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13.志願者

 結局その日は、やたらとオレの身体を心配するヴィーを説き伏せられず、彼女の世話の元、一日中部屋で過ごすことになった。


 考えてみればハルマッゾとの戦いで、全身にけして浅くない切り傷を付けられ左手を切り離されたり、昨夜だって路地裏で血まみれで気絶してるところを見つかってしまったのだから、まぁ、心配されても仕方ないのかもしれないが。


 口とは裏腹に性根の優しいヴィーとしては、放っておけないのだろう。


「ふあぁ……。ヴィー、ちょっと酒が飲みたいんだけど。あと煙草も……」

「駄目だ駄目だ。今日は寝てろ」


 てなワケで、オレは体力回復のために、嫌というほどの睡眠をとらされた。その間ずっと傍らにいたヴィーの視線がくすぐったかったが……。


 ヴィーは、その後もなんだかやたらと気合を入れて夕食も作ってくれたりしたのだが……昼食より豪華になったソレは、やはり格別だった。それを伝えると、ヴィーはやはり照れながら俯き、


「そ、そんなに言うなら、毎日作りに来てやろーか……?」


 などと、上目遣いで、まるで冗談のようなことを言うので、オレは少し本気にして悩んでしまった。


「いや、非常に魅力的な提案だが、遠慮しとく。普段、飯を出してくれるここの二人にも悪いし」

「……た、確かに、そうかもな」


 気を落としたヴィーを見て、どうやら本気で美味しいと言ってないように思われたかな、と不安になる。考えてみれば、コイツも年頃の女の子なワケだし、一時は半ば兄代わり(父代わりでは絶対無い)として面倒を見てやったこともあるオレとしては、そういう様子を見ると罪悪感に苛まれて仕方がない。うーん。


「そうだなぁ。でも、あれだけ美味しいと、たまにお前の部屋にでも食いにいくのも悪くないかもなぁ……」

「ア、アタシの部屋……ッ!??」


 オレの、フォローのために言った言葉に対し、ヴィーは何故か先ほどよりも赤くなって、座っていた椅子から勢い良く立ち上がった。それからうろうろと視線を彷徨わせる。


「し、仕方ねーな。そそそ、そんなに言うなら、今度、部屋に来るか……?」


 いやいやヴィーさん、そこ、拒否るところだろ? お前の部屋に、オレが行くんだぞ?


 しかし、時既に遅し。今度、ヴィーの修行が一区切りついたころ、ヤツの借りている部屋にお邪魔することになってしまった。……ていうか、考えてみればどこに住んでるのかも知らないんだけれども。




 それにしても、好きでもない男にあそこまで献身的に尽くしてくれる様子を見てしまうと、なんだか……ヴィーの将来が不安になる。変な男につかまらなきゃ良いが。一度、そういうことをきちんと伝えたほうが良いかもしれないな……。


 昨晩のやりとりを思い出して、ヴィーの将来に一抹の不安を感じながら、ギルドへ出掛ける準備をした。そして……。


 オレはベッドと反対側に置かれたソファの上で毛布に包まる「ソレ」を見た。


「すぅ……すぅ……」


 ヴィーは、オレが宿を抜け出さないよう見張るために泊まっていくと主張し、帰宅を促すオレの必死の説得は、虚しく玉砕してしまった。いや、なんていうか、ものの見事に押し切られたのだ。


 まあ確かに、大怪我しときながら宿を抜け出し、酒場で女を引っ掛けてきたオレに対抗できる手段はほとんど無かったんだけど。言い訳じみたことしか言えなかった……。


 さて、ソファに寝かせたままってのもなんだし、ベッドに運んでおいてやるか……と、毛布に包まったヴィーの傍に跪き、肩と膝の裏に手を入れて立ち上がる。うーん、こんなに軽いのに、あれだけの大剣を振り回すんだからなぁ……。


「……ヴェル……ク」

「おっと、起きたかー……って、おい」


 寝言かよ。まったく、幸せそうな顔をして、どんな夢見てるのかね?




「昨日もお楽しみでしたね」

「なに言ってるんだよ、オヤジさん。気色悪いぞ」


 部屋にヴィーを置いたまま抜け出して階段を降りてくると、この宿屋の経営者であるオヤジさんが、カウンターでこっちを見て意地悪そうにニヤニヤしている。凶悪そうな髭面も相まって、人によっては獰猛な肉食獣と見間違えるかもしれない。


「そのまんまの意味だよ。まったく、連日違う女を連れ込むたあなぁ……」

「ヴィーはそういうんじゃねーよ。分かってンだろ」

「さぁてねぇ……」


 こんのハゲオヤジ、笑いが止まらないっつー顔をしてやがる。○○してやろうか……。


 心の中で他人には聞かせられないような悪態をついていると、オヤジさんの娘であるミントが、カウンターの奥にある部屋から出てくる。ちなみに、父に似ず、非常に愛くるしい子だ。いずれ恋人が出来たなんてことになったら、オヤジさんは怒り狂うだろうなぁ。


「あ、おはようヴェルク!」

「おはよう、ミント。ほら、朝の挨拶ってのはこうだろ、オヤジさ――」

「結局、昨日はヴィーお姉ちゃん、泊まっていったの?」

「…………」


 瞳をキラキラと輝かせて尋ねてくる13歳の少女。この年で家業を手伝う(っていうか、今やほとんど彼女主導だ)見習うべき孝行娘だが、女ってのは、いくつであっても……。はぁ……。


「わたし、こないだの怖そうなお姉さんより、ヴィーお姉ちゃんが良いなぁ」

「……ちなみに、理由は?」

「だって、強くて優しくて、それに可愛いし。お料理も上手でびっくりしちゃった。……あ、でもヴェルクにはちょっと勿体無いかも」


 13歳に可愛いって言われるヴィーって。……いや、昨日の様子を見ると、わからんでも無いかもしれんが……。


「大丈夫だよ。アイツにも、いずれ良いヤツが現れるさ」


 そう言うと、何故かミントは白けた様な表情で、こちらを見る。


「ふーん。……ヴェルクって、頭悪いのね」

「ガハハ。オレは知ってたぞ、ミント」


 ひでぇ。ここの父娘は、オレに対する心遣いってもんが欠如しすぎている気がしてならん……。誰か、オレに敬意を表してくれるヤツとかいねえもんかね……?




「ヴェルク、いや先生。僕を、弟子にしてくださいっ」


 はい。というワケでやってまいりました。弟子入り志願者。いやていうか何言ってんだよ……フェン。


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