冬 4-14
空がうるさい。ヘリが蝿のように飛び回っている。追われることには慣れているが、あれだけの数が揃えば、さすがに居心地が悪い。
ここも時間の問題か。
オレは頭の中で冷静に状況を整理する。すべては計画のうち。想定の範囲内。だが、それでも綱渡りをしているような感覚が抜けない。
オレの能力に欠点がある。名前を知ること、顔を知ること、それに相手に知覚されずに取り込むためには時間が掛かる。
だが、手間をかけた分だけ有利になる。
念の為、操れる人間を屋上まで連れてきてよかった。彼らには悪いがオレの逃げる時間を稼ぐために、1人ずつ屋上から落ちてもらおう。それなら逃げるまでの時間は十分確保できるはずだ。
目の前の魔法少女はどうしようかな。
洗脳が解けた状態で変身されたら厄介だ。
もう一つ、オレの能力の欠点はこの能力自体には殺傷能力がないことだ。
先ほどの男のように自らを殺めるよう仕向けることは出来るが、それも世界に取り込んでいるまでの間だ。この少女はどうだろう。もう幻惑が解けるのも時間の問題のようだった。
「よし、殺そう」
オレは躊躇なくその細い首筋を両手で掴んだ。
元傭兵の肉体は、こういう時に便利だな。人間たちが与えてくれたこの体は、用途において申し分ない。
「ギャッ……あ、あっ、あ……!?」
言葉にならない声が口の端から零れる。喉の奥で音が絡まっている。オレはその音を意識の片隅で聞きながら、余裕のある声で囁いた。
「可哀想だから最後に教えてあげるよ、魔法少女。本当は君じゃない。もう一人の魔法少女を取り込みたかったんだ。藤原……雪だっけ?」
彼女の目が大きく見開かれる。涙が滲み、光を歪ませる。
「せっ、センセ……なに、を……」
「オレは先生じゃない。イワミタケトでもない。オレは怪人。この世界を……取り込む者だよ」
その言葉が少女の耳に届いた瞬間、彼女の身体がさらに震えた。何かを否定しようとするように。何かに縋ろうとするように。だが、オレはその反応を無視する。
力を込める。
指先から彼女の命が滑り落ちていく感覚。そこに何の感傷もない。ただ、ひどく静かで、ひどく冷たい時間だった。
「……さようなら、魔法少女」
オレはその手を強く握り、首を締める力を増していく。目の前の少女の苦しむ姿に、わずかな快感を覚えながら。




