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08.意外な展開(改訂版)

 姫さんと分かれて、その帰り道。


 辺りがシン、と静まり返った中で押し殺した殺気を感じた。どうやらお客さんらしい。それも複数人。……8人、といったところかな?


「隠れてないで出て来いよ」


 立ち止まって声をかけると、一瞬の静寂の後、周囲の暗闇の中から黒い装束を纏った、いかにも裏稼業といった様子の男たちが現れる。ちなみに人数も丁度8人と大当たり。まったく、何から何まで分かりやすいヤツらだ。黒装束の男たちのうち一人が、一歩前に進んで言う。


「ふん。こちらの気配に気づくとはな……」

「なんだ、こんな時間に。……オレのファンか?」


 これがオレじゃなくて姫さんだったらありえそうな話だけどな。……などと思わず笑いながら考える。しかし、オレが調子に乗っていられるのもココまでだった。次の言葉に、己の表情が凍りつくのが分かる。


「貴様の女は預かった」


 ……ああ、このクソッタレ!! オレは心の中で悪態をつきながら、表層では平常を装う。


「女? オレの女って、誰だよ?」

「とぼけても無駄だ。あの女を無事に返して欲しければ、1時間後に、一人で、この場所へ魔剣を持って来い」


 一句一句確認するように言って、リーダー格らしき男が一枚の紙切れを地面に落とした。ああ、やっぱりな、と思う。こちらの事情は調べつくされている。相手の手際と錬度からしても、けして小さい組織ではない。魔剣の存在が姫さんによって報告されてから3日目。王都からこの街へは、魔術で強化した馬で飛ばせば2日程度で辿り付ける距離だ。そちら方面から来たどこぞの悪徳ギルドのヤツらか、それとも……。


「こちらからも条件がある」

「条件? 言える立場だと思っているのか?」


 相手は高圧的な態度をとるが、それを無視して続ける。


「彼女に手を出すな。触れたヤツは全員、両腕を切り落とすぞ……ッ!」

「ふん。よかろう」


 興奮したオレ(もちろん演技だが)の要望を容易く飲んだ。十中八九、相手はプロだ。彼女、恐らく本当に無事だろう。魔剣という強力な超レアアイテムに関わることだけに、不埒な真似をされているということは無いだろう。幸か不幸か、そんな安いヤツらじゃあ無いようだ。それらが原因となって、万が一にも人質作戦が失敗となると、最悪、魔剣の持ち主を相手に戦うか、無事逃げ帰ったとしても組織によっては制裁が与えられる可能性すらあるのだ。魔剣使い相手に人質として使える彼女は、利口な相手にとっては大切すぎる切り札だ。


 まったく、名前も知らない(もしくは忘れている)女のために、こんな心配するハメになるなんて……。ま、昨日はイイ感じだったし、今後のための初期投資と思って諦めよう……って、考えてみればオレの問題に彼女を巻き込んだ形になるんだけど。さて、事が済んだらどう言い訳しようかね。機嫌を損ねてなければ……って無理があるか。


「一時間後、一人でだ。魔剣を忘れるな……」


 リーダー格の男が、確かめるようにそう言い残して闇の中へ消え、とりまきの黒い影たちもまた、暗闇の中へ消えていく。見事な連携だ。手練の探索者でも、こうはいかないな。影共が全員視界から消えたのを確認して、オレは相手が置いていった紙切れを拾い、内容を確認して握り潰す。


「……まぁ、相手がオレだったのが運の尽き、だな」


 そして、オレはそのまま黒装束の男たちを追った。ハルマッゾ戦でやったように、己の気を極限まで消して、相手の気を追跡する。一応、あんな化け物にも通じる技術だ。誘拐犯ごとき卑怯者に見破れるはずもない。黒い服を好んでいる理由は、こういうところにもある。まあ、こんなことは滅多にないし、一番はやっぱり「汚れるから」という理由だけれど。


 ……やがてたどり着いたのは、ヤツらの隠れ家らしき街はずれの廃屋だ。庭も含め、かなりの広さのある屋敷らしいが、手入れはされておらず草木が茂っていて現在人が住んでいる気配は全くない。どこかの金持ちが、老朽化に合わせて移住したのだろうか?


「こんなトコがあったなんて知らなかったな……」


 屋敷の広い庭にある茂みの中で、一人呟く。ちなみに先ほどの紙に書いてあった約束の場所は、ここから10分もない場所にある。恐らく、オレが魔剣を手に持っていないとみて、取りに戻る時間を与えてくれたんだろうが、それが命取りだ。こう見えてオレは、デートの待ち合わせ場所には早めにつくタイプだ。すっぽかされることは良くあるが……まぁ、今回はその心配も無い。


 辺りの気を伺いながら、そっと屋敷の窓へと近づいていく。よく見ると、明かりが漏れないよう、暗幕が引かれている部屋がある。つまり、そこがヤツらの使っている部屋で、彼女が捕らえられている場所だ。と、普通は考えるんだろうが、気配がまるで感じられない。こいつはワナだ。「気」を感知できるオレでなければ、今頃ブービートラップの餌食になっていたかもしれん。


 ちなみに、いくら「気」が扱えたって仕掛けられた罠自体は判別できない。念の込められた呪いの類だったら判ることもあるんだけれど……ハルマッゾには通じなかったな。とにかく、こちら側が罠ということは、侵入者に対応する時間を稼ぐためにも反対側の位置が拠点のハズだ。


 途中、邪魔だった見張りを昏倒させながら進んでいく。隠れているつもりだったのだろうがまるで「気」を隠せていない。それではいかにも、こちらに我らの首魁がおりますよ、と言っているようなものだ。コイツら、敵からの襲撃に備えているというより、なんらかの理由で人がやってきた場合に備えているだけなんだろうけれど。


 昏倒させたヤツらは、最初から茂みの中にいてくれたので、そのまま居眠りしてしまったように見せておく。こないだの拳士としての戦いといい、こういうのも傭兵だった頃以来、久しぶりだな。……っと、この辺りか。さて、どうやって侵入したものか。


 オレは、先ほど昏倒させた黒装束の男が倒れている茂みに目をやった。



 ◇



「貴方たち、一体何者なの? 彼に、一体なんの用なの?」


 その後、どうにか隠れ家となっている部屋の中の様子を伺える場所を見つけたオレは、黒装束の男たちと、椅子に座らせられた彼女に「一方的な」再開を果たした。


 彼女の周囲にいる敵の数は8。「今の状況」から奇襲を仕掛ければ一瞬で終わらせられるが……ここは、再発防止のために相手の正体を探っておこう。死体から情報を得るより、生きている人間から情報を得るほうが、遥かに簡単だ。


 そんな打算を巡らせながら、オレはちらりと囚われの「姫」を見る。うーん、やっぱり美人だ。どの角度から見ても、まるで美術品のようですらある完璧な美貌。よくもまぁ、こんなのと一夜を共にしたものだな、昨日のオレは……我ながら感心するというか、なんというか。そしてよくもまぁ、忘れられたものだよなぁ……。勿体無さ過ぎる。


 ちなみに彼女は、オレが置いてきた服を着たまま、まるで傷つけられた様子も無い。ヤツらからは丁重なもてなしを受けていたようだ。……これで後ろ手に縛られておらず、紅茶のひとつも出されていれば、ますます完璧だったな。と、彼女の質問に対して、先ほど会ったリーダー格の男がギシ……と傷んだ床を鳴らして一歩歩み出た。その顔には、不気味な笑みが張り付いている。


「ククク……。それはこちらの台詞だよ」

「……それは、どういう意味かしら?」


 彼女は、自然と男を見上げる格好になる。不安そうな表情をして見せているが、しかしその発せられる「気」には、恐怖の色がまったく無い。圧倒的不利な状況の中で、なんて胆力だ。これはまるで……。


「いやまさか、あのような手を使ってくるとは、王国もなかなかやるじゃないか。……なあ? フェイド王国魔剣調査室所属の魔剣調査官、マリア・フォーレス君」

「……え?」


 そう、彼女から放たれる「気」は、けして素人のソレじゃあ無い。これは意外な展開になってしまった。……さて、どうしよう?


2011.08.28 改訂

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