表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の子たち1  作者: あじのこ
69/70

冬 4-18

窓の外は、やけに青かった。


雲ひとつない晴天。

風が吹けば、木々の葉がざわめき、遠くでは鳥の鳴き声がかすかに聞こえる。


こんなに穏やかな空を、あいつはどんな気持ちで見上げていたんだろうか。


イワミタケト——いや、それが本名だったかも分からない男。

戦場で死んだはずの兵士。

記録上は存在しない、“戦死”と共に抹消されたはずの人間。


けれど、あいつはこの世界にいた。

どんな経緯で怪人となったのか、それはもう確かめようがない。

あいつ自身が、自分を何者だと思っていたのかも。


ただ、分かるのは……あの屋上での最期、あいつは雪を見ていた。


まるで——

ようやく、待ち望んでいたものに辿り着いたような顔で。


「……バカみたいだ」


呟いて、天井を仰ぐ。

身体を動かすたびに、鈍い痛みが腹の奥に広がった。


救えたはずだった。

少なくとも、クリスだけは。


私を護るために、日本でずっとそばにいてくれた人。どんな時も冷静で、厳しくて、けれどどこか不器用な優しさを持っていた人。

あの人が死んでしまうなんて、本当はあってはいけなかったことだった。


なのに、私は——

何もできなかった。


あの人の死は、私の弱さのせいだった。

戦う力があるくせに、護る力にはならなかった。


「……」


拳を握る。悔しさは、もうとっくに乾いているはずなのに、まだ胸の奥にじくじくと痛みを残していた。


それなのに、あの時、屋上で——


あの人を、イワミタケトを見たとき、私の心は奪われた。


どうしようもなく、苦しくなった。


淡いながらも抱いていた恋心。

しかし、それは本当に、私のものだったのだろうか?


センセは——怪人だった。

それがもし、最初から仕組まれていたものだとしたら?私の感情は、本当に”私”のものだったのか?


「……考えても仕方ない」


呟いて、天井を仰ぐ。身体を動かすたびに、鈍い痛みが胸の奥に広がった。


あの時、少しでも違う選択をしていれば、結果は変わったのだろうか。

いや、それはあり得ない。

どんな道を選んでも、イワミタケトはあの結末を迎えていた。


あいつが生きている限り、雪は斬る。

それが、あの少女の生きる理由だから。


「……」


窓の外の空は、まだ青い。

どこまでも続いているような、その果てを見つめながら、ミツキはふっと目を閉じた。


もう香るはずのない、タバコの匂いがした気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ