秋 3-13
クリスは、スクリーンの前に座ったまま、息を呑んだ。
画面上に映るセンセの姿を、もう一度じっくりと見比べる。先ほどの動画と、今目の前にいるセンセの姿があまりにも違いすぎる。柔らかな物腰、優しさが滲み出るような表情——それが今では、まるで嘘のように感じられる。
動画の中のセンセは、どこか冷徹で、引き締まった印象を与える。動画を拡大処理して見ると、不鮮明ながらもその目の奥にただならぬ気配を感じる。
その立ち姿が、クリスの胸を強く打った。
まるで軍人のようだ。
不安が膨れ上がり、クリスは頭をかき乱すように揺らす。脳内で記憶の引き出しが不気味な音を立てて開かれた。過去の一つ一つの細かな瞬間が一気に蘇る。
——初めてセンセと顔を合わせた日、クリスはその恵まれた体格に驚いた。あれほど、堂々とした人物は滅多にいない。
その時、ふと思い出す。海に行ったあの日、センセが頑なに服を脱ぐことを拒んだことを。クリスはその理由を訊ねたが、センセは「昔の傷があるから」とだけ言っていた。
その傷は一体何だったのか?
軍人…?
その言葉が、クリスの脳裏で何度も反響した。センセの姿が、今までのどこか不明瞭だった部分を、少しずつ明らかにしていく。
「……偶然よ。偶然に決まって……」
クリスは、自分に言い聞かせるように呟いた。だが、頭の中で確信に近いものが芽生え始める。
センセは、海外にいたと言っていた。
なぜ?何のために?
クリスは目の前のスクリーンを見つめながら、頭の中で次々と疑問が膨れ上がる。冷静に考えれば、日本の教員が長期間海外に行けるものなのだろうか。
旅行? ボランティア? 身内が海外にいる?
それとも……もっと別の理由があるのか?
だがその先に待っている疑問が、クリスの思考をかき乱す。あのセンセ、年齢はいくつだろう?
クリスはふと、自分が勝手に思い込んでいたことに気づく。センセは自分より年下だろう、と。だが、そう思い込むのは間違いかもしれない。自分にはアジア系の年頃感がよく分からない。それに……
センセは何歳なんだ?
その疑問が一つ浮かぶと、次々とまた疑問が沸き上がってくる。
住まいはどこだ? どんな生活をしているんだ?
結婚しているのか? それとも、独身なのか?
クリスは、思いもよらぬ方向へと考えが進んでいく。彼の背筋を冷たい悪寒が走り抜けた。その寒気は、ただの不安ではない。
その感覚が胸の奥に広がり、次第に全身に広がっていく。
しかし、そこでもう一つの疑問が湧き上がる。
そもそも、『センセ』の名前は何だったんだ?
そうだ。
あの時、何かを聞いたような気がするが——どんな名前だったのか、いまいち確かな記憶がない。
クリスはそこでハッとする。あの学校では教員も、生徒も……誰もあの『センセ』のことを、名前で呼んでいないのだ。
お待たせしました。
ここからが本編です。




