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出頭
東京都内某所。雨音がコンクリの地面を打ち、午後五時の鐘が鳴った。
ひとりの男が玄関に立っていた。
フードを深くかぶり、傘も差さず、びしょ濡れのまま手にしていたのはUSBと封書。
篠宮沙介──世間には、Argoと呼ばれた。
「……出頭します。不正アクセス、電子計算機損壊、業務妨害……その他すべてを認めます」
受付に差し出された封筒には、検証ログ、暗号鍵、そして告白文。
すべて署名されていた。社会を騒がせた“Ghost coder”の正体が、ここに晒された。
だが、傍聴席は静かだった。SNSは半信半疑。
かつて正義を叫んだ市民たちは、今や“裏切り者”を嗤うことに熱中していた。
> @未来を守る市民会
「更生の余地なんてない。これ以上、社会に混乱を起こすな。」
> @ArgoRebooted(削除済)
「そうだな。技術は、暴力にもなる。」
判決は懲役十年。賠償金と罰金を合わせ、請求額は三十一億を超えた。
新聞の片隅に「再犯性高し」と添えられたその記事は、翌日には忘れられた。