三日目〜四日目
ごめんなさい、繋がりの関係で短めです
バンッ
「岡崎ーー!迎えに来たぞーー!」
「黙ってください。私がお話をするといったはずです」
玄関の扉が開く音と同時に高野の叫び声と花菜の落ち着いた声が聞こえてきた。
というか、迎えに来たって?
「…本当に覚えてにゃいにゃ?さっき、勢いに任せてなんでもするからうちに来るな、とか言ってたにゃよ?そしたら多分、相手がじゃあ、泊りに来いとか言ったんじゃにゃいか?隆太、承諾してたにゃ」
「え?マジ?」
隣のノアが言ったことが信じられず思わずアイルに目で問いかけた。アイルは静かに一つ頷き、
「だからこそ、アクア様はあなたを止めたのでございますよ?」
「…花菜……」
まさか、そんな理由があったなんて…
以後、感情のコントロールに努めよう。
「ーーーー!ーーー!」
「ーーー?ーーーーーー。ーーー、ーーーーー?」
「ーっ!?ーーー?!!ーーーーー!!」
「……ーーー、ーー?ーーーー?」
「ーーー!!!!」
なんか、口論する声は聞こえるんだが…内容が…
「おい、これ、明らかに花菜が高野をおちょくってないか?」
「…うーん、アクアちゃん、最近イライラしてたからにゃあ」
「ふふ、楽しそうな声ですね?」
猫二人は愉快そうな顔をして聞いているようだ。というか、大きな三角耳がピコピコ動いてる。絶対、俺と違って内容まで聞こえてる。
「なぁ、あいつら、何の話してんだ?」
我慢できずに聞くと、ノアがアイルを見て、アイルは黙って首を振った。
「…教えにゃい」
「え、なんでだよ?」
「知らない方がいいことも、世の中にはあります」
と、にっこり笑顔で言われた怖いです。
その後もしばらく口論は続き、時々高野の悲鳴と絶叫が聞こえるが特に(いや、努めて)気にせず俺は黙ってリビングに居続けた。
「王手っ!」
「え?あ、あー…」
呑気に将棋をしているオッさん2人の声だけがリビングに響く。
「王が王手取られてどうするにゃ、情けにゃい」
やがてそれにノアも混じり、さらに少しの時間が過ぎて行き…
「バカかってんだよ!さっさと帰れ!!」
そんな怒鳴り声の後、小さな舌打ちが聞こえた気がしたが、それよりもそのあとに妙にはっきり聞こえた声の方が耳に残った。
「よかったね?今私に封魔の首輪がついてて」
冷たい、0K(絶対零度)よりも冷たいその声に、高野はおろかリビングにいる俺ら全員の心が冷えた。
「………こっわぁ…アクアちゃん、めっちゃ殺る気だったんにゃね…」
ノアが苦笑しつつ言う。確かに、あの台詞ということは、アレがなかったら魔法を使っていたということだ。
「この台詞だけははっきり聞こえたのは何故でしょうか。意図的にではないと思いますが」
「冷た過ぎたからじゃないか?」
アイルとルシウスも続けて言葉の寒さから立ち直ったようだ。
もしかしたら、慣れているのかもしれない。
「なぁ、花菜って、裏では手が早い方なのか?」
表でも、両親を殺害した少女ではあるが、アレは両親の自業自得のような気もする。なんなら、正当防衛だ。それでも5年は耐えていたのだから、手が早いわけではないだろう。
「ああ、俺は初対面のときに鎖で首を締められたあと、呪いをかけられたぞ」
「へ?呪い??」
「私は森のモンスターを全滅させる勢いで倒して、その勢いで主にも喧嘩売ってるところで会ったにゃ」
「ああ、あの危険なって場面か?そんなんだったのか?」
「私は…よく知りませんが…」
アイルだけは首を傾げている。そう言えば、一番付き合いが短いと聞いたことがあった。
「えっと…ルシウスが一番酷い?」
「うむ。初対面で呪い、しかも、まだ解呪は受けてなーー」
「ちょっと待ってよ。あれはルシウスが悪いでしょ?まさか、反省してないの?」
いきなりリビングのドアが開き、ノンビリとした、それでいて責めるような色のある声が響いた。主に、ルシウスの心に。
「ち、違っ!!反省してる!してるぞ!!ただ、俺は事実を述べただけであってだなっ!!」
「ふーん?事実を述べただけなのに、呪いの内容も言わないの?あなたのためにかけたのに」
「お、俺は迷惑をしている!!」
「知らないよ」
呆れたように肩を竦めため息をつく。そんな子供らしくない仕草も似合うなんて、やはり美形は得だと思った。
「ところで、花菜。高野は?」
問うと花菜はにっこりととても黒く笑って
「お引き取り願ったよ」
と満足気に言った。
明日、学校で謝罪しようと思う。
「やっぱり、魔法が使えないのは不便だよ…」
「うーん、アクアちゃんに聞いた話だけを纏めるなら、フレイアちゃんはアクアちゃんに何かを求めているにゃ。それを達成……というか、それってもしかして?」
「はい。ノア様の予想が正しいと思われます」
「え?何?」
「……アクアちゃん、多分、フレイアちゃんは…」
四日目。
昨日は食べ過ぎた…
明らかに母さんがハシャギ過ぎてたんだ。
夕飯の量も異常だったのに、その後にノアたちが作ったケーキやクッキーがワラワラと出てくるし…食べなかったら心なしか花菜の目が悲しげに揺れるし…
まあまあ。かなり美味かったけどな。
そんなことを考えながらの登校。初めて、自分の足で歩いての登校だ。描写しなかった…というか、しようがなかったのだが、両親の俺の足が治ったと知った時の反応は凄まじいものだった。本当に大喜びをしてくれて、母さんなんてボロボロ泣いて…それを見て、本当に子供だと思ってくれてるんだなと、今更ながらに思った。
それもあって、母さんたちは花菜たちを心から歓迎しているんだろう。
この2日間ですっかり歩けるようになった…というか、花菜の魔法が凄すぎて治された時には歩けてたんだが、まあ、とにかく歩き慣れた俺は激しい運動はまだ無理だが、日常生活は問題なく遅れるようになった。
…俺が自転車に乗れないことには触れないで欲しい。今更練習するのも恥ずかしいので、生涯乗る気はない。
「え!本当に歩けてるー?!」
「じゃあ、あの動画ってガチなのか!!」
「いや、今までが嘘だったんじゃね?」
廊下を歩く俺の耳にそんな会話が聞こえてくるが…真偽の程は、俺以外は知らなくていいんじゃないかと思う。
それにしても…異世界人四人を家に放置でいいのだろうか…昨夜、父さんが自室に呼んで何やら話をしていたが…
「はよーす」
「おーす、岡崎ー」
「おはよー、岡崎くんー」
教室に入り、クラスメイトたちと挨拶をして席に鞄を置いたーークラスメイトも何やらヒソヒソとしていたが、気にしないーー俺は目当ての人物を見つけ、席に近づいた。ーーその時に、教室の外、もしくは階下の職員室がある方からザワザワとはしゃぐ主に男子の声が聞こえたがここでも俺はスルーしたーー
「はよ、高野」
「お、おはよう…岡崎…」
声を掛けると高野は目に見えて目を泳がせた。
…何を言われたんだか。
「悪いな、返信しなくて」
「い、いや、大丈夫だ。俺の方こそ、悪かったな、何度もしつこくして…」
本当に何を言われたんだ?こいつは封魔の首輪のことなんて知らないはずなのにな。
「…あ、あの…」
「?」
高野が急にドモッた。
何かと待つとドンドンと顔を赤くして行き…
「あの…女の子は…ど、どんなものが好きなんだ?お、お詫びにプレゼントを…」
「……」
惚れさせとるやんけー!!!!
と、謎の関西弁になってしまう程に動揺した俺は知らね、とだけ答えて席に戻った。
追いすがろうとした高野が席を立ったタイミングでチャイムがなり、俺は助かった思いで息をついた。
これで、考える時間は出来たな。
花菜が高野に何をしたのか、気になり過ぎて聞きたくねぇ…
「はーい、おはよーございますっと。えっと、いきなりですがー」
不真面目と名高い担任が入ってきて適当に連絡事項を告げ始める。それを聞き流しながら、俺はクラスメイトたちの異変に気がついた。
皆、なぜかソワソワしているのだ。
なんだろう、と思って担任の話にちゃんと耳を傾けるとあ、忘れてた、と言って教室の前のドアを開けたところだった。
「おーい、入っていいぞー」
「あ、はい」
…嫌な予感。
ここ数日で聞き慣れた声と共に教室に真新しい制服を着た異世界人が入ってくる。
「今日からウチに転校して来た生徒だー。まあ、仲良くしてやってくれー」
「三ヶ月だけですが、よろしく」
………マジかよっ!!
さあ、誰が来たでしょーww




