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滅ぶ予定の魔王国ルミナ、実は全員が将軍級でした ~常識人の魔王アルト、血に飢えた国民に担がれて帝国を返り討ちにする~  作者: 雪野湯
第二章 世界を書き換える力

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第35話 鋭利な思惑潜む食事会

 目の前に立つ男――カイリ国の勇者ミナヅキ。

 病に臥せる女王ミカガミに代わり、現在この国の執政を一身に担っている男だ。



 まだ年若く、二十代半ばほどだろうか。笑みを纏う彼には中性的な美しさが宿っている。しかし、その澄んだ水色の瞳の奥には、隠しきれない剣呑な気配が揺らめいていた。



 一目見ただけで、このミナヅキが相当なやり手であることは理解できた。そんな男が、瞳に宿る敵意を隠そうともしない――牽制か? いや、疲労の色が濃い。そのため隠しきれていないのか。



(言葉と所作は友好的であるのだがな……この調子だと交渉は難航しそうだ)


 ミナヅキはまず、アマネについて言及してきた。

「セッスイ様のご息女アマネ様」

「え、あ、なに?」

「フフ、お久しぶりですね」

「ん? 会ったことありましたっけ?」

「お会いしたのは二歳の頃でしたので、覚えていらっしゃらないでしょう」

「ああ~、それだとさすがに覚えてないわね」


 ミナヅキは小さな笑みを見せると、こちらへ向き直り、慇懃(いんぎん)に頭を下げた。

「アルト陛下、アマネ様をお預けいただくこと、恐れながらお許しいただけますでしょうか」


 耳に心地よく響く、柔らかな音。だが、そこに宿るのは一分たりとも譲歩する意思のない、確信に満ちた声だ。

 その声に対し、私もまた柔らかな笑みを浮かべて応じる。


「ああ、もちろんだ」

 既にアマネの役目は果たされた。『私』が直接『カイリ』へアマネを手渡したという事実こそが、この同盟交渉の最初の一手なのだから。


 アマネはなんだかな、といった様子で頬を軽く掻いて、イロハやメールに声をかけた。

「んじゃ、またあとでね」

「はい、アマネ様」

「……です」


 ミナヅキが軽く手を振ると、壁際に控えていた女中が現れ、アマネを奥へと案内していった。それを見届けたミナヅキが、再び私へと視線を戻す。



「山脈を越えての長旅、さぞお疲れでしょう。まずは、お食事でもいかがでしょうか?」

「食事をしながらの会合、ということかな?」


「いえ、ただの食事です。私はアルト陛下をまだよく存じ上げません。陛下もまた、私をご存じないでしょう。まずは杯を交わし、理解を深め合いませんか?」


「……こちらはゲストだ。ホストに従おう」

「では、女中に案内させますので。後ほど」



 立ち去ろうとするミナヅキの背に、私は一声をかける。

「ミナヅキ殿、ミカガミ女王陛下にお目通り願いたい」


 

 彼は足を止め、振り返ることなく答えた。

「ミカガミ様は全権を私に託されております。では、失礼します」


 柔らかなようでいて、真に硬質な拒絶を置いて、彼は足早に去っていった。私は顎に手をやる。

「にべもなしか。それにしても、あのミナヅキという男――」



 その足運び、振る舞い、視線の配り方、身に秘める気配。

「信じられんほど腕が立つぞ」


 これにギドラが奥歯を噛みしめ、悔しげな声を漏らす。

「表舞台に出ぬ勇者と侮っていたが……かような男がいようとは……」

 

 イロハには珍しく、明確な命令を言葉に発する。

「メールさん、警戒を厳に。アルト様の護衛を最優先にしてください」

「……はい」


 さらに、イロハはメールに何やら密やかな耳打ちをしていた。


「……いいですね」

「ん」



 その会話の内容は気になるが、女中たちを待たせるわけにはいかない。

 私たちは女中に案内されて、食事の間へ向かう。

 その際、ギドラが小声で囁いてくる。

「ミナヅキをどれほどと見る?」

「底が見えん。だが、もし、私と彼が切り結んだ場合……」

「どうなる?」


 私もまたイロハと同様に、微かな焦りを含んだ声を出す。

「どちらが立っているか、わからない」

「――――っ!? それほどの男というのか? だが、何故だ? 何故、それだけの実力を持ちながら、表舞台に上がらない?」


「女王を支えるためだろう。ただひたすらに、この国を守るために奔走している。その疲れが如実に見える。おそらく彼は、国を守るために何でもするぞ」

「ふん、その結果があの孤児たちか……腕は立つが、器は芥子粒(けしつぶ)のようなものだな」


「……そうだな。だからこそ交渉は難航する。できれば、ミカガミに直接会いたかったが……」




―――食事の間



 私はカイリ国らしい、畳の間に座布団を想像していたのだが、室内にあったのは巨大な横長のテーブルに椅子。

 畳に座る習慣のない私たちに配慮してくれたのだろう。


 その巨大な横長のテーブルを挟み、ルミナとカイリの面々が対面するように着席した。中央には私とミナヅキ。



 彼の左右には大臣級と思われる重鎮たちが並び、そして……アマネ。

 純白のドレスを纏って現れた彼女は、いつもの荒っぽさが嘘のような上品な所作で席に着いていた。


 そのあまりの変貌ぶりに、ギドラが堪えきれず噴き出した。


「ぶふっ、ごほんごほん、失礼。のどが絡んでしまった」


 アマネは完璧な微笑を崩さないが、右肩が微かに震えている。テーブルの下で拳を握り締めているに違いない。



 軽い挨拶の後、食事が始まった。運ばれてくるのはカイリらしい海の幸をふんだんに使用した美しい懐石料理だ。

 

 ミナヅキは細やかに料理の解説をしてくれるが、一向に同盟の話を切り出そうとしない。

 私は内心で眉を顰める。

(確かにただの食事と言ったが、重鎮を揃えておきながら世間話だけで通す気か?)


 こういった政界・財界などの食事会は面倒なもので、談笑の中に政治的なニュアンスを紛れ込ませるものだ。

 第三者に悟られず、かつ言質を取られぬよう比喩を使い、相手がその真意を汲み取れる器かどうかを試す。



 だが、カイリ側の面々からはそうした気配が全く感じられない。


(これは困ったな。暖簾に腕押しというもの。こちらから切り込んでみるか?)

 私は椀物に口を添えつつ、ミナヅキの様子を窺う。

 すると、どういうわけか、彼もまたこちらの様子を探っていた。

 私が椀を置き、こくりと喉を鳴らすと――彼は深刻な気配を纏って、こう言葉を漏らし始めた。



「申し訳ない、アルト陛下。この国には、選べる余裕が残っていないです」

「何を言って――うん?」


 隣のイロハが、私を射抜くような鋭い視線で見ていた。

 彼女が小さく首を横に振った――と思った次の瞬間。



「皆さん、食事を取らないでください! 毒が盛られています!!」


 叫ぶと同時に、イロハはテーブルクロスを両手で掴み上げ、並んでいた豪華な料理を床へと豪快にぶちまけた。


「アルト様、お逃げください!!」

「なっ、イロハ!? 一体――――クッ!」


 突然、両手に痺れが走った。同時に、(あらが)いがたい強烈な眠気が意識を刈り取りに来る。

 ギドラも同様に、巨躯を揺らして呻いている。


「こ、これは……不覚……」

  

 部屋の四方から、武装したカイリの兵士たちが雪崩れ込んできた。

 イロハが瞬時にメールへ指示を飛ばす。



「メールさん、お二人を!」

「――ん! こっち!!」


 メールはギドラと私を魔法の紐で拘束し、無理やり食事の間から引っ張り出していく。

 その背後で、イロハが巨大なテーブルクロスを、らしくない様子で不器用に振り回し、迫る兵士たちを牽制していた。

(イロハ? そうか、実力を隠して……となると、彼女の意図は)



 部屋を脱する寸前、私は感情の失せたミナヅキの冷め切った表情を視界に捉えた。

「……強力な眠り薬です。この部屋を抜けたところで、城から逃げ出すのは不可能でしょう」



――――嵐の去った、食事の間


 

 主を逃がし、一人残ったイロハを、抜身の刃を持った兵士たちが取り囲む。

 イロハは息切れする様子を兵士たちに見せつけるようにして、テーブルクロスを離し、懐からメモとペンを取り出した。


「毒に気づかず食べちゃった。マイナス30ポイント、っと」

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