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前編:モノクロの虹

これを読んでいる皆様はこの世にある様々な色にどんなイメージを持っていますか?頭の中で読んでいるときの感情を色に変換して読んでいただければ幸いです。

この作品は前中後編の三編でお送りいたします。皆様に青春在れ。

 青。僕はその色が気に食わなかった。

 青春と言われれば甘酸っぱい学園生活が一般的に思い浮かび、青空と言われれば清々しい気分になると。

 ポジティブなイメージを持っていると思えば、気分の落ち込んだときなんかはブルーな気持ち、だなんて言って落ち込んでいることを意味する色に変わる。

 綺麗で、美しくて、陰鬱で。それ自体は何も変わっていないのに、人の勝手な気分で都合のいいものに作り替えられてしまう。当然の話だが色は概念であり、どこまで行っても無機物だ。だからこそ身勝手に振り回されてもそれは何かを発することが出来ない。言葉どころか音を出すことも出来ないのだ。

 これは僕の気に食わない色が特別になったある七日間の話である。この色が君に届けばと今文字を綴ろうと思う。


 僕は至って平凡だった。勉強、運動、性格、何をとっても特に秀でているものは無く、これと言って特技は無い。気に食わないと共に、青色のような人として生きていけたらと思っていた。そんなことが出来ていたらこんな怠慢な生活は送っていないのだろうけど。

 思うだけで何かを変えるつもりも無かったので、何のイベントもなく入学式から夏休みまで只々普通の日々を過ごすだけだった。一学期の成績表には見慣れた三と四の数字ばかりで思わず頬が緩む。いつも通りで良かったという安心感と、所詮こんなもんだよなという自身に対しての諦めによる失笑だった。唯一授業態度で勝ち取った美術の五を見ては悦に浸る。惨めだ。

 二学期が始まって暫く経つ頃、学校に通っているなら避けて通れない行事が決行されることとなった。文化祭だ。この学校の文化祭では観に来た人の投票によりランキングを付けてTOP3までに景品が用意されているとのことで、クラスはその話題で持ちきりだった。一位が打上げ無料ということでそれを狙う者がほとんどだったが、打上げに魅力を感じない一部の人たちが二位の弁当が欲しいと言っているのが聞こえた。流されて多くの意見に従えばいいのにと、ここでも変われなさそうな自分に嫌気が差す。

「よし、全員注目。今日は文化祭のリーダーを決める」

 担任が教壇に立つ。全員それは文化委員がやるものだと思っていたので少しざわつく。

「文化委員は文化祭全体の仕事で忙しいから、クラスごとのまとめ役は別で決めるそうだ。この学校では部活ごとの催しも行う可能性がある、だから部活に入っていない人から決めるぞ」

「南先生、リーダーって一人?」

「いや、男女一人ずつだ」

 マズい。部活云々を先生が言い始めたときはまだ良かったが、男女別々となると大分枠が狭くなってしまうぞ。なんとか──

「男で部活に入っていないのは西篠だけだが、やってくれるか?」

「……分かりました」

 ああ、僕だけだった。こんな空気の中でやりたくないです、なんていう勇気は僕には無い。僕はとにかく次の問題について考えることにした。もう一人が誰になるか、だ。クラスメイトとは至って平凡なお付き合いをしているが、あくまで普通に角の立たないくらいの付き合いが故に女子の事はそこまで詳しいわけではない。誰が部活に入っていないのかまでは分からない。できれば大人しく、建設的な話が出来る人を──

「はい先生!私やってもいい?」

 そう元気に手を挙げたのはクラスの人気者である東堂。意外な人物だった。人気者がリーダーをやることに関しては何の異論も違和感もなかったが、そんな東堂が部活に入っていないことに少し驚いた。人を見た目や想像で判断してはいけないんだな、と思う。

 特に他にやりたい人も上がらず、先生も断る理由もない。思ったよりスムーズにリーダーが決まったと先生が安堵する。その傍らで僕は焦燥する。

 普通に考えて人気者の彼女と何の特徴もない僕。真面目にやれば東堂に見られている関係上変な形で目立ちかねない。逆も然りだ。悪目立ちするよりは良い方に転がるほうが良いに決まっている。それが分かっているので真面目にやる以外の選択肢が無くなったわけだ。だがそれはそれで人気者の彼女のお気に召すような働きが出来るだろうか?空回りなんてしてしまおうものなら全てが悪い方向に進んでしまう気がする。

 自分の中の勝手な焦りが特に纏まらないまま先生が次の言葉を発する。

「よし、じゃあこのまま文化祭のクラステーマを決めてくれ。因みに全体テーマは『色めく秋』だ。西篠、東堂、後は頼んだ」

 先生にそう言われ教壇に上がる。どこか東堂の顔が切なく見えた。と思えばすぐに表情を明るくした東堂が仕切り出す。僕は書記をやることになり出た意見をどんどん書いていく。全体テーマを意識したような出し物、文化祭定番の出し物、いろんな意見が出た中で、カフェをすることまでは決まったが、残りの時間をフルで使ってもカフェのコンセプトまでは決めることが叶わなかった。

「うし、今日はここまで。テーマ決めは来週の水曜までだから丁度一週間後。明後日の金曜と三連休明けの月曜に一回ずつ学活の時間がある。そこで決めきってくれ」

 僕は出た意見を紙にまとめなおしたり、個人的に気になったことを調べてみたりする。そうしている間にも東堂の周りには人が集まって学活の続きのようになっている。その意見も纏めたい、東堂にはぜひ覚えていてほしいものだ。


 放課後になり、僕は少し教室に残っていた。カフェには普段行かない僕にとって知らない事が多すぎる。段々人のいなくなる教室、静かになっていくのにも気付かないまま資料を漁っていた。窓から差し込む光がオレンジ色になってきた頃、教室の人影が一つ増えて、それに気付いた時には既にその人物に声を掛けられていた。

「あれ、西篠!まだ残ってたんだ」

 東堂だった。いつも一緒にいる面子と一緒に教室を出たのを見ていたので、てっきり帰ったものだと思っていたのだが。

「東堂か。部活もないのにこんな時間まで何してるんだ?」

「それはお互い様でしょ?それ、文化祭の資料?」

 うん、と頷いてみていた資料に目を落とす。今は丁度海外のカフェに見ていたところだ。日本にある有名なカフェを見ていたのだが、なんというかしっくりこなかった。日本で喫茶店というとどこか落ち着いた雰囲気のものが多く、色めく秋、というコンセプトには合わない気がしたのだ。だからと言って海外のものがそういう雰囲気じゃないかと言われるとそんなこともなく、迷走していたところだった。

「なるほどねえ。色めくってなんだろう?カラフルにしとけばいいってわけじゃないもんねえ。」

「そうだろうが……というか本当に東堂はなんで残ってたんだ?」

 なんだかスムーズに話を逸らされた気がして、なんとなく悔しくなった僕は話を戻した。そうして話を振った時の東堂の姿を自分の眼に映したその瞬間、間髪入れずに僕は続けて言った。

「まあいいけど。文化祭の事、もうちょい一緒に考えてくれるか?」

 何か超えてはいけない壁のようなものが在ったように感じた。それは僕の勘でしかない訳だけれど、それでも今はまだ聞いてはいけないような気がした。文化祭の話に戻した途端、東堂の顔が和らぐ。僕は正解の選択肢を引けたのだろう、と思った。勘は良い方だ。

 そのまま完全に日が暮れる直前まで話し合った。別に話が進んだ訳でもなかったが、こうして何かを一緒に考えるということが僕にとっては新鮮で楽しかった。東堂もかなり積極的に話し合いをしてくれたことも大きい。当初懸念していたいい関係を作れるかどうか、というところが心配いらなそうだとほっとした。僕もどんどん話し合いに熱が入り、それについてきてくれた。後になって見た目や普段の立振舞いで、話したこともない人を評価していたのだと反省することになるが、その時は嬉しさが勝ってすごく気が緩んでいた。

「西篠、途中まで一緒に帰ろうよ!」

 だから普段は首を縦に振らないところでも、うん、と返事してしまったのだろう。これまで只々平凡に暮らしてきた僕が最も避けるべきイベントを自分で起こしてしまったのだ。かと言って今更撤回も出来まい。僕の目の前でただ帰り支度を済ませる君を見て、知り合いに会いませんように、と信じてもいない神に祈っていた。


「西篠はさぁ」

 校門を出て早々、なんだか楽しそうな東堂に声を掛けられる。

「文化祭、めんどくさくないの?」

 さっきまであれだけ白熱した話をしていたのは僕だけなのか、と一瞬で不安になる。あの時の東堂の顔に嘘はなかったように見えたが……変な勘繰りで一瞬返事が遅れる。

「いや、任せられたからには一所懸命やるよ」

「……なんか変な間あったし、それ質問の答えになってないし」

 しまった。これは焦りだ。今日一日で僕のこれまでの人生になかったことが起こりすぎてどこか夢を見ているかのようにふわっとしてしまっている。これまでの僕と東堂の疑いを否定するように言葉を紡ぐ。

「ごめん、面倒くさいとかは思ってないよ。ただ、こういうのって僕にとっては新鮮でさ。楽しかったから。空回りしてるように見えたら悪いな」

「……っはは!そっか!良かった。私も楽しかったからさ!」

 短い間キョトンとしていた東堂の顔が急に晴れやかになる。安心とともに自分への保身で必死になっているようでなんだか複雑な気分になってしまう。

 そのまま他愛ない会話をして帰路を往く。食べ物は何が好きとか、休日は何してるとか、好きな教科は何とか。住宅街に入るころには他の男子たちと話すのと同じように東堂と話していた。少し長い信号待ちで君が進む先を指差す。

「私の家、あそこに見えてる青い屋根の家!」

「青い屋根……?どれだ?」

 指を差す先には青い屋根の新築っぽい家が三件建っていた。東堂は少し間を開けた後、黒い車が停まっている、と続ける。

「ああ、あれか。良いのか、家の場所をそんな簡単に男に教えて」

「いやいや、友達に教えるくらい良いでしょ?」

 一瞬言葉に詰まる。これまで周りに一定の壁を作っていた僕にとって、その壁が東堂に簡単に超えられていることに今更気付いた。それでも嫌だと感じなかったのは、同じように君の事を友だと感じたのだろう。自分の心境の変化が始まっている気がした。

「これ、連絡先!また文化祭の事も連絡するだろうから、ちゃんと見てよ!」

 おう、と口から空気が漏れる程度の返事を返す。連絡先の交換を終えくるっと踵を返して帰ろうとする君。僕は咄嗟にその手を掴む。

「っんえ、どうしたの?」

「……まだ赤だぞ、信号」

 別れが惜しかったわけじゃない。ただ赤信号を渡ろうとしたのを止めただけだ。別に車が来ていたわけじゃないから、渡ること自体は可能だったと思うが、そんなことを考えるより先に手が伸びていた。

「……ほ、ホントだ!渡ってる人がいたからつい……」

 歯切れの悪い返事とともに、今度こそ青に変わった信号を渡って振り返り手を振ってくる。僕が高校に入って初めて出来た『友達』の余韻に浸りながら僕も帰ろうと信号を渡る。なんというか、嵐のような人だったな。自分の道に関わらない人だと思っていたのに、こんなこともあるんだな。自分の家に着く頃には、もういつもの人生に戻っていた。何もなく、ゆっくりと、一日がそのまま終わった。


 朝、いつものようにアラームで目を覚ます。僕の毎日の始まりは特に二度寝をすることなく顔を洗いに行くことから始まる。と、思っていた。いつもより三十分早く目が覚めていた。うめき声に近い声を上げながら身体をゆっくりと起こして携帯をちらっと見る。とある人物から届いたメッセージを見て、昨日の出来事がまるで走馬灯のように浮かぶ。

『おはよ、今日ちょっと早めに学校来れる?』

 東堂からだった。そういうのは昨日のうちに言っとけ、と言いたくなったのを堪えて、おっけーとだけ返し朝の準備を少し早めに済ませる。

「おはよう」

「おはよう......今日早いね?」

「ああ......うん、文化祭のことでちょっとね」

 母が少し驚いたような顔をする。そんなに僕がこういうことをするのが珍しいのか?と思ったが、確かにその通りだった。これまでは残り物だったり、目立たないようなものばかりをしてきた僕にとって、目立つ役職でわざわざ朝早く出るなんて、今までの僕ではまず考えられないだろうから。自分が早く学校に行こうと急いでいることに気が付いて自分で驚く。

「急ぐのはいいけど、忘れ物しないようにね」

 分かってるよ、と返しながらも不安になって時間割と日報を確認する。ああ、母さん。声かけありがとう。

「行ってきます」

「よ」

 玄関ドアを開けると同時に思わぬ人物が目に留まる。東堂だ。

「母さん、そういうのじゃ、ないから」

 東堂へのあいさつより前に母への言い訳が口を衝いて先に出る。そのままの勢いでおはようと東堂に言いながら振り返る。

「んぅっ.......ふふっ.......」

「何笑ってんだ東堂」

「いや、あの焦り様は面白いよ流石に」

 通学路を歩きながら暫くツボに入った東堂に散々に言われ続けた。ずっと本当に面白そうにするものだから、恥ずかしかったはずがどんどん面白くなってきた。

「いいね、西條そんな良い顔もできるんじゃん」

 なんだそれ、と返しながらも僕も確かに過去に無いくらい楽しく過ごしている自覚があった。間違いなく

 僕の人生の中で一番彩られているのはこの瞬間なのだろうと思うくらいに。

「ところで何で家の前に?東堂の家からだと遠回りなはずだけど......いや待て、それよりなんで家を知ってるんだ?実は僕のストーカーとかか?いや有り得るな......僕と仲良くする理由なんてそんなにないもんな、待てよ、ならなんでストーカーを......」

「ちょ、待って。笑い死ぬ」

 腹を抱えるようにして奥歯を噛み締めながら笑うのを我慢する東堂。なんだ、こっちは真剣なんだ。僕にとって人付き合いは難しいんだよ。

「いやいや、西條は知らないかもしれないけど、病欠の時に一回課題届けに来てるよ。こっちのほうに住んでるクラスメイト私くらいらしくてさ。その時は感染症だったから顔合わせられなかったけどね」

「ああ、そういうこと」

 そういえば昨日、家の方向教えてないのに一緒に帰る提案をされたな。あれは僕の家の方向を知っていたからなのか。というか感染症なんて半年くらい前の話だった気がするけど......よく覚えているもんだな、その時はよくも知らないクラスメイトだったはずなのに。記憶力がいいんだろうな。

 いつもより早い時間で生徒と一度も会うことなく学校に着く。当然のように教室には僕たちは一番乗りで、静かな教室にはいつもより少し眩しい朝日が差し込んでいる。僕の席は暖かくなっていた。

「ところで、なんで先に学校行ってなかったんだ?僕が家を出る時間なんて分かんなかっただろうに」

「んふ、びっくりしたでしょ?」

 腰に手を当ててこれでもかと自慢げな顔をする。確かにびっくりはしたのでそれは否定しないのだが質問に答えないとちょっと怖いままだぞ、東堂。

「いや、朝言おうと思ってたことがあったんだけど、家の前にいたら面白いかなって。それで歩きながら話そうと思ってたんだけどね」

 そこまで言って東堂は思い出すようにくすっと笑い、僕が何かを言う前にすっと真剣な顔に戻る。ツッコミを入れようと、言葉を発しようと吸い込んだ空気が行き場所を無くして喉に詰まる。

「今から言うことに嘘は無いよ。私の言うことを信じてほしいの、良い?」

「そりゃもちろん信じるけど」

「即答?私が言うのもなんだけど、そんなに信用に足るかな?」

 そんなことを言われても。昨日今日と話してここまで時間を使って噓を吐くようなしょうもないことをするとは考えにくい。その眼に曇りがないと感じた。彼女は至って真剣であることが何も話さなくても伝わってくる、ような気がする。僕の勘は当たるのだ。

「私ね、先生に半ば強制的に当てられた君を見ててね、すごいな、って思ったの。あんな決められ方をしたのに、君は真剣に文化祭のこと考えてた。ホームルームが終わった後も放課後も、資料をまとめてたり、私みたいに自分からやりたいって言ったわけじゃないのに、君は任された後からずっと真面目に取り組んでてね。私ね、西條って普段から空気をよく読んでるなって思ってたの。周りのことよく見てるし」

 息を飲む。まずは僕のことをこんなに見てくれている人がいることがまず驚きだった。誰の目にも映らないと思っていたし、僕自身それでいいと思っていた。見てくれなくていなくとも、昨日一人で資料をまとめることになったとしても、あの時東堂が帰っていたとしても。僕の人生はそれで良かったはずだった。なのに、こう言われて、柄にもなく嬉しくなってしまう。でも違う。きっと目の前の真っ直ぐな目をしている彼女から放たれる言葉はきっとこれからが本番で、それはそんなに良いことじゃないと、僕の良く当たる勘がそう告げている。この日この瞬間ほど、自分の勘を信じたくなかった日はない。

「私ね、毎日一生懸命に生きてるの。やりたいことは全部やる!やりたくないことはやらない!自分の思うがままに生きる!だから文化祭のリーダーも立候補した。だけど、昨日西條と話して思ったの。西條にとってこれはきっと心からやりたいことじゃない。けどやるからには一所懸命やろうって言ってるのを聞いて。ああ、この人は私とは違うんだって。この先の未来に、沢山時間があるんだろうって」

「なに、言ってるんだ」

 その言い方じゃあまるで......

「うん、西條が想像してる通り。お医者さんが言うにはね、十七歳は迎えられないらしいの。だから」

 雲一つない青い秋空。色付いた僕の景色がモノクロに戻ったのは、十六歳のとある静かな朝の事だった。

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