冬 4-18
窓の外は、やけに青かった。
雲ひとつない晴天。
風が吹けば、木々の葉がざわめき、遠くでは鳥の鳴き声がかすかに聞こえる。
こんなに穏やかな空を、あいつはどんな気持ちで見上げていたんだろうか。
イワミタケト——いや、それが本名だったかも分からない男。
戦場で死んだはずの兵士。
記録上は存在しない、“戦死”と共に抹消されたはずの人間。
けれど、あいつはこの世界にいた。
どんな経緯で怪人となったのか、それはもう確かめようがない。
あいつ自身が、自分を何者だと思っていたのかも。
ただ、分かるのは……あの屋上での最期、あいつは雪を見ていた。
まるで——
ようやく、待ち望んでいたものに辿り着いたような顔で。
「……バカみたいだ」
呟いて、天井を仰ぐ。
身体を動かすたびに、鈍い痛みが腹の奥に広がった。
救えたはずだった。
少なくとも、クリスだけは。
私を護るために、日本でずっとそばにいてくれた人。どんな時も冷静で、厳しくて、けれどどこか不器用な優しさを持っていた人。
あの人が死んでしまうなんて、本当はあってはいけなかったことだった。
なのに、私は——
何もできなかった。
あの人の死は、私の弱さのせいだった。
戦う力があるくせに、護る力にはならなかった。
「……」
拳を握る。悔しさは、もうとっくに乾いているはずなのに、まだ胸の奥にじくじくと痛みを残していた。
それなのに、あの時、屋上で——
あの人を、イワミタケトを見たとき、私の心は奪われた。
どうしようもなく、苦しくなった。
淡いながらも抱いていた恋心。
しかし、それは本当に、私のものだったのだろうか?
センセは——怪人だった。
それがもし、最初から仕組まれていたものだとしたら?私の感情は、本当に”私”のものだったのか?
「……考えても仕方ない」
呟いて、天井を仰ぐ。身体を動かすたびに、鈍い痛みが胸の奥に広がった。
あの時、少しでも違う選択をしていれば、結果は変わったのだろうか。
いや、それはあり得ない。
どんな道を選んでも、イワミタケトはあの結末を迎えていた。
あいつが生きている限り、雪は斬る。
それが、あの少女の生きる理由だから。
「……」
窓の外の空は、まだ青い。
どこまでも続いているような、その果てを見つめながら、ミツキはふっと目を閉じた。
もう香るはずのない、タバコの匂いがした気がした。




