第22話 アットホームな職場です
私は執務机の上に大量の書類をドカッと置く。
「聞けば、君は事務仕事をしていたそうじゃないか! そこでだ、しばらくの間、このルミナで文官として働いてみないか? もちろん、給与は出す。休みの融通だってきく、どうかな!?」
そう尋ねると、アマネは人差し指で私をさしつつ、ブルックとイロハに顔を向けて、棒のような言葉を吐く。
「あの、この王様、何をおっしゃってるの?」
これに対して、二人は力の抜けた答えを返した。
「そういう反応になるじゃろうなぁ」
「ですよねぇ~」
アマネはすぐさまに片手を忙しなく左右に振った。
「いやいやいや、なんか二人とも諦めた感じになってるけど、私は人間で他国の者だよ! そんな存在に公的書類を扱わせたらダメでしょ」
「まったくもってその通りなんじゃが、陛下が頑として譲らんでのぅ」
「ナメクジ化されても困りますしねぇ~」
「だから諦めちゃダメって! 王が目を通す書類でしょ。機密情報とかもあるんじゃないの!?」
ここで私が強く言葉を捩じり込む。
「機密といっても、さほどのものではない。ほとんどが雑務に近い書類ばかり。だから、問題ない!」
「問題大有りだって! さほどでもなくても機密が混じってるじゃないの!」
「その機密を君が知ったところでどうするんだ?」
「え?」
「君は現在ルミナにいて、仲間とは連絡がつかない状況。仲間と合流する頃には機密だった情報も枯れて、役に立たなくなっているだろう?」
「それはそうだけど……でも、細かな数字や物資の流れから、その国や組織の性格や習性なんてのを分析できるのよ!」
「それについては君に対する手土産として、持っていけ」
「――はい?」
「君は父君の言うことを聞かずに暴走し、結果、捕虜にされているわけだ」
「ぬぐっ、そうだけど……」
「だが、捕虜であった間にルミナの情報を得ていたとなれば、立つ瀬もあるだろう」
アマネは頭を左右に振りながら、ため息を漏らす。
「あのね~、そういった情報がどれだけ重要かわかってるの? 今後、人間と対立するようなことがあれば、奪われた情報の分だけ不利になるのよ」
ここでは感情を抑え、ぴしゃりと言葉を断ち切る。
「そのことは君が心配する必要ない。それは私が考えることだ」
「――っ! だけど」
「それにだ、君がルミナの心配をする理由も必要もないだろう。むしろ、利用できると考えるべきでは?」
「それは……むぅ」
言葉に窮して、彼女は代わりに奥歯を嚙む。そして、私から視線を外し、ブルックとイロハを見た。
「王様はあんなこと言ってるけどいいの?」
「アマネが懸念していることは、町を見物しておる間にさんざん陛下とやりあったんじゃよ。普段はワシの忠告に耳を貸してくださる陛下なのだが、今回は全く退かず、ワシが退くことにした」
「書類が本当にお嫌だったんですね、アルト様は。私がご協力できれば良いのですが、現状だと人手不足でお城のお手入れだけで手一杯ですからねぇ」
イロハの隣に立つブルックは深く、深く、深く、ため息を漏らす。
「はぁ~~~~~~、仕方ないのじゃよ……」
この姿を見て、ブルックの心の底からの諦めと疲れをアマネは感じ取ったようだ。
「そ、そう、大変だったみたいね。でも、私がルミナの文官?」
私は彼女の様子を観察しつつ、私は両手を合わせる
「どうだろう、受けてくれないか? この通り、頼む!」
「……はぁ、こんなに頭の低い王様は初めて。どんだけ追い詰められているのよ……とはいえ、なんにもしないで世話になるのもなんだしね。わかった、協力してあげる」
「よしっ!」
「だけど、どんな情報を握られても知らないからね!」
「かまわんかまわん、もってけドロボーだ!」
「どんな王様なの、こいつ?」
私は勢いよく席を立ち、両手をパンと打った。
「では、話は決まったな。仕事は明日からにするとして、今日の食事は何だ、イロハ?」
「お肉の献立なので、すき焼きにしようかと」
「すき焼きか! ならば、みんなで鍋を囲むとしよう。もちろん、城の使用人たちも一緒にな。では、私は食事の時間まで軽く散策してくる。後は頼んだぞ」
私は意気揚々と執務室から出ていく。
部屋に残る三人は何やら会話をしているようだが、私には聞こえないし、聞く気もない!
「鍋を囲むって、王族の食事の取り方じゃないでしょう。いつもこうなの?」
「普段は私室でお取りになってますよ。タイド様とプラヤ様がご健在の頃は食事の間で取られていましたが」
「じゃが、若くしてご両親を亡くされたためか、皆と食事を取ることを好む傾向にはありますな」
「そうなんだ」
アルトの境遇……そこから湧き出る同情。そして、それ以上の呆れ……。
「でも……そういった事情があっても、使用人と一緒に鍋って……本当にどんな王様なの?」
――――――
その頃――帝国は……。
五龍将ガターの腹心であったギドラは、帝国から授かった様々な徽章を宝石箱へ詰めて、それを封じた。
「これは独断――帝国への反逆と取られても仕方のない選択。だが――」
拳を強く握りしめる。
太き腕に浮かび上がる血管が痛みを伴う脈動を打ち、ギシギシと泣く拳とともに振るえる。
「父のようであり、兄のようであったガター様の仇を討たねば、俺は、俺は――――自分を許せなくなる!!」
ギドラは……ガターと出会う前につけていた傭兵時代の漆黒の小手を両手にはめた。
そして、静かに帝国より去り、ルミナを目指した――ただ一人の復讐者として……。
次回更新は1月4日です。
では皆さん、良いお年を。




