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15.師匠と弟子

「……これが、あの時のフィニッシュブローだよ」


 フェンの修練のためにやってきた遺跡内。オレは気の一撃でスケルトンを四散させて、背後にいるフェンに言った。


「まぁ、元々の戦闘スタイルを考えると、お前は何か別の技を考えたほうが良いだろうけどな」

「なるほど……」


 オレの繰り出した技に目を見開いて、それでも頷くフェンは、続けて尋ねる。


「ところで師匠は、拳士だったのですか?」

「ああ、昔ね。……ま、ギルドには盾剣使いで登録していたし、それを前提とした仕事が来てたから、知ってるのは……昔からの知り合いくらいかな」


 姫さんなら知っていても不思議じゃないけれどな……などと、昼前に彼女の屋敷であった出来事を思い出す。本来知りえるはずのない情報を、あんなに簡単に教えて貰っておいてなんだが、全然嬉しくない。ヴィーのやつは、なんだか喜んでいたけれど。


 手紙を読んで動きの固まったオレに慰めの言葉を掛けながら、やたらニコニコとしていて……せめて、同情するフリくらいしてくれと言いたい。


「師匠。その、マリアさんに騙されていたのが、よっぽどショックだったようですね」

「……それはもう、言わないでくれ」


 男として情けなさすぎて、本当に涙が出そうになった。あの日、マリアに出会って有頂天になっていた自分を呪い殺してやりたい!!


 ……平常心、平常心。


 さて、話を本題に戻そう。フェンの行動ってのは、アンナを心配させないことが前提になっているみたいだし、夜には教会に帰らなければならないだろう。さっさと始めないと、いつ帰れるか分からない。


「で、今回お前に教えておきたいのは、コレだ」

「……? なんですか、コレは?」


 オレは、黒く細長い布をフェンに手渡して、言った。


「目隠しだ。お前にはコレから、暗闇の中で戦ってもらう」




「は…ッ、は…ッ」


 数時間後、遺跡内には荒い呼吸音が響いていた。それはまるで獣の呼吸のようで、そこに、あの華麗な技を見せていた双剣使いの姿は無い……。


「は…ッ、は…ッ、……くっ!!」


 視界を奪われたフェンは、敵の気配を感じるたびに、圧倒的な手数を繰り出して相手に攻撃させないという戦法をとっていた。もちろん、剣士として大体の当たりをつけて剣を振るっているわけだが、それは敵の剣や、身に着ける鎧などにぶつかり、とても効率的とは言えない。


 その無理矢理な戦い方のせいで、彼の持つ剣は、二つともボロボロになっていた。……コイツが使うくらいなのだから結構な業物なのだろうが、諦めて貰うほか無い。手にも余計な負荷がかかり、マメが破れて血まみれになっているが……それはまぁ、アンナに治して貰えるだろう。


 さて、そろそろ限界か……と思い始めていると、遺跡の奥、階下の方からスケルトン5匹の気配。


 なんだか……あの殺戮の夜から、感覚がより研ぎ澄まされている気がする。<石>によって得たハルマッゾの技が、オレの体に馴染んできているということだろうか。


 とにかく、タイミング的に丁度良い、と思ってフェンに声をかける。


「フェン、そろそろ目隠しを外して良いぞ」


 オレの声を聞いたフェンが、ビクッと肩を震わせる。当然だ。オレはフェンの邪魔にならないよう、己の気配を極限まで抑えていたのだ。


 視界を遮られたフェンにとっては、誰もいないはずの場所から声だけが聞こえる状態だ。……というか、考えてみると、オレの気配が消えても目隠しを外さないで戦い続けたのだから、結構根性あるよな、コイツ。


 言われたとおり、フェンが目隠しを外すと、そこには汗びっしょり、憔悴しきった美少年がいた。18歳を美「少年」というのかどうかは知らんが、疲れ果てても損なわれない美しさっていうのは、殺意を通り越して感嘆の念すら浮かぶな……。


「もう、今日は……ッ、終わり、ですか?」

「ああ、そろそろ良い時間だしな、切り上げよう」

「これでっ、僕は、本当に強く、なれますか?」

「うーん、そうだなぁ」


 両手を地面につき、息も絶え絶えなフェンから視線を外さず、オレは右方向に親指を差す。その先では、5匹のスケルトンが丁度、階段を上がってくるところだった。


「とりあえず、コレを続けるとこういうことが出来るようになる……ハズ、ってのを見せておこうか」


 オレは二人に掛けていた照明魔術を解いてしまった。スケルトンの群れを前に、周囲は闇に包まれ、ヤツらの装備のガチャガチャという音だけが辺りに響き渡る。地下深くにある遺跡は、明かりが無ければ完全な闇になる。


 オレは、意識を集中させて前方へ一歩踏み出した。


「し、師匠!?」

「まあ、見てろ……つっても、見えないか」


 驚くフェンを尻目に、そのまま一番先頭にいたスケルトンの横薙ぎの剣を身を低くしてやり過ごし、胸に一撃。バラバラになる骨と鎧。


 そこに、横から突き出された錆付いた剣。それを身を軽く捻ってかわし、カウンターを相手の頭部にぶち込む。そこに脳があれば四方の壁にこびりついただろう勢いで、頭蓋骨が破裂する。


 その首の無くなった体の肩部分を軽く押して地面に倒すと、それに躓いて一匹のスケルトンが転び、それを踏み台にジャンプ。最後尾にいたスケルトンを、その背後にある階段に蹴り飛ばし、着地。


 踏み台にされたスケルトンが起き上がったところで照明魔術を掛けなおし、明るくなった遺跡内で、スケルトン越しにフェンを見る。チェックメイト。


「え……!?」


 オレに気を撃ち込まれて崩れ落ちるスケルトン。その胸には、人間の頭部大の穴。フェンは、それを見てもまだ、なにが起こったのか分からない、という表情をしている。オレは、懐から煙草を取り出すと、口にくわえて火をつける。


 ふぅー。なんだか少し、気が晴れたぜ……。


「……ま、こんなもんかな。あれを続ければ、相手の気を感じることで攻撃のタイミング……オレは<機>と呼んでいるが……それを読めるようになるハズだ。ハルマッゾ戦でも、コレがなかったら死んでただろうな」


 それにしても、ここしばらく盾剣使いとして生きてきたオレが、こうして堂々と「気」について話しているなんてなぁ……。言っても理解してくれるヤツなんてこれまでいなかったが、オレより遥かに才能のありそうなフェンなら、きっとモノにしてみせるだろう。


 数千年分の技術を持つハルマッゾの<石>のお陰で、己の鍛錬にあまり意味が見出せなくなってしまった今、誰かを育てるということのほうが、もしかすると楽しいのかもしれないな……。自分で照明魔術とか使えるようになったのは、たしかに便利なんだけど。


「一朝一夕で身につくもんじゃないが、まぁ、気長にな」

「……は、はいっ、ご指導、よろしくお願いします!!」


 はいはい……。それじゃあ、帰りますか。

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