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滅ぶ予定の魔王国ルミナ、実は全員が将軍級でした ~常識人の魔王アルト、血に飢えた国民に担がれて帝国を返り討ちにする~  作者: 雪野湯
第二章 世界を書き換える力

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第40話 人質――誇りなき振る舞い

――中庭



「んんん……」

 

 重い瞼を持ち上げ、視界に飛び込んできたメールの黄金の瞳を見つめ返した。

 フードの奥に覗く少女の顔立ちは驚くほど幼いが、同時に完成された美女の片鱗をも漂わせている。


 私と目が合った瞬間、メールは慌てて視線を逸らした。

 恥ずかしがり屋の彼女をまじまじと見つめていては彼女も戸惑うだろう。

 

 メールの両膝から頭を放して、あくびと共に固まった上半身を大きく伸ばす。


「ふぁぁぁあ、よく寝た」

「寝すぎだ、馬鹿者!」


 寝起き一番に突き刺さる罵声……その発生源へ寝ぼけ眼を向ける。


 そこには、両腕を組んで胡坐をかいたギドラが不機嫌そうに座っていた。

 私は、雲一つない真っ青な空から降り注ぐ心地よい日差しを浴びながら、彼に声をかける。


「ギドラ、おはよう。どうやら、丸一晩しっかり眠っていたようだな」

「何と暢気な……」

「君の方は寝ていないのか? 私より少ないとはいえ毒を摂取しただろう」

「……黙れ」



 ギドラは申し訳なさそうにメールへ一瞥をくれると、気まずそうに顔を背けた。

 どうやら彼もまた、睡魔に抗いきれず眠ってしまったようだ。私ほど深くはなかったようだが。


 

 彼は仕切り直すように、これからの行動を尋ねてくる。

「もう体調は万全なのか?」


 手の開け閉めを行い、末端の感覚を確かめる。

「眠気は落ち着いたが、四肢にうまく力が伝わらない。毒は抜けきっていないようだ」

「俺の方も相変わらず闘気がうまく操れん。この毒には、眠りの効果以外もあるようだな」

「おそらく神経を侵す類のものだろう」


「それで、これからどうする? イロハを救出しに行くのか」



「その必要はありませんよ」


 不意に茂みが揺れ、そこからイロハが姿を現した。

 あまりに唐突な帰還に、ギドラが驚きの声を上げる。


「お、おお……」

「おはようございます、ギドラさん」

「ああ、無事で何よりだ。何か無体な真似などされなかったか?」

「とても丁重に扱われております」


 にっこりと笑って、次にこちらへ顔を向ける。

 私は、彼女がこの隠れ場所を正確に探り当てたことに、感嘆を禁じ得なかった。


「よくここだと分かったな」

「ジャミングされてわかりにくかったですが、アルト様の性格上、逃走するよりは留まる方を選ばれると考えて、城内周辺を重点的に探索した結果です。すると、僅かですが魔力の変数に揺らぎがありましたので、ここかなっと」

「さすがだな。ん?」



 背後にいたメールが、短く「む」と小さな不満の声を漏らした。

 僅かに見える口先が尖っているように見えることから、遮蔽魔法をイロハに看破されたことが悔しかったようだ。


(おとなしそうに見えて、なかなかの負けん気だ。良いことだな。それは成長の種となる大切な気持ちだ)

 私は僅かに頬を緩めるが、すぐに引き締めて、イロハの調査結果を問うた。


「イロハ、何か掴んだか?」

「はい、女王ミカガミ様と接触しました」

「それは重畳。その首尾は?」


 問いに、イロハはゆっくりと首を左右に振った。

「こちらの申し出に好意的ではあり、誠実で、恐ろしく明晰な方でした。ですが、病が重く、国政に言葉を挟むのは不可能でしょう」

「……それほどまでに重いのか?」

「はい」

「そうか……そうなると、同盟の道は絶たれたと考えるべきか」



 感情を排して言葉を発したが、内心は焦燥に焼かれていた。

(カイリからの援助を期待できないとなると、ルミナは単独で帝国と構えることになる。せっかく、帝国の意識が人間諸国に向いており、時間の猶予が生まれたというのに……それを活かせないとは)



 私は口を覆い隠すように掌で覆う。そして、漏れ出るため息を誰の耳にも届かぬように押さえた。

 思考をさらに深く沈め、数少ない、残された手に触れる。


(そうなると……気は乗らぬが、アマネ頼りとなるか)


 私は一度天を仰ぎ、イロハに問いと非情な命を与えた。

「アマネの位置は把握しているか?」

「いえ。ですが、探索は容易かと。女王の寝所ほど厳重ではないでしょうから」



「ならば、今すぐにでもアマネの居場所を特定し……捕らえてくれ」



 この言葉に、メールが体を跳ね上げ、ギドラが声に怒気を乗せる。

「と、らえる? どう、して?」

「おい! 今の言葉はなんだ? あの小娘は貴様の味方であろう!」


「共に過ごした時間は短いが、私とて仲良くやっていたつもりだ。だが、味方ではないんだ。彼女はスイテン国の勇者セッスイの娘――アマネ。あくまでも、我が国の『賓客』に過ぎない……」


 私は拳を振り下ろし、どこにもぶつけられない悔しさを表し、悔恨に胸を焼く。

「たとえ卑劣と罵られようと、ルミナ存続のためにはアマネという人質が必要となった。彼女がルミナに留まる限り、カイリを含む人間国はそう簡単にルミナには手出しできまい」


「アルト! それは己の誇りに準じた言葉なのか!?」

「違う」

「ならば――」



「だが、私は王だ」



 私は瞳から一切の情を消し去り、冷徹な光でギドラを射抜いた。

「王である以上、民を安んじなければならない。そのためには、この両手を――血と汚泥に塗れさせることも厭わない!!」

「――うっ!」


「いくらでも軽蔑するがいい! だが、私は帝国と戦争をすると決めた時から、この覚悟はしていた。己の心を捨てようとも、民を守ると決めたのだ!!」



 ギドラはなおも言い返そうとしたが、メールの姿を見て、苦しげに口を噤んだ。


(彼女から余計な話など聞くべきではなかった! この男の苦悩など知りたくなかった! そうであれば、純粋に憎み、軽蔑できたというのに!!)


 ギドラは歯ぎしりを交えて沈黙し、メールもフードを深く被ることで言葉を閉ざした。

 私は感情を殺したまま、イロハに重ねて命じる。


「アマネの確保を」

「はっ!」


 私は周囲を見回すようにして、さらに撤退戦の指示を出す。

「一晩かけても私たちを見つけられず、ミナヅキに焦りが生まれているだろう。その焦りに隙が生じることを祈り、最初に訪れた出入り口を強行突破する」

「最も危険な選択となりますよ」


「わかっている。だが、城の全体像が把握できない以上、既知の道を辿る方がまだ勝算はある」

「……かしこまりました。では、アマネさんを捕らえ次第、ミナヅキ様が出迎えに来た十字路で合流しましょう」


 イロハは茂みに向かい、歩く。

 その際、彼女は私の両手を見た。

「……毒の影響が、まだあるようですね」

「ああ、残念なことにな」

「そうですか。あまり無理をなさらずに、全ての事は、このイロハにお任せを」


 そう言葉を残し、イロハはアマネを捕らえるべく姿を消した。



――イロハ


 茂みを抜けたイロハは、人知れず下唇を噛み締めていた。

(予測では、一晩あればアルト様の身体は完全に回復するはずだった。私もまた、瞳が鈍っている。自分の衰えを把握できないなんて)


 次に、小さなため息に決意を込めた。

(ブルックさんには甘やかすなと言われていましたが、これは私のミス。ここからは、アルト様に無理をさせるわけにはまいりません。私が……あの子の前に立ちましょう)

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