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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
新しい生活
108/157

図書館騒動

案外いけました

やっぱり壊れてはいるので時々飛ぶかもですが、ごめんなさい

謝罪として、ちょっと長め

アクアとアイルは適当に食事をとった後、図書館へと向かっていた。

もともと好き嫌いのない二人の食事は簡単だ。アイルがまじめなので食べなかったり手を抜いたりすることはないが、アクアはそれまでの生活のせいで食べる量がすごく少ないし、アイルもそう多くはない。必然的に、二人での食事となる平日の昼食はおざなりになる。今日の昼食は食べる前にしていた勇者の話を二人とも気に入って話していたことからいつも以上に関心が向かず、サンドウィッチとサラダに野菜ジュースとなっていた。一応、すべてアイル作ではあるが、調理時間はごく短い。まあ、そんなことを気にする二人でもないのだが。

「今日は何の本を借りられるのですか?」

アイルが楽しげに尋ねてくる。もともと読書家であるアイルは異世界の書物に惚れ込み、毎日のようにアクアに付き合ってここに来るのを楽しんでいる。そして、二人でこの図書館の書物をほぼ読みつくしてしまっているのだ。お互いにお勧めの本を教え合い、効率的に面白い本を消化していっている。ちなみに、アクアがSFやファンタジー担当、アイルが恋愛やミステリー担当である。

「うーん…ここのファンタジーはもうほとんど読み切ったんだよね…」

「新刊入荷してますよ」

少し悲しそうにぼやいたアクアの台詞に答えるように聞こえた声。二人が振り向いた先にいたのはここの司書の高橋だった。いつの間にか図書館の前に着いていたようだ。そして、二人に気づいて出てきてくれたらしい。

「高橋さん、こんにちは。新刊ですか?」

「こんにちは、アクアちゃん、アイルさん。うん、新刊だよ。君の好きな、十二国記シリーズの。遅くなってごめんね」

「わあ!本当ですか?!あれはもう完結しているものだとばかり…ああ、この間言っていた、挿絵も入っているものですね!?」

珍しく顔を輝かせて年相応に笑うアクアに自然とアイルと高橋の口元も緩む。そして、お互いにそれに気づいて笑い合った。

「?何ー?」

「なんでもないよ。さあ、寒いだろう?入ろうか」

不思議そうに首をかしげたアクアを催促して入っていく。

入ってすぐに何人かの職員の人に話しかけられ、挨拶をしていたアクアのもとに近づいてくる影があった。

ガバッ!!

「うあぁ!??」

いきなり後ろから抱きつかれ、そのまま抱きあげられる。いかに筋力が高いといっても、幼い身体には違いなく、さして抵抗することもできずにそのまま後ろから頬釣りされた。アクアの背中をぞわぞわとうすら寒いものが走る。

「見つけたー!!!」

そして静寂が支配する図書館中に響く変に裏返った甲高い男の声。その耳障りな声に誰もが鳥肌を立て、顔を顰めた。しかし、突然すぎる事態に呆然と立ったまま、アクアを救出するといった行動に出られた者はいなかった。

「やぁ!はなして!!気持ち悪――」

「気持ち悪いなんて、ひどいことを言わないでくれよー、アクアちゃーん」

甘く、聞いたものすべてに不快感を与える声をアクアの耳元で発しながら、男はアクアの手足を固定用バンドで拘束していく。アクアは耳元で感じた男の荒い息遣いと声、そして匂いに嘔吐感を感じ、青い顔をして、手足に力が籠っていなかった。そして、皆が呆気に取られている間に、男は図書館の自動ドアを潜る。

「っ!?アイルさん!!」

その瞬間、ハッと事態の理解が追いついた高橋により、アイルも不測の事態に対する対処を思い出す。これでも一国の王を支える執事である。そのくらいは身にしみている―――はずだった。しかし、ノアがあまりにも強すぎてそれを行ったことなど一度もないし、むしろいつも守ってもらっていたから他の職員の人たち同様、呆けてしまった。

「アクア様を離しなさい!!」

叫び、男に突進するような勢いで頭から向かっていく。そして男の一歩前で止まり、回し蹴りを放つ。

しかし、一瞬にやっとした男はあろうことか手足を拘束されて動けないアクアを盾にして見せた。

アクアの頬に当たるぎりぎり前で何とかアイルのかかとが止まったが、おそらく受けていてもさほどの怪我にはならなかっただろう。麗麟もいるのだし。だから、アイルはそのまま蹴りいれるべきだった。アクアの身体は耐えられても男がアクアの身体を持ち続けられるような威力ではないのだから、入れてさえいれば、アクアを男から解放することができていたのに。

しかし、結果として入れなかった。アイルが次の行動を決めかねている間に男はアクアを抱いて図書館を出て行ってしまった。

「っ!!アクア様!!槍を―――」

言いかけて、アクアの現在の状況を思い出す。

生物以外には魔力を流せない現状。

神器である槍も解放させられない。

できたとしても両手足を拘束されている。

そして―――魔法が使えない。

「緊急時には魔法が使えるって説明だったじゃないですか!??」

アイルは男を追いながらここにはいないアクアを封魔した本人フレイアに半ばキレ気味に問う。もちろん、それに返答はない。

今、アクアが魔法を使えないのはフレイアの話が嘘だったからか、今の状況が神々にとっては危機的状況ではないからか。

アイルには判断がつかなかったが、とにかく見失わないように追いながら信愛する主に魔法道具で連絡を取った。


俺はどうしたんだ。

――――わからないの?私よりも年上なのに

あの日から、俺はおかしい。

――――要するに、迷惑で、うっとおしいって言ったのよ

俺は決してMではなかったはずだ。

――――もう諦めなよ、変態さん

なのに、なんか、あんないい感じの笑顔で言われたら

――――男のくせに男に好意を持つ人、私、一番嫌い

なんか、よかったじゃねえかーーー!

別に、あんなことを言われていたいわけじゃない。俺はいたって正常なので、きちんと腹は立つ。

しかし、年上の、身長が70センチ以上も離れている男を相手にあの態度…

気になるのも仕方がないってことだ!!

それに、十人いたら全員が振りむいた後、もう少し成長すれば、と五人は思うであろう美幼女である。

気にならないって方が嘘になる。

まあ、転校してきたのあとかいう奴もかわいいけどさ。

あいつは十人いたらとりあえず全員が二度見するレベルだな。

それに、俺には意味のわからない、これがあってよかったね、という台詞も気になる。

それまでは完全優位に立って、高圧的に対応していたくせに、フッとその雰囲気を和らげ、悲しげな顔をしたのだ。

なんだそのギャップ!!反則だろーー!って話である。

そんな俺は受験が終わり次第学校なんて時間を拘束されるものには通わず、アクアという俺の天使を探している。

彼女は毎日、図書館にて読書をするのだ。

ファンタジー小説をメインで読んでいるようで、笑えるところではクスリとあたりに気を使いながら静かに笑い、ドキドキするところでは手を握りあせった表情をし、泣けるところでははらはらと泣く。

そんな彼女を見ているのが好きで、俺が学校を休んでまでするのはそれだけだ。

まあ、人によってはアクアは涙を流していても無表情で、変化はあまりしないとか。

惚れた欲目かー??

とにかく、今日も俺は学校をサボって天使(アクア)を探しているのだ。

そんな時、


「離せこの変態っ!!本当にっ!!キモいっ!!」


どこかから半ば悲鳴のような怒号が聞こえた。

しかし、最後の言葉がしりすぼみになっていたことから、どうやら車などに乗せられたらしい。

「…ん?今の声…もしかして??」

一瞬流しそうになったが、今の声はとてもアクアのものに似ている。ずっと抑揚の薄い声だけを聞いていたからイマイチ繋がらなかったが、あの綺麗な響きの声がそうそうあるはずもない。

そう思い、騒いでいた方向へ視線を向けるがそれなりの人たちが野次馬になっていて見えなかった。俺は舌打ちをして野次馬に後ろから蹴りを入れる。

「てめぇら見てるだけならどけっ!!」

殺気を含ませた声に怯えたのか柄の悪い高校生と関わりたくなかったのかはわからないがすぐに人1人が通れるくらいのスペースができた。俺はそれを躊躇いなく進み、

「…やばいんじゃね?」

後部座席にアクアを乗せて小太りで多量に汗をかいたおっさんが連れ去って行く現場が見えた。

とりあえず、ナンバープレートを写メり、隆太に送信する。

「……俺の天使を攫うとか…絶対許さねぇ…」

俺は背中の鞄からノートパソコンを取り出して誰にも教えていない特技をしようとしたーー

「アクア様ーっ!!」

が、そのタイミングで道の向こうから先日俺をぶっ飛ばしてくれた燕尾服の女がかけて来た。そして、その頭には前の時のような帽子はなく…

「…っち!あっちが先か??!」

俺はパソコンをもう一度鞄に直し、半泣きの燕尾服の女の元へ向かって走った。

一刻も早く、こいつを野次馬の傍から離さなくてはならない。とりあえず自宅に帰った方が俺もやりやすいので連れて帰ろうと頭の中で結論付ながら、俺は走り去った車を悔しげに見て涙を流し始めた女の手を取った。


それは、午後一の授業、自習の静かすぎる教室でうつらうつらしていた時のことだった。


「っっっにゃぁーーにをやってるかこのバカっーーー!!!」


隣の席から怒号が聞こえた。


「は?何?どうした?のあ??」

「隆太っ!!行くよ!!」

「は?えっ、ちょ!!」

戸惑う俺や教師に何の説明もなく、荷物も防寒具すら着込まずにノアは俺の手を引いて教室を駆け出した。

「ノアっ!?何?何かあったのか??!」

廊下で堪らず問うとノアは焦った表情をしながら俺をキッと睨み、説明してる時間はにゃいっ!と叫んだ。そして、ずっと俺の手を掴んでいるのとは逆の手に握り込んでいた黒くて薄い黒雲母のような石を差し出す。

「これ、耳に当ててっ!!」

「ん?ああ」

「*********!!!」

俺が受け取り耳に当てると俺には聞き取れない何かをノアがすごい速さで呟いた。それも焦ってか声が大きくなり叫んでいるように聞こえる。


『ノア様っ!申し訳がございませんっ!!!』


ノアの謎の叫びが終わるなり石からアイルの声が聞こえた。

もしかして、さっきの魔法の詠唱か?

うわ、めっちゃファンタジーなもん見ちゃった。

そんなくだらないことを考えていられたのもここまでだった。

続く一言で俺の頭は真っ白になる。


『アクア様が突然現れた男に攫われましたっ!』


「は?…の、ノア?」

「聞いての通りにゃっ!!急ぐにゃよっ!」

アイルの話には状況の説明もキチンと入っていた。

『手足を拘束されている様子でしたが、おそらくそれは落ち着けばご自身で外されるかと思います!しかし、かなり混乱なさっていましたので、それまでに少々時間を要すると思います!申し訳がございませんが、各地に散って頂いている王の方々と連絡を取り、捜索して頂けませんかっ??!』

しかし、ノアはおそらくここまで聞いていないのだろう。朝俺に見せた笑顔など影もなく、焦りと怒りで顔を歪ませていた。

「ノアっ!アイルが王に連絡とれって!この辺りにいっぱいいるんだろ?!協力してもらえよっ!」

俺が速すぎるノアの前に必死になって回り込み、肩をつかんで目線を合わせる。ノアはイマイチ焦点があってなくて、黒曜石みたいなデカイ目を溢れそうなくらいに濡らしていた。

「〜っ!!ノトっ!!」

ノアが手を大きく振るとその指先から黒く光る魔法陣が現れる。それはそのまま宙に床と水平になるように浮き、安定する。どうやらこれが先日話題になっていた陣保存のようだ。言われてみれば、確かに前の転移魔法陣よりもずっと複雑で精密な模様になっている。

『…にゃに?』

やがて陣の上に降り立つように黒猫が現れる。先日、ノアの頭の上で寝ていた猫だ。

「アクアちゃんがっ!いにゃくにゃっちゃったにゃ…!!……どうしようっ?!」

『とりあえず落ち着くにゃ。ルシウスに伝えてやるから。で、ルシウスに連絡を回させればいいだろ?しゃあねぇな、ウチの姫はよ』

ノアはノトを見るなりボロボロと涙を零してしまい、それを見たノトは徐々に口調と身体を変えて行く。

黒猫から、黒豹へと。どんどんその身体を巨大化させていく。

「…アクアちゃんににゃにかあったら…どうしよう、どうしよう…!!」

『わかった。わかったから、泣くなよ、な?俺がなんとかしてやるから。お前はお前にできることをしろよ?どうせ何もしてないなんて、耐えられないんだろう?』

「う、うん…!!ノト、ありがとう!!」

『おう。しゃあなしだからな?まあ、そんな顔見せられて大人しくしてやれるほど、俺も大人じゃねぇってこった。お前は占いでもやってろ』

「うん!そうするしかにゃさそうだにゃ!!私は、私のできることをするっ!」

忽ちノアの顔が明るくなった。

というか、なんなんだこの猫…

『おい、そこのお前。誰だか知んねーが、ノアのこと頼んでいいか?こいつ、自己防衛はきっちりできるから、暴走しねーようにだけ見ててくれりゃいいからよ』

「え、は、はい!」

急に話を振られ、驚きながら返すと黒豹はその獣な顔なのに伝わるほどニヤリとかっこいい笑みを浮かべた。

『頼んだぜ、少年。ウチの大事な姫なんだ』

後の言葉の時に慈しむような目をノアに向ける黒豹。ノアは少し頬を赤らめていた。

『そんなに泣くな。俺を信じるだろ?』

「うん…ん、」

最後にペロリとノアの頬の涙を舐めて、陣と共に姿を消す。その頃にはノアの顔は真っ赤になっていた。


………え、猫?

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