遠い約束 3
六条家次女明子の夫である森沢俊鷹は、今でこそ喜多嶋紡績グループの次期総帥だなんだと世間で大変もてはやされている。
だが、森沢をもてはやしてくれるのは世間だけ。彼は今でも一族中で最も使い勝手のよい若者として身内にこき使われていた。『おまえはお御調子者だから、チヤホヤしすぎて鼻が高くなりすぎると、面倒だからな』と、親戚たちは彼に対して常に手厳しい。
もっとも、身内から雑な扱いを受けても、森沢は特に気に病んではいなかった。
人使いの荒い親戚のオジサンたちではある。だが、その反面で、彼らは、(ほぼ六条源一郎の陰謀によって)グループの未来を一身に背負う羽目になった森沢の負担の一部を肩代わりしてくれる優しさも持ち合わせている。それというのも、森沢に押し付けられる用事のほとんどは、将来のために森沢が経験しておいたほうがよさそうなこと、あるいは身につけておいたほうがよさそうな知識の習得に有効であることが多い。雑用自体にそこまでの意味がない時には、『来たついでだから』と言いながら森沢の手に余る仕事を引き受けてくれたり、相談に乗ってくれたりもする。意地悪なようで、実は気のいいオジサンたちなのである。
森沢にしても、喜多嶋ケミカルの社長とか次期総帥とかいう御大層な肩書きの方が自分には不相応であることを承知しているから、立場的には自分より下になってしまったオジサンたちに偉そうにされても、プライドが傷つくようなことはない。いずれ彼らの上に立つことになるにせよ、若い彼が、経験者から学ぶべきことは山のようにある。
よって、森沢は、彼らが手を差し伸べてくれた時には、遠慮なく甘やかされることにしている。その代わりに、彼らが『やってくれ』と言ってきたことについては、どんなに下らないことに思えても、なにかしらの意味があると信じて、まずは取り組んでみることに決めている。
そんなふうに割り切っていることもあって、森沢のフットワークは新入社員並に軽やかだ。しかしながら、無駄なプライドを捨てている分だけ、彼には上に立つ者としての重みと自覚が不足していると、もっぱらの評判である。おかげで、今朝も、喜多嶋ケミカル東京支店(……という名の喜多嶋紡績本社内にあるタコ部屋)に出社するなり社員の分までコーヒーまで用意したせいで、社員から咎められることになった。
「いい加減に自分が社長だって認識してくださいよ。でないと、俺たちが次期総帥を虐待してるって他から責められるんです」
「そんなこと気にすんなよ。みんなが俺を大事にしていることは、俺が知っているから問題ないって」
小言を言う同年代の社員から逃げるように、森沢は近くで鳴り始めた電話の受話器を耳に当てた。
「だから、そういう電話に我先に出なくても、いいんですってば!」
またしても小言を言いかけた社員に、森沢は身振りで『待った』を掛けた。
「弘晃さん? おはよう。会社に電話してくるなんて、珍しいね」
取り次ぐ必要のない電話であることを知らせる意味も兼ねて、森沢は電話相手の名を呼んだ。『弘晃さん』と言えば、森沢の妻の姉の夫にして中村物産の一番偉い人だと、この狭い部屋に常駐している5人の社員たちは認識している。会話の邪魔になっては大変だと言わんばかりに、彼らは自らの口を手で塞いだ。
『いきなり、すみません。明子ちゃんが東京に来ていると聞いたので、ならば、森沢さんもこちらにいるはずだと思いまして』
長野に戻る前に自分に会いにきてほしい。それが弘晃の用件だった。だが、『食事をご一緒しましょう』程度の用件であれば、普段の弘晃であれば、双方の妻を介した伝言に頼るはずである。ということは、余程の急用なのだろうか? あるいは、紫乃や明子に知られなくない用件だということもある。
「もしかして、昨日、ホテルを破壊しようとしたせいで、源一郎義父さんが捕まりそうだとか?」
『そのほうが、まだよかったかもしれません』
森沢の軽口に、弘晃がため息で応じる。
「え? そんなに深刻な話なの?」
『深刻かどうかは、僕にも、まだよくわからないんですが……』
弘晃が言葉を濁す。
『あの…… 森沢さんは、橘乃ちゃんのお母さまの顔を間近でごらんになったことがありますよね?』
「そりゃ、もちろん」
明子との婚約中、彼女と一緒に六条家の一室に間借りしていた森沢が、橘乃の母を知らないはずがない。 彼女は人前に出ることを苦手としているそうだが、森沢は、朝食の席などで彼女と何度も顔を合わせている。いつも目を瞠らずにはいられないようなメルヘンチックな恰好をしているが、性格的な問題はないようで、娘とよく似た世話焼きで話し好きの女性である。
「ええと…… 丸顔。 富士額。 目は二重で黒目がち、目元はつり目まではいかないけど上がり気味。鼻は、上向き気味で高さ的には標準。小鼻は座ってないほう。口は小さめでポッテリ。耳たぶは小さめ。 身長は…… そうだな、155センチあるかないかってところかな」
『森沢さん、どれだけ詳しいんですか』
「推定でよければ、スリーサイズも言おうか?」
『いえ、そこまでは』
弘晃が調子に乗る森沢を止めた。
『でも、よく、そこまで詳しく覚えていらっしゃいますね』
これまで彼女のことを誰に訊ねても、『きれいだけど派手な人』『レースとフリルだらけの人』以上の情報を引き出せなかったのだと、弘晃がぼやいた。
「俺の場合は、職業病みたいなものだけどね」
電話線に指を絡めながら、森沢は、叔父の伊織が貼り付けていった大型ポスターに目を向けた。それは、喜多嶋化粧品の主力ブランドである《胡蝶》の秋の販売促進用のもので、実際の人間の3倍程度に大写しになったモデルの顔が画面の大変を占めている。
服地や化粧品を商品をして扱う家に生まれたせいで、森沢は、子供の頃からモデルや芸能人と知り合う機会が多かった。モデルといえば、そのほとんどが『華やかな美人』だ。しかも、与えられた服や施されたメークによって、いかようにも印象を変えてみせもする。化けることを生業とする彼女たちを見た目の印象だけを頼りに記憶に留めておくことは、あまり意味がない。というよりも、混乱の元にしかならない。
例えば、このポスターの中で女王のように気高く上品に微笑んでいる《胡蝶》のイメージモデルの春瀬リナにしても、仕事を終えて家に戻れば、別人だ。この間など、同棲相手である森沢のごつい幼なじみにお揃いのパジャマを着させることに成功したとかで、子供みたいに大はしゃぎしていた。
「でも、なんで、そんなことを弘晃さんが独りでコソコソ探ってんの?」
『え? 独りでコソコソしているって、どうしてわかるんですか?』
「わかるだろ」
切れ者と言われているくせに妙なところで間の抜けた発言をする義兄に、森沢が呆れる。コソコソする必要がないなら、彼が探る必要すらない。 紫乃に頼んで橘乃の母に会わせてもらえばいいだけのことだ。
「でなければ、紫乃さんに彼女の写真を見せてもらうとか、撮ってきてもらうだけでいい」
『そうなんですよねえ。そう思って写真を探してみたのですけど』
弘晃と紫乃との結婚式で撮られた写真の中にも、森沢と明子の結婚式の写真の中にも、橘乃の母親の顔がまともに写っているものがないのだそうだ。
「一枚も?」
『ええ、全く』
どの写真を見ても、必ずといっていいほど橘乃の母親がレンズから顔を背けていたり他の誰かが橘乃の母親の前に写り込んでいたりするのだという。
「他の誰かって?」
『上から4番目までのお義母さんたちです』
橘乃の母が撮影されるのを避けるためというよりも、橘乃の母ができるだけ人目に触れないように、3人がかりで彼女の周りをガードしているようにも見えるという。
「源一郎さんをめぐるライバルであるはずの紫乃さんと明子と紅子ちゃんのお母さんが、結託して橘乃ちゃんのお母さんを守っているって?」
『しかも、ご本人は、人見知りを自称しながらも常に人目を引かずにはいられない格好し、見た人に『派手だ』という印象だけを残すように日頃から心がけていらっしゃるという』
「どういうこと?」
森沢は困惑した。だが、それ以上に不思議なのは、弘晃が、なぜ橘乃の母を調べようと思いついたか、ということだ。 弘晃は、興味本位で他人の秘密に首を突っ込むような人物ではない。それなのに、なぜか独りで調べようとしている。ベッドから長く離れられない彼のために動いてくれる人間は、幾らでもいるというのにだ。
「そのままにしておけない理由があるんだね?」
『……と言えるかどうかも、今の段階では、本当にわからないんです。実は、偶然、古い写真を手に入れてしまいまして……』
「そこに彼女が写っていると?」
『印象がだいぶ違うので、別人かもしれません。別人であれば、何の問題もないのですが……』
「別人ではなかったら?」
『これ以上は、電話では話しづらいです』
昨日のクーデターもどき事件の時には平気で電話で真相を語っていた弘晃がそう言うのであれば、余程のことに違いない。
「わかった。今日中にそっちに行くよ」
『紫乃さんは、橘乃ちゃんの婚約祝いを姉妹でするとかで昼ごろから実家に行く予定です。夕方には戻ってくるとのことですが……』
「じゃあ、2時ぐらいに」
それぐらいの時間であれば、紫乃にも明子にも話を聞かれる心配もないはずだ。
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弘晃との電話を終えた森沢が午後になったら心置きなくサボれ……、もとい心置きなく出かけられるようにと仕事に精を出し始めた頃、茅蜩館では、いつもどおりの時間に起床しシャワーを浴びた要が着替えを始めていた。
一晩安静にしていたので、熱は下がっている。 だけども、頭がひどく重い。昨日六条家の玄関先から彼に呼びかけてきた橘乃の母親の声が寝ている間も耳から離れなくて、浅い夢見を繰り返したせいだろう。
彼女の声は、子供の頃の要が慕っていた女性の声に酷似していた。
服装の趣味は劇的に変化していたようだが、正反対いえるほど違いすぎることと、目立ちすぎる格好であることが、かえって気になっていた。なにしろ、あの服装のインパクトが大きすぎるのか、いくら記憶を探ってみても、どうしても橘乃の母親の顔を思い出せないのだ。橘乃の姉にあたる中村夫妻の結婚式の時には昨日よりも近くで橘乃の母親の姿を目にしたはずなのに、彼が覚えているのは、あの日の彼女がフリルとレースに覆われていたということだけである。
(そういえば、髪に飾ったチュールのリボンのせいで顔の半分以上が隠れてたような……)
それでも、飾りものに目を奪われて人の顔を覚えられなかったなんて、ホテルマン失格である。ドアマンの三上やフロントの増井であれば、たとえ相手が変装をしていようと着ぐるみを着ていようと、誰だが認識できたはずだ。 まだまだ修行が足りないと、要は自分を戒めた。
(でも……)
昨日のあの呼び声は、要の記憶にあるボタンが彼を呼ぶ声と、まるで同じだった。自分の思い違いかもしれないと何度も疑ってみるのだが、思い返せば思い返すほど、声音といい声の調子といい、同じ人物が発した声に違いないように思えてくる。
(やっぱり、ボタンなのだろうか)
ワイシャツに片袖だけを通したまま、要は考え込んだ。
どうして彼女は急にいなくなってしまったのだろう? そんな疑問が、ずっと頭の片隅に引っかかっていた。久志のそばにいる彼女は、とても幸せそうだった。久志だってそうだった。だが、互いに想い合っていたにもかかわらず、ボタンが姿を消し、事故ではあったものの、それからすぐに久志が死んだ。
ボタンが久志の傍にいてくれていたら、そんな不幸は起きなかったかもしれない。そんな未練が残るだけに、要はずっと、ふたりの間に何があったのかを考え続けていた。
別れ際にボタンが要に遺していった言葉。茅蜩館に引き取られてから知ったボタンの過去。彼女の過去の商売に対する世間的な評価と、茅蜩館での彼女の生活。それらを何度も思い返しつつ、自分自身までもが巻き込まれることになった相続問題に大騒ぎする大人たちの言動を冷めた目で観察しているうちに、要は、かなり早い時期に、ある確信にたどり着いていた。
あの時、ボタンは、きっと妊娠していたのだ。お腹の子の父親は、久志だろう。それ以外には考えられない。だけども、占領軍の将兵相手の街娼だったという過去を持つボタンは、由緒正しい茅蜩館ホテルのオーナーの連れ合いには相応しくないと考える者が多くいた。また、誰よりもボタン自身が、自分が久志にふさわしくないと思いこんでいた。だからこそ、ボタンは、誰にも相談することなく、独りで茅蜩館を出ていったのだろう。
ボタンが行方をくらました後、久志が必死になって彼女を探していたことは、ホテルのみんなが要に教えてくれた。 その際、彼は、友人である六条源一郎にも協力を求めたに違いない。 源一郎は、フィクサーであった桐生喬久から譲り受けた人脈と情報網を駆使してボタンを見つけだし、とりあえずは自分の家……あるいは彼の愛人の誰かの家に連れて帰ったと思われる。
そして……
(子供が生まれていたら、橘乃さんぐらいの年になっているはずだ)
だけども、久志は、子供が生まれる前に、この世を去った。しかも、彼女が出産した頃には、要を始めとした3人の子供が茅蜩館に入り込んで、不毛な相続争いを始めていた。そんな時に、身を引くために久志から離れたボタンが、子供を連れて戻ってこられるだろうか?
彼女は久志の財産など欲しくはなかったはずだ。だから、赤ん坊だって、久志の知らないところで一人で産んで一人で育てるつもりだったに違いない。認知もされていない子供を連れて戻ることで茅蜩館に更なる厄介ごとを持ち込むことなど、ボタンは望まなかった。
茅蜩館に戻るタイミングを逸したボタンが、そのまま六条家の世話になっていた可能性は、充分にありうる。たとえボタンが出ていくと言い張ったとしても、源一郎は許さなかっただろう。なんといっても、ボタンは友人の恋人で、彼の忘れ形見である乳飲み子を抱えている。女性に対してどうしようもなく親切な源一郎が、彼女を放っておけるはずがない。彼のことだから、『愛人と隠し子が、もうひとりずつ増えたところで同じだよ』とかなんとか言ってボタンを説得したに違いない。そして……
「なあ~んてね!」
どんどん逞しくなっていく自分の想像に、要は不自然に明るい声で『待った』をかけた。落ち着け自分。ボタンと橘乃の母親の声が似ている。はっきりしているのは、それだけだ。それを『はず』とか『違いない』とか『可能性が強い』とかいう言葉を駆使して、自分にとって都合の良い仮説を作り上げたところで、いったい何の意味があるというのか?
「本当にボタンなのかどうかは、どうせ、そのうちに、わかるんだから」
要は橘乃と婚約したのだ。 源一郎の許可は得たものの、このまま、橘乃の母親に会わずじまいというわけにはいかない。差しあたっては、近いうちに、要のほうから橘乃の母親に挨拶に行くべきだろう。その時、彼女がボタンと同一人物かどうかも明らかになるはずだ。だが、彼が最も不安に感じているのは、まさに《その時》の自分の心理状態だったりする。
橘乃の母親が本当にボタンであった時に、要は冷静でいられる自信がない。
「挨拶に行くとなったら、橘乃さんが一緒だろうしなあ」
彼女は、源一郎のことを実の父親だと信じているはずだ。そして、片方しか血の繋がりのない姉や兄や妹との絆を、かけがえのないものだと思っている。
もしも、橘乃の母親が本当にボタンで、そのことを橘乃が知ることになったら? 自分だけが父親とも姉妹とも血縁関係にはないということを彼女が知ったら、彼女は、どう思うだろう? そして、彼女の兄弟は? 血の繋がりが無くなったからといって橘乃を仲間外れにするような人々ではないけれども、無意識に互いとの距離を感じるようになるかもしれない。
その時、橘乃はどうなってしまうだろう?
「だから、まだ、ボタンだとわかったわけではないんだから」
要は、心配事を頭から追い払うように、ぶんぶんと首を振った。
橘乃の母親がボタンでない可能性だって十分にありうる。いや、人違いである可能性の方が高い。
おかしなもので、要が橘乃のことを考え始めた途端、『橘乃母 = ボタン』で暴走していた要の思考が、逆方向に激走し始めた。しかも、『ボタン = 橘乃母』とならない理由も、探せばいくらでも見つかりそうだった。
「だいたい、ボタンは天涯孤独の身の上だったけど、橘乃さんは母方のお祖父さんがいるみたいな話をしていたし、それに、バレたら困るような秘密があるなら、そもそも、六条さんが橘乃さんを茅蜩館のオーナーに指名しなければいいのだし、それに……」
「要さん?」
「うわぁっ?!」
背後からかけられた声に要は腰を抜かさんばかりに驚いた。振り向くと、橘乃と八重が扉の隙間から部屋の中を覗いていた。
「どうしたんだい? そんなに驚いて」
額に沢山の皺を寄せながら、八重が部屋に入ってきた。
「いえ、その…… 橘乃さん。帰ったんじゃ……」
「今から帰すところだったんだよ」
「朝御飯をいただいていたんです。帰る前に様子を見にきたみたら、やっぱりというかなんというか……」
呆れた声を出しながら、橘乃も要に近寄ってきた。
「もしかしなくても、今すぐ職場復帰しようとしてたでしょう?」
「は……はあ」
責めるような目で見上げられて、要は思わず小さくなった。彼女の言うとおり、彼は、ごくごく当たり前に出勤しようとしていた。
「でも、熱を出したっていっても、今は下がってますし、一時的なものですから」
「そうかもしれないけど、お顔の色が、まだ、あまり良くないですよ」
「そうだよ。無理してんじゃないのかい?」
八重も心配する。
「それは……」
具合が悪いせいではなくて、考え事をしすぎてくたびれたせいだという反論を要は飲み込んだ。
「要さん?」
口ごもる要を訝しむように、橘乃が小首を傾げる。
『橘乃さん。あなたのお母さんは、何者ですか?』
『お母さんは、源一郎さんに出会う前のことについて、なにか言ってませんでしたか?』
『茅蜩館について、彼女は何か言ってましたか? 思い出とか?』
「要、今日は休んどいたほうがいいんじゃないかい? ホテルのほうはさ、あんたが抜けてもなんとかなるから」
熱の有無を確認するように、八重が彼の額に手を伸ばす。
『お祖母さま。 六条家にボタンがいることを知っていたんですか?』
『ホテルを六条さんにあげると言い出したのは、そのためですか?』
『橘乃さんが本当の孫だと気がついていたのに今まで黙っていてくれたのは、僕たちのためですか?』
『僕たちの居場所がなくなるから、ボタンと橘乃さんを迎えに行けなかったんですか?』
彼女たちにたずねたいことはたくさんある。だが、訊いたが最後、取り返しがつかないところまで話が進んでいきそうな気がする。
「大丈夫です。 今日は事務所のほうで、おとなしくしていますから」
(ボタンであるにせよないにせよ、とにかく、もう少し情報を集めないと……)
要を心配してくれるふたりに約束しながら、要は思った。
幸いなことに、情報源の心当たりならば他にもある。




