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26.寄り道

 実に不本意なことに……マリアの策略にハマったオレは、街で行われたフェイド王国武術大会予選を勝ち抜いて、王都で行われる本選大会にも出場するハメになってしまった。


 実は、通路でマリアと別れたあと、急いで大会関係者に出場辞退を掛け合ったんだが……。


『申し訳ありません、ヴェルクさま。貴方はもう王都の大会選手に登録されてしまっています。こうなってしまうと、辞退するには自ら王都へ出向き、違約金を払っていただく必要があるんです』


 オレは、受付の綺麗なネーちゃんのその言葉に首を傾げ、眉を顰めた。


『なんだそれ、聞いてないぞ?』

『いえ、出場者には、もれなく誓約書を交わして頂いているはずなのですが……』


 うん、これは罠の香りがプンプンするな。恐る恐る、口を開く。


『……ちなみに、その違約金の額は?』


 ……はい。聞くんじゃありませんでした。




 チクショウ。出場者に対して、そんな面倒な義務が課せられるなんて知らなかったぞ。


 あの女、そこまで計算に入れてたのか? いやそもそも、この制度そのものが、オレを逃がさないために仕組んだことなんじゃないかと勘ぐってしまうのは、自意識過剰か? もしくは、王が聖貴士どもにいやがらせを仕掛けたって可能性も……無いか。ヤツらは貴族、お金持ちだもんなぁ。オレと違って……。


 いっその事、違約金を踏み倒して逃げてしまうっていう手もあるな。と、そう考えたオレは……大会後に行われたささやかな祝勝の宴で、とても楽しそうにしていたヴィーの姿を思い出してしまう。


 はぁ……。こればっかりは、投げ出すわけにもいかねーよなぁ。


 ということで結局、オレは素直に本選に出ることにした。いや、ていうか借金生活が嫌なら出るしかないんだけど……。で、本選の開始が約1ヶ月後と、大分時間が空いていることに気付く。この街からなら、普通に馬車を乗り継いでも一週間とかからないハズだが……。


 どういうわけか、再度関係者に尋ねると、どうやら予選の勝者が怪我をしていた場合の治療期間や、地方の街から王都へと観客が集まるまでの時間とを計算されてのことらしい。……お祭り騒ぎは当分続きそうだ。


 なにはともあれ、聖貴士が大量に待ち伏せている可能性のある王都へ早々と向かう気にはなれず、こちらでいくらか時間を潰してから向かうことにした。


 ヴィーを守るためには、彼女を連れて行くべきか置いて行くべきかで迷ったが、どうやらアイツの中ではもう王都行きは決定事項らしい。……まぁ、考えてみれば、王都には今、姫さんもいるもんな。


 あ、なんだか余計に王都に行きたくなくなってきたぞ……。


「ふむ? どうしたんじゃ、ヴェルク」

「……いや、なんでもないよ、それで、その遺跡がなんだって?」


 いつかと同じように、急に頭を抱えたオレを変な顔で見つめるゴード爺さん。ここは、探索者ギルドのカウンターだ。オレは、定例となっているティアの魔剣研究に協力して旅費を稼ごうとしに来たのだが、そこをゴード爺さんに呼び止められたのだ。


 なんだか、新しい遺跡がどうのこうのと言っていたが……。爺さんは、自分の話をよく聞いていなかったオレに対して、大きく溜息をつく。指をくるくる回す、いつもの癖。


「……まぁ良い。とにかく、新しく発見された遺跡をおぬしたちに調べて欲しいんじゃよ」

「おぬし、たち?」


 オレは、その言葉に首を傾げる。……なんだか、激しく嫌な予感がするんだが。




 そして翌日。オレの予感は当たってしまった。


 正直、昨日の今日で、よくもまぁこんな簡単にこの面子が集まるものだ、というくらいの面々が揃っている。たしかに金は良いんだが……。未開の遺跡となれば、高価な遺物が見つかる可能性もあるし。


 とりあえず、最近はすっかり馴染みになってしまっている、オレ、ヴィー、アンナ、フェンの四人が、この場に揃っている。ちなみに姫さんは、未だ王都から帰らず、今回は不参加だ。少し、ホッとしている自分がいる。


「なんだか、探索も久しぶりに感じるべ」

「そうですね、アンナ」


 あの日使った例の会議室で、楽しそうに話をしているアンナとフェン。その隣に座るヴィーが、オレの肩を人差し指でとんとんと叩く。


「ところでヴェルク、アイツらって……」

「言うなヴィー。なにも、言うな……」


 ……そう。それ以外のヤツらが、少し、その……面倒だった。この街のギルド内最大手の派閥。そのエースたちが揃っているのだ。


 その一人が、先日オレに武術大会予選一回戦でボロ負けした斧使い、ギーグだ。なんだか知らんが、こちらをギロリと睨んでいる。いやまぁ、オレのせいなんだろうけど。


 ギーグ以外にも二人、有名な探索者がこの場に同席していた。槍使いのテイルと、ナイフ使いのジャックスだ。うん、テイルは中々の美人だな。ジャックスは……顔の下半分を黒い布で隠しているし、そもそも男だ。興味が沸かない。


 ギーグ、テイル、ジャックス。そしてオレが名前を知らない……恐らく格好からして魔術師か回復術師の類であろう二人の探索者。ちなみに、どちらも男。そもそも、探索者に女はあまりいないんだが……。こちらのパーティは、やっぱり少し特殊なんだろうなぁ。


 と、そこでアンナが辺りをキョロキョロ見回しながら口を開く。


「で、今回のパーティリーダーは誰だべ?」

「決まってねぇよ。そもそも、このミッションはギルドから直々に下りてきたモンらしーからな」

「はぁ、そうなんだべか……」


 いつも通りの舌足らずな訛り口調に対して、律儀にもそう返したのは、意外にも最高に厳つい大男、ギーグその人だった。うん? なんか表情が硬いのは気のせいか?


 すると、ギーグの隣に座っていた人物、槍使いのテイルが立ち上がる。


「ヴェルク殿。ここは、私に仕切らせて欲しいのだが……」

「……なんで、オレに聞くんだ?」


 意外にお堅い口調だな。たしかこの女、元騎士だなんて噂もあったけど……。


「貴方が一番、強いからだ」

「そりゃ……どうも」


 自分を含めたギルド屈指の使い手三人を差し置いて、オレをこの中で最強と断言してしまうテイル。それに対して文句一つ言おうとしない二人。……うん、気の乱れも感じない。意外と、派閥内の意思疎通は図られているんだな。


 ただ、こちらとしては非常に気恥ずかしいうえ、ヴィーの能力とフェンの将来性とを考えると、容易く頷けない。アンナだって、種類こそ違えど極まった実力の持ち主だし、実績だけで言えば、パーティリーダーを務めてもおかしくはないレベルだ。ただし、流石に12歳じゃ、いざというときの責任を負うことができず、こちらがソレを彼女に問うこともできないのだが。


「別に良いのではないですか、師匠」

「んだべんだべ。九人パーティのリーダーなんて面倒なことをわざわざやってくれるって言うだ、素直にやってもらえばいいべさ」


 お互いのことに関係が無いと、人を疑うってことを知らないよなぁ、コイツら。良いことなのか、悪いことなのか。そういえば、ギーグらにとって遺跡で発掘された遺物は、ギルド内の地位を上げるために必要な重要アイテムなんだっけ?


 まぁ、今回の仕事で得られる名声なんて、オレには興味も無ぇしな……。そもそもオレには、パーティリーダーの経験があまり無く、これだけの人数のパーティとなると……。やって出来ないことは無いだろうが、やっぱり面倒だし他人に任せたほうが気が楽だ。


「オレは金さえ貰えれば、それで良いさ。……あとは勝手にしてくれ」

「……感謝する」


 そういって、テイルは深々と頭を下げた。

試しに、アルファポリスさんに登録してみました。

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