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滅ぶ予定の魔王国ルミナ、実は全員が将軍級でした ~常識人の魔王アルト、血に飢えた国民に担がれて帝国を返り討ちにする~  作者: 雪野湯
第二章 世界を書き換える力

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第48話 絶望

 女王の……命を賭した願い。

 それを無情に突き放した私。

 

 その無慈悲な言葉に、ミナヅキたちの心に激しい怒りが宿る。

 だが、真っ先に私の胸倉を掴み上げたのは――――ギドラだった。



「きっさまぁ、なんだその言い草は!?」

「ギ、ギドラ?」

「一国の主が地に膝をつき、(こうべ)を垂れて懇願したのだぞ!! それをこうもはっきり拒絶するなどと!!」

「ギドラ、落ち着け。だいたい、君の立場で怒る方がおかしいだろう――」


「俺の立場などどうでもいい!! 俺は仁と義を踏みにじった貴様に腹を立てているだけだ!!」

「ギドラ……」



 ギドラの瞳は、燃え盛る火炎のように私を射抜く。


「アルト! 王にとって国とは我が子同然! それを赤の他人に渡すなど、どれほどの苦渋だと思う!? どれほどまでに心を痛める決断だと思っている!? それをなぜ、汲んでやれない!!」


「これは簡単に選べるものではないんだ、ギドラ!」

「何が選べないだ! 貴様に覚悟がないだけではないか!?」


「そうではない!」

「では、なんだと言うんだ!?」


 私は掴まれた胸倉を力任せに振り払い、逆にギドラの胸倉を両手で強く掴み返して、その顔を引き寄せた。



「ルミナが滅ぶからだ!!」



「――なんだと?」

「本音を言えば、カイリの力は欲しい。譲ってくれると言うならば、誇りを捨ててでも欲しい! だが、今のルミナの国力では、カイリという巨大な器を支えきれないんだ!!」


 私は彼を突き放すように胸倉から手を外し、北の方角へ手を振った。


「ルミナの人口は五千。僅か五千だぞ! これでどのようにして、一千万を超える大国カイリを治める!? さらにだ――」


 床に膝をついているミナヅキを睨みつける。

「カイリの象徴たる勇者ミナヅキであっても纏められなかったのだぞ。だというのに、魔族の王である私が、人間の国を纏められると思っているのか、ギドラ!!」

「そ、それは……」


「懸念はこれだけではない!」


 西へ大きく手を振るう。

「私がカイリを得ようものなら、それを口実にキンリュウリョウやケイドサはカイリへ攻め込んでくるだろう。カイリの民の中に、私に忠誠を誓う者など一人もいない。内部から崩壊し、必ずや激しい内乱が起きる。そのような状態で、どうやってこの国を守れというのだ!!」



 私は遥か北……帝国の方向へ指先を突きつける。

「そうなれば、帝国も動く! ルミナは帝国に脅かされる。三か国を相手に戦わねばならなくなる。だがな! ルミナの兵士は百人――たった百人でどうやって、この広大な領域を死守しろと言うのだ!!」


 拳を握りしめ、悔しさに奥歯を噛み締める。

「新たに何かを得ようとするためには、得られるだけの力が必要なのだ、ギドラ。残念ながら、ルミナには、カイリを得られるだけの……国力が、ないんだ」



 この現実を突きつけられたギドラは、それでも憤りを隠せず床を激しく踏みつけた。だが、次の言葉は出てこず、ただ押し黙った。 



 沈黙の中、アマネが彼の代わりに言葉を継いだ。


「でもさ、放っておいたらカイリは二か国の手に渡るんだよ。そうなったらルミナは、敵性国家に挟み撃ちになるじゃん。それならいっそ、カイリを貰っていた方が」

「山脈がある……」

「え?」

「あの険しい山脈が、その二か国を食い止めてくれる……」


「あんた……本気で言ってるの!? 止まるわけないじゃん! 止まっていたのはカイリだったからなのよ! 同じ人間の国を飲み込もうとしている国が、魔族の小国を放っておくわけないじゃないの!!」



 アマネの叫びは正論だ。だがな――


「そんなこと君に言われなくてもわかっている!!」

「だったら、一か八かカイリを得るしか――」


「得れば最後、帝国と完全に反目することになる!!」

「え?」


 私は額を押さえ、手のひらで自らの瞳を覆い隠した。

「巨大な力を得ようとすれば、帝国はルミナを警戒するだろう。大きな野心ありとな。だが、あくまでも、『自国防衛』の範囲内に留まっていれば、のちに交渉の余地が生まれる」

「……その、『余地』って何よ……?」



「帝国に媚を売り、私自身の首を差し出し、ルミナという文化の継続を懇願するための、余地だ」



 私は瞳を隠したまま、そう、答えを返した。

 何故、隠したままだったのか……それは、仲間たちから失望の眼差しで見つめられることを恐れてだった。


(まったく、情けないな。私は……)


 

 そろりそろりと、手のひらを動かしていく。

 だが、誰も私を見てはいなかった。皆、床を見つめ、ただひたすらに無言であり続ける。



 誰もがもう、理解しているのだろう。

 カイリは滅びに向かい、ルミナもいずれ帝国に呑み込まれるしかないという未来を。


 だから、何も発せずに、顔と瞳を下に向け続ける。



 だが、女王ミカガミだけは、迷いなど一切ない、確かな力が宿る声を上げた。


「私は、あなたであればカイリを纏められると確信しています。あのタイド様の御子である、アルト陛下であれば、必ずや」

「ミカガミ女王、それは不可能です……」

「そうでしょうか? ですが、ルミナが証明しているではありませんか?」

「ルミナが?」


「ええ……ルミナは多くの異種族が共存している世界。その世界をほんの少しだけ、広げてみてはいかがでしょうか?」

「ミカガミ殿、あなたが……」



 胸の奥より、ドロリとした感情が沸き上がってくる。

 私は喉元まで出かかった言葉を、無理やり引っ込めた。


(あなたが見ておられるのは、父タイドの幻影だ。私ではない)


 その言葉は、あまりにも惨めで口に出せなかった。たとえ事実だとしても。

 ミカガミはさらに言葉を重ねようとしたが、突如として激しく咳き込み、多量の血を床にぶちまけた。


「アルト陛下、あなたはご自身が思っている以上に……ぐっ、ごほごほ、ゴボ――)

「陛下!」


 ミナヅキが女王ミカガミを支える。

 彼女は、必死に私へとやせ細った腕を伸ばす。


 だが、その腕を掴むことはできない……。


 メールは深くフードをかぶり、絶望の世界から逃れようとしている。

 ギドラはやるせなさに拳を固め、その拳はミシミシと泣いている。

 アマネは声を振り絞るようにして、それでも受けるしかないと訴える。



 そして、イロハは――――私を案じる深い瞳を宿し、誰よりも悲しげな表情を浮かべていた。


 彼女は、私が次に選び取ろうとしている選択肢に気づいているのだろう。


 そう、もう、これしか……残っていない。

 

 カイリを救い、ルミナを救う方法……それは――この、アルトの命を差し出すほかない。



「一つだけ、カイリを救う方法がある……」

 この言葉に、ここにいる全員の瞳が私に寄った。


 私は条理を超えた不条理そのものの選択肢を生み出した――禁忌と言える選択肢を……。


「カイリを救うのは女王ミカガミ、あなた自身だ。あなたが女王となり、カイリを導くことだ」


 そう唱え、私はイロハから預かっている双剣へ、そっと手を伸ばした。

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