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いきる、なう  作者: ねこうさぎ
新しい生活
103/157

四日目

「短い期間ですが、よろしく」

そう言ってにっこり笑う、と同時に黒いショートカットがフワリと揺れた。真っ黒な大きな目でクラスメイトを見渡し、俺を見つけるとさらに笑顔を輝かせる。

既に短くされている白いブラウスにリボン、カーディガン、ブレザーを着込み、チェックのスカートにオーバーニーソックス。黒いローファーを履いて、完璧にこちらの人間になり切る、猫。

クラスメイトたちはノアの可愛さに目を爛々と輝かしていた。すでに何人かは惚れている疑惑がある。さらに、何人かは動画の人物だと気づいていそうだ。

「えっと、確か、両親ともに日本人なんだよな?帰国子女ってやつだ。まあ、こんな時期だし、今転校してきても、卒業まで殆ど自習なんだがな。仲良くしてやってくれや。えっと、席は…不登校のやつのが空いてるわ。どこがいい?」

実は不登校の生徒人数ナンバーワンを誇る我がクラスは結構な数の席が空いている。だが、ノアは迷いなく先生に告げる。

「先生、説明は受けてると思いますが、両親は仕事の都合でまだこっちに来てなくて。私は今、岡崎君の家にお世話になっています。学校のこと、何もわからなくて不安なので、知人である彼と行動を共にしたいのですが…」

「お?おお、そうだな。じゃあ、教科書とかも全部、あいつに見せてもらってくれ。いいなー?岡崎ー?」

なんか、勝手にドンドン話が進んでるし。

俺の席の隣もバッチリ不登校の生徒の席だから空いてるしっ!!

「おっと。お前、自己紹介してないじゃないか」

「わぁ。忘れてました」

てへ☆とでも言いそうなくらいに軽いノリででっかい化け猫を被った猫は言う。

「兎塚のあです。どうかよろしく」


「どういうことだ?」

「君のお父さんが手配してくれたにゃ。権力ってすごい」

「そこを聞いてんじゃねぇ。いや、そこも聞きたかったけれども」

「あ、名前?アクアちゃんにいって貸してもらったにゃ」

「そこでもねぇっ!!てか、借りれんのかよ!!じゃなくて、耳だよ、耳っ!」

俺は左隣の席に向かって少しキレ気味に小声で叫ぶ。我ながら器用なものだ。何せ、授業中なもので。センターが近いから自習だけど。

というか…窓際だった俺の席が…隣の席のやつが出来ちまったよ…

そんな、俺から集中できる学習環境も窓際の席も奪ってくれた黒猫さんは首を傾げて黒髪をイタズラに流すだけだった。

そう、黒髪を流すだけなのだ。

「おっきい三角の耳、どうしたんだよ?!」

「ああ、あるにゃよ?」

俺の問いに答えたノアは俺の手を取り、自身の頭へと導いた。

さわっ

「×7.°1]=1=!?」

「おい!岡崎っ!!静かに自習しろ!」

「す、すみません」

謎の奇声を上げてしまったことを謝罪しつつ、俺はノアの頭をもう一度よく触って見た。

とても触り心地のよい、ぶ厚目で摘めば少し弾力のあるものが、そこにはあった。

しかし、目視はできない。

「こ、これはどうなってるんだよ?」

これが何度も摘まんだり撫でたりしているのがこそばゆいのか、目を細めて心なしか頬を赤くしていたノアが力の抜けた声で応える。

「…ぅ……せ…つめいする…から…いい加減…離す…にゃあ…」

いつも余裕そうなノアがこんな態度を取るのが面白く、恐らく耳の内側であろうところを指の腹で擦ってみた。

「うにゃうっ!!」

「おいっ!そこー!静かにしろ!!」

「「すんませーん」」

甲高い声を出したノアに先生の叱責がまたも飛び、俺とノアは同時に謝罪を述べた。

視線を戻すとノアが涙目で睨んでいる。

「…やめろぅ…うぅ…」

「…わりぃ」

手を離してもなお嫌そうな顔で見えない耳をいじるノアに改めて質問。

「で?それはどういうことなんだ?」

ノアは恨みがましそうな目を俺に向け、

「うぅ…王様になってからアイル以外に怒られたことにゃんて一度もにゃかったにょに…」

と言ってから説明をしてくれた。

「幻惑魔法にゃよ…名前から、大体わかるにゃろ?見えないはずのものを見せ、見えるはずのものを見せにゃいにゃ。ただ、見えにゃいだけで、そこにはあるにょだが」

「それは闇属性ってことか」

「そうにゃ。悪かったにゃ、アイルじゃにゃくて」

「…そ、そんなこと思ってないって…」

思わず目が泳いでいるとノアにジト目で睨まれた。

何でわかったんだ。まさか、こいつもテレパシー持ってんのか?

確かに俺はこいつが教室に入ってきた辺りからずっと、学校に学びに来るのなら、アイルにしろよ!と思っていたのだ。

だって、花菜は年齢的にうちの学校じゃ無理だしーー小学校もまだか?ーールシウスもおっさん過ぎる。合うならノアかアイルだがーーどちらも16にしか見えないがーー常識があるのはアイルの方だ。ならなんでアイルで来ないのか。

なるほど、魔法の問題だったのか。

まあ、日本にはノアの黒髪黒目の方が馴染めるっていうのも理由の一つだろうが。

「残り3人はどうしてんだ?」

「ルシウスはノトと一緒に今日も仕事中にゃ。最近、他の王たちにノトを貸したままだから、夜寝る時がさみしいにゃ…アイル抱っこしてるけど」

なんだ最後の一言。そう言えば初日に見た猫、いつの間にかいなかったな。

「花菜とアイルは?」

「アクアちゃんとアイルは図書館にゃ。ちょっとした都合で、アクアちゃんの発想を広げることににゃって、お父さんに相談したら本を読みなさいって」

なるほど。読書好きの父さんなら言いそうだ。

図書館か。アイルがついてるなら、大丈夫かな。

「じゃあ、帰りに迎えに行くか」

「ん、そうするにゃ」

頷くノアを見ながら俺はそう言えば、とさも今思いついたように切り出した。

「お前ら、パーティ組んでたんだろ?前衛とか、いなかったの?」

何と無くアクアに深く追求できなかったこの疑問。ノアからなら、より詳しく聞けるだろう。アクアからは2人いたことしか聞いてないし。

さり気なさを装ったはずだったのにノアはニヤッと笑ってしまった。どうやら俺はわかりやすいらしい。

「それ、気になるにゃ?」

「まあな」

誤魔化して聞けなかったらそれこそ目も当てられない。ここは、素直に聞いておくべきだ。

「ふぅん…ロリコンかぁ…」

「…っ」

なんとも聞き捨てならないことを言われたが、我慢我慢。

ノアはひとしきり笑った後、話を始めてくれた。

「前衛は基本的に、麗麟ちゃんとリコちゃん以外の全員でやってたにゃ。ウンディーネちゃんも精霊なのに近接戦闘に慣れてて、私やアクアちゃんも自分の身くらいは守ってたから。けど、基本的にはアクアちゃんのことは白愛ちゃんが守っていたにゃ」

「白愛?」

パーティメンバーの名前を聞くのはこれで2回目だ。まだ覚え切れてはいないけど、白愛という名前には該当する情報があった。

俺の表情を読んだのか、ノアは静かに頷いて悲痛そうな表情を浮かべた。

「アクアちゃんの、親友。白愛ちゃんと麗麟ちゃんにゃ。聞いたんにゃろ?2人はアクアちゃんを守って…死んだにゃ」

「……」

親友。死。

その言葉の重さを、俺は正しく理解できるだろうか。

花菜はどれほど辛い思いをして、今、こうしてここに来たのだろう。

「……アクアちゃんが立ち直れたのは、ルイードくんがいたからにゃ」

「…ルイード…くん?」

初めて出てきた男の名前。復唱するとノアはうん、と頷いて、少し笑った。

「こんな制服がとてもよく似合う、12歳の男の子にゃ」

言って、自分の着ている女子の制服を指差す。

「「……」」

ノアは黙って俺の反応を待っているが…

……なんて反応すればいい?

だって、ずっと気になってたパーティメンバーの男について聞けたのに、そいつに女装趣味があって、似合うんだぞ?!

なんだ、嫉妬しないためのノアの気遣いなのか??

しかも12歳っ!!幼いっ!!

いや、俺と花菜ほど歳離れてねぇから、羨ましいのか??

くそっ!わかんねぇ!!

「ルイードくんは剣士だったにゃ。アクアちゃんを拾った子にゃ」

「へ?」

「要するに、アクアちゃんが一番初めに会った異世界人にゃ」

そんな美味しいポジだったのかっ!!

なんてことだ!そいつは恋敵なのか?!違うのか!?

「満足したかにゃ?」

ノアがニヤニヤ笑いながら聞いてくる。俺は適当に肯定しておいた。

どうやら、花菜はおかしな人物としか知り合っていないらしい。



「くしゅんっ!!」

「どうしましたか?寒いですか?」

コートのフードを深く被り、顔の半分はマフラーに埋めていたアクア様に問いかける。繋いだままの手が手袋越しにギュッと握られたのがわかった。

「カイロ、交換しますか?」

家を出る時に頂いたカイロなる暖かい何かを差し出すとアクア様は首を横に振った。

「いらない。別に寒くないよ」

「ですが…」

「だいじょぶ。私のもあったかいから」

「…そうですか」

私は少し微笑み、また歩き出す。アクア様も素直について来てくれる。

昨夜、図書館に行くことが決定したと同時に奥様が衣服などを用意して下さり、岡崎宗太郎様は地図を書いて下さった。その頂いた地図によると、この辺りに図書館があるはず。

キョロキョロと探すとアクア様が手を引いてきた。

「なんですか?」

アクア様の方を見ると、手を繋いでるのとは逆の手を伸ばして何処かを指差していた。その方向を見ると

「あ、あれが図書館ですね」

ノア様のようなしばらくの知人といる時以外は基本的に無口なアクア様はコクンと一つ頷くだけで、歩き出さない。私が歩き出すとすぐ着いてくるので、疲れたとかではないと思うのだが。

…私は、まだ話して頂ける方ですよね。

酷い時は筆談までされると有名なのだ。会話してくれるのだから、私は馴染んでくれている方。

「そんなことないよ?私はアイル、好きだよ。ちょっと、考え事してて、無口になっていただけ」

「…読まれてしまいましたか」

思わず苦笑を漏らす。この人に隠し事はできないのだ。

「見つかるといいですね。それを破壊する方法」

「…ん。そだね」

私たちはそんな会話をしながら、図書館に入って行った。

ルイード、女装趣味と勘違いされる


ノアはあのクリスマスパーティーのことを言っています

やっぱり、あのインパクトはでかかったかなww

ちょっと暗くなるお話が一瞬でよくわからない話にwww


アクアたちはやっと動き出しました。

次回は一気に何日か飛びますよ?何せ、長いもので!!

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