春 1-8
みんなで片付けを終え、調理器具や皿を協力して洗い終わった後、魔法少女たちは大浴場に向かっていった。オレは、浴場に向かう彼女たちに向かって、軽く注意を促す。
「他の人に迷惑かけんなよー」
「はーい」
その一言にみんなが軽く返事をして、笑いながら浴場へと向かっていった。オレはその背中を見送りながら、使用した機材や火の元がしっかりと片付けられているか確認し始めた。
すると、背後から声をかけられた。
「センセのおかげであの子……とっても楽しそうだったワ」
振り返ると、クリスが立っていた。少し遠くを見つめているその表情に、どこか思い詰めたような影が浮かんでいた。
「それはなによりだ」
オレは軽く微笑んで返す。だが、クリスの目線はどこか遠い過去を見ているように感じられた。
「本当よ。あの子……国の方であんな顔を見せたことなかったもの」
「……そうだったのか」
「ええ。まぁそう言っても私もそれほど長い付き合いじゃないけど、ね」
オレは少し驚きながらも、静かに言葉を返す。クリスはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開く。
「国じゃ、ミツキが笑うことなんてなかった。周りの期待に応えようと必死で、笑顔なんて見せられなかった。でも今、こうしてみんなと一緒にいるのが楽しいって顔をしてる。……センセがいてくれてよかった」
クリスの言葉には、ミツキの過去を背負った重さが感じられた。オレは少しだけその目を見つめた後、穏やかな声で答える。
「そうだな。でも、ミツキが笑顔を見せてくれるのは、君達の支えがあってこそだろう」
クリスはほんの少しだけ顔を赤らめ、恥ずかしそうに笑った。
「あら。センセお世辞が上手ね。でも、その支えにセンセも加わったのなら心強いわね」
軽く肩を叩くと、クリスは浴場に向かうために歩き出した。オレはその背中を見送りながら、深い息を吐いた。