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辺境の魔王アルト~世界で一番小さな国が、世界で一番強かった~  作者: 雪野湯
第二章 世界を書き換える力

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第28話 復讐の影

 イロハとメールの尽力で、シスターメイや子どもたちは落ち着きを取り戻した。

 そこで改めてシスターに話を聞くと、彼女は政治犯の子どもたちを罰する国のやり方に強く反対しており、自らの意思でこの過酷な孤児院への赴任を志願したのだという。


 私はシスターメイの説明に深く頷き、視線をアマネへ振った。

 彼女は怯える子どもたちを相手に、何とかご機嫌を取ろうとしていた。


「ほらほら、こわくないよ~。私は何もしないからねぇ~」

「来ないで……」

「――うっ! そうだ、クッキーがあったんだ。よかったら――」

「いらない!」

「ひぐっ。やばい、こっちが泣きそう……」


 その様子を眺めながら、私は腕を組み、シスターに頭を傾けて問いかける。

「勇者ミナヅキは子どもたちにとって、悪魔のような存在なのだろうな」

「ええ……大きな声では言えませんが、あの子たちがミナヅキ様を許すことは、決してないでしょう」

「それは当然だろう」



 どんな事情があろうと――親の命を奪われて許せる者などまずいない!



 さらにこのような場所に追い立てて、冬を迎えるたびに友人が死を迎えるなど決して許容できるわけがない! 恨みは骨髄に達しているはず!!


 しかし――


「すまぬな、シスター。カイリ国の内政ゆえ、王の肩書きを持っている私であっても君らを救うのは難しい」


 シスターは穏やかに首を左右に振る。

「いえ、大変もったいないお言葉です。そのお心遣いだけでも、冷め切った子どもたちの心に、温かさの火が(とも)るというものです」


 

 ここで、私は小さな笑いを交える。

「フフ」

「どうされました、アルト陛下?」

「たしかに難しいが、救えないとは言っていないぞ。シスターメイ」


「――え?」


「これから私たちはカイリ国へ向かい、交渉を行う。そこで君たちの境遇についても触れておこう」

「ですが、大変心苦しくあります。それに、国家の大事の交渉とは畑が違うのではございませんか?」

「たしかにそうだが……それを何とかするのが政治家の舌先三寸だ。ま、期待して待っていてくれ」


 私は冗談めかして舌をベッと出して指をさす。

 すると、シスターは初めて笑顔を見せた。


「くすくすくす、っと、失礼でしたね」

「いや、気にしないでくれ。では、そろそろ先へ向かうとしよう」


 私は子どもたちと遊んでいるイロハとメール。依然として睨まれているアマネに声をかけようとした――その時!!


 

――ドカーン!! という、地響きのような爆発が地面と空に木霊した。



「なんだ!?」

 急ぎ、その音の発生源へ顔を向ける。

 そこは、修復を終えたばかりの橋の方角。


「い、いったい何が――あっ!」


 

『あの岩ん中にゃ、魔導型の自動爆弾連弩が山ほど仕込んでありやしてね。敵が近づきゃあ矢がドバーッと飛び出して、当たった奴ぁまとめて吹っ飛ぶって寸法でさ』

『橋にも魔導のトラップがついているんだぜ、おっと、ついてます。矢をしのいで通り抜けようとすると、足元から炎が噴き出て丸焦げって算段だぜ、おっと、です!』

 

 ドワーフの親方とエルフの言葉が脳裏を過ぎる。

 私は片手で頭を激しく抱えた。

「撤去作業中にミスを犯したな。ともかく、現場の様子を確認に――なっ!?」



 ゴロゴロという不吉な轟音を伴い、山頂からまたもや地響きが伝わってきた。

 見上げれば、無数の大岩たちが斜面を転げ落ちてきているではないか。


「クッ――このままでは子どもたちが!! 皆の者!!」

「了解です、アルト様!!」

「ん!!」

「ええ、任せなさいって!!」


 メールは魔法の結界を生み出し、それで孤児院を包み込む。

 私・イロハ・アマネは外にいる者たちを庇うように前に立ち、転がり落ちてくる大岩を弾いたり、あるいは軌道を逸らしていく。


「大岩だけではなく、細かな破片にも注意しろ。子どもたちに当たれば致命傷だぞ!」

「もちろんです!」

 

 イロハは大岩を片手で殴り飛ばし、無数の石礫(いしつぶて)を驚異的な反応速度で両手を使い叩き落している。



 その超人的な立ち回りに、剣を振るうアマネは驚きを隠せない。


「ええっ!? イロハ、すごくない? 素手なのに」

「イロハは武道の達人だからな。さらに魔法も使える。私たちの知る様式とは違うものだが」

「私たちと違う? ――――と、話している場合じゃないっか」

「その通りだ! ん、もう落石が途切れてきたか? だが、最後まで気を抜くな!」


 そう叫んだ直後、ひときわ大きな岩が視界を塞ぐように転がり落ちてきた。


「よし、あれは私が逸らす!」


 私は剣に魔力を流し、厚めの真空の刃をもって弾き飛ばそうとした――だがその岩は、刃が届く寸前で、二つに分裂してしまった。


「なっ!? イロハ!!」

「はい!!」


 分裂した一つは、イロハがかろうじて拳で受け流した。

 


――だが、もう一つが間に合わない!!



 それは三人の子どもたちの真上に迫っていた!!


「間に合うか!!」

 

 再び剣に魔力を込めようとした、その刹那――――轟音鳴り響く!?


「ふんぬっ!!」


 剛胆な掛け声とともに、その大岩は柔らかなボールが弾むかのように、私たちとは全く別方向へと吹き飛んでいった。



 驚愕と共に、視線を声の主へ向ける。


 そこに立っていたのは、筋骨隆々とした肉体を持つ男。

 太き拳を突き出し、それをゆっくり収めると、背後に座り込んでいる子どもたちへ静かに語りかけた。


「大事ないか、幼子たちよ」

「……え……うん!」

「ありがとう!!」


「フッ、そうか。ならばよい」


 厳つい風貌からは想像もつかないほど、穏やかで、実に心地よい笑みを浮かべている。

 だが、私の姿を目にすると――暗緑色の瞳の中に、氷のような殺意が宿った。



「貴様が、アルトか?」

「いかにも。貴殿は?」


「そうか……」

 男は漆黒の小手を纏った両腕を前に出して、重厚な構えを取った。

 そして、己が名を告げる。


「俺の名はギドラ……ガター様の参謀!! アルト! ガター様の仇、ここで討たさせてもらうぞ!!」

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