冬 4-4
リサとコウリが廊下の向こうに現れた瞬間、ミツキは胸をなで下ろした。
よかった——いつも通りの日常だ。
安堵と同時に、勢いよく駆け出す。
「リサ! コウリ! ねぇ、センセの教室に行かな——」
だが、その声は最後まで続かなかった。二人の様子に違和感を覚え、ミツキの足がピタリと止まる。
彼女たちは確かにこちらを見ている——けれど、その瞳はまるで焦点を結んでいなかった。冷たく、感情の色がない。見えているのに、見えていない。ミツキの背筋にじわりと冷たいものが這い上がる。
「……ミツキちゃん。お願い、止まって……」
リサの声が響く。けれど、それはまるで別人のもののようだった。感情が削ぎ落とされ、淡々とした響きだけが残っている。
「なっ、なにリサ!? どうしたの!?」
問い詰めようと一歩踏み出した瞬間——リサの身体が淡く光を放った。
「っ……!」
制服が、ふわりとほどけるように変化する。光の粒子が繊細に織り合い、彼女の姿を魔法少女の衣装へと塗り替えていく。
——変身。
それはすなわち、戦う意思を示す行為。
ミツキの脳裏に警鐘が鳴る。しかし、ミツキが次の一手を考えるより早く、リサは動いた。
まばゆい魔法陣が床に展開され、結界がいくつも浮かび上がる。六角形の防御壁が光の鱗のように重なり合い、ミツキとの間に立ちはだかった。
「……ミツキちゃん、あなたは——あなたを先生のところには行かせない」
リサが言葉を言い終わるより早く、ミツキの手が震えるほど強く握りしめられる。
「リサ、邪魔しないで……!!」
怒りにも似た感情が突き上げる。次の瞬間、ミツキの周囲に無数の星の粒が浮かび上がった。
——弾ける星々。
流星群のように煌めく光が放たれ、リサの結界へと殺到する。
「っ……!?」
衝撃音。六角形の結界が一枚、また一枚と砕け散る。リサの顔に驚愕が走る。
「ミツキちゃん! お願い!!目を覚まして!!」
叫ぶ声が耳に届く。
「先生は——」
「センセがどうしたの……!?」
その言葉が頭の中で渦を巻く。
——センセがどうしたの?
——なんで、リサとコウリがこんなことを?
——どうして、戦わなきゃいけないの!?
「リサやめてっ……!」
混乱と焦燥が交錯する中、トーマスが静かに前に出た。彼の動きには迷いがない。懐からすっとテイザーガンを取り出し、リサへと向ける。
「……どけ」
その声は低く、冷静だった。
だが——リサの魔法は、それを許さなかった。
「ごめんなさい……トーマスさん……!」
次の瞬間、光の帯が奔る。防御魔法の閃光がトーマスの身体を絡め取り、その動きを封じる。
「っ……!」
電流が走る前に、全身が硬直する。目に見えない鎖に縛られたように、彼は微動だにできなかった。
「トーマス……!?」
ミツキが叫ぶ。しかし——
「……行かせない」
静かに呟いたのは、コウリだった。彼女が壁際のケーブルに指を滑らせると——
警報が鳴り響く。
——『非常事態発生。防火壁を作動します』——
赤いランプが点滅する。
廊下の両端。鋼鉄の壁が、まるで巨大な顎のようにせり上がる。
「っ……!!」
逃げ道が塞がれる。
——だが。ミツキは——ギリギリのタイミングで駆け出した。降りきる寸前の隙間へ、全身を滑り込ませる。
「ミツキちゃん!!」
「おい! 金髪バカ! 止まれ!!」
リサとコウリの叫びが響く。その直後。
ガシャン。
鋼鉄の壁が閉じた。
ミツキは、一人きりになった。何がどうなっているのか、分からない。息を切らせながら、教室の前に立つ。
なぜだか無性にセンセの顔が見たかった。安心したかった。何をすべきか教えてほしかった。
——センセに、会わなきゃ。
震える手で、教室の扉をスライドさせた。




