

命運が尽きたのは、俺でした…

下肢にじんわりとぬくもりが広がるのを感じながら、俺は意識を手放した。



「…え、どうしよ。死んじゃった?」

「いやいや、主さん。まだ辛うじて生きておる」

「ほぼほぼ死んじゃった?」

「まあ…この現場を記録媒体に保存すれば…社会的には死ぬじゃろうな。下肢を濡らしておるしのう」

「カシ?…ぅええ……おもらししちゃったの?」

「…こんな男を見てやるでない。もとをたどれば主さんが魔力暴走を起こすから悪いのじゃ。そんな魔力を感じたら恐怖も沸くじゃろうて」

「それこそもとをたどってなぜ私が魔力暴走を起こして魔力垂れ流し状態になったのか、そのご立派な胸にでも手を当てて聞けば?」

「…まあまあ、そう怒るでない」

「もういいわ、ここは。放っておいて次、行きましょ」



「お、もう日が昇るのか」

俺は外を見上げて頭をかいた。紫、青、黄、橙、赤とグラデーションを浮かべる空はとても美しい。しかし、今日の客入りが結局三人だけだったのが不満だった。この空になれば今日はもう閉店、また夜に開店だ。今日こそ、繁盛すれはいいが。

「うちの一族は商売に向いてないと思うんだよな…」

名前がだめだ。マズヤって。居酒屋やってても繁盛するはずがない。そんなの、医者の名前がヤブってのとおんなじくらいないわ。

店を適当に片づけ、明りをすべて消す。すると窓の少ないこの店内はほぼ真っ暗になった。

「さてと、帰るべ」

荷物を持って自宅に帰ろうとドアに近寄った時だった。


バン、ゴッ!!!


「~~~~っ!??」

いきなりすごい勢いで開いたドアがあれの脳みそをシェイクした。

ぐわんぐわんしながらその場に頭を抱えて座り込むと、まさかの第二波が。


ゴンッ!!!!


「あー、もう!!なんかあって入れないんだけど!!」

「主さん、それは人じゃ。とりあえず、ドアを押しあけるのをやめ、引いてみたらどうかの?」


そんな声が近くーーおそらくドアの向こうだろうーーから聞こえてくる。その後ろからは…人の叫び声?狂喜したような声が無数に聞こえていた。

その間にもガンガンドアで殴られ続ける俺。そろそろ死ぬ。


「引く?!あ、引く!!」


ようやく押しあけることを諦めてくれた声の主はドアを引いて開け、店内に入ってきた。外の光が一瞬入り込み、俺の視界に外の光景が映る。

死ぬもの狂いで走る、何か。

もはや狂ってるとしか言いようがない人間とか獣人とかの男女がこちらに向かって走ってきている。

しかし、見えたのは本当に一瞬のことで、もう一人が入ると同時にドアをさっと閉め、また店内は暗闇に包まれる。


「もー!魔力を抑制した瞬間に追われだした!!抑制するように言った九尾が悪い!!」

「おいおい、主さんよ。あんまりなことを言うもんじゃないぞ?お前様も抑制には同意したではないか」

「だって、誰がこんな、ギルドでのできごとの再現みたいなことになって予想できるのよ!!?」

「…はぁ、お前様以外になら余裕でできるじゃろうよ」


入ってきて早々に喧嘩をおっぱじめる二人。

てか、人の店ですんな。表でして来い。

って、言いたい!言いたいけど意識が朦朧とするっ!!

「おい、お前らちょっと静かにしてそこで待ってろ!」

「は?なんでですか?」

取り敢えず治療しようと思いそう声を掛けるとちっさい方がそんな返答をよこしやがった。

「お前ら外のに追われてんだろうが!それで入ってきたんだろっ!?俺はこれがいてーから冷やすもん持ってくんだよ!」

「は?おい、主さんよ。あの男、ここで匿ってくれるそうじゃぞ」

「…運が良かったね…私たち…」

嬉しそうというよりは保うけたような声のあと、ちっさい方がとことこと近づいて来て俺の手を取る。

「な、なんだよ?」

「屈みなさい」

なぜ命令っ!?

そんな疑問を感じつつも屈む俺。もうダメかもしれない。優男過ぎてw

「麗麟、できるよね?」

「は?何?」

「独り言だよ」

それだけ言って俺の腫れ上がった額に触れる。するとそこから柔らかい、優しい暖かみが広がった。

「な…お前何やって…」

「魔法じゃよ。集中させてやってくれんか」

俺の問いに答えたのは大きい方だった。

集中…魔法?ウチの一族には魔導士なんでいないからよくわからなかったがどうやらこの2人は魔導士のようだ。

しばらくすると痛みが引き、晴れも引いていた。

満足そうな顔でちっさい方が手を引き、大きい方の側まで行く。

「じゃあ、少しの間だけいさせてもらうね」

「恩にきる」

「……しゃあねぇだろ。全く…お前ら魔法使えんなら明かりくらいつけろ!昨日のあまりもん食わせてやるから」

声をかければすぐに煌々と明かりが灯る。…ああ、いつもよりも明るいと思ったら光玉そのまんま浮かせてんじゃねえか…何者なんだこいつら

つい、光玉に手を伸ばすとちっさい方…明るくなってわかったが鮮やかな蒼い髪の少女が楽しげに声をかけてきた。

「勇気あるねー!それ触ったら爆発するよー」

「んな危険なもん浮かせんなっ!!」

慌てて手を引く。なんでも少女のオリジナルなんだそうで…お前…オリジナルは一流魔導士の証じゃねーか!

呆れながら厨房に向かう。明かりは厨房までついてきた。どうやら、複数出せるらしい。マジで何者?

俺はあいつらのために昨日に仕込んでいた料理を作って行ったのだった。


「別に食べ物いらないけどね」

「まあ、美味ならいいんじゃないかの?さっき行ったパン屋は不味いぞ」

「ああ、そんな感じはしてた。まあ、魔力の補充になるから助かるけどね。何処かの誰かさんのせいで結構な魔力ーーと建物一個ーー消費しちゃったし」

「む…まあ、とにかくしばらくは匿ってもらおうかの」

「そうね、ついでに聞けるし」

明日へ続くw


パン屋と居酒屋の間には数時間のラグがあります

その間に魔力の制御を取り戻していたんです

なぜそれを失ったかはご想像にお任せします

ただ、彼女の家訓は出来る時に全力で、ですww

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