冬 4-15
喉が焼けるように痛い。
ミツキは首にかかる圧迫に必死で耐えながら、目の前のセンセを見上げた。その顔は、知っているはずのものとまるで違った。冷たく、遠く、あまりにも静かすぎる。
恐怖がじわじわと骨の奥まで染み込んでいく。
自分は殺されるのだ、と理解した瞬間、全身の毛が逆立つのがわかった。
息が苦しい。視界が揺らぐ。腕の力が抜け、指先が痺れ、頭の中がぼんやりと白く染まる。
——死ぬ。
その言葉が輪郭を持ち始めた途端、恐怖が胸を締め付けた。冷たい水の中に沈んでいくように、意識が遠ざかる。
センセの手が、まるで死神の鎌のように冷たく、鋭く、ミツキの命を絞め上げている。それなのに、その瞳には何の感情も浮かんでいない。迷いも、怒りも、哀れみすらもない。
ただ、淡々と、静かに。
自分は今、ただの「処理すべき対象」として扱われているのだと気づいた瞬間、ミツキの中で何かが砕けた。
信じていたものが、壊れていく音がする。
センセは自分を助けてくれると思っていた。センセは、自分を見ていてくれると思っていた。
その幻想が、まるで脆い硝子のように、ひび割れ、崩れ、粉々になっていく。
「……あ……あ……」
声にならない音が喉の奥で絡まる。
ミツキは必死に抗おうとするが、身体はもう動かない。頭の中で必死に意識を繋ぎ止めようとするが、それすらも指の隙間から零れ落ちていく。
そして——
ふっと、何かが軽くなった。
苦しみが消えた。恐怖も、絶望も、すべてが遠のいていく。
まるで、温かな風に包まれるように。
——あれ?
不思議と心地よかった。喉が絞めつけられているのに、痛みすらも霞んでいく。
センセの手が、微かに震えた。
それは一瞬だけの迷いだった。
殺すことに、わずかでも抵抗があったのかもしれない。しかし、それは次の瞬間には消えていた。オレには時間がない。
……そう、時間がない。
だが、その時だった。
轟音が響いた。世界が震える。
空が揺れ、ヘリの音が鼓膜を打ちつける。頭上の空気がざわめく。
目の前の魔法少女が、小さく息を呑んだのがわかった。だが、オレはそれを無視する。ヘリの音はただの雑音だ。
——いや。違う。
視界の隅に、鋭い光が飛び込んできた。
誰かが、空を切り裂くように降りてくる。
それは落下ではない。降臨だ。
ヘリから一気に地面へ。重力を操るように、しなやかに着地する。
一瞬で空気が張り詰めた。
そして、その人物は疾風のごとく動いた。
——刃。
銀色の閃光が、視界を裂く。
オレが反応するよりも早く、日本刀が振り抜かれる。神速の一撃が、背中に突き立った。
「ぐ……!」
刺し込まれる感覚が、思考を砕いた。
痛み。
いや、それよりも——
動揺。
それがオレの中に染み込む。
振り返ろうとした瞬間、相手はすでに次の動作に入っていた。
刀を、一気に引き抜く。
血が弧を描き、空へ舞う。
その冷酷な手際に、オレはこの星に産まれて初めて、わずかな驚愕を覚えた。




