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凍土
刑務所内は、思想や信念が意味をなさない世界だった。
「おい、天才。パスワードでもあててみろや」
昼休憩のたびに、沙介は取り囲まれた。
監視カメラの死角で、冷たい水をかけられ、便器洗いを押しつけられた。
看守も目を逸らした。社会の“英雄崩し”を、どこか楽しんでいた。
「人間は、正義を求めてるんじゃない。ただ、“罰”を楽しんでるだけだ」
彼は、毎晩石のような布団の上で、自分の書いたコードのことを思い出していた。
そして、自問する。
あの行が、あの改行が、誰かを守っていたかもしれない。
それとも──傷つけていたのか?