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第22話:葬送と再生の調薬

 空が曇天に覆われるころ、診療院の周囲に白布が吊るされ始めた。村の風習で、誰かが亡くなると、邪気を祓うために白を掲げるという。


 レイは診療院の裏庭で、黙々と乾燥薬草の選別をしていた。指先で花弁を裂くたび、薄く香る金木犀に、どこか懐かしさが混じる。


「……これで三人目」


 声をかけたのは、ルリだった。控えめな表情に浮かぶのは、恐れと困惑。


「昨晩、また倒れて……もう起きなかったって」


 レイは視線を落とし、指先の薬草をじっと見つめた。村で流行していた微熱と吐き気の症状は、最初は風邪と診断されていた。だが、症状が妙に似通っている。そして、徐々に確実に悪化していく。


「葬式の準備を急ぐようにって……村長の家から伝言が来てる」


 レイはしばらく沈黙し、やがてゆっくりと立ち上がった。


「一つ、確認しておきたいことがある。遺体を、この目で見せてもらえないだろうか」


 ルリの目が驚きに揺れる。


「でも……もう納棺の準備に……」


「なら尚更だ。“納める前に確かめる”のが、医の役目だよ」


 ――


 遺体は村の中央にある小さな集会所の奥、白布で覆われた簡素な棺の中に横たわっていた。顔にかけられた布をそっと取ると、そこには苦悶の痕がわずかに残る青年の表情があった。


「これで三人目、全員が喉を押さえて苦しんでいたという話だったね」


 レイは青年の口元を開き、指先で歯の裏側を探る。そして、静かに言った。


「……やっぱり」


「え?」


「歯の間に、小さな黒い粉が詰まってる。しかも三人とも同じ箇所に。これは……消化器を通らず、口腔から吸入された可能性が高い」


 ルリが顔をしかめる。


「つまり……毒?」


「たぶん、そう。しかもこれ、自然由来じゃない。意図的に作られた“仕掛け”だ」


 ――


 その夜。レイは診療院の帳簿を開き、患者の来院日時と発症時間を見比べていた。明らかな規則があった。


「全員、ある時間帯に同じ場所にいた。そして……」


 カツン、と硝子瓶の音がする。ユウが薬棚から取り出したのは、先日村人に譲った“線香薬”の試作品だった。


「この香が原因だ。燃やすと心地よい香りがするけど、ある薬草を混ぜすぎると、長時間吸入すると毒性が出る」


 ルリが青ざめた顔で問う。


「じゃあ……誰かがそれを……?」


「いや、たぶん故意じゃない。最近、村で流行っている“病除けの香”の調合が、おそらく変わってしまった。誰かが分量を間違えたんだ」


 ――


 翌朝、レイは村長宅に向かった。村の長であり、同時に“薬香づくり”の役目を持つ古老が、震える手で語る。


「……香を混ぜていたのは、孫です。わたしが高熱で寝込んだときに、代わりに……まさか、あんな……」


 レイは静かに首を振った。


「責めるべきではありません。間違いは起きた。でも、それをどう繰り返させないかが肝心なんです。私は新しい香の調合方法を用意します。そして、それをきちんと伝える形を残しましょう」


 ――


 数日後。


 村の広場には、穏やかな香りが漂っていた。レイが調合した新たな香は、過剰摂取を防ぐため、焚いてから二刻経つと自然に火が消えるよう設計されていた。


 ルリが香炉を見つめて言う。


「なんだか、亡くなった人たちの分まで、村が新しく呼吸してるみたい」


 レイは頷いた。


「薬も毒も、紙一重。でも、人の手で、命を守る方へ傾けることはできる。それが、調薬師の責務だからね」


 空には、ゆっくりと陽が差していた。白布が一つ、風に舞い上がって、やがて空へと消えていった。

2話更新が終わったので、一度完結済みにしておきます。

明日以降執筆が終わり次第、再開します。

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