冬 4-10
「どうだろう?長い時間クリスのそばに居て、わかったんだ。オレ達は通じるところがある。クリスが望むのなら、オレの世界に連れて行ってもいいぞ」
「通じるって……あなたと私が……!?」
クリスは警戒しながら睨みつける。センセは、わずかに首を傾げ、微笑んだ。その表情は、まるで親愛の情を示しているようでありながら、どこか狂気じみてもいた。
「愛するものを守りたい。儚いものを慈しみたい。そういう気持ちだ……分かるだろう?」
その声は柔らかく、遠い記憶を掬い上げるように響く。どこかで聞いたことがあるような、けれど決して思い出せない、懐かしさと不穏さを同時に孕んでいた。
「オレは、魔法少女を“愛している”。不完全で無垢な彼女たちを、あらゆるものから守ってあげたいんだ」
センセの瞳の奥に、奇妙な熱が灯る。それは、感情の起伏とは違う、研ぎ澄まされた何かだった。クリスは知らず知らずのうちに息を詰める。
「だから、彼女たちを利用しようとする者から守ってあげたい。君も見ただろう?恐ろしい異形達と戦わなくてはならない彼女達の姿を」
センセの言葉は、静かに、しかし確実に空気の温度を変えていく。周囲の空間がじわりとゆがみ、まるでそこだけ異なる時間が流れているかのようだった。
「……大人達は君以外、全員怯え逃げ、隠れるばかり」
センセは肩をすくめ、芝居がかった動作でため息をつく。その仕草は、どこか楽しんでいるようでもあった。
「そもそもアンタみたいなバケモノが現れなければ、あの子達は戦わなくてすむのよ……!」
クリスの言葉には怒りがこもっていた。センセはその反応を楽しむように目を細めると、愉快そうに笑う。
「それについては耳が痛い」
彼の微笑みは、どこまでも冷たかった。まるで最初から、痛みを感じることなどない存在であるかのように。
「でも、誤解があるな。怪獣達は本能のまま生きているだけだし、オレみたいな怪人は完全なる個体として存在しているから、お互い意思の疎通は困難なんだ……まぁ、それもこの前までの話なんだけど」
「……?」
「いや、忘れてくれ。今は関係のない話だ」
センセは軽く肩をすくめ、意図的に流すように言う。しかし、その言葉の端々に、何か得体の知れないものが滲んでいた。
「話を戻そう。怪獣は怪人のテリトリーに入ってこれないし、オレと同等格以上の怪人はそうそういない」
「なにを、言って……」
「オレの世界に来てくれるなら、他のバケモノから守ってやろう。約束する。オレは君を、彼女たちを……守ってあげたいんだ」
センセの声が、空間に絡みつくように響く。その言葉はまるで霧のようにクリスの思考にまとわりつき、どこか現実感を失わせていく。
「君が選んでいいんだよ、クリス」
その声は優しく、あまりに美しく響いていた。けれど、クリスは知っている。美しいものほど、冷たく、残酷なものなのだと。




