12.幕間/調査報告書
●ガルジ遺跡より発掘された魔剣についての経緯報告
王都に待機していた私、マリア・フォーレスの元に、探索者ギルドに潜入している諜報員から、帝国領寄りにあるガルジ遺跡で、探索者たちの手によって魔剣が発掘されたとの情報が入る。
その時のパーティーメンバーの情報は以下の通り。
ヴェルク……30歳、男。黒髪黒眼、短髪無精髭。痩せ型で背は高め。元傭兵の探索者で、盾剣使いとしてギルドに登録。探索者としての経歴に目立ったところは無く、特筆すべき要素も無い。ただし、彼と組んだ探索者の生還率は100%となっており、隠れた実力者である可能性も。今回、ガルジ遺跡で魔剣を入手したとされる人物。
シルヴィア・スティネーゼ……16歳、女。銀髪赤眼、透き通るような白い肌と美しいロングプラチナの持ち主。王国でも有数の権力を持つスティネーゼ家の現当主で、屈指の炎術使い。その若さと可憐さで有名な彼女のような人物が、何故探索者をしているのかは、王国七不思議の一つである。今回、魔剣に繋がる遺跡の情報を入手したのは彼女。
ヴィー……18歳、女。赤髪緑眼。長い髪をポニーテイルにしており、女性としては背が高い。大剣使いの探索者で、普段はシルヴィアの護衛をしている模様。粗暴な振る舞いが目立つが、ドレスを着れば貴族の令嬢と言われても差し支えない美女。実際、シルヴィアの護衛のためにその姿でパーティに参加したこともあり、軟派な貴族男に話しかけられ前歯を叩き折ったことは、一部では有名な話。
アンナ……12歳、女。金髪碧眼。12歳の割には子供っぽい印象の可愛らしい少女だが、外出時は鉱物アレルギー対策のマスクとフードを被っており、その姿が確認できるのは教会内でだけとのこと。ギルド内でも最高の回復魔術使いで、田舎の孤児院から引き抜かれてきたらしい。教会術師としての毎月のお給金と、探索者としての収入は、そのままその孤児院へ送られているとのこと。
フェン……18歳、男。金髪碧眼。痩せ型。男性にしては背は低め。アンナ付きの護衛兼保護者。彼女が田舎にいた時からの付き合いらしく、双剣使いとしての腕前は超一流。探索者になったのも、彼女を危険から守るためらしく、その過保護っぷりは有名。幼女趣味の可能性も噂されているが、その美貌から街の女性たちからは羨望のまなざしで見られている。
以上の情報を得て現地に急行した私は、街についたその夜に、魔剣所持者とされる元傭兵で探索者の「ヴェルク」と接触に成功。今回の探索で酷い怪我をしたという情報もあったが、そのような様子は見受けられなかった。回復術師「アンナ」による治癒の成果か。
酒場に入った彼に近づき、薬を使って酒に酔わせ情報を引き出そうとするも失敗。介抱するフリをして、所持者の借りている部屋へ潜入・捜索するも、魔剣の姿は見当たらず。仕方なく、所持者を油断させるために関係を持ったように偽装。
翌朝、昨夜の記憶を失った所持者のそばで、眠ったフリをして様子を伺うも、部屋で魔剣を取り出す様子無し。所持者はその足で探索者ギルドに向かったため、街に出て仲間の諜報員と接触。ギルドに潜入しているその諜報員へ一時調査を引き継ぐ。
所持者が留守の間に、彼の滞在している宿の経営者父娘に接触。最近変わったことが無かったか、それとなく確認するも成果無し。娘のほうには睨まれた。部屋の中を捜索しながら、仲間からの連絡を待つ。
夕方。再度諜報員と接触するために外出したところ、路地裏で何者かに拉致される。睡眠薬を嗅がされ目隠しをされたが、咄嗟に奥歯に仕込んだ薬で覚醒、視界は奪われたものの、耳を澄まして正体を探る。
すると、仲間同士で使っている言葉が帝国語であることが判明。その内容から察するに、どうやら同じ部屋に泊まっていたことで所持者の恋人と勘違いされ、人質にされたようだった。残念ながら、我々の得た情報によると、所持者に今現在恋人と呼べる存在はいない。
その後、どこかに運ばれ、椅子に座らされ縛られる。所持者が助けにこない可能性が大きかったため、相手の正体を探って脱出しようと試みるが、その直前にこちらの素性が漏洩(我々の組織内部に不穏分子の可能性あり)してしまう。
そこに所持者が現れて(見張りから奪った服で、黒装束の帝国人に変装していた)、私が魔剣調査員だということが発覚してしまう。驚いてはいたようだが、特にこれといった悪い反応も無く、協力して監禁されていた部屋からの脱出に成功。
しかし、その屋敷周辺を多数の帝国軍人に囲まれる(こちらも国内への侵入方法の調査が必要と思われる)。
そこで初めて、所持者が魔剣を使用。陛下の持つ魔剣「ヴィジター」と同じく、異空間に保管できる無形タイプのもので、剣・槍・投擲用ナイフなど、多種の武器に形状を変える能力を持つ。
特筆すべきは、飛翔してきた攻撃魔術を空中で分解し魔剣に吸収してみせた魔力吸収能力で、また、使用者の能力を増大させている可能性も有り。たった一人で武装した50人からの帝国人部隊を殺戮し、確認出来たその戦力は王国最強の聖貴士団員レベルと思われる。
戦闘後、使用者が気を失うと同時に消失した模様。「回収」を行う場合は、所持者の意識がある状態でしか方法は無いものと思われる。
その直後、事前の情報にあった、探索者仲間の「ヴィー」と呼ばれる女性が現れ所持者を回収。その後同じ部屋で一夜を共にしたらしく、更なる接触は叶わず。
●現段階における、魔剣の調査結果
所持者本来の能力も考慮せねばならないが、以上のことから推測される魔剣自体の性能は少なくとも「B+」。放出能力は現在のところ確認できず。
戦果は上々だが魔剣自体の攻撃的な能力は低く、その分、防御的な能力には優れており、もしヴィジターのようなS級魔剣の攻撃をも吸収できるようであれば、戦略的な価値は十分にあるだろう。
また、もしそのような能力を持った上で万が一敵対した場合も、直接的な魔術の使用を避ければ、聖貴士たちの持つ「秘匿された13本の魔剣」による魔剣封じは通用するものと考えられる。
ただし、現在の所持者は王国に友好的な様子で、かつて傭兵として戦争も経験している。そのため、来るべき帝国との再戦に備え、王国側に引き込むのが最良と思われる。
●追記
先ほど入った情報によると、魔剣は「ハルマッゾ」と名乗る鎧型モンスターから入手されたもの、とのこと。こちらについても情報を収集していく。
―――魔剣調査員 マリア・フォーレス