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辺境の魔王アルト~世界で一番小さな国が、世界で一番強かった~  作者: 雪野湯
第二章 世界を書き換える力

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第19話 真の思惑VS老将

 アマネが驚きに身を固めている。

 さらに言葉を続けようとしたところで、ブルックの雷が落ちた。


「陛下! 最重要機密をなんだと思っておられるのですか!?」

「いきなり怒鳴るな! 機密であっても、ここで話したところで彼女に何ができる。それにできれば、彼女自らの意思で、協力を願いたい」


「何を馬鹿なことを。このアマネは我ら魔族を憎んでおるのですぞ。協力など――」

「それはアマネの理性に賭けるとしよう。それにどのみち、彼女はカイリ国へ引き渡すと決めていただろう」



 ブルックは白髪頭をガシガシと乱暴に掻く。

「はぁ~、わかりました。陛下のご意思に従います。ワシは『忠実な』臣下ですからな!」


 不満を嫌味に込めて出しているが、ブルックは引き下がった――よし!

 顔を正面へ向けて、話の続きをアマネに行おう。

 


 アマネの方はどうやら、先ほどの雷の衝撃によって硬直が解けたようで、疑念を隠さずに私を見据えていた。


 彼女の新緑の瞳を見つめ返し、そこから心を覗き込むように、一音一音、丁寧に言葉を置く。

「このルミナは、カイリ国との同盟を考えており、できれば、君にその橋渡しを願いたいと考えている」


 これにアマネは両眉の端がくっつくほど顔を歪めた。

「……は、私に? そんなこと、なんで私が? そもそも、カイリが魔族と手を組むはずないじゃない」


「難しいが、可能性はゼロではない」

「なぜそう言い切れるの?」


「ルミナが帝国に組み込まれれば、カイリは帝国と接することになる。カイリ国はルミナがあったため前線に立つことは少なかったが、これにより状況が一変する。それを避けたいと考えるはずだ」



 アマネは顎に人差し指を置いて、思案する仕草を見せた。

「……つまり、カイリはルミナを、『便利壁』として利用すると考えているのね」

「ほう、気づくか」

「気づくよ、その程度」


「ならば、続きもわかるだろう。カイリ国のみならず、人間勢力全体にとっても好機と考えるはずだ。帝国の膝元に反抗勢力が生まれることは」



「それは……そうだけど。でも、人間と魔族の対立感情を考えたら、計算だけで事が進むと思えない」

「その通りだ。そこで感情の壁を壊すための協力を願いたい」


「それって、つまり……勇者の娘の私を無条件でカイリ――つまり人間側に返すことで、恩を売るってこと?」


「まぁ、そうなるな」


「冗談じゃないわよ。そうなったら私は恥の上塗りじゃない! パパの命令を無視して、民間人の命を奪われ、仲間を失い、ガターに捕まり……そして、魔族に利用されるなんて」



 今の彼女の告白を聞いて、私は思わず瞳を輝かせてしまう。

「……ほう、君は父君であるセッスイの命令を無視して、今の顛末なのか?」

「――――あっ!」

「フフ、良いことを聞いた」

「くっ」


「そういった恥の部分は我らルミナが修飾しておこう。感情面の補佐は難しいが……これでどうかな?」

「それは、だけど、でも……」



「もっとも、修飾などせずとも、君のおかげで犠牲者を一人も出さずに、砦を攻略できた面もあるからな」

「砦……そうよ! ガターはどうなったの? 私はあの時、ガターに――」


「ああ、彼なら私が斬った」

「……へ?」



 アマネは抜けた声を漏らした後、言葉を失った。そして、両手を宙に泳がせ、見えない何かを擦るような仕草をしてから、ようやく言葉を思い出す。


「いま、なんて言ったの……?」

「私がガターを斬った、と言ったんだ」


「う、噓でしょ!? あんたみたいなナメクジ男があいつを!?」

「君までナメクジと言うのはやめてくれないか!」


「だって、ほんとに? 勇者でさえ手こずる五龍将の一人を?」



 そう言いながら、アマネはイロハを見る。

 イロハは頷く。

 視線をブルックへ動かす。

 同じく頷く。


 アマネは再び両手を宙に泳がせ、右往左往と動かしている。

「あれ、つまりどういうこと? 仇がいなくなった? 私、どうしたら?」



「まぁ、目覚めたばかりであるのと、特殊な状況であるため混乱するのは仕方がない。先ほど協力の話に関しても、すぐに答えを出す必要はない。とはいえ、答えを出すために知るべきことがあるか」


「知る? 何を?」


「君の態度から、魔族と人間の溝の深さを痛感した。そのため、このルミナもまた、君にとって憎むべき魔族の国に映っているんだろう」

「当然でしょ! あんたたち魔族はどれだけ人間を――――」


「まぁ、落ち着け。だからこそ、帝国とルミナの違いを君自身で判断してほしい」

「私に?」



 私はイロハへ顔を向ける。

「イロハ、アマネを町へ案内しろ。そこでルミナの姿が人間の国や帝国とは違うというものを、肌に感じてもらうとしよう」

「かしこまりました。では、アマネ様」


「ちょっと待って! 勝手に話を――」


 戸惑うアマネに、私は片眉を上げて見せる。

「内にこもった場所で、言葉の応酬を続けても意味がないだろう」

「それは……」


「それに君だって、判断材料は欲しいはずだ。協力しないを選ぶにしても、ここから逃げ出すにしても……城の外のことは知りたいだろう」

「……大した自信ね。私が、あんたから逃げ出せないと思っているんだ」


「私というか、イロハからだな」

「この子から……?」



 アマネは自分より頭一つ分は背の低いイロハを見下ろした。イロハはニコニコ笑顔を見せているだけ。


「ま、ともかく、町の様子を君自身の瞳で見てきてくれ。私はこれから……」



 ブルックを睨みつける。ブルックも私を睨みつける。

「気合を入れて、少々侃々諤々(かんかんがくがく)とやりあわねばならぬからな」

「陛下~、さすがにこればかりは譲りませんぞ~」


 今まさに取っ組み合いを行わんとする王と忠臣に対して、アマネは指をさしながらイロハに尋ねている。


「なんなの、あれ?」

「そうですね、なんと言いましょうか……アルト様が書類という敵を相手に、退路を確保しようとしているのでしょう」


「ん?」


「とにかく町へまいりましょう。もし、お逃げになりたいなら構いません。だたし、カイリ国へ通じる道は険しい山脈のみですので、お勧め致しませんが」


「なるほど、地理的に逃げ場がないってわけね。だから、あなたみたいな女の子が私の監視役に」


「さぁ、どうなんでしょう?」


「だからと言って、こんな少女にそんな役目を負わせるなんて……ひどい王様ね」

「そう仰らないでください。仕える者として、返答に困りますから」

「そうだったわね、ごめんなさい。じゃ、行きましょうか」


 火花を散らしながら睨み合っている私たちを一瞥し、アマネは溜め息のあとに覚悟を言葉に溶け込ます。

「ここに残っていても仕方ないみたいだし……それに、あいつが言った違いがどんなものか――見せてもらいましょうか」

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