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誕生日には歌を  作者: 風花てい(koharu)
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誕生日には歌を 2

 

 弘晃も求めている情報を要が受け取ったのは、それから数時間後のことだった。背が高く筋肉質の女性と痩せた小男という取り合わせの夫婦探偵と待ち合わせたのは東京駅八重洲口側にある喫茶店。ひとつの巨大パフェを嬉しそうに分け合って食べていることもあって、全体的に仄暗い店の隅にいるにも関わらず、ふたりはかなり人目を引いており、要は迷うことなく席についた。


「いやあ、今回は調査の名目で遊ばせてもらったようなものだから」

 満面の笑顔で恐縮する男から差し出された大型の封筒と引き換えに、要が必要経費と調査費用入りの封筒を差し出す。もらった封筒の中身はかなり厚みのある報告書と写真の束だ。報告書の1ページ目に記載されているのは、要の依頼を受けて彼らが探し当て調査した場所の名前と住所だった。


「やはり、ここ、でしたか」

「あなたが最初に名前をあげたところでしたね」

 おかげで調査が楽だったと女探偵が笑い、調査結果をかいつまんで説明してくれた。

「詳しいことは報告書に書いておきましたけど。もはや捨て置かれている状態です。あのままじゃあ、どうしようもないですよ」

 探偵たちは、調査対象に対して非常に同情的だった。 

「それで、彼女は?」 

「いましたよ。話も聞けました」

 その時のことを思い出したのか、男性の探偵の方が目を潤ませる。 

「すみませんね。この人、可愛くて可哀そうな女性に弱いんですよ」

 女性の探偵の方が苦笑しながら要に詫びた。 


「それで、彼女のことなんですけど、冬樹さんには……」

「言いません!」

 内緒にしておいてやってほしいと要が頼むまでもなく、二人が声を揃えた。 


「それより、あなたは、この後どうするつもりですか?」

「それは、彼次第ですけど……」

 要はもらったばかりの調査書をパラパラとめくった。期待していた以上に彼らは詳細に調べてくれているようだ。しかも後から知りたくなるに違いない資料までつけてくれている。「ざっと見る限り、こちらをどうにかするのを最優先にすべきですよねえ」と要がつぶやけば、「そうなんですよ!」と、ふたりが勢いづいた。

「かばうわけじゃないですけど、彼にしてみれば捨て置きにできなかったんだ思いますよ。そこに、偶然ネギを背負ったカモがやってきた。だから、利用することにした。そんな感じだと思いますよ」

「そう! やむにやまれず! っていうか、手を貸さなきゃ、男じゃないですよ! 詳しいことは29ページあたりに書いておきましたから、しっかり読んでやってください」

「ありがとうございます」

 要は探偵たちに礼を言った。《彼》に対して、彼らが好意的な印象を持ってくれていることが、要は素直にうれしかった。


「とにかく、この場所については、いただいた報告書を参考にしながら、なんとかならないかを早急に検討してみます」

 要は彼らに約束した。《彼》が関わってしまった以上、ここは、すでに茅蜩館の案件だ。

「彼については……」

「うん? 彼については?」

 『この後人と会う約束をしているので……』と暇乞いを告げながら報告書と伝票を手に立ちあがった要を見上げて、探偵たちが固唾を飲む。

「彼の言い分と覚悟を聞いてから考えます」

 だけど、その前に一発殴ろう。勘定を払いながら心に決めると、要は、外に出た。 



 人でごった返している駅を抜けて丸の内側に向かうのは茅蜩館に帰るのと同じルートではある。だが、彼が向かっているのは、そのずっと手前にある菱屋商事の本社ビルだ。これから、菱屋の本社で会長と会うことになっている。会長と要とは、茅蜩館の中でも八重の居間でも何度も顔を合わせたことがある。建て替えのことがあってからは、菱屋の本社へも何度も足を運んでいた。しかしながら、本社で要が会っていたのは開発担当部署の社員でしかないし、会長から本社に呼びつけられるのも今日が初めてであった。要が電話を受けた時、会長は『大した要件ではないのだが』と言ってはいたが、『皆には内緒で来てほしい。特に八重さんには言わないように』とも言っていた。

「気が重いなあ」

 気も重いどころか足も重い。要件が予想できるだけに、尚更行きたくない。

「このまま帰っちゃおうかな」

 茅蜩館以上の重厚感を持つ本社ビルの入口を前に、要ができもしないことをつぶやいていると、建物内に見知った顔が確認できた。向こうも、こちらに気が付いたようで、回転扉のあちら側から、軽く手を振ってくれた。


「秋彦さん」

 寒い中で立ち話をするのも辛いだろう。要は、ためらっていたことも忘れて菱屋の中に入ると、駆け寄るようにして輝美の夫に近づいていった。

「うちのせいで、菱屋さんに大変な迷惑をかけてしまったのでね」と、秋彦がここに赴いた理由を話してくれた。そういえば、冬樹の記者発表の後、なぜか菱屋は『建築という表現の自由を弾圧する国策企業』の汚名を着せられてしまっている。過激な活動家が言っているだけのことだから無視すればいいと、茅蜩館にやってくる菱屋の社員たちは笑っていたが、武里グループにしてみれば、迷惑をかけたことを謝らないで済ますのは気が引けたのだろう。


「ところで、セレスティアルの社長に戻られたそうですね」

「厄介事を押し付けられただけだという気もするのだが」

 祝いの言葉を述べる要に、秋彦が苦笑を返した。 

「だが、他に引き受けても者もいないようだし、どうあっても潰したくない、信用を取り戻したい。そう願う気持ちなら、誰にも負けない自信がある」

「若造が生意気なことを言うようですが、秋彦さん以上の適任者はいないと思いますよ」

 ホテル業を立ち上げたのも急成長させたのも竹里剛毅だ。しかしながら、若い頃から現場にあって、スタッフと一緒にサービスの質の向上に努めてきたのは秋彦だ。彼は、誰よりも信頼されている。 

 

「協力できることがあるようなら言ってください。祖母も貴子さんも気を揉んでいるようですから」

「ありがとう。今でもおおいに助けられているよ。あのテレビ放送があった時に君たちの結婚式に出ていたおかげだな」

 

 そう。八重を育ての母親として育った輝美を妻とし浩平の戸籍上の父親でもある竹里秋彦は、あの日、要と橘乃の結婚式に参列してくれていた。そのため、秋彦も、あのテレビ放送を要たちと同じ部屋で見ていたし、同席していた視聴者たちの呆れっぷりも目の当たりにしていた。しかしながら、放送を見た直後の秋彦も、冬樹が発表したホテルの何がどういけないか理解していなかったらしく、不思議そうな顔をしていた。そんな秋彦にも呆れた茅蜩館の面々は、このままでは彼までもが世間の非難やマスコミの取材の餌食になるだろうと確信し、できるだけ彼がうまく立ち回れるようにと、その場で様々なアドヴァイスをした。事態の深刻さを理解した秋彦は、解任されていることなど忘れて、礼服姿のままホテルセレスティアルの本社に向かうと、重役たちを叱咤して直ちに対外向けの想定問答マニュアル作成し、それをホテルセレスティアルの全スタッフに徹底させた。また、彼は、その作業にあたる一方で、彼の兄弟にも同様の警告をした。


「うちのホテルの評判が、あの一件で更にダメージを受けたことはどうしようもないが、拡大は食い止められたとは思う。兄たちも君たちに感謝していた。君たちが助言してくれなかったら、それこそ『あの完成予想図は、向きが間違っていただけだ』と、うちの者の誰かがうっかりな言い訳をして、墓穴を掘ったに違いない」

「確かに、向きのことまでは、秋彦さんたちだけでは思いつきづらいですよね」

 今の帝都劇場は茅蜩館に対して横を向くようにして……つまり、より人通りの多い通りに正面口を設けている。しかしながら、「向きが違っている」と言い訳して冬樹のビルを今の帝都劇場と同じ向きにした場合、完成予想図では皇居に対して尻を向けていた建物が、こんどは塚に対して尻を向けることになってしまう。それはそれで…… いや、そっちの方が、よけいにまずい。


「気にされる方は、気にされますからね」

 隣接している中村物産などは、社内の全ての席が塚に尻を向けないように配置されているというほどの念の入れようだ。


「そのようだね」

「どうかしました?」

 ため息をつく秋彦に要がたずねる。

「あの会見の放送が中断された後なんだが、記者たちから突っ込まれた冬樹が、うっかり言い訳してしまったらしいんだ」

 『これは単なる完成予想図を描いた人間のミスであって、本来は現在の帝都劇場と同じ向きに建てる予定である』と冬樹自ら言ってしまったらしい。しかも、この話を間接的に聞かされたイラストレーター(冬樹が仕事を依頼しただけあって、売出し中の人気イラストレーターであったそうだ)が、責任を擦り付けられたことに怒り狂って、契約書や打ち合わせの時にもらった資料を振り回しながら『竹里冬樹は、間違いなく、あの向きで完成予想図を描くようにと、私に直接依頼した。彼は、とんでもない大ウソつきだ』と、取材に行った記者にぶちまけたそうだ。


「私が冬樹に警告しようとした時には、既に手遅れだった」

「それで、冬樹さんは、今?」

「とりあえず閉じ込めてある」

 武里グループ全体の長でもある上の兄の指図により、現在の冬樹は、ホテルセレスティアルの一室での軟禁生活を余儀なくされているそうだ。冬樹はもちろんのこと、彼の母親もこの処遇に怒り心頭であるようだが、彼女にせよ甘やかされて育ったお嬢さまの典型のような人物である。他人に対していくらでも高圧的になれるが、高圧的にされることに慣れていない。ゴシップ拾いの記者たちが、熱心に彼女の周りを嗅ぎまわり、彼女までもが世間からの非難の対象になりつつある今、すっかり引きこもっているという。


「じゃあ、セレスティアルリゾートは、誰が?」

「ああ。そちらも、今のところ私の管轄下にある」

 どうやら、《彼》の期待どおりに事は進んでいるようだ。


 だからこそ、要は、《彼》の兄として、まずは菱屋に謝らなければならない。冬樹の不始末を兄である秋彦が謝らなければならなかったのと同じだ。


 事実を知ってしまった以上、要が菱屋に対して素知らぬふりをするのは許されない。



*******



「浩平が…… 弟が、すみませんでした!!!」


 会長の待つ部屋に通され、勧められたソファーに座る前に、要は自分の膝と向かい合うほど深く頭を下げた。 

 

 橘乃に邪険にされたことでプライドを傷つけられた竹里冬樹による茅蜩館への数々の嫌がらせは、茅蜩館にしてみれば迷惑以上のなにものでもなかったし、茅蜩館にとってのいわゆる《悪役》が冬樹であったことは疑いようがない。しかしながら、ある者たちにしてみれば、冬樹が茅蜩館という持参金をつけられた橘乃に興味を持ったことは、彼に復讐するための絶好の機会でもあった。 


 新興企業の代表格である六条グループの創業者たる六条源一郎は、誰もが知っている親バカだ。彼の娘を泣かす者に加えられた容赦のない制裁は、彼女たちと同じ年頃の息子を持つ多くの企業人を震撼させたものである。『橘乃が選んだ者ならば誰でも』という六条家の娘にしては特殊な条件が付加されていたとはいえ、冬樹は、源一郎の娘のぐらい簡単にモノにできると慢心したばかりか、強引なアプローチで彼女を怖がらせ、源一郎を完全に怒らせた。


 その後の冬樹は、自分を拒絶した橘乃と茅蜩館を逆恨みし、執拗な嫌がらせを仕掛けてきたわけだが、結果的には、日本の経済活動を支えているといっても過言ではない多くの経営者やビジネスマンから贔屓にされている茅蜩館で醜態を晒し、武里グループの後継者を狙う彼の評判を著しく下げただけだった。

 

 とどめは、新しいホテルの記者発表だ。 過去の因縁から武里に悪感情をもっている中村のみならず、菱屋までも怒らせることになったら、武里系のホテルは上客を失うことになりかねないし、同グループの他の商売もやりづらくなるだろう。


 また、評判と信頼を重視する商売もしている者にとって、漠とした《良識的な一般市民》という存在ほど怖いものはない。どこまで悪影響が広がるかが予想しづらいため、経営者の方が過剰反応してしまうようなところがあるからだ。実際、武里の次男坊が計画していた有楽町駅前の複合商業施設の計画が、今回の冬樹の騒ぎのせいで暗礁に乗り上げつつある。次兄にしてみれば、それこそ『誰かの陰謀だ』と言い訳したいところだろう。だが、テレビ中継されていたおかげで、冬樹は発言の取り消しさえできない。そのため、武里グループは、全ての責任を冬樹ひとりに押し付けて事態の収束を図ろうとしている。経営者としての冬樹は、もはや終わったようなもの。少なくとも、しばらくは誰からも相手にされないだろう。全ては、冬樹の破滅を願った復讐者たちの狙いどおり。そして、その復讐者たちの仲間に浩平が加わっていることは、確実だった。


 状況から考えて、浩平があのホテルの外観の決定に直接関わっていたとは思えない。だけども、仲間たちをとおして冬樹にあのデザインを選ばせることならばできたかもしれないし、あらかじめ情報を知ることはできた。だからこそ、彼は、菱屋を巻き込んだのだろう。冬樹を止めようと思えば止められたはずなのに、武里とも茅蜩館とも関係のない菱屋に迷惑がかかるとわかっていただろうに、浩平は、あえて放置した。許されないことだ。


「本日は、内密の話があるということでしたので、私ひとりで参りましたが、浩平には、あらためてお詫びにうかがわせますから」

「それは必要ないよ。浩平くんなら、ここに来ているからね」

「浩平が?!」

「ほらほら、そんな怖い顔をしないで、とにかく、座りなさい。うちの秘書が怯えている」

 驚いて顔をあげた要を、会長がソファーを勧めながら、笑顔でたしなめた。彼が入ってきたのとは別のドアの前で盆を手に固まっていた女性が、要が座るのを待って、お茶をおいてくれた。


「今日、君をここに呼んだのはね。先に話しておかないと、今みたいなことになりそうだと思ったからなんだ」

「今みたいな……と、おっしゃいますと?」

「つまり、茅蜩館のみなさんが、代わる代わる今にも死にそうな顔して私に謝りにくる……みたいな? でなければ、浩平くんからちゃんと話を聞く前に、みんなで殴っちゃうとか?」

 「そんなことをされたら、これから先、自分が気軽に茅蜩館に遊びにいけなくなってしまうではないか」と、要の向かい側に腰掛けながら会長が笑い、「君は、人を使って調べていたようだし、私もこの後予定があるから」と前置きすると、「あのね。浩平くんは、竹里冬樹くんがあのヘンテコなビルを発表することを阻止しようと、うちに知らせにきてくれただけだよ。もちろん善意ではないだろうけどね」と、細かい説明もなく、いきなり本題に入った。


「浩平くんとしては、武里の末っ子を痛めつけるなら、私に告げ口するだけで充分だと思ったようだだが」

 それを、会長が止めたのだという。

「止めたというか、止めさせなかったというか。浩平くんには、下手な口出しはせずに、冬樹くんのやりたいようにやらしておいてほしいとお願いしました」

「それは……」

「うん。それは、私の……というよりも菱屋の都合だね」

「でも、どうしてですか?」

「風穴を開けたいと思っているのでね」

 何故に自分たちが非難されるようなことをわざわざしたのかと困惑している要に、会長が思いがけないことをいう。


「私は、この界隈を、もっと魅力的な街にしていきたいと思っている。この場所で仕事をする人だけでなく誰もがふらりと立ち寄りたくなるような、土日だって楽しめるような、そんな街にしていきたい。しかしながら、今のところは、お堅いイメージが定着してしまっているというか、ステイタスが高いという評価に満足してしまっているようなところがある」


 このままでは、いけない。このままでは、いつかビジネス街というカテゴリーにおいても、他の地区に負けてしまいかねない。会長は、そんな危機感を抱いていたらしい。 


「そんな時、浩平くんが冬樹くんの新設ホテルの話を持ってきた。私にしてみれば、この話は『飛んで火にいる夏の虫』だった。それに、武里の末っ子が母親の親戚と組んでやっていることは、前々から気に食わんと思っていた。ああいうのがおるから、大企業と政治家が悉く悪の同盟を組んで市民を苦しめていると思い込んでしまう者が現れるんだ」

 だから、菱屋は、事前に冬樹に忠告してやるのではなく、彼と彼の新設ホテル構想を利用することにしたのだそうだ。 


「いわゆる実験だね。ああいう奇をてらったビルをこの地区に建てようとすると、世間の人はどれぐらいの拒否感を示すだろう? どれぐらいならば、許容範囲だと思ってくれるのだろう?」

 冬樹の起こした騒ぎに乗じて、菱屋の優秀なスタッフは世間話のついでのように徹底的にリサーチして回ったそうだ。「要するに、冬樹くんは生贄だ。どうだね? いかにも悪の大企業の親玉が考えつきそうな残忍な所業だろう?」と、会長が自嘲気味な笑みを浮かべた。


「おかげで、いいデーターが取れたよ。だからね。私は君から『浩平くんが迷惑をかけた』と謝られる覚えもなければ、『茅蜩館にくだらない嫌がらせをしかけてくる武里の末っ子をどうにかしてくれてありがとう』と礼を言われる筋合いもない。お互いに貸しも借りもなしだ。ついでに言っておけば、この先、私は、あの地区の活性化のために必要だと思えば、武里よりも巨大なホテルや海外の老舗ホテルを誘致することだってありうるよ。その時は、昔馴染みだからという理由だけで、茅蜩館に情けをかけたりはしない」

「それは、承知しています」

 当然だ。情けをかけてもらわなければ続けられないようなホテルなら、どのみち潰れる。 


「まあ、茅蜩館も帝都ホテルも、どんなライバルが近くにやってこようと、大丈夫だと思うけどね。今回だって、誰も、全然動じてなかったじゃないか」

 今回の騒ぎで、さすがの茅蜩館も少しは動揺するかと思ったのに、あまりにも平常運転すぎて拍子抜けしたと、会長が口をへの字に曲げた。

「結局は『自分たちがどうするか』でしかないと、祖母から言われておりますので」

 隣にどんな立派なホテルが建とうと、逆に周囲に全くライバルがいまいと、自分たちのやっていることが評価されなければ客は離れていくだけだと、八重は常々言っている。


「つまり、最大のライバルは自分自身というわけだ。八重さんらしいね」

 会長が晴れやかな笑みを浮かべた。「そして、彼女は、いい後継者を育てた。君だけじゃない。貴子さんや輝美ちゃん。それから、隆文くんと浩平くんもね。しかも、浩平くんなんて、ひどいんだよ。『セレスティアルリゾートはともかくとして、あの馬鹿が何をしようと茅蜩館も実は茅蜩館の薫陶を受けているセレスティアルホテルも、どうせビクともしないから全然問題ない』って笑っているんだから。なあ、浩平くん?」


 会長が、ソファーの背に腕をかけ、秘書が出入りしているドアに向かって話しかけた。その声に応じて、「実際、大丈夫だったじゃないですか」と憎まれ口のようなものを叩きながら、するりと部屋に入ってきたのは、浩平だった。



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