第23話 同盟を求めて――
十日後、ルミナとカイリ国を結ぶ橋の修復が整ったという報告を受け、我々はそちらへ向かった。
この十日の間、アマネの存在は実にありがたかった!
事務処理能力は私と比べるまでもなく非常に高く、さらには効率化の提案まで。
アマネ曰く――。
「こんな簡単な会計処理でつまづくとこある?」
だそうだ。
さすがは人間、数字の操りには長けている。魔族はそこらへん、どんぶり勘定なところがあるのでな。
もちろん、彼女自身の能力の高さも大きいだろうが。
――さて、話を山道へと戻すが、すでにカイリ国へ使者を送り、女王ミカガミと会見する下地を作ってある。
ただし、『大々的に会うのではなく、公式だが秘密裏に』という条件が付いたが。
あちらからすれば、『人間が魔族の王と会見する』ということ自体、表沙汰にしにくいことなのだろう。
そういったわけでカイリへ向かうわけだが、メンバーは……。
私、イロハ、アマネ、従者一名。という極少数。
隠密性高い会見なので、少人数が最適となる。
これについてアマネは片手で頭を抱えながら、呆れたように話していた。
「比較的魔族に対して嫌悪感が少ないカイリとはいえ、敵対している魔族の王が直接行く必要があるの? 護衛もないも同然だし。安全保障の面から見てあり得ない」
至極真っ当な指摘だが、こちらは人材不足で人手を割く余裕がない。
帝国はまだ動けないだろうが、それでも守備のために兵を残し、それを指揮するブルックを国に留めておく必要がある。
これに加え、この会談が失敗――つまり、同盟もしくは最低限の支援すらも断られた時点で、ルミナの運命は決する。
カイリが王である私を捕らえるなり命を奪うなりしたところで、運命は変わらないのだ。
それならば直接乗り込み、交渉を行って同盟の可能性を少しでも上げたい、というのが切実な願いだった。
戦闘面で頼りになる者は多いが、話し合いという場で頼りになる者はいないのがルミナの実情。
まさか、会見の席で『ていこ~く、KO・RO・SE!』などと唱和させるわけにはいかないからな。
――修復された橋へ向かい、山道を進む。
イロハはいつものメイド姿。
私もまた、砦攻略の際と同じ、紺碧の貴族服に金モール。左肩に深紅のマントで純白のキュロットを覆い隠す姿。
そして腰元には、左に二本の剣。右には一本の剣。うち、左右の剣はイロハから預かっているナイフとも言えるほど短いもの。
私は隣を歩いているアマネへ瞳を向ける。
彼女は母の形見であった深蒼のドレスから、剣士としての出で立ちへ変わっていた。
真っ白な羽飾りのついたこげ茶のフェルト帽。赤色のサーコートを纏い、それは腰から下の体のラインに沿ったスカートへとつながる。
腰元にはエルフの剣士が愛用している魔力を宿した剣・ミスリルソード。
これら全てが雑貨屋の湊から購入したもの。支払いはルミナ持ち。
剣士としての自分に誇りがあるようで、華美な装飾はない。
そして、彼女の後ろにいる従者……ルミナ百兵士の一人、魔法使いのエルフ少女メール。
彼女はアマネとは対照的にかなり派手な姿をしていた。
桃色と白が合わさるフレアスカートに、腰には巨大な桃色のリボン。手には赤色の魔石を冠に、星々を模した装飾がついた魔導杖。
赤いリボン付きのパンプス。
と、こうまで派手なのに、真っ白なフードを頭から被っていて顔はまったく見えない。
彼女の師匠である男性はこう言っていた。
「恥ずかしがり屋さんなので、顔はあまり見せないんだよね~。だからこそ! 派手な格好をさせてみた!」
逆効果のような気もするが……それはさておき、メールは恥ずかしがり屋さんであるため、あまり会話を得意としない。
彼女に声をかけてみる。
「メール、疲れていないか?」
「…………す」
蚊の鳴くような小声でそう漏らすと、フードを両手で引っ張り、顔をいっそう深く隠してしまった。
ここでイロハが間に入る。
「大丈夫です、だそうですよ」
「そうか、それならばよい」
といった感じで、言葉を聞き取れるのは耳の良いイロハくらいだ。
なかなかコミュニケーションは取りづらいが、今回彼女を連れてきたことには明確な理由がある。
それは、エルフだということ。
年若く、背もイロハとほとんど変わらないくらい低いが、魔導の才があり護衛としても、十分な実力がある。そして何より、エルフ特有の『魔導通信』が行えるという最大の利点があった。
もし、私たちやルミナに異変が生じた際に、即座に連絡を取り合えるというわけだ。
さらに、カイリがジャミングを行っている可能性も視野に入れて、急遽、『対ジャミング魔石』も用意した。効果の方は未知数だが……。
この四人で、ルミナの命運を賭けた交渉へと向かう。
――――これより少し前の元帝国の砦にて
帝国から奪取した砦で、ルミナの兵士が壁に頬を押し付けてグダっていた。
「ああああああああ、ひまああぁあああ、敵来ねぇかなぁぁあああああ~」
「鬱陶しいな、お前。前見て景色を楽しめ!」
「左右に切り立った崖と先には山しかない! 何にも楽しめねぇよ!!」
「そんなこと言ったってなぁ。もう少し経ったら帝国が攻めてくるだろうから、それまで我慢しろ!」
「くそ! 早く来いよ、帝国!! 何やってんだか――――うん?」
兵士は壁にへばりついた頬を離し、崖の上を見た。一瞬、影が走ったように見えたのだが……。
「どうした?」
「いや、崖を誰かが通ったような?」
「獣じゃね?」
「それにしては素早かったぞ」
「それじゃあ、魔物か?」
「かもしれない。いいねぇ~。じゃ、確認に行ってくるわ」
「行くのはお前じゃなくて別の班! お前はここにステイ!」
「ちきしょう! ワンワン!!」
――彼らが魔物かと見間違えた影。
それは、魔物などではなかった。
巨躯でありながら、崖の上を音もなく走り続ける男。
ガターの腹心であったギドラ。
ギドラは眼下の砦を冷徹に見下ろした。
「気配を完全に消していたつもりだが……気づくか。一介の兵士と思えぬ洞察力。もっとも、痕跡が見つかったところで問題ない」
彼は前を見据え、ただひたすらに仇を追う。
「帝国の意思を無視して俺はここにいる。罰は免れないだろうが……もうすぐだ――待っていろ、アルト! ガター様の仇、必ず討たせてもらう!!」




