期待はずれ? 5
花嫁が逃げた。
結婚するのが嫌になって挙式間際に逃げ出すくらいなら、式場予約のキャンセル有効期間内に婚約を破棄すればいいものを……と、要などは思ってしまうわけだが、祖母や養母の貴子に言わせると、それは『いかにも男の言いそうなこと』であって、『花嫁というのは挙式間際だからこそ逃げ出したくなるもの』なのだそうだ。ともあれ、オーナーと総支配人が、ある程度の確率で花嫁が逃げ出すことを想定内のこととしている以上、ホテルとしても、それなりの対策はしている。
今回の花嫁についていえば、彼女は、最初の関門となる彼女付きの世話係の目を盗んで姿をくらますことには、成功している。だが、このまま誰にも見咎められずにホテルの外まで逃げ切れるかといえば、それは、かなり難しい。本館と新館にそれぞれひとつずつある客用の玄関の前に陣取るドアマンやロビーに目を配るフロントは、日ごろから、その日に花嫁となる女性たちの顔写真を、しっかりと頭に入れたうえで持ち場についている。花嫁の顔を覚えるのは、着付けなどの準備のために朝早くから独りでホテルを訪れることになる今日の主役を名前を呼んで迎え入れてあげようという気持ちから行われていることであるが、逃亡をもくろむ花嫁を見つけ出す際にも、彼らの記憶力の良さは非常に役に立っている。他の出口は、開店前のホテル内店舗の出入り口と、入館許可証の提示が必要な職員用の出入り口だが、これらの出入り口から花嫁が抜け出すのも、まず無理だろう。
ドアマンやフロントが出ていく花嫁を見ていないことを確認した後、ウェディングの担当者は、ほとんど総出で彼女を探し始めたという。この逃げた花嫁の式から30分遅れで式が始まるカップルを担当している浩平も、捜索に駆り出された。要もそうだが、幼い頃から大人の目を盗んでホテルを遊び場にしてきた浩平は、ホテル内のあらゆる物陰を知り抜いている。他所のホテルよりも複雑な作りをしているとはいえ、ホテルの構造は単純だ。子供ならいざ知らず、大人が隠れられる場所など限られている。浩平がいれば、花嫁など、あっという間に見つかるはず……
……だったのだが、同じ頃、橘乃は、その逃げた花嫁と向かい合っていた。
***
今から一時間ほど前。
『向こうが言い寄ってこないからって、こちらから出向くなんて、みっともない』、『いかにも物欲しげな行動だから絶対にやめろ』と、妹や母親たちから茅蜩館ホテルに宿泊することを猛反対された橘乃は、昨晩のうちに整えておいた荷物を持って、六条家をこっそりと抜け出してきた
彼女たちの忠告はもっともであると、橘乃にもわかっている。だが、家で待っていたところで、やって来るのは、欲に目が眩んだだけの茅蜩館とはなんの関わりもない男性ばかり。否、ひとりだけ関係者と呼べる人物が来ることは来たものの、橘乃が「あなたとはお付き合いする気がない」と婉曲に断った途端に、「なんだよ! ママがどうしても行ってこいっていうから、いやいや来てやったのに!」と喚きだすような男性でしかなかった。
そんな男としか出会えないうちにうっかり結婚相手を決めてしまう危険を冒すぐらいならば、恥を忍んでホテルに出向き、自分好みの男性を見つけ出したほうが、結果的に自分の幸せになるはずである。橘乃が母たちに怒られている時には庇ってくれなかった兄の和臣も、内心では彼女の考えに賛同してくれていたようだ。出ていくところを和臣に見られたものの、彼は小さく手を振って橘乃を見逃してくれた。
せっかくの逃避行体験を満喫することにした橘乃は、送ってくれるという六条家付きの運転手の誘いを断り、自分でスーツケースを引っ張って最寄り駅まで歩いていった。電車に乗ると、2駅先で橘乃と同じようにスーツケースを持った女性が乗り込んできた。彼女も旅行に行くのだろうかと、橘乃は思った。
「『彼女も』なんて」
橘乃はおかしくなった。それでは、まるで自分も旅行に行くようではないか。
「でも、近くだけども旅行は旅行だもの」
しかも、初めての独り旅だ。いつもは誰かに任せっぱなしのチェックインも自分でしなくてはいけないし、レストランを予約するのも、そこで食事をするのも独りである。少し寂しい気がするものの、どこまでも楽天的な彼女は不安とは無縁だった。彼女は嬉しげに「女の独り旅って、なんだかカッコ良くないこと?」と呟くと、「せっかくだから、ホテルの天ぷら屋さんに入ってみようかしら。カウンターを挟んで、板前さんと一対一で差し向かいで……なんてね」などと、たいした知識も持ち合わせていないのに、板前に向かって食材についてのうんちくを語る自分を夢想してみたりもした。
しかしながら、橘乃がまったく旅慣れていないことは、ホテルの玄関先にたどり着くやいなや、早くも明らかになった。
「いらっしゃいませ。六条のお嬢さま。本日はお泊りですか?」
笑顔で橘乃に話しかけてきた顔見知りのドアマンに、「お部屋のご用意ができるまでには、まだお時間がございますが、お荷物をお預かりしておきましょうか?」とたずねられてようやく、彼女は自分がチェックインの時間よりもずっと早い時間に来てしまったことに気が付いた。
「やだ、私ったら、張り切りすぎちゃったみたい」
自分のそそっかしさを笑いながら恥じる橘乃を、「お客さまが早くにお着きになることは、珍しいことではございませんよ」とドアマンが慰めてくれる。
「早い時間に空港に到着する飛行機でやってこられる方もいらっしゃいますから」
「そうなの? よかった。じゃあ、荷物はお願いしちゃおうかしら」
橘乃は、ホッとしながらドアマンに荷物を差し出した。荷物を渡してしまってから自分でフロントに預けにいくべきだったのかもしれないとも思ったが、そんな心配は無用であったようだ。ドアマンは軽く手を挙げると、円筒型の帽子をかぶった若いベルボーイを呼んだ。荷物の預かりは、どうやら彼の仕事の領分であるらしい。ベルボーイは、その場で簡単な預かり証を書いて橘乃に手渡すと、「お部屋の用意ができ次第、お荷物は運んでおきますね」と言ってくれた。
「ありがとう。 北の丸公園でもお散歩してくるわ」
橘乃はベルボーイとドアマンに告げて、ホテルを後にした。しかし、日比谷通りまで出たところで、もっと他にしなくてはいけないことを思いついて、進行方向を銀座に変えた。銀座で急いで買い物をすませ、見送ってもらったばかりのベルマンに微笑みかけながらホテルの中に入ると、橘乃は、フロントを目指した。
磨きこまれた木製の大きなカウンタ―には、ふたりの男性が待機していた。都合の良いことに、そのうちのひとりは、先日の親族会議の際、梅宮と一緒のテーブルに座っていた黒縁眼鏡をかけた青年だった。控えめな灯りの下で金色に輝いている彼の胸元のネームプレートの名前は『松雪』。間違いなく、父親が『松竹梅』とまとめて呼びかけた青年のうちの『松』である。
「八重さんとお話ししたいのだけど」
名前を呼んで迎えてくれた松雪に、橘乃は要件を告げた。
「オーナーとですか?」
「ええ。私は、その、八重さんに、まだちゃんとご挨拶していなくて、だから……」
なんと話していいものかと迷う橘乃が口ごもっている間に、事情を知っている松雪は、彼女の意向を正確に察してくれたようだった。
「オーナーならばホテル内におりますので、お望みならば、こちらに呼び出すこともできます。ですが、もっと……なんと申しますか、あまり人目につかない場所で、ゆっくりとお話を話をなさりたいのですよね?」
「ええ。できることならば」
「では、オーナーの住まいにいらっしゃるのがよろしいでしょう」
うなずく橘乃に松雪が勧める。彼によると、八重は、このホテルの本館の4階に住んでいるのだそうだ。
「いいの? いきなり伺って、ご気分を悪くされない?」
「あの人に限って、その心配はご無用ですよ」
少しばかり堅苦しかった松雪の表情が、祖母を慕う孫の顔に戻って和んだ。「いつでも茶飲み話の相手を探しているような人ですからね。訪ねてやってくだされば喜びますよ」
松雪は八重の所まで案内してくれるつもりだったようだが、橘乃は「ひとりで大丈夫です」と遠慮した。日曜日だからなのか、今日は結婚式の予定が多く入っているようで、ロビーはいつもよりも賑わっていた。そんな日に、いずれホテルの人間になるであろう橘乃が、忙しいスタッフの手を煩わせるわけにはいかない。同じ意味で、松雪にも橘乃に対して多少の気安さがあるようだ。彼は、「あの奥の階段で4階まで行けばいいのでしょう?」と言いながら非常口の表示がある階段を指差す橘乃に、わずかにためらう素振りをみせた後、「ええ。4階に行くと、関係者以外の立ち入りをご遠慮する張り紙がしてあるドアがあります。それを開けて、廊下を突き当りまで左へ行ってください」と教えてくれた。八重にも電話で連絡しておいてくれるという。
「ご案内できなくて、すみません。実は、今、かなり取り込んでおりまして」
松雪は、カウンター越しに心もち橘乃のほうに体を傾げると、「花嫁が行方不明になんですよ」と声を潜めた。
「まあ。それは大変ねえ!」
目を丸くしながら橘乃も声を潜める。
ますますスタッフの手を借りられないことを自覚した橘乃は、松雪に礼を言うと、独りで4階を目指した。関係者のみが立ち入りを許されているという扉は、すぐにわかった。扉の前で簡単に身づくろいをし、銀座で買ってきた物が入っている紙袋を持ち直す。袋の中身は八重への手土産だ。八重の好みはわからないし、ゆっくり選んでいる余裕もなかったが、先日梅宮が八重に羊羹を買っていたのを思い出して、葛を使った見た目が涼しげな和菓子にした。
「お口に合えばいいのだけれども」と呟きながら、橘乃は扉を開けた。
……が、開けた途端に目が合った人物に驚いて、咄嗟に開けたばかりの扉を閉めた。
目を擦りながら、今見たものを思い出す。
白い衣装に白いベール。
スタッフしか入り込めない場所で、泣き腫らした目をした若い女……
(それって、もしかして……)
いや。もしかしなくても、いなくなったという花嫁に違いない。
「あなた! なんでこんなところに!」
橘乃は扉を開けると、彼女に背中を向けて逃げ出した花嫁を追いかけた。いかにも重たそうな総レースの豪華なドレスを着ているにも関わらず、花嫁は敏捷だった。しかしながら、彼女たちが走る真っ直ぐな廊下の行きつく先は、行き止まりである。追い詰めるのは訳ないと、橘乃が高を括ったのも束の間、行き止まりの脇から八重が出てきた。花嫁が、走りながら、廊下の脇に積み上げられていた段ボールの上に無造作におかれた桜の造花がついた棒を掴み取る。
「八重さん! 危ないから部屋に戻っていてください!」と橘乃が警告を発する前に、花嫁が八重を捕まえた。
「お願い! 式の時間が終わるまで、私と一緒にここにいて! 誰にも知らせないで!」
小柄な老女の首元に先の尖った桜の枝元を押し当てながら、花嫁が橘乃を脅迫した。
「落ち着いて! ね? 八重さんを離してあげてくださいな」
じりじりと花嫁に近づきながら、橘乃は説得を試みようとした。
「結婚式がお嫌なの? でも、旦那さまになられる方も、ご親戚の方も、あなたが急にいなくなってしまったら心配なさると思うのよ。やめるにしても、きちんとお話合いをしたうえで……」
「うるさいわね! 私のことなんて、どうだっていいでしょ!」
花嫁が顔を横に振りながら叫ぶ。
「それに、誰も私のことなんて、心配してないわ! みんな、私のことなんて、どうだっていいと思っているんだから!」
「そんなことはないと思いますけど」
「ああ、なるほど。そうだったんですか」
うろたえる橘乃の声に、場違いなほど落ち着き払った声が被さった。八重だった。
「みんなが、あなたを無視したんですか。花嫁なのに、それは可愛そうでしたね。せっかくの晴れの日にそれじゃあ嫌になりますよねえ」
八重が、自分を捕らえている花嫁を見上げて何度もうなづく。八重が大きく首を動かした拍子に斜めに切り取られた桜の枝の先端が皴がよった首筋に埋もれそうになるのを見て、花嫁が慌てて枝を引っ込めた。
「お茶。入れますよ」
体を屈めて拘束が緩んだ花嫁の腕の中からスルリと抜け出すと、八重は戸惑っている花嫁に微笑みかけた。
「逃げ出すにしたって、その恰好じゃあ簡単に捕まってしまいますでしょう? お望みなら着替えも貸してあげますから。さ」
自分の住処への簡素な白いドアの取っ手に手をかけた状態で、八重が花嫁を呼んだ。花嫁は、もはや八重を捕まえなおそうとはしなかった。「お入りなさいよ」と手招きする老女に誘われるまま、毒気を抜かれたような顔で彼女についていく。
「ほら。橘乃さんも、いらっしゃいな」
「え? は、はい! お邪魔します」
橘乃も、ほとんど反射的に、彼女の家に入っていった。
***
同じ頃、要たちは、かなり焦っていた。
花嫁が消えたことに気が付いてから、すでに20分が経過している。スタッフが探せる場所に彼女が隠れているのであれば、とっくに見つかっている頃である。だが、ホテルには、スタッフでも簡単に踏み込めない場所がある。それも、相当数。
「まだ見つからないとなると、使用中の客室の中に逃げ込んだのかもしれないな」
「逃げ込んじゃったかもねぇ」
念のためにと、新館4階にある男性職員用のロッカー室と仮眠室を見回りながら不吉な推測を口にする要の横で、浩平が肩を落とした。花嫁が、たまたま通りがかっただけに過ぎないチェックアウト前の宿泊客の部屋に匿われているとしたら、かなり厄介だ。ホテル内とはいえ、そこは、スタッフがおいそれとは踏み込めない場所である。式の始まりまでに彼女を見つけ出すことは、まず不可能だといってもいい。この場合にホテル側ができることといえば、親族の意向を受けて結婚式を中止する、または、大幅に時間をずらすことぐらいである。
だが、《お客さま》というのは、時に、とんでもない無茶を言い出すものだ。
「いつぞやみたいに、チェックアウト前の宿泊客全員のお部屋も確認してくれ、……なんてこと言い出さないよね?」
「それだけは勘弁してほしい」
要は頭を抱えた。したくないというよりも、他の客への迷惑を考えたら、そんなことはできない。だが、あの時は、『探してくれないなら』と激高した新郎の父が、火災報知機を鳴らして宿泊客を燻りだそうとした挙句、『式が挙げられないのなら結婚式にかかった料金を全額払い戻せ』と、総支配人に迫ったのだった。
「今度の新しいホテルには、各階の客室の廊下に防犯カメラをつけてもらおうね!」
「そうだな。是非とも、そうしてもらおうな」
使用目的がずれていることを認識しつつ、要もうなずいた。客を監視するようで申し訳ないとは思うものの、カメラがつけば、ピンポイントで逃げた花嫁の居場所もわかるようになるだろう。
ともあれ、こんなところで愚図愚図言っていても仕方がない。直接の担当の者かウェディングマネージャーの川上が、すでに話し合いを始めているかもしれないが、花嫁がいないままなら、残された結婚式の主催者すなわち花婿と花嫁と花婿の両親で、早急に決めなければいけないことが山とある。ならば、人手は多いほうがいいだろう。
「上着を取ってくるよ」
要が浩平に声をかけて事務室に戻ると同時に、彼が使っているデスクの電話が鳴った。
「はい、事務室、梅宮……」
『花嫁、いました!』
受話器を取るなり相手が言った。声を潜めてはいるが、要が本館4階にある女子ロッカー室の探索に向かわせた女性職員の声に間違いない。
「見つかった? ロッカー室に?」
「いえ、オーナーのお部屋です」
「花嫁が、オーナーの部屋にいたんですか?!」
事務室の入り口で待っている浩平にも聞こえるように、要は声を大きくした。
「お祖母ちゃんの部屋にいたって?」
駆け寄ってきた浩平が、要が手にしている受話器の裏側に耳をくっつける。
電話の相手である有田という女性職員によると、彼女は、本館の4階にあるロッカー室と備品倉庫を探したついでに、花嫁が行方不明であることを八重にも知らせておこうと思ったという。
「それで、うちのドアを開けてみると、お祖母さまの居間の方向から、涙まじりに話す女の声が聞こえてきた」
「首を伸ばして確認すると、居間からはみ出したドレスの裾が見えた」
有田が話した内容を確認しあいながら、要と浩平は顔を見合わせた。間違いない。逃げた花嫁は祖母の元にいる。そう確信した途端、要と浩平は笑い出していた。
「寄りによって、お祖母さまのところに逃げ込むとはね!」
「まさに『飛んで火にいる夏の虫』じゃん!」
八重に説得された花嫁が式に戻るまでに、たいした時間はかかるまい。八重は今日の挙式のスケジュールを把握しているから、それまでに確実に式場に花嫁を返そうと思っているはずだ。要は時計を確認した。10時45分。挙式予定時間は、11時。
「みんなに知らせてくるよ」
心得たように浩平が笑う。「調整の上、片岡・篠田ご両家の結婚式は続行。とりあえず写真の時間を詰めて、祖母ちゃんの説得に時間がかかるようだったら、親族紹介をはしょって、披露宴の花嫁花婿入場を10分程度遅らせて……って感じで充分いけると思う。要は、花嫁を迎えに行ってきてよ! メイクさんをチャペルに待機させておくから」
「わかった」
事務室を飛び出していく浩平に続いて、要は本館へと向かった。彼の自宅でもある八重の部屋の扉の前で心細げにしていた有田をねぎらって持ち場に返すと、彼は、そっと扉を開けた。部屋の奥から聞こえてきたのは、若い女性の笑い声。どうやら、花嫁は落ち着きを取り戻したようだ。
(よかった)
この調子であれば、花嫁は、すんなりと式に戻ってくれそうである。安堵した要の耳に、再び女たちの笑い声が届く。だが、その笑い声の中に花嫁と祖母の声とも異なる声質のものが含まれていることに要は気が付いた。しかも、ひどく聞いた覚えのある声である。
(誰だろう?)
不審に思いながら、要は奥へ進んだ。
「おや、お迎えがきたようだね」
いつものように窓に背を向けて座っていた祖母が、いち早く要を見つけて微笑んだ。
「すみません。ご迷惑をおかけしました。すぐに戻りますから」
気持ちの整理がついたらしい花嫁が、障子の桟に手をかけて居間を覗き込んだ要を見上げて謝る。
そして、恐縮している花嫁の隣には……
「こんにちは、梅宮さん。お邪魔しています」
両手で抱えるようにして湯呑を持った六条橘乃が、要に笑いかけていた。