春 1-5
バスがゆっくりと校門を抜け、軽井沢へ向けて走り出す。窓の外では街が後ろへと流れていくが、ミツキはぼんやりとそれを眺めながら、考えごとをしていた。
最初に会ったときの印象は、正直最悪だった。
なんか、変なやつだな——それが第一印象。
向こうじゃ、教師なんて勉強を教えるだけの存在だったのに、コイツはやたらと絡んでくる。くだらないことで笑って、魔法少女だからって特別扱いするでもなく、私たちをただの生徒として扱ってくる。ウザいし、ジャージ姿ばっかりだし、たまにタバコ臭いし……。
でも、「ここでは戦わなくていい」
そう言われたとき、不思議な気持ちになった。
向こうの国では、「魔法少女」は観察対象でしかなかった。
研究者たちに囲まれ、戦闘データを取られ、能力を測られ、結果を求められる存在。だから、先生と生徒の関係なんて、ミツキには理解できなかった。
あの国で「先生」と呼ばれていた人間たちは、ただミツキを観察し、あれやこれやと指示を出すだけだったから。
でもセンセは、違った。
バスの中で、魔法少女たちは座席の取り合いをして騒いでいる。リサが窓際を死守しようとして、コウリに押し返され、ちょっとした小競り合いが起こる。その様子を見ながら、センセは苦笑して「はいはい、仲良くしろよー」と、適当なことを言う。
ミツキは思わず、「こんなんでいいのかよ」と呟く。ただの遠足みたいな雰囲気。
「なんだ、ミツキ。お前も窓際取り合うか?」
そう言って、センセは冗談めかして笑う。
「……バカじゃないの?」
けど、ミツキの声にはいつものトゲはない。
本当に、変なやつだ。
だけど、少しだけその「変さ」に、安心している自分がいるのも確かだった。
窓の外、青空の下をバスが進んでいく。
ミツキは深く息を吐くと、座席に背を預けた。